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反復練習

 ノルドとニアミスしたがモンスターに夢中で気づかないインベント。


 そもそもなぜインベントがオセラシアの領域まで来ているのか?

 その経緯は数日前に遡る。


****


「ちーとオセラシアの様子を見てくるわい」


 そう言ってクラマは飛び立っていった。

 見上げるインベントとアイナ。


「綺麗に飛んでくな~」


「そうだね~」


「そういえばクラマさんってどうやって飛んでんのかね?」


「ん?」


「インベントは飛び跳ねてる感じだけど、クラマさんってスイーって感じだろ」


「あ~そうかも」


「あれだな。【騎乗ラド】だし、風にでも乗ってるのかな」


 無表情のインベント。そして――


「ぷふ、なに言ってるのアイナ。人間が風に乗れるわけないじゃないか。

 鳥じゃないんだからさ~」


 アイナはインベントの脛を蹴った。

 インベントは「痛い!」と跳ねた。


「オマエにまともなこと言われるとムカつくな~。心の底からムカついた。

 ほれ、さっさと練習しろ。体に染み込ませるんだろ?」


「は~い」



 インベントが重力グラビティグリーブを手に入れてから20日が経過していた。

 毎日毎日練習を繰り返す。一心不乱に同じ練習を繰り返す。


 縮地で真上に飛び上がり、地面間際で跳躍用丸太バウンダーを踏む。

 反発力と落下してくるインベントの力が釣り合い、成功すれば一瞬浮いたような状態になる。


 クラマの的確なアドバイスのお陰で、正確に停止できるようになりつつある。


 地道な練習だが、クラマは徹底的に停止する練習をさせた。



 アイナはなぜ停止だけを練習させるのかクラマに尋ねたことがある。

 アイナからすれば色々総合的に練習したほうが良いのではないかと思っているからだ。


「停止ばかりやらせる理由か。ちゃんと理由はあるぞい。

 まあ、もしもアイナがインベントと同じルーンで同じように飛べるなら総合的に練習させたかもしれんがのう」


 アイナは首を傾げる。


「それってえと、インベントだから停止練習ばかりさせてるってことですか?」


「まあそうじゃな」


 インベントが何度も停止練習をしている傍らで、様子を見ながら話す二人。


「理由はいくつかあるが、インベントは反復練習が苦にならん性質じゃからのう」


「それはそうですね。ず~~っと同じことをしてても苦にならないタイプっぽいし」


「色々手を出させるよりも、なにか基礎的な一つを極めさせた方が効率が良さそうじゃったからのう。

 武術と一緒でな。基礎練習は大切なんじゃ。

 そもそも停止が基礎なのかどうかは怪しいところじゃが、ま、応用しやすい技じゃろうて」


「なるほど」


 クラマは口を曲げた。


「小僧は危ういからのう~。この前も足をボロボロにして帰ってきたじゃろ?

 足を使った移動方法は試行錯誤する段階だったのに、どうにか使えそうだったから使っちまったんじゃろう。

 無茶でもできそうだったらやっちまう。狂気じゃな」


「あ~」


「『もんぶれ』の世界の影響なのか、もともと小僧の想像力がすごいのかはわからんが、技を応用する発想力は抜群じゃ。

 ま、基礎さえちゃ~んと仕込んでおけば、大怪我することはないじゃろうて」


「そうですね」


「しっかしのう……発想力は凄いんじゃが、肉体的には凡人以下じゃからのう。

 思い描いたことに肉体が連動しないんじゃろうなあ。

 そういうところはワシと一緒じゃな」


「……クラマさんと一緒?」


「ワシは今でこそ強いけどのう。天才タイプではないんじゃ。

 目はよかったが、身体も小さいし物覚えも悪かった。

 人の倍練習して、やっと同じ土俵に立てるタイプなんじゃよ」


「……へえ」


 クラマはアイナをみて微笑んだ。


「おまえさんも含めてな、天才ってのはいつの時代もおるもんじゃ。

 大した努力をせんでも人の上に立てるやつ。

 まあ、大抵は怠けて、停滞していくがのう」


 アイナは「ほ、ほう」と言う。

 ポンコツガールとしてサボっていたアイナとしては耳が痛い話なのだ。


「恐らく……インベントは天才とは真逆の存在じゃ」


「というと……努力マン的な?」


「天才の逆が努力かどうかはわからんが、小僧は努力を惜しまぬ。

 それは努力の才能があるからなんかじゃなく、熱意が凄まじいからじゃろう」


「あ~……」


 インベントの話を聞き続けた二人だからこそ理解できる共通認識。


 インベントは努力家なのではない。

 『モンスター』を狩るために必要だから努力しているのだ。


 もしもこの世界にモンスターがいなくなってしまったら、インベントは抜け殻のようになってしまうだろう。

 インベントはまだ見ぬ強力なモンスターを狩るためだけに努力をしているのだ。



 ふとアイナは考える。


(インベントはもっと強くなって、ヤバイやつになっちまうだろうな。

 もっと強くなっちまったら……アタシは……邪魔になるのかな)


 アイナはどう頑張っても空を飛ぶことはできない。

 奇妙な縁で一緒にいるが、いつかインベントの邪魔になるのかもしれないなと思う。


(そん時は……どうするかねえ)



 クラマも考える。


(ワシの予想が正しければ……おそらく停止だけを極めさせれば飛躍的に小僧は強くなる。

 小僧の本当に恐ろしいところは、収納空間を扱う技術や努力する才能ではない。

 ()()()()()()()()ことじゃ)


 クラマはインベントが嬉々として練習を続ける様子を見つめつつ――


(デリータとの模擬戦。ありゃあ凄まじかった。

 何が凄いって、練習以上の能力を発揮したことじゃ)


 インベントは本番に強い。

 正確に言えば、モンスター相手かインベントが人型モンスターと判定した相手の場合、本来以上の力を発揮する。


 多くの人は、練習以上の力を本番では発揮できない。

 本番は緊張することもあるし、身体が縮こまることもある。相手が予想外の行動をとってくるかもしれない。

 練習の八割の実力を出せれば御の字だろう。


 だがインベントは本番――つまり『ぶっころスイッチ』が入れば、本来以上の力を発揮できる。

 集中力は増し、判断力もアップし、『目の前の相手を殺す』ための最良の手を思いつく。

 躊躇が無くなるのは、相手に対してだけではなく、自分の肉体の損傷も厭わない。



 インベントはどうせ無茶をする。クラマが言ってやめるとは到底思えなかった。

 だからこそクラマは基礎を徹底的に身体に覚えさせているのだ。

 無茶を止めれないのであれば、無茶しても問題ない技術を覚えさせようとしている。


(恐らく……停止する動きさえマスターさせれば……。

 後は実戦じゃ。それで完成するじゃろうて)




****


 さて――


 クラマがオセラシアの様子を見に行ってから四日後。

 インベントはひたすら修業を続けているところにクラマが戻ってきた。


「よっ」


「あ、おかえりなさい」


「うん、ただいま」


 ちょっとよそよそしいクラマ。

 アイナが「どうしたんすか?」と尋ねる。


「ん~……ちいと困ったことがあってのう」


「困ったこと?」


 クラマは「へへへ」と小悪党のように笑う。

 ロメロに金をせびった時と同じ顔である。



「ちいと、オセラシアまで来てくれんかな?」



 オセラシア編――スタート??

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