モンスターに墓標はいらぬ!
ここは地獄のカサ……
ノルドがモンスターを足止めしている間に、インベントはモンスターの上空真上に。
「ふう」
跳躍用丸太を踏み、空中で静止する。
(正確に……慎重に……)
呼吸を整え、睨みつけるようにモンスターを見ている。
「よし――いこう」
盾を取り出し、真下目掛けて縮地を使う。
急速落下するインベント。
(これなら……あいつを殺せるはずだ!)
インベントはドウェイフ工房のドウェイフに、様々な武器や防具の作製を依頼している。
取り急ぎで重力グリーブを作製してもらったが、順次欲しいものを作ってもらっている。
そしてドウェイフから受け取った二つ目の武器。
いや武器と形容するにはあまりにも大雑把な物体。
それはただの鉄柱だ。
収納空間に収められるように、長さ二メートル、直径30センチのただの鉄柱。
重さは……ほぼ一トン。
もちろん人間が持てる重さでは無い。
だが収納空間であれば重さは無視できる。
ゲートにさえ入れば重さは関係ない。
ただ……インベントは一トンの鉄柱を当然持てないため、収納する際は、『収納空間ちゃん』を騙して収納する必要がある。
石などを鉄柱の下に敷くことで少し浮かせる。そして鉄柱に手を添えると持っている感じが演出される。
そうすれば『あ、持ち物なんですね~! 収納しちゃうよ!』てな感じでチョロい『収納空間ちゃん』は騙されて鉄柱を収納してくれるのだ。
まあ収納することは可能だが、収納するには多少の手間がかかる。
そして鉄柱は一本だけ。
チャンスは一度きり。
(一・撃・必・殺!!)
モンスター目掛けて真っすぐ落下し、ギリギリの地点で鉄柱を発射するインベント。
ノルドが足止めすることを信頼しているからこそ、鉄柱に集中することができる。
「いっけええええええ!」
インベントの落下するスピードに、わずかながら収納空間から発射するスピードが加わった鉄柱。
モンスターの背骨。
モンスター身体のど真ん中に鉄柱が命中した。
「やったか!?」
フラグ。
絶対に言ってはいけない言葉。
だがフラグなんて関係なかった。
ライノタイプモンスターの皮膚は恐ろしい硬さを誇る。もはや鎧と言っても過言ではない。
だが鉄柱は、進行を妨げるものが何もなかったかのように直進する。
皮膚を貫き、骨を砕き、内臓を抉り、筋肉を引き裂き、そして再度皮膚を貫いた。
そして形容しがたい破壊音が鳴り響いた。
遠くで待機していたアイナはその音の大きさに驚きずっこけた。
しかしながらライノタイプモンスターの生命力も凄まじい。
何かしらのダメージを負ったことはわかっている。だがまだ動こうとしている。反撃しようとしている。
先刻まで何一つダメージらしいダメージを負っていなかったのだ。
たった一撃喰らった程度で終わるはずがない。そうに違いない。
そう思って一歩前進する。
前足は動く。だが後ろ足が動かない。
目の前にノルドを見つけた。
殺さなくてはならない。うっとおしい小動物を殺さねばならない。
また前足を動かす。後ろ足はやはり動かない。
ノルドの驚きと哀れみが混ざったような表情を視界に収める。
なぜか視界がぼやけていく。なぜか目が潤んでいく。
モンスターはどうにか歩を進めるが、進めた分だけノルドは下がる。
数歩動いた後――モンスターのその大きな巨体を支える足は動かなくなり、自立する力も失った。
ゆっくりと大地に伏せるモンスター。
背骨が折れ、大量の血液を垂れ流している状態では、さすがにモンスターも終わりである。
ゴポゴポとインベントが空けた穴から命が流れ出していく。
大型モンスターを仕留める際。最後っ屁は気をつけねばならない。
大きければ大きいほどの生命力。完全に沈黙するまでは油断できない。
ゆっくりと大地に降り立ったクラマは、モンスターを眺めていた。
だが最後っ屁を警戒して観察しているのではない。その表情は物悲しい。
オセラシア出身のクラマと、イング王国出身のノルドたちとは根本的にモンスターに対しての考え方が違う。
イング王国では頻繁にモンスターが発生する。
そして放置すれば町の安全が脅かされる可能性がある。
結果モンスターは悪であり、可能であれば積極的に狩ってしまう。
それに比べオセラシアではそれほど頻繁にモンスターが発生しないため、モンスターを狩る習慣がそもそも無い。
モンスターが町に接近すれば威嚇したり誘導したりするのが主だ。
狩るのは最終手段である。
オセラシア自治区とイング王国のどちらでも生活をしてきたクラマには、例えモンスターであっても殺してしまうことに多少の罪悪感が残っている。
ゆえに死にゆくモンスターを悼み、手を合わせた。
だが――
「ああああー! しまったあああああ!」
悼む? それってなに? 美味しいの?
モンスターは狩って狩って狩りまくる。
そんなインベントが頭を抱えている。
クラマは大きく溜息を吐きながらインベントに近寄った。
ノルドもモンスターを多少警戒しながら近寄る。
「おおお……なんということだあ……」
インベントはこの世の終わりかのような表情で地面を見つめていた。
モンスターの血液まみれだが、ぽっかりと穴が開いている。
真っすぐにモンスターの体を貫通した鉄柱。
インベントは加減がわからないので思い切り発射した。
モンスターを貫いた際に勢いは多少衰えたものの、それでも威力は計り知れない。
地面をくり貫いて、大きな穴を作っていた。
その穴に血液がどんどん流れ込んでいく。
「ど、どうしましょう!! 鉄柱がー! 鉄柱がー!」
地面奥深くに突き刺さった鉄柱。
重さは一トン。
回収方法は……無かった。
クラマはポツリと――
「(モンスターの)墓標じゃの」
と呟いた。
****
2000年後――。
「お、おい! コールマン! ――見てくれえ!」
「ん? なんだ? チャムス?」
「地面をスキャンしたら……ここに長さ二メートルの鉄柱が埋まっているんだ!」
「ば、バカな!? 鉄柱だとお!? ほ、本当だ」
「それも見ろ! 完全に垂直に埋まっているう!」
「ば、バカな! あ、ありえない!!」
「それに……み、見てみろお! タンパク質で固めた形跡も見られるぞ!
こいつは凄い!」
「垂直に……長さ二メートルの鉄柱……!? それも地盤を固めた……!?
おいおい! チャムス! 君はもしかして!?」
「そうだよ! その通りだよ! コールマン!!
ここに文明があった確たる証拠じゃないか!
それに君ならわかるだろう?
二メートルの鉄柱を地面に差す理由なんて……」
「建築……だッッ! それも……基礎工事ッ!!」
「その通りだああ! ここにはかつて文明があったんだよ!
それも基板に二メートルの鉄柱を使えるほどの高度な文明があ!
恐らく……10階レベルの建物が建造されたはず!」
「だ、大発見だ! 世紀の大発見だよ! チャムス!!」
「うおおおー!」
『コールマンとチャムスの冒険』 ――続く
続きません。