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理性と本能

 ロメロが剣を振う。

 剣に纏わりついた淀みを振り払うように振う。

 すると突風が吹き、まるで剣が風を巻き起こしたかのようにロメロの周り草木がざわついた。


「やはり面白いな。まともに攻撃を喰らうなんて久々だよ」


「避けようと思えば避けれたでしょ?」


「んん~? ま、避けなかったんだからまともに喰らったのと一緒さ。

 あのナイフ……寸前まで気づけなかった。くふふ……いいな。してやられた」


 インベントはロメロの背後が陽炎のように歪んで見える。

 ロメロのギアが上がっていく。


「そろそろ……こちらからも動くぞ? 覚悟はいいか?」


「元々、本気マジの模擬戦じゃないですか」


「ふふふ……そうだな。遠距離戦では一本とられてしまったなあ」


 インベントは溜息を吐いた。


「そもそもロメロさんは遠距離戦闘なんてできないでしょ」


「まあな」


「正直な話……遠距離攻撃でアドバンテージとれないようじゃ勝ち目なんて無いですからね」


 ロメロは「勝ち目かあ」とひと際嬉しそうに『勝ち目』という言葉を慈しむかのように呟く。


 ロメロに勝とうとする男。そんな人間はほとんどいなかったからだ。


 『陽剣のロメロ』の名は大きくなりすぎており、憧れや尊敬の対象になってしまっている。

 極々稀にロメロ打倒を口にする人はいた。だが実際にロメロと対峙すればすぐに心は折れてしまう。

 若気の至りだったと諦めてしまうのだ。強者であればあるほど実力の見切りは早い。


 インベントはロメロに勝つつもりでプランを考えてきた。

 理性的にロメロを仮想敵と想定し、策を練り、傾向と対策を考慮し勝とうとするインベント。

 と同時に、『ぶっころスイッチ』がONになっているインベントは、本能的にロメロを殺そうとしている。


 理性と本能が混在するインベント。

 今はまだ理性のほうが強い。



「お喋りもそろそろ終わりにして――」


 ロメロが緩く剣を構えた。

 ステッキをクルクル回すように軽く剣を構える。


「――行くぞ」


 ロメロはゆっくり歩き始めた。

 これまではインベントの徹甲弾の連発を楽しむためにあえて動かず、攻めに転じてこなかった。

 そしてロメロは認める。遠距離戦は分が悪いことを。

 だから動く。


 それに対しインベントは――


(上上下下左右左右……からの! バースト!、アタック!)


 徹甲弾を二発発射し、徹甲弾を追いかけるようにインベントも跳ぶ。

 徹甲弾とインベント本体の連続攻撃。


 それに対してロメロは何事もないかのように真っすぐインベント目掛けて歩いてくる。

 射貫くような瞳は、インベントを逃がさない。

 ロメロとの距離が近づくにつれ、インベントの脳内で危険信号が鳴る。


 攻めるか引くか。迷いが生まれた。


(い、行け!)


 死地に飛び込む。そう覚悟したインベント。

 だが次の瞬間――


(だ、ダメだ! 引かないと!)


 徹甲弾とロメロが接触する。と思いきやロメロは徹甲弾をすり抜けてしまったのだ。


 実際にはロメロが防御を最小限に真っすぐ突き進んできたのだ。

 だがインベントから見れば、幽霊のように徹甲弾をすり抜けたかのように見えた。


 インベントは咄嗟に跳躍用丸太バウンダーをぶっ叩き後方へ逃げようとする。

 距離が必要なのだ。ロメロとの距離が近ければ近いほど危険度は増す。


 しかし……もう遅かった。


「――遅い」


 ギイイィーン――と金属音が鳴り響く。

 痺れるインベントの右腕。


 インベントは右腕を見る。


(つ、ついてる。ちぎれたかと思った……)


 ロメロは一気に間合いを詰め、インベントの右腕を剣で弾き飛ばしたのだ。

 インベントは腕を消失したのではないかと思うほどの衝撃。


 ロメロは追撃してこない。

 インベントは距離をとる。


「――もしも」


 ロメロがゆっくりと喋りだす。


「【太陽ソエイル】を使っていれば、右腕はもう無いぞ」


「ぐぬぬ」


 ロメロは笑う。

 インベントは歯ぎしりをする。ロメロに手を抜かれているからだ。


 出会った頃から、ロメロはずっと手を抜いている。

 赤子相手に大人が本気を出さないかのように手を抜いている。

 強すぎるのだから仕方がないことだ。


 だがインベントは成長した。

 Lv1ロメロを倒すために、試行錯誤して成長してきた。

 そしてLv1をクリアすればすぐにLv2ロメロが現れる。再度試行錯誤し成長する。

 そんなやり取りを繰り返してきたインベント。


 まさか最大Lvが10ぐらいかと思いきや、実はLv11があったのだけれども。



(……どうすれば、勝てる?)


