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黒い主人公

 クラマの口から「アドリー」の名前を聞き、デリータの表情が歪む。


「ジジイ。つまりインベントは幽結界かくりけっかいを使える奴じゃないと本気になれないってことか?」


「多分な」


「おいおい。幽結界かくりけっかいを使えるようになる……ジジイが言う『門』を開いたやつなんてほとんどいないだろうが。

 俺とデリータとジジイ。あとはまあクリエさんか。

 まあ、インベントはモンスター狩れれば満足だろうしそれでもいいのかもしれねえな」


 ロメロは笑うが、デリータがロメロの発言を制止した。


「クラマ様」


「なんじゃ?」


「なぜアドリーとやらが、『門』を開いていると判断されたんですか?」


「色々理由はあるが……一番大きいのは実際にワシが見たからじゃ」


「何を?」


「アドリーとインベントが戦った場所じゃ。

 インベントが負傷しとったからのう。じっくりと見る時間は無かったがな。

 ネズミを閉じ込める檻は木々だけでつくられとった。

 あんなことができるのは【ベオーク】のルーンで間違いないじゃろう。

 じゃが普通の【ベオーク】使いには無理じゃ。ネフィリアちゃんも無理じゃ言うとったしの」


 ネフィリア・フィルディナント。

 『宵蛇よいばみ』の一員であり、二つ名は『碧天狗へきてんぐ』。

 【ベオーク】と【ユル】のルーンを持つ。


 ネフィリアも木々を操ることは可能だ。

 だが操れる範囲は局所的であり、アドリーがやったような檻をつくることや木の枝を伸ばして刺し殺すことはできない。

 アドリーとはできるレベルが違い過ぎるのだ。


「つまり……アドリーは私やロメロのようにルーンが強化された人間だと?」


「おそらくのう。まあ天才的な【ベオーク】使いの線も捨てきれんかったがな。

 じゃがな、『門』を開いた人間だと仮定すれば、つじつまが合う」


 クラマは「インベントからアドリーとの戦いについてじい~~~っくり聞いたんじゃが――」と言い。

 ロメロは地獄のヒアリングを思い出しオエッとなる。


「インベント、アドリーを躊躇なく殺そうとしたようじゃ。

 さっきのデリータとの模擬戦のようにな。

 そんでもって致命傷となるような攻撃を少なくとも二度成功しておる。じゃが二度とも幽壁に阻まれたらしい。

 幽力の多さは『門』を開くと増えるからのう」


「ふむ……」


「そんでもって年齢」


「年齢ですか?」


「見た目は12、3の少女に見えた。じゃがインベントは『38歳』だと本人から聞いたらしい。

 『門』に関して全部わかっておるわけではないが、『門』を開いた瞬間から見た目年齢が止まるのはワシら……いや特に――」


 デリータは「クリエ姉さんを見ればわかりますね」と言う。


「その通りじゃ。恐らくクリエ同様、幼少期の段階で『門』を開いたんじゃろうて」


 沈黙。

 話し終えたクラマは黙る。

 デリータは軽く頭を振りながら、目を閉じて頭を整理する。


 そして――


「厄介な……とても厄介な話ですね」


「ああ。その通りじゃ。

 ただでさえよくわからん敵なのに、『門』を開いた奴がおる」


「それも……アドリー以外にも少なくとも一人。

 薄々感じていましたが、恐らく私と同じように……【フェオ】の『門』を開いた奴がいますね」


「じゃろうな。でなければこれほど尻尾を掴めんわけがないからのう」



 【フェオ】のルーン。


 動物の考えが多少理解でき、風向きが読めるようになるルーンである。

 だが人によって個人差が大きいルーンであり、第六感が働くルーンだともいわれている。

 ポピュラーなルーンであり、主に農耕や牧畜関連の仕事に向いているルーンである。


 デリータは【フェオ】と【アンスール】のルーンだった。

 とあるキッカケでクラマが言うところの『門』が開き、【フェオ】のルーンが強化された。


 その結果、デリータは良い方角や悪い方角を風で感じ取れるようになったのだ。

 風水でいうところの『方位』が正確にわかるように。

 クラマはデリータの能力と人間性を認め、『宵蛇よいばみ』の隊長を任せることにしたのだ。


 デリータが悪い風を感じる方角に向かえば、悪事や事件を防ぐことができる。

