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ぶっころスイッチの解

 上空から急降下するインベント。

 狙いはデリータの首だ。完全にる気満々である。


(な!?)


 だがインベントは空中で急停止し、デリータから距離をとった。

 デリータとインベントの間に、ナイフがあったのだ。

 予想外の障害物にインベントは面食らった。


 デリータはナイフをキャッチし、鞘に納めた。

 そして「ふう」と一息ついた。


(おっかしいなあ~。幽結界かくりけっかいの外から攻めたつもりだったんだけどなあ。

 もしかしてロメロさんの幽結界かくりけっかいより範囲が広いのかな~?

 というか……いつナイフを投げたんだろう? 全く気配が無かったな~……ヒヒヒ)


 目に見えた強さは無いが、得体の知れない感じがするデリータ。

 インベントのテンションは上がる。


 デリータは掌の汗を拭った。


(まずいな。どんどんドス黒さが増している……。

 ホムラと模擬戦したときの動きとまるで違うな。

 本気を出していなかったのか?  いや、そんな感じはなかったが)


 デリータは、インベントの背後に纏わりつくような黒いモヤが見えていた。

 モヤは次第に大きく濃くなっていく。



 そこからはデリータは防戦一方だった。

 というよりもデリータは模擬戦が始まってから一度も攻めていない。

 ひたすら守り、躱し、受け流している。


 インベントは躍起になって攻め立てるが、デリータはことごとく防ぐ。

 死角から攻めても、まるで360度全方位を見ているかのように対応される。



 そんな様子を見てホムラは困惑していた。

 インベントの動きが、先程の自身とやった模擬戦の際の動きと全く違うからだ。



 クラマはじっくりと眺めている。

 そこへロメロが近寄った。


「さすがデリータといったところか。ジジイ」


「フン。これぐらいやってもらわんと困るわい。

 ワシが『宵蛇よいばみ』を引退したのはデリータと――」


 クラマは「デリータとロメロ」と言おうとしたが止めた。


「ゴホン! デリータがいればこそじゃからな」


「ふん。しかし……インベントの動きが変わったな。

 足を使うようになった……ハハハ、足を使うのは当たり前なんだけどな」


「まだ開発中の技じゃ。小僧は腕を酷使しすぎじゃったからのう。

 『足でも飛べぬのか?』と尋ねたら、嬉しそうに練習し始めたわい」


「くふふ、脚力以外で高速移動するなんて、やっぱりジジイとインベントは似ているな」


「ワシの飛行は、結局のところ足でアレ(・・)に乗っておるからな。

 インベントのほうがよっぽど変じゃよ」


 ロメロは「ふ~ん」と言いながらインベントの動きを観察する。


「――何か台のようなモノを踏んでいるのか?」


「……よく見えたな」


「ま、ジジイほどじゃないが目は悪くないんでね」


「丸太じゃよ」


「ん?」


「丸太を踏みつけておるんじゃ。

 正確に言うと、足元に丸太を出して、それを踏みつけている……いや違う違う。

 え~~っとな足元の丸太を収納空間に押し戻そうとするときに発生する反発力を利用しとるらしい。

 よくわからんが……『足だと収納判定が出ないから、丸太を間に噛ませないとダメ』……じゃそうな」


「ふ~ん。よくわからん。が……まあ面白く成長してるじゃないか」


「あれは未完成じゃよ。その証拠に――」


 クラマはインベントの足を指差した。

 インベントの靴には黒いシミが。


「丸太を思いっきり踏み続けて、足の皮でもめくれとるんじゃろうて。

 相変わらず……あのアホは自虐的すぎるわい」


「くくく、だったらそろそろ止めたほうがいいと思うぞ」


「それもそうじゃな」


 クラマは「止めい!」と叫ぶ。

 クラマの声に反応しインベントは――――止まらない。

 戦い続けるインベント。


「あれえ?」


「あっはっはっはっは! 号令なんかでインベントは止まらねえよジジイ」


「な、なんじゃと!?」


「インベントがマジになっちまったら、一発ぶん殴りでもしねえと終わらねえよ。

 このままじゃやばいぞ。デリータは()()でインベントの攻撃避けてるけど、体力が保たないぜ?」


 デリータは肩で息をしている。疲労の色は隠せない。


「ば、バカモン! それをさっさと言えい!」


 暴れるインベントをどうにか取り押さえ、模擬戦二連戦は幕を閉じた。


**


「痛てて~」


 正気に戻ったインベントは足の痛みでへたりこんだ。


「バカタレ」


 クラマはインベントの靴を強引に脱がした。

 痛がるインベントだが無視して手当と話を続ける。


「無理やり足を使ったせいで、衝撃を全部足で受け止めとる。

 全身をしっかり使わねば今度は足を痛めるぞ」


「痛~いたたたた!」


 慣れた手つきで応急処置をするクラマ。


ももの裏も肉離れしそうになっとるのう……しっかり伸ばしとけ」


「は、はあ~い」


 クラマは溜息を吐いた。


「しかしまあ……悪くない動きではあった。

 しっかり使いこなせるようにならんとな」


「えへへ~」



 一方――


「ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……」


 デリータは疲れていた。


「ハッハッハ、どうしたデリータ」


「ははは……これは……しんどいな。ロメロはこんなことをずっとしてたのか」


「ま、最近はジジイに邪魔されてあまり遊べていないがな」


「ハア……模擬戦なんて……心から……するんじゃなかったと思うよ」


 うなだれるデリータ。

 そこにクラマとホムラがやってきた。


「おつかれさん、デリータよ」


「クラマ様」


「かっかっか。大分鈍っておったようじゃのう」


「いやいや……私は元々戦う人間じゃあないですからね」


「ま、それもそうじゃのう」


 クラマはインベントをチラと見て――


「あの小僧に話すかどうかは判断に困るからのう。

 一旦、お前たちだけに話すことにしようかのう。

 といってもデリータはある程度気付いておるんじゃないのか?」


「いやあどうでしょうか。私はインベント君のことをよく知りませんし」


「まあええ。

 まずホムラとデリータに模擬戦をやらせてハッキリしたことがある。

 インベントはホムラと戦うときとデリータと戦うときで動きが全く違った」


「じ、じいちゃん! わたしも気になってたんだ!

 ねえ、なんで!? わたしあの子に手を抜かれていたの!?」


 会話にインベントが参加していないので、ホムラは『宵蛇よいばみ』隊長の仮面を脱ぎ捨て『ホムラちゃん』になった。


「そういうわけではないんじゃよ、ホムラちゃん。

 インベントは特殊でのう。対人戦では基本的には本気を出せん。

 恐らくインベントはモンスター相手でないと本気になれんのじゃ。

 だからホムラちゃん相手では本気になれんかった」


「で、でも! デリータさんには!」


「そうじゃ。その通り。そこなんじゃ」


 デリータは「なるほど」と声を出した。


「デリータと模擬戦をさせたことでハッキリしたわい。

 ホムラちゃんとデリータは戦闘力で言えば遜色ないじゃろう。

 じゃがデリータにだけは本気をだした。

 そしてワシの知る限りインベントが本気を出した人間は四人だけじゃ」


 デリータは「はて? 四人?」と首を傾げる。


「その四人の内三人は、ロメロ、ワシ、そしてデリータ。

 門を開き、幽結界かくりけっかいに目覚めた人間じゃ」


 クラマは一呼吸置いた。



「そしてもう一人――アドリーと名乗った少女」

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― 新着の感想 ―
[一言] 門? 能力の次の段階か、生物としての段階かな。
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