幕間 総隊長室にて
バンカース視点
「それじゃあ報告頼むわ。オイルマン」
「はい」
オイルマン部隊から死人が出た。
更に、新人が足首切断の重傷。
詳しくは知らねえが足の接合は成功したらしい。
正直な話、足の接合が成功したと知ってホッとしたぜ。
入隊したばかりの新人がいきなり足が無くなっちまったなんて、親御さんに会わせる顔がねえ。
しかしまあ中々の大惨事だ。
新人連れて一発目にこれは厳しい、問い詰めなきゃいけねえ事件だ。
なんだけどもよ~……オイルマン自身もかなり憔悴しているように見える。
あんまり絞るわけにはいかねえな、こりゃあ。
「昨日、新人のラホイル、及びインベントを加え六名で前線の調査に向かいました」
「ん? 六名体制?」
隣に座る、総隊長補佐であるメイヤースが「『二人いれちゃえよ』ってあなたが言ったんでしょ」と注意してきた。
「あ、そ、そうだったな。一人も二人もかわらねえだろってことだったな。ははは!」
沈黙――
失言だったな!
「つ、続けてくれ」
「はい。
南部イルイックの滝まで行きまして、その……もう少しだけ調査範囲を広げました」
メイヤースが「危険区域まで何故行ったの?」と言う。
オイルマンはしどろもどろになりながら説明していやがる。
新人連れて一発目に危険区域に行くのはご法度っちゃあご法度だ。
ま、俺からすればオイルマンが危険区域に入ったのは理解できるぜ。
新人たちをビビらせないと示しがつかねえもんな。
メイヤースは後方支援出身だし、女だからな~。
その辺の男心はわかんねえだろう。
なんとか理由を話しているオイルマンがいたたまれないぜ。
**
「……まあいいわ」
メイヤースにこってり絞られちまったなあ。オイルマン。
さてそろそろ真相を知りたいところだ。
「あ~ゴホン。その後はどうなったんだ?」
正直オイルマンのところで事件が起きるとは思ってなかったんだけどな。
オイルマン隊はオイルマンを中心に非常にレベルの高いチームだ。
回復要員まで揃ってて死者を出すってのは中々考えにくいんだがなあ。
「……モンスターが現れました。
ウルフタイプのモンスターでしたので、俺がディフェンダー、そしてドネルとケルバブがアタッカーで対処しました」
「ほお~、その際にケルバブがやられたのか?」
森林警備隊ってのは少なからず毎年死傷者が出る。
ケルバブも油断していたのかもしれねえ。
ウルフタイプは機動力が高えからな。強襲されて即死ってのもありえる。
「いえ、違います。一体目は難なく倒せました」
「……なにい? 一体目だと?」
「え、ええ。その後すぐに二体目の襲撃を受けました」
俺はメイヤースと目を合わせた。
やはりメイヤースも驚いているようだ。
「おいおい。てことはモンスター二体で行動していたってことか?」
「そ、それはわかりません。一体目を倒すまでは二体目は現れませんでしたから。
ただ……両方ともウルフタイプでしたし個体特徴も似通ってはいましたね……」
「マジかよ……」
モンスターってのは基本的に群れない。
動物を引き連れている場合はあるが、モンスターが二匹一緒にいるのは聞いたことが無いぜ。
「続けてくれ」
「は、はい。二体目のモンスターは光の矢を放ってくるタイプでした」
「ひ、光の矢?? 特殊個体だったってことかよ?」
「ええ。【雹】のように幽力を飛ばしてきました。
それに……矢のような形状でしたから、もしかしたら【弓】も含まれてたのかも」
「ま……マジかよ……」
モンスターにもルーンがあるのは恐らく間違いない。
まあ人間と同じルーンなのかは分かっていない。だってモンスターと会話なんてできねえし。
しかしまあ……光の矢なんてわかりやすい能力を持っていたのは初めてじゃねえか??
「一射目でケルバブが殺されました。ラホイルも左足首を切断されました。
ラホイルの手当てとレノアを逃がすことが最優先と判断しましたので、ウルフタイプでしたし俺が囮になって全員を逃がしました」
「なるほどな。しかし一人でそんな強力なモンスターを倒すなんてすげえじゃねえか」
「いえ、一人ではありません」
「あ? ああ~ドネルか?」
「いえ……インベントです」
「ん? は?」
何故ここでインベントの名が出てくる?
「インベントが助太刀……というか『囮は俺がやる』と言い出してですね。
も、もちろん止めたんですけど、自信満々だったもので……」
「そ、そうなのか?」
「あ、あいつ……よくわからない盾みたいなもので光の矢を弾き返してました。
い、未だにあれがなんだったのかはわからないんです……聞くタイミングも無かったですし。
あいつ【器】ですよね?? あの技はいったいなんだったんでしょうか?」
……俺が知るかよ。
てか【器】って戦いに使えるのかよ。
武器の出し入れは対人戦ではおもしれえと思ったが、他にも隠し玉があるってことか??
あいつ本当に【器】なのかよ……。
正直変な奴だとは思っていたが、モンスター相手にも通じるとは思わなかったぜ。
「それじゃあなんだ?? インベントが囮に徹して、オイルマンがとどめを刺したってことか?」
「い、いえ。あの……よくわからないんですけど、あいつ一人でモンスターを倒してしまいました」
「は? ハア?」
だめだ。意味わかんねえ。
「モンスターに押し倒されて動けなくなっていたんですけど、何故かその……モンスターの攻撃が……爆発して、自爆したように見えました」
「い、いやいやいや、何言ってんだよ」
全然意味が分からねー!
「ほ、本当なんです! あ、あいつ囮になるとか言ってたのに、どんどん接近していくし、光の矢も簡単に避けまくるし……。
つ、捕まったと思ったら爆破したんです。あ、あいつはなんなんですか!?」
「いや……いや……なんだ……ろうな。
なあ、メイヤース?」
「私がわかるわけないでしょう」
「は、ははは」
オイルマンは混乱していた。
ちょっと休暇でも与えることにしよう。
まあオイルマンは優秀な男だしな。
一応減給ぐらいはしておくが、元気に復帰してもらわねえと。
異常事態だったのは事実だしな。
それよりも……インベントだな。
入隊試験の時から変な奴だったが……いきなり大手柄じゃねえか。
こりゃあ……インベントの野郎が何者なのか、俺がちゃんと見極めねえといけねえ。
あいつの器がどれだけ広く深いのか……俺は見極めねえとならねえな。
【器】だけに――な。
ははは、上手い。座布団一枚。