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味見

 運動エネルギー。

 動いている物体が持つエネルギーであり、求める計算式は――

 質量×速度×速度÷2である。


 つまり重ければ重いほど、速ければ速いほど攻撃の威力は上がる。

 計算式など知らなくても誰でも知っている話である。


 同じ鉄球を同じ高さから落とせば、等しく同じ力が落下した際に発生する。

 鉄球であれば同じ威力を再現することは簡単だが、人間の場合そうはいかない。



 インベントがやろうとしている反発制御リジェクションコントロールは、本来であれば何年もかけて完成する技のはずだった。

 収納空間から発生する反発力の、微細なコントロールをするだけでも大変なのだ。


 もしも『収納空間ちゃん』がお喋りで優しかったとする。

 そうだったら『今のパンチは220の威力ね! 反発力220のお返しよ!』とフィードバックが貰える。

 これだったらインベントの修業はスムーズに進んだはずだ。

 だが『収納空間ちゃん』は当然喋らない。


 威力の数値化ができない時点で、膨大な練習で補うしかない。

 ――はずだった。



**


「――今のは320ぐらいだな」


「あれ? そんなに出てましたか?」


「利き足の右足は思った以上に力が出るんだろう」


「ああ~なるほど」



 ロメロが修業に付き合うようになった。

 毎日では無いが、数日に一度。

 そして修業中、自然と威力を数値で話すようになったのだ。


 ロメロはかくり結界内であれば、動きの微差も判別することができる。


 ちなみにロメロ同様にデリータやクラマもかくり結界を使える。

 だがロメロのように、威力を数値化するなんて芸当はできない。


 ロメロはかくり結界を二人以上に多用してきた。

 なぜならば戦うことが生き甲斐であり、誰よりも戦いに身を投じてきたからだ。

 そして今、ロメロウォーキングをすることで集中力がいつになく増している。

 更に人に無関心なロメロがインベントに興味を持っている。 


 この世界でたった一人だけ。

 インベントの動きの威力を数値化できる男が修業に付き合ってくれている。

 結果、手探り感覚で行っていた修業が、一気に濃密な修業に変わる。



 反発制御リジェクションコントロールが実用可能な段階にまで迫ってきていた。

 そしてロメロの集中力も日に日に増していってることをインベントは知らない。



****


 ライノタイプモンスターを討伐してから30日が経過していた。

 未だに戻らないクラマを多少心配……しているのはアイナだけだった。


 アイナ隊はバラバラ状態ではあるものの、いつも通りモンスター狩りに向かう。

 そして今日はロメロがインベントの修業に付き合う日である。



 インベントは格段に動きが良くなった。

 よく使う動きに関してはほとんど誤差なく動ける。


 なにせ毎日飽きることなく練習している。

 反発制御リジェクションコントロールの修業の素晴らしい点は、どこでも練習できることだ。


 ベッドの傍らでも重力グラビティガントレットを装備すれば、腕を浮上させる練習ができる。

 町中を歩く時でも、重力グラビティレガースを装備しておけば、ゆっくりスキップする練習ができる。

 まあ、町の人達からは奇妙な少年だと思われているが。


 凝り性なインベントは隙間時間を全て費やして修業に励んだ。

 30日経過して、やっと……その日が来たのだ。


**


 太陽が傾きかけた頃。


「うん……そろそろ……」


 ロメロがぶつぶつと呟いている傍らで、インベントは修業を続ける。


 ラビットタイプモンスターを見つけたインベントは、高速で接近し、蹴り飛ばし、殴り殺した。

 反発制御リジェクションコントロールを練習する前の動きと遜色ないレベルに到達している。



 ロメロのもとに戻ってきたインベント。

 ロメロは微笑んでいる。


「なあ……インベント」


「なんですか?」


「そろそろ……実践も必要とは思わないか?」


「実践……?」


 ロメロは剣を鳴らした。


「久々の――模擬戦だよ」


 インベントは不思議に思っていたことがある。

 インベントの修業が始まってから、一度もロメロは模擬戦の提案をしてこなかった。

 クラマがいないこの状況で、なぜ『おしつけロメロチャレンジ』をしてこないのか疑問だったのだ。


(まあ……ある程度動けるようになってきたし……。

 ロメロさんにはお世話になっちゃってるからなあ~)


「それじゃあ、やりましょうか」


「ふふん。いいだろう!」


 インベントは木剣をロメロに手渡した。


「さあ、いつでもこい!」


「は~い。あ、俺は武器無しにしますね」


「なるほどな。まあ仕方ないだろう」



 反発制御リジェクションコントロールの修業を始めてからインベントは武器を使っていない。

 武器が無くても十分な攻撃力があるし、なにより武器を使っている余裕が無かった。


「よお~し! いきますよ!」


「こい!」


 インベントは右手をゆっくり下げ跳躍用丸太バウンダーを優しく叩く。

 ふわりと浮くインベント。高さに誤差無し。


 両足で跳躍用丸太バウンダーを踏む。

 するとかなりのスピードでロメロ目掛けて飛び出すインベント。


(真っすぐだと、さすがにね!)


 右手で跳躍用丸太バウンダーを叩き、左へ飛ぶ。

 そして再度跳躍用丸太バウンダーを踏んで加速する。

 ロメロの視界右側から接近するインベント。


(まずは……攻撃を引き出してから回避しよう!)


 ロメロにはかくり結界がある。

 半径四メートル以内は全て探知されてしまうので奇襲はできない。

 だが視界の外からや、背面からの攻撃はさすがのロメロも反応が遅れる。


 ロメロとは何度も戦ってきた。

 だからこそインベントはかくり結界を熟知している。


(ロメロさんとの模擬戦はかくり結界に入るか入らないかのギリギリが勝負の分かれ目だ!)


 ロメロに接近するインベント。

 かくり結界に侵入する一秒前。


(入――――った!)


 ロメロが反応し、ロメロの持つ木剣がインベントに迫ってくる。

 恐ろしい反応速度と剣速だが、回避は間に合う。

 インベントはロメロの速さを知っている。ロメロの恐ろしさも知っている。


 計画通り。

 そう……計画通り進むはずだった。


 ――ギイィーン!


 金属と何かが交差した音が鳴り響く。


「あ、あれ?」


 インベントの顔はいつの間にか地面と触れ合っていた。



「ふふん……。まだまだ」


 インベントを見降ろすロメロは不敵に笑う。


 ロメロはインベントが想定するよりも早く、速く、迅速はやく剣をインベントに突き出したのだ。

 回避する前に迎撃されてしまったインベント。



(こ、これまでより……明らかに、は、速い)


 ロメロウォーキングで集中力が増しているロメロ。

 手を抜くのが日常になっていたロメロとは雲泥の差である。


 ロメロの底はインベントが思うよりも遥かに深いのだ。

???「オレは変身をあと二つも残している」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦うのが生き甲斐なのに戦う相手が木っ端しかいないんじゃそりゃ辛いわな…… 食べるのが好きなのに周りのもの全部味極薄みたいなもんで……
[一言] え?あと2つしか残していないんですかぁ?(煽り)
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