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水漏れ修理

 かくり結界。


 術者の範囲四メートル以内を探知する能力。

 故に背面や上空からの不意打ちも完全に無効化できる――わけではない。


 かくり結界の中に入れば動きは手に取るようにわかる。

 だが手に取るようにわかったとしても、対処できるかは別問題である。


 例えば背面から矢が飛んできた場合、かくり結界があれば反応はできる。

 だが避けられるかどうかは身体能力次第である。

 もしくは心構え。急な状況でも対応する心構えがあるかどうか。


 結局のところ、かくり結界は優秀な能力だが、扱う人次第なのだ。


**


「どうした? インベント」


 ロメロは柔和な顔で佇んでいる。

 だがインベントはロメロの背後に鬼を見た。

 明らかにこれまでのロメロとは違う。


 ロメロは見た目に反し51歳である。

 自由奔放に生きているし、自分勝手な男。

 だが強い。大抵のことであれば押し通せる圧倒的な強さを持つ。


 インベントはロメロチャレンジを何度も繰り返し行ってきた。

 ロメロが本気を出していないのはわかっていた。遊ばれていることもわかっていた。

 だが時折、驚かせることもあったし、本気にさせることもあった。

 絶対的な強者ではあるものの、努力と工夫で対抗できるかもしれないと思っていたのだ。


 だがたった一度の模擬戦で、元々高いと思っていた山が、実はまだ全容を見せていなかったかのような気分に陥らせた。


(強く……なってる??)


 インベントにも数少ないが常識がある。

 その一つに――『大人はあまり成長しない』がある。



「も、もう一回!」


「ふふん。いつでもどうぞ」


 インベントは先程同様に、高速移動でロメロの死角まで移動する。


(これまでだったらアドバンテージをとれた……この位置!

 加速武器アクセルウエポン飛龍ひりゅうの型!)


 死角からインベントは槍を発射する。

 完全にロメロを射殺すレベルの攻撃。


(どうだ!?)


 これまでならば、多少バランスを崩すことができた攻撃。

 槍はかくり結界に侵入した。


 ――とほぼ同時にロメロの木剣が最短ルートで槍を弾いた。


(反応速度が……上がったのか? いや……なんか違うぞ……)


 ロメロはゆっくりと振り向いてインベントを視界に収めた。

 そして「そこか」と微笑む。

 インベントはゾクリとしてすぐに距離をとる。


 ロメロのなにかが変わっている。

 だが具体的になにが変わったのかわからず、インベントはかくり結界の外から攻撃を繰り返す。


 死角から迫るインベントの攻撃をことごとく弾き返すロメロ。

 『ことごとく弾き返す』のはこれまでと同じだ。

 だが『難なく弾き返す』ようになってしまった。


(お、おかしいな……し、死角ってなんだっけ?)


 困惑するインベント。

 死角――つまり見えない場所からの攻撃なのに、一切の乱れが無いロメロ。


 インベントだって強くなっているはずなのだ。

 あれだけ必死に反発制御リジェクションコントロールの練習をした。

 疾風迅雷の術で身体に負担をかけていた頃と遜色ない動きはできているはずなのだ。


 なぜ以前と同じ結果が得られないのか?


 攻撃を繰り返す中で段々気付き始め、そして確信に変わる。


(ロメロさん……、目で攻撃を見てない??)


 これまで死角からの攻撃であれば、振り向いたり身体をずらすことによって攻撃を視界に収める動きを必ず行っていたロメロ。

 死角からの攻撃は多少なりとも恐怖心が発生する。動物的な本能である。

 だが現在のロメロは、死角からの攻撃をあえて見ようとはしない。


 見る工程を省くことでこれまで以上に、最短かつ最も合理的な動きで対処する。

 その結果、反応速度が上がったかのように感じたのだ。


 ネタがわかれば簡単な話である。

 かくり結界に侵入してきた攻撃であれば、見なくても反応できるし対処することもできるはずである。

 だが理屈はそうであっても、見ることを放棄するのは難しい。

 かくり結界を100%信じる必要があるし、これまで頼ってきた視覚を捨てる必要がある。


「ハッハッハ。どうした~? もう終わりか? インベント」


「ぐむむ!」


 手詰まりになるインベント。

 なにをやっても通用しないような感覚に陥る。

 まるでロメロチャレンジを始めた当初のような状態に逆戻りである。



 インベントが手詰まりになった理由は、ロメロウォーキングにある。

 フラフラと危険区域をお散歩し、かくり結界に侵入してきたモンスターを狩っていたロメロ。

 命の危険と隣り合わせの危険なお散歩は、死角からの攻撃であっても最速で最適な反撃をする術をロメロに与えた。


 そもそもロメロであっても、死角から攻撃された経験は少ない。


 なぜなら『宵蛇よいばみ』に属し、隊で行動してきたからだ。


 『宵蛇よいばみ』にはデリータがいる。

 デリータは、クラマが言うところの『門』が開き【フェオ】のルーンが強化されている。

 そのためデリータは良い方角や悪い方角を風で感じ取れる。

 つまり『宵蛇よいばみ』に対して不意打ちするのは極めて難しい。


 更に一定範囲内の状況を確認できる【マン】のルーンを持つエンノがいる。

 死角から攻撃されるケースが起こりにくいのだ。


 だからこそインベントの死角からの攻撃は効果があった。

 ロメロからでもアドバンテージをとることが可能だった。

 だが、ロメロウォーキングのせいで、死角からの攻撃も効果が限りなく薄くなってしまったのだ。



 偶然?

 もちろんそんなわけはない。

 ロメロはあえて、死角対策を実施したのだ。


 ロメロは挑発的な笑みを浮かべる。


(さあ……どうするインベント?

 これまで通りでは通用しないぞ?)


 あえて立ちはだかるロメロという壁。

 水漏れしていた『死角』という穴は塞いでしまった。



(諦めるか? それとも抗うか?

 願わくば……俺を――)

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