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サイ

 サダルパークの町で一泊した翌日。

 本来の目的であるモンスター狩り――ライノタイプモンスター狩りに向かう。


 インベントはいつも通りやる気満々。

 そしてもう一人やる気満々な男が。


「さあて――行くか」


 当然のように佇んでいる男。ノルド・リンカース。


「い、いや、ノルドさんも行くんですか?」


「ククク、大物狩りだろ? だったら行くしかないだろう」


 『狂人くるいど』。

 一日働いて一日休むのが基本の森林警備隊駐屯地で、毎日毎日モンスター狩りをしていた男。

 インベントが群を抜いて変なだけで、この男も変人であることに違いないのだ。


 クラマとしてはノルドの実力を高く評価している。

 帯同してくれるならありがたいと思っている。


「とりあえずワシとインベントで先行する。

 モンスターを見かけたのは、北東方向じゃったからのう」


 ノルドは「わかりました」と応える。


「それじゃあ行こうかのう」


「はあ~い! いくよ~アイナ」


「ハア……あいよ」


 当然のようにアイナをおぶり、インベントは空を飛ぶ。


 ノルドは記憶の中のインベントの飛び方と、今の飛び方の違いを感じ、「ほう」と唸った。

 今の方がスムーズな飛び方に感じた。


 小さくなっていくインベントたちを見ながら、


「俺も行くか」


 とノルドは走り出した。その顔には少し笑みが見える。

 決して認めないが、インベントと共にモンスター狩りができることが楽しみなのだ。


**


 ライノタイプモンスターは、簡単に見つかった。

 なにせ――大きいからだ。


「うわあ! すごいすごいすごいすごいー!」


 インベント、大興奮。

 草原に横たわる、まるで岩のような存在感。


 サイはそもそも大きいものだと全長四メートル近い。

 そして体重は二トンを上回る。ただでさえ大きい動物だ。


 そんなサイがモンスター化したのだ。大きさは倍近い。

 見た目はサイのモンスターというよりも、トリケラトプスと形容したほうが近いだろう。


『やばくね? やばいよな? 無理だろ? 死ぬぞ?

 クラマさんアホだよな。頭おかしいよな? どうすんだよこんなの!』


 最近は念話ではなく、ちゃんと口に出して話すようになってきたアイナ。

 だがたまらず念話で愚痴をインベントの脳内に叩き込む。


「インベント。一旦ノルドと合流しようかのう」


「は~い」


**


「あ、あんなの無理でしょ!」


 開口一番にアイナが文句を言う。


「かっかっか、なかなか大きかったのう」


「でっかいのはロマン~」


「ど、どうするんですか? 倒せるんですか!?」


 クラマはポリポリ頭を掻きながら、「倒すのは……無理かものう」と弱気な発言をする。

 インベントは「ええ!?」っと驚いた。


「倒せんくてもええんじゃが、今いる場所が悪い。

 イング側に近すぎる。というよりもイング側に移動されるわけにはいかん」


「なるほど。であればどこかに誘導しますか?」


「そうじゃのう。幸いこの辺りには町が無い。

 イング王国側に行かぬよう、誘導してやるとしようかのう」


 消極的作戦。

 否、それが最良の作戦である。


 モンスターは寿命が短い。

 放置可能な場所に存在するのであれば放置するのが最善策である。

 平和を守ることが目的であれば、誰にも迷惑にならない場所に誘導すればいい。

 といっても誘導するだけでも本来難しいのだが、空を飛べるクラマとインベント、そして俊足のノルドがいる。

 適任者は揃っているわけだ。


 だが目的が違う男が一人いる。

 インベントは、モンスターを狩りたいのだ。


「あの~……狩っちゃだめなんですか~?」


「ダメとは言わんが……しかしのう……お前さん無茶するからのう~」


「む、無茶なんてしないです!」


 クラマ、アイナ、そしてノルド。

 皆が同じこと思った。


(無茶しないわけがない)


