職権乱用ハーレム部隊③
「うっし、行くぞ」
一時間でバンカースが戻ってきたので、すぐに駐屯地から出発した。
二十分走った後――
「よ~しそろそろ危険区域に入る。作戦を伝えるぞ~」
「はあ~い」
締まりのない敬礼をするフェルネ。
バンカースは無視して進める。
「まずはルシアン」
「は、はい!」
「索敵をしっかり頼む。最近はモンスターが活発になっているらしい。
モンキータイプも多いらしいから木の上もしっかり警戒してくれ。
おめえの【人】のルーンがあれば索敵はお手の物だろう」
「わ、わかりました!」
「次はイノシン!」
「はい!」
「イノシンは俺の動きにしっかりついてくることだけを考えていればいい。
【喜】のルーンってのは、仲間の近くであればあるほど効果を発揮する。
とにかくできる限り、俺と離れないようにな!」
「わかりました!」
インベントは感心してバンカースを見ていた。
(的確な指示だな~)
「次は……フェルネ!」
「いつも通りでしょ?」
「あ、ああ。いや言わせろよ!」
「はいはい」
夫婦漫才のようなやりとりにインベントはホッコリした。
「いつも通り最後方で待機していろ……って言いたいところだが今日は違う」
「え~?」
バンカースはインベントを指差した。
「フェルネはインベントと一緒に後方待機!
俺が命令しない限り二人は戦闘参加は一切禁止だ!」
「わあ~ラクチンね」
「戦うなよ! インベントも戦うな!」
インベントは眼をパチクリした。
「た、戦えないんですか? 何か手伝えることは……?」
「無い! 何もするな! 見てろ! 見ることが仕事!」
「そ、そんなあ……(モンスター倒したい!!)」
「問答無用!! よし! じゃあ行動開始だ!」
**
最前線にバンカース、すぐ後ろにイノシン。
イノシンとぴったりくっつくようにルシアンが控えている。
少し離れてインベントとフェルネがいる。
インベントとしてはモンスターと戦いたくて仕方がない。
何せ五日間も休暇を貰い、鬱憤が貯まっているのだ。
「ねえねえ、少年」
「え? はい。なんでしょうかフェルネさん」
「戦いたくてビンビンしているのはわかるんだけどお~、ダメだからね~」
「あ……はい」
「総隊長が何を考えているのかは知らないけど、あなたは見学が任務だからね。
仮に目の前の三人が死んでも戦っちゃだめだからね~」
「は、はあ」
(……そんなこと言っても、本当にピンチだったら助けないと)
そんなことを考えていると、フェルネは急接近しインベントの目を覗き込んだ。
「ふぉ、ふぉえ??」
「やばかったら助けないと~~~~な~んて考えてるのね~?」
「え、いや、そのお……」
見透かされたのでインベントは狼狽した。
「あなたは見学。それ以外の行動をしたら私が止めるからね~。
というか……ピンチになんてならないわよ~。あの人……なんか今日本気モードだしい」
「本気モード??」
「そそそ、バンカース隊長の装備見てみなさい」
そう言われて、バンカースを見るインベント。
「両手に小手を仕込んでいるでしょう~? 結構重いんだけど防御力は高いわ~」
衣服に隠れているがバンカースの両手には小手が仕込まれている。
「それに太~い剣が二本と、刀が一本。
あの細~~い刀は新月剣ね~」
「新月剣??」
バンカースは腰には細身の刀が一本。
武器倉庫には置いていない、特注品である。
「耐久性は低いけど、切れ味は抜群の刀よ~。
あれを使うときは大体本気ね」
「へえ~」
「……確かに、見学していたほうがいいわ~。
隊長の戦いが間近で見れるんだから、真剣に見学したほうがいいんじゃないかしら~」
**
「……隊長! 右前方、モンスターです」
「了~解」
全員の視線が右前方に注がれる。
「木の上ですね……モンキータイプです」
「ああ、見えてるぜ」
通常の猿より二回り大きい猿。
ゴリラぐらいのサイズである。
目は血走り、怒りの形相でよだれをダラダラ垂らしながら威嚇してくる。
「でけえな……。イノシン!」
「は、はい!」
「俺との間隔はできるだけキープしろよ~」
「だ、大丈夫です!!」
「よっし!」
モンスターは威嚇を止め、バンカース目掛けて飛翔してくる。
重さ100キロ近い巨体に対し、バンカースは――
「ぬうん!!」
真正面から大太刀で攻撃を受け止めつつ、叩き落とした。
「ガギャアア!!」
インベントは押し負けずに叩き落したバンカースにも驚いたが、斬られなかったモンスターにも驚いた。
「モンスターには幽壁っていうバリアーみたいなものがあってね~。
簡単には斬れないのよ~。まあ……私たちにもあるんだけどね~」
「そ、そうなんですね」
モンスターは両手をぶん回し、連続攻撃を仕掛けてくる。
それに対しバンカースは、両手を使いボクサーのように受け流す。
あえて剣は使わない。
猛攻を防ぎきると、モンスターは戸惑い始めた。
どれだけ攻撃しても何も上手くいかない状況に、どうすべきなのかわからなくなってしまったのだ。
そして――逃げた。
いや、逃げようとした。その時――
「新月――居合――振り払い」
バンカースの居合が、モンスターの両足を切断した。
「幽壁が発動しなかったみたいねえ~。
意識していない場所に攻撃を受けると幽壁が発動しないことが多いらしいわよ~」
「ほほお!」
(致命的一撃だ!!)
