ロメロウォーキング
ちい散歩みたいなハートフルな話です(ゲス顔
インベントはいつも通り変であり、アイナまでもが少し変な今日この頃。
フラウは二人のことを心配しつつも、一番心配しているのはロメロのことである。
「それじゃあ俺はこっちに行ってくる」
「え?」
急遽ロメロが別行動を申し出た。
「な、なに言ってんすか? どこに行くんすか?」
「ちょっと野暮用でな。まあ気にするな。夜までには戻る」
インベントはロメロの行動にさほど興味が無いし、アイナは『宵蛇』としての任務があるのかもしれないと納得する。
だがフラウは何も聞いていない。心配するのも無理はない。
「ろ、ロメロ副隊……長」
「ん?」と首を傾げるロメロから静かな圧力を感じるフラウ。
何も言えなくなるフラウ。
「ははは、ちゃんとモンスターも狩ってくるから。心配するな」
モンスターを狩る。
つまり森の中に一人で入っていくということだ。
余計心配するフラウだが、ロメロは気にせず森の中に消えていく。
**
ロメロはひとり森を突き進む。
鼻歌交じりで突き進む。まるで散歩の如く。
自殺行為である。――ロメロ以外ならば。
一匹のウルフタイプモンスターがロメロに接近する。
不用心にテリトリーに侵入してきたロメロを威嚇するモンスター。
だがロメロは気にせず散歩を続ける。
空なんか見たりして、まるでモンスターなどいないかのように。
苛立ったモンスターはロメロの背後から飛びかかる。
不用心な人間をさっさと殺そうと、爪がロメロの首を狙う。
――ぼとり。
何かが落ちる音がした。
ロメロは何事もなかったかのように散歩を続けながら――
「ふ~む……今のは胴体を切り落としてもよかったかなあ……。
ど~も目に頼ってしまうな、いかんいかん。はっはっは」
いつの間にか右手に持っていた剣を、優しく振うロメロ。
そのまま立ち去っていく。
モンスターは追いかけられない。
追いかけるにも……左前脚が無くなってしまったのだ。
ロメロはモンスターが幽結界に進入した瞬間、目にも止まらぬ早業で斬り落としていた。
「ふんふんふふ~ん」
ロメロの斬り捨て御免散歩は夕刻まで続いた。
ロメロからモンスターを追うことは無い。
幽結界に侵入してきたモンスターを正確に斬る。
絶命しない場合もあるが追い打ちはしない。
来るもの斬り落とし、去る者追わず。
モンスターの生命を脅かす危険なお散歩。
それがロメロウォーキング。
**
ロメロウォーキングはほぼ毎日行われた。
フラウは心配するが、ロメロは気にしない。
とにかく森の中を練り歩く。
斬ったモンスターは数知れず。
ロメオウォーキングを続けるロメロ。
インベントとアイナは気づいていないが、フラウだけはロメロの変化に気付いていた。
(さ、殺気がピリピリしてるっす……!)
表情も態度もさほど変化は無い。
少し口数が減ったぐらい。
だがフラウには動物的勘がある。
日に日に研ぎ澄まされていくロメロの内に秘めた殺気。
ロメロ散歩は死と隣り合わせ。
幽結界があるとはいえ、一歩間違えればロメロでも大ダメージを受ける可能性はある。
ロメロは自然と集中力が高まっていく。
そもそもロメロはかれこれ数年間、集中なんてしていない。
集中する必要が全く無いからである。
集中とは自分の力を最大限発揮するためにする行為だからだ。
ロメロが集中してしまえば全てが簡単に終わってしまう。
【太陽】のルーンを使えば、簡単になんでも殺せてしまう。
本気で剣を振えば、誰もついてこれない。
孤高の天才。
孤高過ぎて相手がいない。
だからロメロチャレンジなどという遊びをするのだ。
【太陽】は使わない。ロメロから攻めない。ロメロから動かない。
あえて自分自身に制限をかけなければ、ゲームにさえならない。
本気を出せば相手はすぐに死んでしまうのだから。
****
散歩を継続したためカイルーン周辺の地理に詳しくなったロメロ。
町周辺のモンスターが減ってきたので少し遠出する。
(あ~……なにかいる気がする。
俺にも動物的勘が宿ったか? そんなものいらないんだけどな)
これ以上才能なんて欲しくないロメロは、辟易している。
だが好奇心を抑えられず、なにかを感じる方向に進む。
そして見つける。
「ほお~。コングタイプか。珍しいな」
コングタイプモンスター。
ゴリラをベースにしたモンスターである。
ゴリラの個体数が少ないので発生数は少ないが、もれなくBランク扱いのモンスターである。
なぜなら大きいからである。
成体のゴリラは180センチ近くある。それがモンスター化することで二回り大きくなるのだ。
大きいだけでモンスターは凶悪である。
「ふ~む……ま、ちと小ぶりだな」
ロメロはスタスタとモンスターに近寄った。
威嚇の咆哮なんて気にしない。
「ほら。かかってこい」
挑発するロメロだが、逆にモンスターが警戒してしまった。
舌打ちするロメロ。
「さっさとこい――――雑魚が」
ロメロはあろうことか目を閉じた。
激昂したモンスターが大地を踏み鳴らし、ラリアットをロメロにしかける。
丸太並みの太さの腕。
一撃必殺の腕が――ロメロの手前で止まった。
「――剣が痛むからな。使わせてもらったぞ」
ロメロがそう言った後、モンスターの手首から先が落ちた。
「――残光」
続けてモンスターの腕が輪切りになって落ちていく。
ズドンズドンと六度音が響いた。
いつの間にかロメロはモンスターの腕を六分割していた。
驚くモンスター。怒りは頂点に。
ロメロは笑った。
「闘志が消えないのは良し。ハッハッハッハ」
なおも襲い掛かってくるモンスターに対し、ロメロはわかりやすく剣を構えた。
そして剣が輝きだす。
先程まではモンスターがわからないレベルで一瞬だけ【太陽】の力を使っていたロメロ。
だが今は、煌々と輝いている。
「ハハハ」
ロメロはモンスターを斬り刻む。
モンスターが徐々に小さくなり、いつの間にかその命も終わっていた。
小さな満足感と、大きな虚無感。
ロメロは何事もなかったかのように歩き出した。