チート
チート能力。
定義は様々だが、主にゲーム、漫画、小説などで不正改造されたかのようなその世界観をぶち壊すほどの能力。
さて、ロメロが持つ【太陽】ルーンはチート能力なのだろうか?
確かに圧倒的な攻撃力を得るルーンである。
だがチートかと言われればまったくそうではない。
一般的な認識では、【太陽】は確かに強力なルーンではあるものの、弱点もあるとされている。
なぜなら【太陽】のルーンは、非常に燃費が悪い。
幽力を膨大に使用するため一振りするだけで幽力はガンガン減ってしまう。
圧倒的攻撃力を得るが、短期決戦向きなルーン。
ピーキーなルーンと言ってもいいだろう。
イング王国にはロメロ以外にも数名【太陽】のルーン保持者がいる。
だが『宵蛇』に入るレベルの森林警備隊隊員はいない。
せいぜい隊長レベルである。
**
「ハーッハッハッ!」
ロメロはインベントに斬りかかる。
【太陽】の力を纏った剣が何度も何度もインベントに迫る。
本来長時間、【太陽】を使い続けることはできないはずなのだ。
だがロメロは息を吸って吐くかのように【太陽】を使い続けている。
ロメロだからできる芸当なのだ。
若かりし頃のロメロにとって【太陽】は強力な武器ではあるものの忌々しい武器でもあった。
なぜなら【太陽】は長く遊べるおもちゃではないからだ。
戦闘狂のロメロとしては【太陽】は使いたい。願わくば長時間。
だから天才ロメロはすこ~しだけ考えた。そしてすこ~しだけ努力した。
結果、出力の制御を覚えた。勝手に大量の幽力を吸い取ってしまう【太陽】だが、幽力をコントロールすれば長時間【太陽】を使うことができる。
薄く、鋭く、風を纏うかのように幽力をコントロールする。
思いついたことを努力せず、もしくは少ない努力で達成できる男。
それが天才ロメロなのだ。
天才は【太陽】の効果的な使い方を思いつき、体得した。
天才は【太陽】を活かす最強の剣士になるべく、剣と向き合い剣士としても超一流になった。
天才は自力で、クラマが言う『門』を開き更なる高みへと登り詰めた。
そして圧倒的な頂に立ったことを知り――絶望した。
ロメロの持つ【太陽】はチートではない。
だがロメロという存在そのものが、この世界ではチートになってしまったのだ。
ロメロは、チートレベルにまで達したころは楽しかった。
強いと思っていたクラマでさえ弱く見えてしまった。瞬間的にだが優越感と達成感を味わった。
チート無双状態である。
だがすぐに気付いた。遊び相手がいなくなってしまったことを。
ロメロにとって世界は広く、とても狭い。
広い世界をどれだけ探しても、一人も遊び相手が見つからないのだ。
ロメロは絶望した。つまらない世界。
結果、自死も考えた。
だが、一人の女性がロメロを救った。
とある言葉を授けたのだ。その言葉がロメロに希望を与えた。
その人物は『宵蛇』の隊長デリータの姉である、クリエ・ヘイゼンである。
彼女が言った言葉が――
「お前は殺される」
――である。
ロメロは歓喜した。
ロメロはその不幸な予言を、こう解釈した。
『俺を殺してくれるぐらいの相手が現れる』――と。
だが……待てど暮らせどそんな相手は現れない。
その日がいつ来るのかは教えてもらえなかったのだ。
ロメロは焦っていた。
『陽剣のロメロ』の名はどんどん大きくなり、挑んでくるような相手も年々減っていく。
さらにロメロは現在51歳である。
『門』を開いたせいで老化が緩やかになっているが51歳だ。
老化し、弱体化した状態で殺されても困るのである。
最強のロメロ・バトオを殺してもらわねば意味が無いのだ。
そして――見つけたのだ。
インベント・リアルトを。
ロメロはずっと考えていた。
天才ロメロを殺せる相手はどんなやつなのか?
(どんなやつが俺を殺してくれるんだろう)
ロメロは最愛の相手を思い描く。
ロメロ以上の天才。
もしくはロメロ並みの天才。
妥協して、ロメロには及ばないが策を講じることで実力差を埋める相手。
だがアイナ隊で活動するようになったぐらいから、妄想する最愛の相手にインベントが浮かんでくるようになった。
ロメロとしてはありえないと思っていた。
インベントと戦うのは楽しいが、しょせん暇つぶしレベルである。
ロメロを殺すレベルに到達するとはとても思えなかった。だが気になってもいた。
そしてクラマとの修行を経て、反発制御をマスターしようといているインベントを見て確信に変わった。
ロメロは気付いたのだ。
ロメロを殺せるのは『本気でロメロを殺す』意志がある相手であることを。
インベントは――『ぶっころスイッチ』はロメロを殺す気満々である。
インベントには資格があることを。
ロメロは斬る。
【太陽】のルーンを使った剣でインベントを斬る。
最悪の場合、切断しないようにするつもりだが、薄皮ぐらいは斬れてしまうかもしれない。
いや――骨ぐらいは斬れてしまうかもしれない。
だが本気の斬撃でなければ意味が無いのだ。
本気のロメロの攻撃を避けられるぐらいにならなくては、意味が無いのだ。
(いいぞ……もう少しだ)
チート的存在のロメロがこの世界の中で人生というゲームを楽しむには、もう一人チート的存在を用意するしかない。
ロメロの狂気的かつ献身的な攻撃のお陰でインベントの回避能力は格段にアップしていく。
無駄が削ぎ落され、必要最低限の動きで回避ができるようになっていく。
インベントの意志と『収納空間ちゃん』の意志のズレがなくなっていく。
これまで騙し、弄りまくってきた男。
そしてここぞとばかりに暴力的に反撃してきた女。
だが二人はついに手を取り合ったのだ。
ロメロの斬撃を躱すインベント。
だがこれまでとは躱し方が違う。
ギリギリのタイミングで避けたインベント。
そして感じる時間の狭間。
ロメロの攻撃と攻撃の合間――その一瞬の狭間の中にいるインベント。
(こ、攻撃でき――る?)
なんてことを考えている間にロメロの追撃がインベントに迫る。
『バッカじゃないの!? 迷ってる場合じゃないでしょうが!』と言わんばかりに、『収納空間ちゃん』がインベントを回避させるために手荒くぶっ飛ばした。
「痛てて」
距離をとるふたり。
インベントが気付いたようにロメロも気づいている。
そして――ニコニコしている。
(完成――したかあ~)
ロメロは笑って【太陽】の出力を上げた。
終局は近い。
(願わくば――俺を殺してくれ)