職権乱用ハーレム部隊①
インベントの配属されたオイルマン部隊は一旦活動休止となった。
何せ、ケルバブが死亡し、ラホイルは戦線離脱。
新人のインベントを除けば、活動できるのが三名しかいない状態だからだ。
さてインベントはというと――
(入隊早々休暇を貰ってしまった。
モンスターを狩りたいんだけどなあ……)
インベントは休暇など不要だった。
とは言え、新人を編成した初日に部隊が活動休止になるのは前代未聞であり、新しい配属先もすぐには決まらない状況である。
レノアに「ラホイルのお見舞いでも行ってあげなさい」と言われたので、ラホイルのお見舞いに行くことにした。
「お邪魔するよ」
「……ああ、インベントやん」
ラホイルは元気無く応えた。
(大怪我だったから……落ち込んでいるのかな?)
「顔色は良いみたいだね」
「そうか? まあ……ボチボチやな」
「そっかそっか」
インベントはラホイルのことをお喋りなお調子者だと思っている。
(まあ出会ってその日に怪我してしまったので、よく知らないんだけどさ)
見舞い品を渡し、雑談を少ししたがすぐに話題が尽きた。
ラホイルが率先して話そうとしないため、話が中々続かない。
どうしようか困っていると――
「……俺、長男やねん」
「そうだったね。俺もだよ」
「前にも言ったけど、家、貧乏やからさ~、俺が稼がないとあかんねん」
「そっか。大変だね」
「……初日からこんなことになってしもて……困ったもんや。
次の仕事……探さへんと……なあ」
虚しく笑うラホイルに対し――
「あれ? 警備隊辞めちゃうの?」
「そ、そりゃ……」
「も、もしかして足がかなり悪い??」
「……そんなことあらへん。ちゃんと……ちゃんと動くで」
「それだったらいいじゃないか」
ラホイルは口をパクパクさせている。
インベントからすれば、足が接合が成功し、支障なく動くのであればまたモンスターを狩りにいけると思っている。
ラホイルとしては、あんなショッキングなことが起きたのだから辞めたいと思っている。
心配してほしい、慰めてほしいと心のどこかで思うラホイルに対して、インベントは『足がくっついたしモンスターを狩れるようになって良かったね』としか思っていないのだ。
同情なんて感情はインベントには無かった。
「はああああぁ~~~……せやな。なんやろな、お前といると調子狂うわ。
おセンチモードやったのになあ! もう!」
「ははは、元気なほうがラホイルらしいさ」
「ああー! うるさいわい! もう元気いっぱいや! すぐにでも復帰したるで~!」
インベントは、ラホイルは元気そうで何よりと思い家路についた。
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「それじゃあ行ってくる」
「ああ……いってらっしゃい」
インベントの父、ロイドは元気なくインベントを見送った。
インベントがいきなりの五日間の休暇を貰い、このまま森林警備隊を辞めるんじゃないかと期待していたが、何事も無かったかのように仕事が再開すると知り、内心がっくりしていたのだ。
(なんで……! どうして、森林警備隊の試験に落ちなかったんだ……我が子よ……)
その後――ロイドは妻にコッテリ絞られたのだ。
**
インベントは休暇を体力アップに費やした。
体力アップは当面の課題だ。
まあこればかりは一朝一夕で身につくものではないので、地道にやろうと決めていた。
また休暇中に武器倉庫に行ってみることにした。
武器倉庫は森林警備隊であれば誰でも使える場所だ。
(うひょ~凄いなこりゃあ!)
所狭しと並ぶ武器を眺めつつインベントはうっとりした。
(まあ収納空間に収まる武器じゃないと意味無いけどね)
インベントは剣と槍と小型の盾、そして大量のナイフを貰うことにした。
受付のお姉さんには「転売したら厳罰ですよ?」と言われたが――
「全部使いますよ~」とその場で収納空間に収めた。
(ナイフ投げも覚えたいな~。いつでも使えそうだし)
ナイフ投げの練習も始めたが、中々酷いレベルだ。
筋力が足りず、経験も無い。
(……地道にやるしかないな)
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そんなこんなで休暇が終わり、準備万端のインベント。
収納空間の中は万全の状態だ。
インベントは今日をとても楽しみにしていた。
何故なら、今日は総隊長であるバンカースの隊で任務をすることが決まっているからだ。
「おう、来たか」
総隊長室に呼ばれたインベントは、バンカースに招かれて部屋に入った。
「今日はよろしくお願いします」
「ああ。俺が直々に森林警備隊のいろはを教えてやるからな」
「はい!」
「ま、下で待ってろ」
「わかりました!」
嬉々として出ていくインベント。
それに対しバンカースの隣にいるメイヤース副隊長は冷たい目をしていた。
「メイヤース……。眉間の皺残るぞ」
「余計なお世話です」
「ハア」
メイヤースはバンカースが隊を率いること自体反対なのだ。
そもそも総隊長は小隊を率いたりしない。
バンカース隊が組織されるのは異例中の異例なのだ。
「ま、今日一日だけだからよ」
「当然です」
**
今回のパーティーは隊長にバンカース、メンバーにフェルネ、ノイシン、ルシアンの四名。
それにインベントが同行する流れになった。
フェルネは、入隊試験の際に受付を行っていた女性である。
ノイシンとルシアンは共に森林警備隊二年目の女性だ。インベントの一年先輩である。
全員が集まった後、バンカースが一言……言おうと思った時――
「ハーレムパーティーを作りたかったんですね~隊長~」
とからかうフェルネに対し――
「ば、馬鹿野郎! なりゆきだなりゆき!」
「え~ほんとかしら~?」
二人の距離感は近い。フェルネとバンカースは十年来の付き合いだからだ。
「う~し、今回の目的を言うぞー!
今回は駐屯地の状況調査と、新人たちの研修が目的だ!
俺がリーダーで、フェルネがサブリーダーだ。ノイシンとルシアンはフォローを頼む!
インベントに関しては……何ができるかわからんから状況に応じてってところだな!」
(なんか俺だけ微妙なポジションな気がするけど……まあいいか)
「んん~? ねえ隊長」
「なんだフェルネ?」
「インベント君はアタッカーなの? それともディフェンダー? それともサポート??」
「それは……未定だ!」
「……ん~? 未定~?」
「まだ未定! いいの! 総隊長命令!」
フェルネは「ふ~ん」と言い納得した。
だがノイシンとルシアンが動揺している。
よくわからない急ごしらえな部隊で、更にインベントという不確定要素。
「安心しろ。インベントがいなくても大丈夫な布陣だ。
知ってたか~? これでも俺、アイレド森林警備隊の総隊長なんだぜ?」
バンカースは朗らかに笑った。
フェルネが「はーれむ狙いだ~」と茶化し、微妙な空気になりつつも作戦が始まった。