 薬物、殺人、密猟などの人為的な悪事や、大型モンスターの発生などだ。

 予知能力に近い。

 替えの利かない能力を持つデリータは『宵蛇よいばみ』において別格の存在なのだ。



 そんなデリータは数年前からイングとオセラシアの国境沿いで不穏な風を感じていた。

 だが、どうしても尻尾は掴めない。

 デリータが近寄れば、不穏な風は去って行ってしまう。


 こんなことはデリータの人生で一度も無かった。

 確かに風を感じているのに捕まえられない。本当の風のような敵。

 捉えることのできない敵、存在さえあやふやな敵。


 そんな敵の尻尾をなぜか掴んでしまった男がいる。



「ぎゃあ! 太ももがつった! うぎいー!」


 慣れないエアリアルスタイルを使い、足を自ら負傷した男、インベント。


 デリータは横目でインベントを見る。


(空を飛べて、ロメロとやりあえるほどの戦闘力を持つ少年。インベント。

 『宵蛇よいばみ』に欲しい気もするが……)


 デリータはインベントから感じる風を【フェオ】で読み取る。

 その風は黒い。


(風が黒いからと言って……悪ではない。クラマ様と色は近いし……。

 だけど……『宵蛇よいばみ』の……俺の率いる『宵蛇よいばみ』の色とは合わない)


 デリータが感じている『宵蛇よいばみ』の色は白である。


 隊員ごとに異なる色ではあるものの、混ざり合った先には白くなっていく。

 まるで様々な色の光が混ざっていった先に、純白の光になっていくようにな感覚。


(相容れない。

 白と黒は混ざらない)


 穏やかな顔のデリータだが、瞳の中は冷徹だ。

 デリータの中でインベントは、善にも悪にも転ぶような危うさを感じていた。

 そもそもインベントにとって善悪などという判断基準が希薄なのだ。

 モンスターを狩れるかどうか。その一点だけが鮮明なのだ。


 クラマはデリータの心中を察した。


「ま……インベントに関してはワシが預かるから安心せい。

 といっても……アイツを手懐けられるとは思えんがな」


 デリータは冷徹な瞳からいつもの瞳に戻っていく。


「ははは、そうですか」


「というかそろそろ、ロメロを『宵蛇よいばみ』に戻したらどうじゃ? コイツ暇しとるぞ」


「お、おい! ジジイ! バラすな!」


 デリータは溜息を吐いた。


「おいロメロ。『陽剣』を遊ばせておくわけにはいかないぞ」


「いやいや……遊んでるわけじゃないさ」


「そうか? いつものような自信を感じないぞ?」


「ぐ……いいんだよ!

 あと少しだけ! あと少し……そんな気がするの!」


 クラマとデリータは駄々っ子を見るような目でロメロを見た。


「まあいいさ。これまでの働きからすれば長期休暇だと思うことにしよう」


 クラマは「なっがい休暇じゃのう~」と笑う。


「うるせえジジイ! ぶっ殺すぞ!

 それに俺だって――は、働いているぞ!」


「ウソつけ。この前昼間から寝とったじゃねえか」


「う、うるせえ! 俺は帰るからな!」


 そう言ってロメロは帰ってしまった。


「相変わらず勝手でアホな男じゃな」


「まあ……それが許されるだけの力がありますからね」


「ま、お前とロメロがいれば『宵蛇よいばみ』は安泰じゃのう。そろそろ帰るとするか」


「そうですね。私も『宵蛇よいばみ』に戻ります。

 ほら、ホムラも帰るぞ」


「はあ~い! またね! じいちゃん~」


 ホムラちゃんは途中から話についていけず、愛想笑いをしていた。


「うむ。またの~ホムラちゃんや」



 こうして豪華メンバーの集まりは終わった。

 なぜか負傷して戻ったインベントは、アイナにきつ~く絞られましたとさ。

そろそろ『★諸々資料集(その2)』を近日中に公開しようと思います('Д')

色々と明らかになってきましたし。


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― 新着の感想 ―
[一言] 黒は「謎」とか「未知」か?それとの「執念」の色なのだろうか...
[一言] ということは、インベントにも先があると。 ワクワクするな。
[一言] 門を開いていいのは、うたれる覚悟のあるガイ先生だけだ!!
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