 この模擬戦の準備段階で、近距離攻撃だけでは勝てないとインベントは判断していた。

 なぜならロメロはロメロウォーキングで集中力を増し、死角からの攻撃に対策してきたからだ。


 だからこその遠距離攻撃の強化だった。


 インベントは徹甲弾四発と、空間投射レールガンでナイフを発射。

 直後また、追いかけるようにインベントも跳ぶ。


 インベントの対ロメロ対策は遠距離攻撃と近距離攻撃の合わせ技だ。

 遠距離攻撃で崩し、近距離攻撃で仕留める。もしくはその逆。



 だがロメロは遠距離攻撃を幽結界の情報を頼りに見ずに捌く。

 そして視線はインベントをロックオンしている。


 またも防がれ、今度は左手の重力グラビティガントレットを弾き飛ばされた。


「ふふん」


 余裕綽々のロメロ。


 そこから何度か遠距離攻撃と接近を組み合わせようとしてみるが、どうやってもロメロの間合いに入れない。

 間合いに入った瞬間、ロメロに斬られるビジョンが見える。


 その結果、インベントの理性がインベントに訴えかける。

 『ロメロの間合いには入れない』――と。遠回りに諦めるように働きかける。


 だが『ぶっころスイッチ』がそれを許さない。



(どうやれば……殺せる?)


 理性を抑え込み、ロメロを――いや、人型モンスターを殺す衝動が暴れだす。


 インベントはロメロを殺せる可能性がゼロじゃないと思っている。

 だから『ぶっころスイッチ』は止まらない。

 想定以上にロメロがバケモノだとしても、ロメロはロメロなのだ。


 インベントにはまだ出していない手札がある。

 使ってはいけない手札。未完成の手札。


 だが『ぶっころスイッチ』からすれば、そんなことは知ったこっちゃないのだ。



「――シッ」


 煙玉を使い姿を隠すインベント。


 インベントが姿を消したことでロメロは笑う。


(いいな。だがどうする? その新しい動きには致命的な欠点があるぞ?)


 反発制御リジェクションコントロールの欠点。それは発動する際に音が鳴ることである。


 反発制御リジェクションコントロールは装備の重さを無視できるが、どうしても音が鳴る。

 なぜなら重力グラビティグリーブや重力グラビティガントレットで跳躍用丸太バウンダーを押さなければならないからだ。

 速く移動する場合にはかなりの衝撃音が発生する。


 縮地や疾風迅雷の術のように、無音で相手の死角に移動することはできないのだ。

 衝撃音はインベントの居場所を教えているようなものである。



 ロメロは待つ。


 そして――小さい衝撃音が空中から聞こえた。


(上か!)


 上空を見上げるロメロ。

 だが、インベントはいない。



(――剛・縮地……三連!)


 インベントは煙の中に潜んでいた。

 そして、あえて縮地を使い、インベントが煙の中から飛び出す。

 フルアーマーXX(ダブルエックス)スタイルでも縮地は使っていたので、重力グラビティシリーズを装備していても縮地は使えるのだ。


 反発制御リジェクションコントロールの欠点を利用し、ロメロの裏をかくインベント。

 ロメロの死角から接近し躊躇なく攻撃しようとする。奇襲としては完璧だ。

 だが――


(……そこか)


 ロメロには届かない。

 幽結界に侵入した瞬間にロメロは反応し、恐ろしい速さでロメロの剣がインベントに向かう。

 ロメロの剣の方がやはり速い。


(もらった!!)


 重力グラビティガントレットをロメロの剣が豪快に叩く。

 そしてインベントは無様に大地を転がる。


 ――はずだった。



(スカった? 避けられた? 馬鹿な?)


 ロメロの剣が宙を斬った。

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