カイルーンの午後
「ふああ~~あ」
カイルーンの町から少し離れた草原。
手ごろな石を枕にし、木漏れ日の中眠る男が一人。
モンスターは人が集まっている場所には基本的に近づかない。
よって町の周囲は安全である。といっても知能が低いラットタイプモンスターが近寄ってくることもある。
さすがに草原で寝るのは自殺行為。
おやおや、丸々太ったラットタイプモンスターが男に近づいていきます。
餌だとでも思ったのでしょう。
首筋目掛けて飛びかかりました。
「ヂヂヂ?」
モンスターは驚きます。
空中で静止してしまったからです。
なぜか?
男は眠ったまま、モンスターの心臓を一突きしていたのでした。
「ふああ」
目にも止まらぬ速さで、刺した剣をモンスターから抜き、剣の腹でペチーンと吹き飛ばしました。
何事も無かったかのように眠ろうとする男。
「……ロメロ副隊長」
「んあ? フラウか。どうした」
「……なにかしないんすか?」
「なにかってなんだ?」
「も、モンスター狩るとか」
「めんどくさい。インベントもいないしな」
「も、模擬戦はどうっすか!?」
「もういっぱいしただろう……そろそろ飽きてきたぞ」
「うう~……じゃあ『宵蛇』の本隊に戻るとか」
「今はアイナ隊所属だからな~。アイナ隊長の許可なくそんなことはできんさ」
「へ、屁理屈っすよね。それ」
「まあいいじゃないか。
本当に俺が必要になればデリータが来るさ。
来ないってことは平和ってことだろ?」
「もう~知らないっす!」
フラウは一人稽古を始めた。
超重量級武器のフラウ用のハルバードを豪快に振り回す。
だが使い始めた頃のように武器に振り回されたりはしていない。
しっかりと物にしているのだ。
フラウがハルバードを振う音がロメロの耳に届く。
ロメロは小声で――
「思ったよりも――収穫があったな」
と呟いた。
ロメロはフラウの成長を実感し微笑みながら眠る。
ロメロはインベントと遊びたいから『宵蛇』を離れ『宵蛇』の分隊のロメロ隊を作った。
そこに呼ばれていないのに押しかけてきたフラウ。
だが結果的にはロメロ隊での時間はフラウを予想以上に変化させ、成長させた。
ロメロを真似ることを止め、自分に合った武器を手に入れ、探知することを覚えた。
特に探知を練習したことはフラウに大きく影響した。
元々【馬】と【猛牛】であるフラウは野生の勘が鋭かった。
探知を練習することにより、野生の勘に磨きがかかったのだ。
磨きがかかった野生の勘のおかげで、フラウは危険を察知する力が異常に発達している。
フラウは気づいていないが、模擬戦中にロメロは何度も攻めあぐねている。
(ふふふ……そろそろ二つ名をつけてもいいかもしれんなあ。
しかし……暇だなあ)
遊び相手のインベントをクラマにとられてしまい、絶賛暇なロメロさん。
アイナ隊は解散したわけでは無いため、現在宙ぶらりんな状況なのだ。
インベントたちがいつ帰ってくるかもわからないため、とにかく待っているロメロ。
**
「お? おお! もう帰ってきたのか!」
インベントたちがカイルーンを離れてから七日後の夕刻。
カイルーン近くの草原にいたロメロとフラウのもとにインベントたちが降りてきた。
ロメロはインベントたちがアイレドに行くことは聞いていた。だがいつ帰ってくるかは決まっていなかった。
それゆえ予想以上に早い帰還にロメロは喜んだ。
「戻りました~」
インベントはいつも通り。
「うえ~しんど~」
アイナはインベントの背中におぶられて帰ってきたので、しんどそうだ。
アイナは少し離れた場所に腰を下ろした。
インベントはアイナのもとに駆け寄り背中をさする。
結果、クラマとロメロが二人になる。
マズイと感じたフラウが、二人に駆け寄ってきた。
「おお~フラウちゃん。元気そうじゃのう~」
「うっす!」
ロメロは「スケベジジイが」と悪態をついた。
だがクラマはロメロとは目を合わせず「ふ~んだ」とそっぽを向いた。
ロメロはクラマの様子がおかしいので不思議に思ったが、気に留めない。
「で? どうだったんだ? 収穫はあったのか~?」
ロメロは少し煽り気味でクラマに問う。
だがクラマは反撃しない。牙を抜かれたクラマ?
クラマは淡々と話し始めた。
「そうじゃのう……フルプレートメイルを着たインベントを見させてもらったわい」
「おお~あれか。中々面白かっただろ? ジジイには荷が重かったか? ハハハ!」
「ん……まあ、なかなか凄かったのう」
「そ、そうだろ! は、ははは」
クラマの様子がやはりおかしい。よそよそしいのだ。
ロメロとクラマは長い付き合いである。
こんなクラマは長い付き合いの中で初めてなのだ。
ロメロは鼻頭を掻いた。
「で? インベントは強くなれそうなのか?」
「……方向性は決まった」
「ほう!」
「インベントとアイナと三人で色々考えてみたんじゃ。
あのフルプレートメイルはインベントからすれば、ロメロチャレンジのためだけの策じゃった。
だがワシは方向性としては悪くないと思っておる。
重量級の装備はインベントと相性が良い。
インベントは重い装備を着てもスピードが出せるし、収納空間に入れてしまえば重さは関係ないからのう」
「なるほどな」
「とは言えフルプレートメイルは着るのも脱ぐのも大変じゃ。
だったら、脱着しやすい装備にしてしまえばええ。
インベントならば練習すれば瞬時に脱着できるようになるじゃろうて」
「う~む」
ロメロは、フルプレートメイルを着たり脱いだりするインベントを想像した。
それが強そうだとは思わないものの、面白いとは思い微笑んだ。
「とはいえのう。
インベントのイメージを実現しようとすると色々難しくてのう」
「難しい? 何がだ?」
「ん~説明が難しいんじゃがのう……。
ちょ~っとな、ロメロの助けが必要なんじゃ」
「俺の助けだ~? なんだ? 言ってみろ」
インベントは『モンブレ』の世界からイメージを持ってくる。
クラマとアイナは『モンブレ』の世界を知っているからこそある程度理解できている。
だが『モンブレ』を知らないロメロに正確に説明するのは難しいのだ。
クラマは「へへへ」と小悪党のように笑い、過程を飛ばし結論を言う。
「ロメロ…………金を出せ」
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