インベントとクラマ⑪ 理解へのラストピース
「重さのコントロールって話ですけど……具体的にどうするんですか?」
「ふ~む。考え中じゃ」
「あ、そうなんだ」
クラマとアイナは会話を続ける。
「重さとスピードを両立できるのであれば、確実に強くはなる……と思っただけじゃ。
できるかもしれんし、できぬかもしれん。
ワシだって【器】の知識なんてそれほどない。
色々インベントから話を聞いたからこそ、アドバイス……というよりは提案ができるようになっただけじゃ」
「ん~なるほど」
「アイナが小僧のことをどう思っているのかは知らんが、小僧に協力がしたいんじゃったら理解者になってやらねばならん」
「理解者……」
「インベントの戦い方は特殊じゃろ?
色々話を聞いて、実際に見て、戦ってみてわかったが、小僧はの戦い方は完全なオリジナルじゃ。
発想力が凄いのかの~? 本来なら誰かに教わりつつ何年かかけて会得するような技じゃ」
「あいつ、一度決めたら朝から晩までず~~っと練習してましたよ」
「ふむ……忍耐力もある。反面無理も通しちまうんかのう」
「そうですねえ~。ネジが本当にぶっ飛んでる感じはします」
「そうかものう」
クラマは天を仰いだ。
「やはり理解者は必要じゃ。
【器】を使うことはできなくとも、インベントに知恵を貸す人物は必要じゃ。
孤独に一人で突っ走らせたら……大抵碌なことにならん。
相談し、知恵を持ち寄れるような仲間、理解者は必要じゃろうて」
「理解者……クラマさんじゃダメなんですか?」
「まあ、ワシも努力するが……ワシ結構忙しいしな。
ずっと一緒にはいてやれん」
「い、いや、ア、アタシだって――」
さて……クラマとアイナが話をしている時。
当のインベント・リアルトは何をしていたか?
考えていた。
(重さかあ~……確かに武器だって重いほうが強いもんね。
俺自身が重くなったらどうなるのかな? 凄いパンチが打てるようになるのかな?)
「うひ」
(でもフルアーマーXXスタイルは着替えるのが面倒だしなあ。
分解して腕だけとかにすればいいかな? 取り外し式にすれば体重を増やしたり減らしたりできるし)
「うひひ」
(凄い重い小手なんてどうかな?
ガンキンスタイルとかバンガススタイルの小手って凄い重そうだったし)
ちなみに『ガンキン』も『バンガス』もモンブレでの装備の種類である。
どちらもゴツゴツしていて重そうなのが特徴である。
「うひい、いいぞぉ」
(重さなら……レガースもこだわりたいなあ!
超重量級のレガース……そこからの踏みつけ攻撃! 踏みつけ!)
インベントが目を見開いた!
「うひー! そっかああ!」
急に叫びだすインベント。
驚く二人。
「踏みつけ攻撃と言えば! エアリアルスタイルだあ!
踏みつけ跳躍からの攻撃! これなら重い装備が活きるヨーー!」
説明しよう!!
エアリアルスタイルとは、跳躍力を高め、前転移動する際に少し高く飛ぶことができるようになるスタイルだ!
そしてタイミングよくモンスターを踏めば、踏みつけ跳躍に繋がる。
踏みつけ跳躍が成功すれば、無敵時間が発生し、そこから多彩な攻撃に繋げることができるのだ!
空の支配者となり、モンスターを翻弄しよう!!
……もちろんモンブレの話である。
「エアリアルスタイルなら重い装備ともぴったりだ!
となると武器も迷うなあー! 大太刀? いや双剣か!? いや棍も捨てがたい!
うはあー!」
急にテンションが上がったインベントを見て、アイナは引いている。
「く、クラマさん」
「なんじゃ?」
「アタシ……やっぱり理解者になるの無理かも……」
「ふむ……」
普段大人しいインベントだが、急にテンションが上がることがある。
アイナとしては発作的ななにかとして受け入れているが、理解するのは難しいと思っている。
アイナは優しいので拒絶はしないが、理解するにはインベントは難解すぎた。
それに比べクラマは――
(なんで高揚しとるんじゃ? 何かを思いついたからか?)
インベントは変である。
そんなことは一日一緒に過ごせばすぐにわかる。
クラマはインベントが変になってしまった原因の一つを突き止めていた。
それはインベントが極度に他人と関わらずに生きてきたことだ。
幼少期から『収納空間ちゃん』が唯一の友達だった。
常に『収納空間ちゃん』と遊んでいたインベント。
一日も休まず『収納空間ちゃん』を弄り倒してきた。
収納空間に砂を入れ続けたりして、泥んこまみれになり帰宅するインベント。
そんなインベントを見て、両親は友達とでも遊んでいるのだと安心していた。
だが友達はいない。
物心ついて父の仕事を手伝うようになってから、より友達を作るタイミングを失った。
インベントは友達が少ないなんてレベルではなく、友達がいないのだ。
そして一人っ子。
(孤独な少年が一人遊びするのはよくあることじゃ。
存在しない敵を想像したり、存在しない障害物を想像し、一人の世界で楽しむ。
インベントにはそういう傾向がありそうじゃ)
一人っ子故の妄想癖。
それだけなら多少拗らせていようともまだ理解できるレベルである。理解できるはずなのだ。
(だが……やはり……気になるのう)
クラマはインベントから話を聞いて疑問に思ったことを思い出す。
(そもそも、戦闘訓練もしていない少年がなぜ森林警備隊の入隊試験に通るほど強かったのじゃ?
初めて見たモンスターをなぜ躊躇なく殺せた?
いつからモンスターを狩るための準備をしていた?
あれだけ話を聞いても15歳になるまでモンスターの話題は一つもでなかった。
15歳になって急に? 馬鹿な。ありえん。
もちろんモンスターを狩るために訓練した話もでなかった)
戦う身体では無かった15歳の少年が、異常な成長速度で圧倒的な戦力を得ている事実。
インベントはどう見ても『天才』と呼ばれるタイプではない。
ごく稀に修練を積まなくても一定レベルまですぐに達してしまう人間はいる。
だがクラマがインベントに感じたのは『天才性』ではなく、年月をかけて培った『努力』だった。
(【器】を使い込んだから戦う術を身に着けたのじゃと思った。じゃが違うかもしれん。
小僧は……『モンスター』に執着しておったから、収納空間に執着したのか?
モンスターが目的で、収納空間は過程か?)
五日間に及ぶヒアリングと二度の模擬戦。
インベントというパズルがほぼ完成に近づいていく。
ラストピースを導くための質問が自然と脳裏に浮かぶクラマ。
クラマはずっと疑問だった話題に踏み込んでいく。
「インベントや」
「はい?」
クラマは微笑んだ。
「その『えありある』っちゅうのはなんじゃ?」




