轟と静
『コ〇ミコマンド』は徹甲弾の連射速度を上げた。
インベントの反発制御を利用した動きは、プログラミングに近い。
正確かつ無駄のない指示、つまり最適化された指示を脳から収納空間に連動させれば、装備品の重量を無視した行動ができるわけである。
脳の処理が追い付く範囲ではあるが。
語呂のよい『コ〇ミコマンド』は、反発制御と相性が良かったのだ。
だが、それでも足りない。
ロメロを追い込むには一歩足りない。
ロメロに普段やらない回避行動をとらせることには成功している。
【太陽】も使わざるを得ない状況にまで追い込んでいる。
だがロメロから笑顔は消えない。
なにか手を考えなければならないインベントは『コ〇ミコマンド』の真の姿を思い出すのだ。
(くっそ~! 上上下下左右左右の後には……そうだ! BとAだ!
B……B……ぶ、ブロック? 徹甲弾のことかな?)
もちろんBは『Bボタン』のBなのだがそんなことは知らないインベント。
(ブロックをA……ブロックをA? ブロックを当てる? あ……)
インベントは突如閃く。
今の状況で打てる手を思いついたのだ。
天才肌ではないインベントにとっては、練習してきたことしかできない。
持っている手札の中でしか戦えないインベントだが――
(手札を組み合せばいいんだ)
インベントは再度継続して徹甲弾を発射する。
その中に一つのイレギュラ―を流し込んだ。
ロメロは飛来する徹甲弾を華麗に避けつつ、面倒な分だけ【太陽】で斬り落とす。
やればやるほど上達するロメロ。徐々に余裕がでてくる。
(ま……なんとかなるな)
そんなロメロの余裕を嘲笑う出来事が起きた。
絶対的な信頼を置く幽結界の中で。
避けるべき軌道の徹甲弾を華麗に避けるロメロ。
だが――
ギーン――!
(む? 衝突?)
徹甲弾と徹甲弾が衝突する。
速さと重さを兼ね備えた徹甲弾同士の衝突で、振動がロメロの耳をつんざく。
そして――軌道が変わった。
避けたはずの徹甲弾がロメロの顔面に迫る。
「ちぃい!」
ロメロは咄嗟に【太陽】でカバーした左手で徹甲弾を受け止めた。
ダメージは無い。だがロメロの顔が歪む。
【太陽】はとある理由から、こんな使い方をしてはいけないのだ。
それをわかっているからこそロメロは舌打ちしたのだ。
「よし……」とインベントは呟く。
(上上下下左右左右……B……Aは成功だね)
ネーミングセンスは無いが、咄嗟の事態なので仕方がない。
BAはロメロの予想外の攻撃になった。
なにせ徹甲弾同士が当たった際にどうなるかは誰にもわからないからだ。
ロメロには隙らしい隙は無い。精神的には隙だらけだったりもするのだが。
隙が無い以上、何かしらイレギュラー要素を捻じ込む必要がある。
イレギュラー要素こそロメロ打倒の鍵なのだ。
インベントは笑う。
ロメロは「おいおい……」と困り顔の笑顔だ。
ここからは徹甲弾の衝突まで計算に入れなければならないからである。
インベントは再始動し、徹甲弾を飛ばしまくる。
そして数回に一度衝突が発生する。
インベントとしては全てのタイミングで衝突を狙っているのだが、なかなか上手くいかない。
だがそのランダム性がロメロにとっては厄介だった。
(予測できない攻撃ほど厄介なものはないからな……。
それに幽結界内で変化するのは……反則、だろ!)
仕方なくロメロは怪しい軌道の徹甲弾も斬り落とす。
ロメロにとって【太陽】は自身最大の攻撃手段である。
だがつまらないおもちゃでもある。
【太陽】はほぼなんでも斬れる剣である。
使ってしまえば大抵の敵が終わってしまう。
だから乱用はしない。ほぼモンスター相手にしか使わない。
そんな【太陽】を使わざるを得ない状況に追い込んでくるインベント。
(くふふふう! 楽しいなあ! 楽しいなあ!)
【太陽】を使う事で幽力を消費していく。倦怠感を感じつつもロメロは狂喜乱舞する。
徹甲弾の衝突さえも徐々に適応していく。
そんな様子を見たインベントは――
(相変わらず滅茶苦茶だよ……ロメロさん)
そう思いつつも、インベントは次なる『BA』を周到に準備している。
こちらが本命である。
(上上下下左右左右……からの! B、A!)
インベントは徹甲弾を二発ぶん殴る。
すぐさま次の徹甲弾の準備に入る。
その隙間。一秒にも満たない時間にインベントはある攻撃を挟んだ。
ロメロからすれば変わらず徹甲弾が飛んできているようにしか思っていない。
一つ目の徹甲弾は避け、二つ目の徹甲弾は【太陽】を纏った剣で斬り落とした。
続いて到達しようとしている三つ目と四つ目の準備に入ろうとしたその時――
ロメロは時が止まったかのように感じた。
二つ目の徹甲弾の背後から、存在感の極めて希薄で凡庸なナイフが飛んできていたのだ。
幽結界で気づき、続いて視界に捉えた。
(鉄塊に気を取られ過ぎていたか……。しかしどのタイミングだ?)
インベントは徹甲弾をぶん殴る合間に、ナイフを空間投射砲で発射したのだ。
ロメロに悟られないように、細心の注意を払って。
空間投射砲は重力ガントレットでぶん殴った徹甲弾ほどのスピードもパワーも無い。
だが空間投射砲には、徹甲弾に劣らぬ――いや真逆の利点がある。
それは、無音であることだ。
徹甲弾は重力ガントレットでぶん殴っている以上、大きな音がする。
まるで砲撃のようにうるさい攻撃なのだ。
逆に言えば注意を集めることができる。
徹甲弾にロメロの注意が集まっている状況で、空間投射砲から無音のナイフが飛んでくる。
ロメロとしては気づくのは難しい。
(やられたな)
ロメロは眉間に飛来してくナイフを忌々しそうに睨んだ。
してやられてしまったことに対しての苛立ちだ。
心も体も次の徹甲弾に対応するために準備させてしまっている。
不格好な避け方をすれば避けれたかもしれない。
だがロメロは潔くインベントの攻撃を受け止めた。
額の寸前で幽壁がナイフを拒む。
ごっそりと使われてしまった幽力。
ロメロは首をポキポキと鳴らした。
「ここからは……俺も攻めるとするか」
ロメロが本気を出す。
つまり……森林破壊が始まる。
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