 ――と。


 そしてアイナとクラマはインベントに無茶させたくないと考えている。

 だがノルドは違う。

 


 ノルドは笑い出した。


「ま、いいんじゃないですか、クラマさん。

 誘導するにも、ある程度ダメージを与えて激昂させたほうが都合がいい」


「まあ……そりゃそうじゃのう。

 インベントは無理のない範囲で攻撃。そんでもって状況に応じて誘導するぞ。

 インベント。無茶するなよ。わかったな!」


 インベントは元気よく「はい!」と答えた。



 ――無茶をしないわけなどないのだけれど。


**


 ノルドは一人草原に立っていた。

 笑みが零れる。


(さあて……インベントはどれぐらい強くなったのかな。

 しっかりとお膳立てはしてやろうじゃねえか)


 ノルドは数か月間のインベントの成長も活躍も知らない。

 ロメロチャレンジをやっていたことや、アドリーに殺されかけたことや、クラマに鍛えられている事も知らない。

 興味はある。知りたいと思う心もある。


 だが直接聞くような性格ではない。

 聞きたいことを素直に聞くような、真っすぐな性格では無いのだ。


(丸太でデカイモンスターもぶっ殺してたからな。

 それなりに自信があるんだろう。あの妙な靴も気になるし)


 ノルドは草原を歩く。

 目指すはライノタイプモンスター。


(デケえなあ)



 モンスターはすぐにノルドに気付いた。

 気付くように堂々と歩いてきたのだから当然だが。


 モンスターの周囲には、モンスターはもちろん動物の気配さえ無い。

 強いモンスターであればあるほど、テリトリーが広い。


 ノルドは圧倒的なモンスターの圧力を感じると同時に、それ以外の気配がない静寂さを感じ取る。


(さあて、いくとするか)


 ノルドは左手に石を持った。

 ノルドの投石能力は非常に高い。

 なにせ石投げからの不意打ちはノルドの基本戦術の一つだから。


 だが利き手であればこそである。

 投げた石は思ったところから少しずれて飛んでいく。


(練習しねえとな。ま、今は関係ないか)


 今回は的が大きいからだ。大きすぎる的。


 石は固い壁にぶつかったかのように、コツーンと鳴り響いて地面に落ちた。


 敵対意思はそれだけで十分に伝わった。



 ――ズン。


 ライノタイプモンスターが前足で地面を蹴った。

 ノルドは世界が揺れたように感じる。


 そして走り出した。

 まるで大岩が走ってくるかのような圧力。



 ノルドはモンスターを見ながら、後ろ向きに走った。

 だがすぐに反転し、スピードを上げた。


 大きさに見合わないスピード。

 いや、大きいからこそ一歩一歩のストライドが広い。

 そしてイング王国のように森林が無いため障害物も無い。


(……誘導だけならそれほど難しくは無いな。だがそれじゃだめだ)


 ノルドは直角に曲がり、そして止まった。

 モンスターは少しスピードを落とし、ノルドをサイ特有の前後に並んだ二本の角で刺し殺そうとする。


 だがいとも簡単に、ひらりと避けるノルド。


「クックック、俺ほど囮役が適任な男はいないんだぜ?

 オセラシアのモンスターだから知らなかったか?」


 モンスターは激昂し、ノルドを殺そうと巨体を振り回す。

 だがひらりひらりと躱す。


「――それに今日はアイレドからゲストも来てくれてるんだ」


 ノルドは嗤う。

 当然モンスターは怒る。

 脆弱で矮小な生物に挑発されている。怒って当然である。


 そして怒りは視野を狭くし、思考を単純化させた。



 ノルドはクルリクルリと剣を回す。


 この世界でたった二人だけが知っている合図である。

 ノルド隊として共に戦ったインベントとロゼだけが知っている合図。



「――やっちまえ」


 次の瞬間、閃光が走った。

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