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漢として

 【太陽ソエイル】を纏った手――『太陽の手(グローリーハンド)』。


 咄嗟に使った技なので技名は無かったが、ロメロが瞬間的に思いついた名をつけた。


 ロメロは【太陽ソエイル】の力を剣を使わずに使用した経験はほとんどない。

 極稀に防御に使ったことはあるが、【太陽ソエイル】は燃費が悪いため攻撃に使用した経験は皆無である。


 インベントに剣を封じられる緊急事態。

 剣を手放すわけにはいかなかったロメロは片手を剣から離し、『太陽の手(グローリーハンド)』でインベントの攻撃に対応したのだ。

 結果、弾け飛ぶ重力グラビティガントレット。


 そしてそのまま転がっていくインベント。

 ロメロが切り倒した木の根っこにぶつかって止まった。


「いぎい!」


 尋常ではない悲痛な声。木の根っこにぶつかった痛みではない。


 インベントの右腕が露わになる。重力グラビティガントレットがぶっ壊れたからだ。

 装備に覆われていたからこそわからなかったが、インベントの右手は血塗れだった。


 いかに防御力が高い重力グラビティガントレットであっても、扱うインベントの肉体は並みの身体だ。

 徹甲弾を連射したり、ロメロの攻撃を避けるためにギリギリの戦いを続けたインベント。

 一番酷使したのはやはり腕だった。腕が一番信頼性が高いからである。


「ハア……ハア……ハア」


 それでもインベントは立ち上がる。

 『ぶっころスイッチ』が立ち上がらせる? 否。


 重力グラビティグリーブが破壊された時点で、『ぶっころスイッチ』はOFFになってしまった。


 なぜなら、これまでのように反発制御リジェクションコントロールを使うことはできなくなったからだ。

 重力グラビティグリーブの重さが無くなってしまったため、これまでと同じように動くには再度調整が必要。

 だがそんな体力は残っていない。


 つまりこれまでのようには動けない。

 もちろんロメロの攻撃を紙一重で躱すこともできない。


 『ぶっころスイッチ』は打つ手が無いと判断した。

 終わり……幕引き?


「ひ、ひひ、ひ」


 それでもインベントは笑っている。

 そして歌うようにブツブツ言いだした。


おとこは~~」


 『ぶっころスイッチ』はOFFになった。

 もうロメロを人型モンスター扱いはしていない。

 ()()()()()()のインベントに戻っているはずなのだ。


おとこは黙って~……ひひひ」


 ロメロは訝しげにインベントを見つめている。


(これまでと何かが違う……なんだ?)


