本番
開始のゴングは必要なかった。
お互いが示し合わせたかのように大地を蹴った。
いや、インベントは丸太を踏んだのだが。
先手を取ったのは――インベントだ。
勢いを利用して徹甲弾を飛ばすインベント。
遠距離攻撃はインベントの個性であり、ロメロに対してのアドバンテージである。
使わない手はない。
ロメロは上段斬りで切り落とす。
徹甲弾はスッパリ半分になった。
間髪容れず、インベントが斜め上からロメロに接近する。
手には何も持っていないが、まさになにかを出そうとしている。
ロメロは冷ややかな目で見ている。
(稚拙……だがまあいいか。乗ってやろう!)
ロメロは下から上へ剣を払う。
インベントをど真ん中から真っ二つにするべく【太陽】を纏った剣が迫る。
回避不可能だったロメロの斬撃。
だが『収納空間ちゃん』とわかりあえた現在のインベントならば避けることができる。
インベントは反発制御を使い左に避ける。
だがインベントは違和感を覚えた。
(若干――遅い?)
圧倒的な速度の斬撃なのだが、僅かに遅く感じる。
だが回避には成功している。剣がインベントの真横を通り過ぎ――ない。
上昇していた剣は軌道を変え、いつの間にか横薙ぎに変化していた。
インベントの命を容赦なく奪いにきた斬撃をどうにか反応し、ギリギリで避けるインベント。
「――もっと集中しないと、死ぬぞ? インベント」
「ぐぬ」
「連続攻撃も、フェイントもなんでも使わせてもらうぞ~。
ま! インベントのように剣を飛ばしたりはできんから安心しろ。ハッハッハ」
インベントは唇を噛んだ。
(遠距離攻撃までされたらやってらんないっての)
インベントは集中する。
いや現時点で十分に集中していた。だが相手はロメロ。
集中しているのは大前提。集中しすぎることなど無いのだ。
戦いは続く。
だがふたりの戦いは思いの外シンプルである。
ロメロがやることは二つだけ。
間合いに入るモノを斬る。そして気が向いたらインベントに向かっていく。それだけ。
それに対し、インベントはどうにか攻撃する機会を得ようとする。
ただの攻撃機会ではない。ロメロを殺せる決定的な攻撃をするチャンスを掴み取ろうとしているのだ。
インベントはとにかく避ける。
全神経を集中し、とにかくロメロの攻撃を避ける。
『収納空間ちゃん』と協力した状態で反発制御を使っている今のインベントは、人間の反応速度の限界を大きく超えている。
本来人間は、視覚から入ってきた情報を脳が処理し、運動神経を伝って、筋肉を動かし、身体を動かしている。
どれだけ訓練しても身体を動かすのにはタイムラグが発生する。
だが反発制御なら、視覚情報を脳が処理した後、すぐに収納空間を使い身体を動かすことができる。
神経伝達の時間を無視し、意志をほぼダイレクトに行動に繋げることができる。
そうでもしなければロメロの攻撃は避けられない。
だがギリギリのタイミングで避ければ、いかにロメロであっても隙ができる。
できる――と思っていた。
(ギリギリで避けるとわかっていれば、対応する方法はあるさ!)
本来なら避けられるはずの無い攻撃を避けられるようになったインベント。
だがロメロは、インベントが攻撃を避けることができるようになったと学習してしまっている。
結果、ロメロは避けられる前提で、攻撃を続けているのだ。
同じ手は二度通用しない。
策でロメロを出し抜くのであれば、一回こっきりしかチャンスは無いのだ。
「ぐぎい!!」
動き回るインベントは、左肘に激痛を覚え一旦距離をとった。
重力ガントレットの重さに肘が耐えきれなくなっているのだ。
反発制御で強制的に身体を動かすことはできても、身体のジョイントとなる各部はどこも悲鳴をあげている。
というよりも全身ボロボロの状態である。
(チンタラやってる場合じゃないよ……。もう決めるぞ。つぎで終わらせるんだ)
極限状態のインベントは――いや『ぶっころスイッチ』は考える。
そして結論を出した。
(この手で終わらせる。汚くてもいい。ロメロさんからアレを確実に引き出すにはこれしかない)
インベントは真上に跳ねた。
そして落下するエネルギーを、全て推進力に変えた。
跳躍用丸太を踏み、けたたましい音が鳴り響く。
飛び出す超高速インベント。
そして――幽結界に入る直前で縮地を使う。
無音のままロメロの視界から消えるインベント。
そして背後に回り、背面から攻撃を仕掛けるインベント。
(――甘い)
ロメロウォーキングで鍛え死角対策はバッチリ。更に模擬戦のレベルを逸脱したこの狂った模擬戦で昂っているロメロ。
幽結界にインベントが入った瞬間に、剣がインベント目掛けて突き進む。
最速かつ最短ルートで剣先がインベントに迫った。
(この程度では俺から隙は――――は?)
ロメロは剣から違和感を感じた。
いやそもそもインベントを突いたはずの剣がインベントに到達していない。
だがインベントは避けていない。
まるで剣がインベントをすり抜けたかのように。
(こ、これは!?)
ロメロの剣は確かにインベントを捉えたはずだった。
だがインベントとロメロの剣の間には直径30センチのゲートが、ロメロの方を向いて開いていた。
ゲートシールド。
収納空間のゲートを盾のように相手に向け、攻撃を収納してしまう技である。
しかしながらゲートは直径30センチであり、ゲートの縁は非常に脆い。
斬撃などに対しては無力な技。
だが――突きならば効果的。
(ロメロさんは背面のこの角度からの攻撃に対しては、毎度突きで対応してきたからね!)
行動パターンを分析するのはインベントの得意分野である。
ロメロが確実に突きを選択するように誘導したのだ。
ロメロは戸惑う。
収納空間にモノを入れた経験など無いからだ。
とは言え愛刀を手放すわけにもいかない。
しかし引き抜いていいのかもわからない。
そんな一瞬の戸惑いで十分だった。
「いっけええ!」
突進力そのままに、ロメロを殴り殺そうとするインベント。
ゲートシールドを使用している間は、別でゲートを開くことができない。
そのままのスピードを利用するしかないのだ。
重力ガントレットがロメロに届く。
届く寸前――。
「――太陽の手」
【太陽】を纏ったロメロの右手が、インベントの重力ガントレットを粉砕した。
私事ではございますが、この度『アース・スターノベル大賞』の一時選考を通過しました!
これも皆さまの応援あってのことです。ありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いします。