インベントが一人テンションが上がっている中、バンカースは淡々と事を運ぶ。
両手の力だけで逃げようとするモンスター。
だがバンカースは、眼球を切り裂き、視界を潰す。
そして機械的に頭蓋を叩き潰し、モンスターは絶命した。
**
「回復します~?」
フェルネの提案に対し――
「俺はいい。念のため二人を頼む」
イノシンとルシアンは断ろうとしたが、フェルネは間髪容れず「はいは~い」と回復を始めた。
【癒】のルーンはその名の通り肉体を回復する。
「インベント」
「は、はい」
戦いに加わっていいのかと思い、インベントは眼を輝かせた。
「フェルネは【癒】のルーン、つまり回復だ。
疲労感もある程度取り除いてくれる。だからパーティーに【癒】が一人いるだけで生存率は大きく上がる」
「は、はあ」
インベントとしては、そんなことよりもモンスターを狩りたいとしか思っていない。
森林警備隊の誰かのルーンよりも、モンスターのことが知りたいのだ。
「おい、インベント」
「はい」
「今の戦い、よく見てたか?」
「はい! 一人でモンスターを圧倒できるなんてさすが総隊長です!」
バンカースは溜息を吐いた。
「おまえな~、もっと大局を見ないとだめだぞ」
「大局?? ですか??」
「そうだ。なんで俺一人でモンスターを圧倒できたと思う?」
「そりゃあ……隊長が強いから」
バンカースは小さく笑みを浮かべた。
「そりゃあそうだ。攻撃力も防御力も俺は高い。
一人でできることは普通の奴よりも多いとは思う。
だからと言ってできねえこともたくさんある」
「できないこと??」
バンカースはフェルネたちを指差した。
「このチームで一番重要なのはフェルネだ。
あいつの回復力があるからこそ俺も無理できる。
もしも俺が負傷したとしても多少の傷ならフェルネが治せる。
だからこそ無理ができるわけだ」
「なるほど」
「それにイノシンは【喜】のルーンだ。
【喜】のルーンは近くにいるだけで他のルーンが活性化する。
あいつが近くにいてくれるだけで俺は存分に力を発揮できるわけだ」
(おおお! 【喜】にはそんな効果があったのか!)
「そしてルシアンは【人】のルーンだ。
【人】のルーンは超重要だ。モンスターの位置を把握できる。
斥候部隊とかには確実に一人は入れないといけねえ」
「へえ……」
インベントは【器】のルーンに関しては比類ないぐらい知り尽くしているが、他のルーンに関しては疎かった。
「わかるか? 大事なのはチームとして各々が役割をしっかりこなすことだ。
オイルマン部隊だってそうだっただろ?」
「オイルマン部隊……」
「オイルマンは優秀なディフェンダーだ。
あいつ一人で大抵の攻撃は受け止めれる。
そんでもってドネルとケルバブが攻撃役。
あの三人がしっかり連携することで力を発揮していたわけだ」
「なるほど」
「インベント。お前は何ができるんだろうな?
チームの中でどんな役割が担えるのか……正直よくわからねえ。
まだ新人だからな、急かす気もねえけどよ……ちょっとよく考えてみな」
バンカースはクールに振り返った。
(うはは……俺、めっちゃカッコよくね?)
バンカースは自分大好きである。
**
その後――
バンカース隊は三体のモンスターを討伐した。
ウルフタイプが一体とモンキータイプが二体。
全てバンカース一人で仕留めた。
インベントはバンカースを見るのではなく、チーム全体を見た。
(このチームはバンカース総隊長を活かすための布陣なんだ……。
バンカース総隊長の能力を活かすためにイノシンさんとルシアンさんが機能している。
こ~ゆうチーム編成もあるんだなあ……)
インベントは少しだけ成長した。
インベントはチームワークを知ったのだ!
だが、ここから少しだけ歯車が狂っていくのだけれど。
ブックマーク及び評価ありがとうございます!
まだの方は是非よろしくお願いします。
設定に関してのページを作成しようかと思ってます。
特にルーンに関連の情報を載せる予定です。