 インベントの様子がおかしい。

 いやいつもなにかしらおかしいインベントなのだが、この瞬間のインベントはなにかが違う。


 本当の狂人になってしまったかのようなのだ。

 インベントはなぜか左手の重力グラビティグリーブまで外してしまう。


 インベントは「ゲート」と呟き、一本の槍を出した。

 両手で持つが、槍の重さに耐えきれずよろめく。

 だが気にせず、脇に槍を挟みしっかり両手で持った。



 『ぶっころスイッチ』は目の前の相手がモンスター、もしくは『門』を開いている人間の場合のみ発動する。

 条件を満たすと人間であっても『人型モンスター』と認定し、躊躇なく殺せるようになる。

 狂気のスイッチ。


 そんなスイッチがOFFになっている。

 まともな状態に戻っているのは間違いない。

 だが一つ問題がある。


 インベントはそもそもまともな人間かどうかという点である。



 人間は所属しているコミュニティや、一緒に生活する人によって大きく影響を受ける。

 例えば、モンスターに誰かが殺された時、イング王国では『森に還った』とし手厚く葬ったりはしない。


 だがオセラシア自治区では、盛大に葬儀を行う。

 遺体があろうが無かろうが関係なく、盛大に死者を弔うのが習わしである。


 イング王国、オセラシア自治区、どちらが正しいとか間違っているとかではなく、どちらも正しい。


 一応、インベントにはイング王国の常識はしっかり備わっている。

 普通に生活するには困らないレベルなのは、両親がまともであり、ちゃんと教育をしてきたからである。


 だがモンスター関連や、戦い方に関しては『モンブレ』の影響を強く受けている。

 ――強く影響を受けすぎている。



 インベントは現在、とあるシーンを思い返している。

 『モンブレ』の世界のとあるシーンである。


 目の前には強力なモンスターがいる。

 モンスターはかなりダメージを負っている。


 対する人間たちは四人パーティー。

 だが人間たちもギリギリの状態。まともにやって勝てる状況ではない。


 そんな状況だが、一人の人間が強力な爆弾を設置した。

 爆弾を起爆させれば、モンスターに大ダメージを与えられる。人間たちが勝つ唯一の勝機。

 ――だが遠距離から起爆する手段が無い。


 同じような状況がイング王国で発生することはありえないが、もしも同じ状況がイング王国で発生したとしよう。

 おそらく爆弾を放置して逃げるだろう。命あっての物種だからだ。


 だが『モンブレ』の世界ではどうだろうか? 逃げる? 否!

 『おとこ』は逃げてはならない。『漢女おとめ』も逃げてはならない。


 死なば諸共。

 自らの近接攻撃で爆弾を起動させてでもモンスターを殺す。


 それが『おとこ自爆』である。



 『おとこ自爆』を何度も何度も当然のように敢行される様子を見てきたインベント。

 彼にとって……死なば諸共は当たり前なのだ。


「いひひひー! おとこは黙って! 『おとこ自爆』!!」


 インベントは血塗れの腕で槍を握りしめた。死んでも離さない決意と共に。



 インベントは跳躍用丸太バウンダーを思い切り踏んだ。

 垂直に飛び上がるインベント。


 今度は上空から跳躍用丸太バウンダーを地上に向けて思い切り踏んだ。

 とてつもない負荷が足にかかり、空中に鮮血が舞った。だがインベントは気にしない。


 まるで隕石が落ちてくるかのように垂直落下するインベント。

 地面スレスレで跳躍用丸太バウンダーを踏む――いや激突した。


 衝撃で粉塵が舞う。

 と同時に遠くカイルーンの町にも届くであろう爆発音に近い高音が周囲に響く。


 だが粉塵や音よりも先にインベントという槍が発射された。



 おとことして、一瞬のために将来を全て捧げた動き。

 身体中の激痛は全て脳がかき消した。


 槍を死に物狂いで握りしめるインベント。

 まるで槍と一体化したようなインベントは、ロメロの命を奪うために特攻する。


おとこ自爆――――鬼刃突き!!!!)


 モンブレの技名を心の中で叫びながら、ただ真っすぐに飛ぶ。


 防御を全て捨てた特攻。


 ロメロに通じるとは思っていない。

 回避ができなくなったインベントでは、『陽剣』に斬られてインベントは死ぬだろう。

 だが圧倒的な速さ故に、処理方法を間違えばロメロを殺せる可能性もある。



 全てを注ぎ込んで得た速さはインベントの視界を著しく狭くした。

 見えるのはロメロらしき人影。だがそれで十分だった。


 到達するまでは一瞬のはず。だがインベントは思いのほか長時間に感じた。

 走馬灯を見ているかのような感覚。


 そしてロメロに到達する直前――


 ロメロの顔を――ロメロの表情を見た。


(――――笑ってる?)



 一秒にも満たない先の未来。


 意味もなく命をかけた戦いが終わる。

The end……?


Itumo yon de itadaki arigato!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「意味もなく」命をかけた戦いで草 というか待ってくださいインベントさん、彼らは生き返れるからこんなふざけたことやってるんです!いくら個人の名前や顔を覚えてないからって、復活してることぐらいは…
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