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覆面パトロメロン

「金……だあ?」


 まさかクラマに金をせびられると思わず、顔を顰めるロメロ。

 クラマは悪びれず「うん」と言う。


「ジジイ、金持ってるだろうが」


「まあ……そりゃそうなんじゃけど。

 オセラシアだったら金も権力もある。そうなんじゃけどイング側だと……お金無いんじゃ」


「あ~……そりゃあそうか」


 クラマが『宵蛇よいばみ』のリーダーだったのは20年近く前である。

 リーダーを辞めた際に、所持していた金銭は全て『宵蛇よいばみ』に、つまりイング王国に返還している。

 ロメロはその経緯を知っているのでクラマがお金を持っていないことを納得した。


「だが……金を何に使うんだ?」


「インベントの装備品」


「装備品――だと?」


「そうじゃ。インベントを強くするには専用装備が必要じゃ。

 まず重さをコントロールするためには、脱着可能だが重量のある装備を作らねばならん」


「う、う~ん。まあそれぐらいならいいか」


「それだけでは無いぞ。あの小僧、色々と独創的な武器を考えておる。

 これまでは警備隊の倉庫にある武器を使っておったんじゃろうが、小僧の力を引き出すには専用武器が必要じゃ」


「ほ~う」


「ちなみにカイルーンに急いで戻ってきた理由も、アイナに優秀な鍛冶屋が知り合いにおるからじゃ。

 フラウちゃんのその斧と槍が合体したような武器もその鍛冶屋が作ったそうじゃのう」


 クラマはフラウが持つハルバードを指差した。

 フラウはハルバードを抱えニコニコ笑う。


「ふ~~~~ん。まあいいか。

 インベントが強くなるなら別に金なんていくらかかっても構わん」


「よし! それじゃあ明日、その鍛冶屋に行くぞい」



 ちなみにロメロはお金持ちである。

 なにせ『宵蛇よいばみ』の副隊長であり『陽剣』である。

 替えの利かない人材であり、それに見合った給金は支払われている。

 だがロメロは金に執着がない。


 インベントのパトロンとして、これほど最適な人物はいないのだ。


****


 翌朝ドウェイフ工房にやってきた。

 インベントとアイナにフラウ。そして覆面男が二人。

 怪しい五人パーティーである。


「邪魔するぜ~」


「ん? おおおー! アイナじゃないか! それにフラウちゃんも!」


「うい~っす」


「どうもっす」


 ドウェイフ工房の主人、ドウェイフ。

 アイナとは付き合いが長いし、フラウとはハルバードを制作した際に仲良くなった。大歓迎。

 インベントのことは知らないが、アイナの仲間か友達なんであろうと想像できた。まあ歓迎。


 さて――


(……なんだ? 小さい覆面と大きい覆面?)


 素性を知られたくないクラマとロメロは覆面のまま入店している。

 アイナがいなければ入店拒否したくなる二人だ。


 怪訝な顔をするドウェイフに対し、アイナは「ま、この二人は気にしないで」とフォローする。


「いや……まあいいんだけどさ。今日はどうしたんだい?

