あしたのために
新装備、重力グリーブをゲットしたインベント。
しかしながら想像以上に扱い難いじゃじゃ馬だと気付いた。
理想は重力グリーブを履いたまま、思い通りに動き回ることであるが現実には程遠い。
現状、真上に飛ぶのでさえ思い通りにいかない。
なにせ収納空間から発生する反発力は、『収納空間ちゃん』からすればイレギュラーである。
反発力は、「私の中に入ってこないで!!」と弾き出そうとする力である。
『高速移動用の便利な力』では無いのだ。よって扱いが難しい。
縮地は正確な三メートル先に高速移動する技だ。
ノルドから『反発移動を使い、狙った三メートル先に移動』というお題を与えられ、習得した技である。
二週間、反発力を制御しやすい盾を使い、何度も何度も失敗を繰り返した。
そしてようやく手に入れた技なのだ。
縮地は収納空間内の砂がある空間に盾を無理やり収納することによって発生する反発力を使う。
それに対しインベントがやろうとしているのは、砂空間に無理やり収納しようとするまでは同じ。
だが盾でなく足で踏んだ跳躍用丸太を押しこむことで発生する反発力を使う。
縮地との大きな違いは、手を使うか足を使うかという点だ。
手に比べ、足は不器用である。
反発力は多少のずれで方向や威力が変わってしまう。
同じ力の再現をすることが足ではそもそも難しいのだ。
発案者であるクラマは、インベントが腕を酷使している点を考慮し、軽い気持ちで『足を使えばよくね?』と提案した。
だがこれほど難しいとは思っていなかった。
いとも簡単にビュンビュン動いているのだから足でもできるのではないかと想定していた。
【器】の――『収納空間ちゃん』の気難しさは当の本人、インベント以外はわからないのだ。
何度も失敗し吹き飛んでいくインベントを見て、何度も止めようと――中止しようと言いかけた。
だがインベントは夢中になって練習している。
目が完全にイってしまっている時もある。
インベントは跳躍用丸太を使った移動方法を習得した先の未来を思い描いていたのだ。
絶対に習得するという強い意志を持っているインベントに、クラマは水を差すことはできなかった。
何度も失敗し体中がアザだらけになっても練習を続けるインベント。
クラマはずーっと見ていた。そして――
「おいインベントや」
「はい?」
「まずはピッタリ止まる練習をしたほうがええぞ」
「え?」
アドバイス。
インベントは生まれてこの方戦い方に関してアドバイスをもらった経験がほとんどない。
ノルドから教わったことはあるが、それも理解が難しい収納空間を使った技術に関してのアドバイスは皆無と言っていい。
「毎度毎度、見事に同じ高さに飛んでおる。
つまりインベントが落ちてくる力はいつも一定なんじゃ。わかるか?」
クラマは拳をインベントに見立てて説明する。
縮地を使った飛翔は毎度、寸分違わず同じ高さまでインベントを宙に浮かせていた。
インベントは「はい」と応える。
「一定の力に対し、ぴったりと止まる力を習得すれば、それが基準になるじゃろうて。
後、着地の姿勢が危ないわい。そんなに体を真っすぐにすれば関節に負担がかかるぞい」
「で、でも体を曲げると力が逃げちゃうし……」
クラマは指を振り「ちっちっち」と言う。
「甘いのうインベントちゃん。
体の曲げる部分を決めておけばええんじゃ。
股関節なのか膝なのか足首なのか。
力を伝えるために固定する箇所と、身体への負担を減らすための箇所を意識するだけでも全然違うぞ」
「な、なるほどお」
これまでインベントは一人で修業をしてきた。
隣にアイナがいたこともあるが、基本的にアドバイスは無い。
【器】を使う特殊な少年に的確にアドバイスをできる人がいなかったのだ。
だが今はクラマがいる。
インベントのことを知り、インベントの戦い方や思考にも理解があるクラマがいる。
そしてクラマほど身体操作に優れた男はいない。
そしてアイナがいる。
「おいー! やりすぎだぞー! 休め休めー!」
アイナがロメロとフラウを連れて森から帰ってきた。
実はインベントは修業の真っ最中だが、インベントを除くアイナ隊はしっかりとモンスター退治をしているのだ。
やる気ゼロだったロメロも、デリータと会ってから多少やる気を出している。
「あ、アイナ」
「どうせ一日中やってたんだろー。休め休め~」
「も、もう一回だけ」
「しゃ~ねえな~。最後だぞ~」
日に日にインベントのお母さんかお姉さんのようなポジションになっていくアイナ。
アイナはずっと『かったる~いガール』だったが、元々は面倒見のよい性格である。
毎日、暴走機関車状態のインベントを、かろうじて制御しているのだ。
インベントはモンスター以外に興味が無い。
だが最近、誰かに支えられていることの心地よさを感じている。
例えるならインベントがボクサーだとすれば、敏腕トレーナーのクラマ。
そしてロリっ子プリティマネージャーのアイナ。
「むふふ」
インベントはふと、モンブレの中で瀕死のベントさんに対し仲間が『立て! 立つんだ! ベントー!!』と叫んでいるシーンを思い出した。
そして意図せず笑みが零れた。
「なんだ~? 気持ち悪い~な」
「え? なにが?」
「いや……ニヤニヤしてるからさ」
「え? ニヤニヤなんてしてないよ」
「い、いや……まあいいけどさ。
ほれ、さっさとやって町へ帰るぞ。腹減ったよ。
あ~かったる~い」
「は~い」
インベントは縮地を使い、宙に舞う。
みんなインベントを見上げている。
そのまま自由落下するインベント、足元には跳躍用丸太がある。
重力グリーブを装着した足で踏んだ。
「お?」
落下する力と跳躍用丸太からの反発する力が均衡した。
インベントは瞬間、浮遊しているような状態になった。
そして重力グリーブを履いているとは思えないぐらい優しく地面に着地した。
「お? お? ど、どうですか? 今の? クラマさん!?」
「ふふん。いい感じじゃな」
「も、も、もう一回やってみます!」
アイナが「おい~、飯~」とぼやいているが気にしない。
その後20回以上練習を繰り返し、最後はアイナに念話で『帰れ』を連呼されて修業は終わった。
なにはともあれインベントの修業は順調に進む。
その修業の成果は――あの人の前で披露されることになるのだ。
『あしたのために』は、あしたのジョーで丹下さんが少年院のジョーに向けて送ったアドバイスです。
以下、原文です。
あしたのために(その1)
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