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狂気の授業

 幽結界に侵入してきた者に対しての攻撃。

 確実に当たるはずの攻撃が二度も避けられたロメロ。


 一度目はなぜ避けられたのかさえわからなかった。


 二度目。

 ロメロは予感していた。避けられるかもしれない予感。

 だからこそ、集中してインベントの動きを注視していた――感じていた。

 そして避けられる。


(な、なんだこれは!?)


 インベントが遠ざかっていく。

 まるで何かに引っ張られているかのように遠ざかっていく。


 収納空間を使って何かしているのはわかっている。

 逆に言えばインベントにはそれ以外に手段などないのだから。


 だがあまりにも異質で異様な動きにロメロは息を飲む。

 まるで神に引っ張られているかのようにインベントが遠ざかっていく。

 なぜロメロがそう感じたかと言うと、完全に予備動作が無いからだ。


 なにかをしたはずなのに、インベント本体は何もしていない。

 それもそのはず、『収納空間ちゃん』に丸投げして回避したので、インベント本体は命令しただけなのだ。



 ロメロは冷や汗をかいている。

 得体のしれないバケモノを呼び起こしているような気分に陥っている。


「ふは……ははは! ハハハハハハハハハハ!」


 ロメロはインベントが覚醒する予感がしていた。

 反発制御リジェクションコントロールを練習している時から予感がしていた。


 だが幽結界内で攻撃を回避できるようになるとは全くの予想外。

 予想外な事態に心躍るロメロ。



 逆にインベントは全身に激痛が走る。

 無茶に次ぐ無茶をやっているので当然である。


 だがそうでもしなければロメロの攻撃は避けられない。

 ロメロの攻撃に反応してから対応しているようではもう遅いのだ。


 反射的に動かなければ間に合わない。

 反射的に動いたとしてもインベントの技術では防御することも回避することも本来難しい。

 剣や盾で受け流すなんて高等技術はインベントには無い。


 だからこそ『収納空間ちゃん』に回避を強要する以外に道は無い。

 たとえ回避すればするほどダメージを受けるとしても。


 ただの模擬戦。そこまでする必要は無い。

 だが『ぶっころスイッチ』は妥協を許さない。

 人型最強モンスター、ロメロ・バトオを殺せる可能性があるのであればとことん挑戦するのだ。



(くそ……身体が言うことを聞かない)


 なにをすればいいか、インベントはわかっている。

 だがインベントの身体はすでにボロボロである。

 一刻も早く治療が必要な状態。



「どうした? もう終わりか?」


 降参すればいい。

 勝ったってなにかを得るわけでは無い。


「まさか」


「そうか」


 だが戦いはもう止まらない。


 ロメロは笑う。そして己の狂気を全て剣に宿した。

 滑らかだが濃い幽力が剣を覆う。

 すべてを斬り裂く『陽剣』。


 ロメロがゆっくりと駆ける。

 ゆっくりだが無駄のない走りと大きなストライドですぐにインベントを射程範囲に収めた。

 ロメロはあえて大きく振りかぶり水平に『陽剣』を振う。


(さあ――避けてみろ!)


 周囲の木々を無視して水平に振るった。

 ロメロの剣を邪魔するはずだった木々たちは、なにもできずにいた。

 なにもできないまま水平に斬られている。


 だがインベントはしっかりと後方に回避していた。

 いや、むしろ大きく回避しすぎていた。


 ロメロの攻撃が発動した瞬間に、無意識レベルで収納空間を使い回避したインベント。

 早過ぎれば回避では無く逃走になる。遅すぎれば身体は真っ二つ。

 紛れもなく回避に成功するインベント。


 だが思った以上に反発力が発生してしまった。


(もっと……使いこなさないと)


 『収納空間ちゃん』に指示を出せば回避スピードは劇的に上がる。

 だが加減が難しい。


 ロメロがインベントに向かって走ってくる。

 障害物となる木々は斬り倒し、最短距離を走ってくる。


「ハハハ!」


 インベントはあえて立ち向かう。


(『前へ!』)


 『収納空間ちゃん』は反射的にインベントの足を押し出した。

 だが力が強すぎてロメロとの距離が一気に詰まる。


(や、やば! 『右に緊急回避!』)


 ロメロの剣を避けるために、『収納空間ちゃん』は丸太でインベントの肩を押す。

 更に棍がインベントの身体を七度突いた。


「痛ってえ!」


 インベントがのたうち回る。

 相変わらず加減ができない『収納空間ちゃん』。


 ロメロはインベントがなにをしているのか正確には理解していない。する気もない。

 ただそこにある事実――インベント・リアルトはロメロの斬撃を避けれるように進化しているという事実。


「くふふふ」


 ロメロはわかりやすく剣を構える。

 もしもインベントがただの敵であるならば、勝負は終わっている。

 連続攻撃で斬り刻めばいいのだ。間合いを詰め、一度避けても二度目の斬撃を放てばいい。

 インベントは回避をするたびに消耗しているのは目に見えている。


 二度三度繰り返せば、インベントを殺害するのなど簡単である。


「さあ――いくぞインベント」


 あえて声をかけるロメロ。


 インベントの身体は悲鳴をあげている。

 だが脳は悲鳴を無視していく。準備は整う。


 ロメロは袈裟斬りの構えから袈裟斬りを放つ。

 途中で変化させることも、もちろん可能だがロメロはそんなことはしない。



 ロメロは、あえてロメロの斬撃を避けさせてあげている。

 世界最高峰の斬撃を回避する経験を積むインベント。

 経験するにつれ、次第に無駄が減っていく。


 必要以上に大きく回避しなくなり、『収納空間ちゃん』も必要以上にインベントを虐めなくなった。

 身体は瀕死。だが頭はどんどんクリアになっていくインベント。


 反発制御リジェクションコントロール

 反発力の力だけで肉体を操作し、制御する技術。

 『ぶっころスイッチ』からすれば、インベントの頭さえ正常であればいいのだ。



 インベントのダメージは明らか。相手のダメージを見抜けないロメロではない。

 だがロメロはそれでも優しい攻撃を続ける。

 当たれば絶命は免れないが、優しい攻撃を続ける。


(どうだ? 俺の攻撃は?)


 インベントを成長させるため? ロメロ自身が楽しむため?

 ロメロ自身もなぜ続けるのかわからなくなってきている。


 だが目の前でもがき続ける少年にとって、ロメロがこれまで磨き続けた技術は必要だと確信している。

 インベントの限界を引き出せるのは――ロメロ・バトオしかいないと確信している。



 インベントは完成形に近づいてきている。

 と同時に、ロメロの狂気の授業は終わりに近づいている。

突然二日ほど投稿お休みしちゃいました。

書き終わっていたんですが、手直ししてたら終わらなくなってしまいまして……。


そろそろ七章が終わるので、そこまでは毎日投稿したかったんですが申し訳ないです。

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