 またハルバードでも欲しくなったのかい?」


「いや、今日はこの子なんだよ」


 アイナはインベントを指差した。


「この子の武器と防具が欲しい」


「そりゃあお安い御用だ」


「いやお安い御用じゃないんだ、おっちゃん」


「ンあ? どういうこった?」


「こいつ専用の武器と防具を作りたい」


「専用~?? この坊主のか??」


 ドウェイフが疑問に思うのも無理はない。

 インベントはいたって普通の少年に見えるからだ。

 専用の武器も防具も必要に思えなかった。


「う~ん……別に頼まれればやるが……出来合い品でもいいんじゃねえのか?」


「ダメなんだよ。こいつこだわりが凄くってさ~」


「う~ん……まあいいがどんな武器と防具が欲しいんだ? 坊主」


 インベントは微笑んだ。


「えっとねえ――」



 インベントはそこから欲しいものを話しまくる。


 まず伝えたのは胸部用の鎧。

 先日アドリーに刺殺されかけたので、防御力が高いが腕の動きに干渉しない鎧。

 インベントにしてはまともなオーダー。


 それ以降はドウェイフはほとんど理解できないオーダーが続く。

 モンスターを踏みつけるための足用防具。

 脱着可能な重量級の小手。

 そして理解し難い武器。


 ドウェイフは混乱し、何度も何度もアイナとクラマが注釈をつけた。

 インベントが妄想全開で話した内容をクラマとアイナがどうにか現実的なラインに落とし込む。

 三人の共同作業でどうにかドウェイフにオーダーを伝える。


 だが一時間経過したとき、ドウェイフがキレた。


「だああーー!! わけわかんねええ!!」


 ドウェイフがキレるのも無理はない。

 インベントが求める装備は、見たことも聞いたこともない装備だからだ。

 傍で聞いているロメロとフラウもチンプンカンプンだ。


 『モンブレ』の世界を知り、かつ論理的に話すことができるアイナとクラマがいなければ、一時間もドウェイフは話を聞くことはできなかっただろう。

 インベントはポリポリと頭を掻いている。


「オーダーが細かすぎる!! というかイメージがわかねえよ!」


「お、おっちゃん、落ち着いて……」


「だいたいモンスターを踏むってなんだよ! モンスターは踏めねえよ!」


 アイナは――


(まあ落ち着いて考えればそうだよな……アタシもそう思うよ)


 と共感した。


「意味が分からねえ! だいたいこんなひょろっとした子のためにオーダーメイドなんておかしいだろ!

 オーダーメイドって高額だぞ!? 金払えるのかよ!?」


 インベント、アイナ、クラマはゆっくりと視線を動かしロメロを見た。

 覆面パトロン、ロメロが「ハハハ、いくらでも払うぞ」と言う。


「あ、アンタが払うのかよ?」


「ああ、言い値で構わん。オーダーメイドが高額なのは仕方ないしな」


 ドウェイフは口をへの字に曲げ「チェ……金持ちの道楽かよ」と悪態をついた。

 それに対し覆面越しにロメロは笑う。


「それは違うぞ、店主。

 俺はフラウのハルバードを見させてもらったからな。

 店主の腕は確かだと確信があるから金を出すんだ」


「え?」


「インベントはモンスター狩りのプロだ。

 プロにはプロに合った道具が必要だろう?

 そりゃあまあ、どんな道具でも扱えるに越したことはないが、道具にこだわるのもプロだ」


「そ、そりゃあまあそうだけどよ……この子が……?」


 普段はぼけーっとしているように見えるインベント。

 モンスターを目の前にすれば豹変するのだが、ドウェイフから見れば垢抜けない少年だ。


「ふふふ」


 覆面のロメロは笑った。


「インベントの実力は俺が保証しよう」


 ドウェイフは思う。


(覆面の怪しいあんちゃんに保証されてもなあ……)


 と。だが――


「この――『宵蛇よいばみ』副隊長、ロメロ・バトオが保証しよう」


 そう言って覆面を脱ぐロメロ。


 ドウェイフは理解が追い付かず、ロメロの顔をじ~っと眺めた。

 そして口が自動的に開き、遅れて体が震えだした。


「ふ、ひゅお、よ、『陽剣』??」


 目の前にいるわけがない人物がいる。

 インベントやアイナからすれば、ロメロは『凄く強いけど凄く変な人』なのだが一般的には英雄視されているのだ。


 その後、ドウェイフがロメロに握手を懇願し、ロメロは快く応じた。

 

 もちろんインベント専用装備の作製も快諾してくれたのだ。

 『陽剣のロメロ』の威光が存分に発揮されたのである。


「ハッハッハッハッハー」



****




「お前もこすいことするようになったのう」


「ハッハッハ! ジジイ。それをジジイが言うか?

 『影響を考えて行動しろ』ってのが口癖のジジイが」


「フン、まあ悪くない『影響』の使い方だったかもしれんのう」


「ま、これでインベントが強くなるなら御の字さ」



 こうしてインベントはパトロンと、優秀な技術者の協力を得ることができたのだ。


 飛躍の時は――近い?

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― 新着の感想 ―
[一言] ブレーキ役がいないこの集団ヤバい
[一言] 丸太を鉄で作ろう
[一言] 丸太そのものよりも武器の方がそりゃいいな。
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