インベントとクラマ⑨
時は少し遡り――
地獄のヒアリングを終え憔悴したクラマは一日休息をとった。
その翌日。
「で、結局なにするんですか? クラマさん」
アイナはクラマに尋ねる。
インベントは朝食をとりつつ、収納空間にご熱心だ。
「うむ。正直色々と聞きたいこともあるし確かめたいこともある。
まずは……なんじゃっけな『フルアーマースタイル』とかいうのを確認したい」
「あ~、ロメロチャレンジを初めてクリアしたやつですね」
「フルプレートなんて骨董品じゃからのう。
どんな感じだったのか見てみたいんじゃ」
「でもフルプレートはインベントの実家に預けてありますよ」
「よし。今から行こう」
「い、今から? あ、アイレドですよ?
馬車で三日かかりますよ?」
「アイレドなら一日で到着できるじゃろうて。インベントはどうじゃ?」
インベントは首を傾げた。
「アイレドかあ~……どれぐらいかかるのかな~、あんまり想像できないかも」
「オセラシアの国境付近まで半日で来れたんじゃろ?
なら大丈夫じゃろうて。ほれ、さっさといくぞ」
「は~い」
インベントは快諾した。
それに対しアイナは「んじゃ私はカイルーンでお休みしますかねえ~。う~ん休日~」と机に伏せた。
「え~、アイナも行こうよ」
「んあ? 行かねえよ。馬車乗るのもめんどくさいし」
「俺が運ぶよ」
「は?」
インベントはニコニコしている。
「おんぶするよ」
「ば、ば、ばば、馬鹿言うな!」
「大丈夫だよ。アイナって『――』キロぐらいでしょ?」
「いや体重の問題じゃなくて、そもそもおんぶなんて嫌だし。
っておい! 勝手に人の体重を予想すんな!!」
「『――』キロならフルプレートメイルより軽いし大丈夫だよ~。
『――』キロを背負ったことは無いけど、『――』キロなら問題無いと思うよ」
「連呼すんな! 乙女の体重連呼すんな!」
インベントの体重予想はほぼ当たっていた。
インベントは運び屋の仕事を手伝っていたため、見立てで重さを予想するのが結構得意なのだ。
**
「ギヤアアアーーー!」
結局アイレドまでお持ち帰りされることになったアイナ。
クラマのアドバイスで、アイナが掴むための手綱をインベントの肩に装着したが命綱としては心許ない。
「あ、暴れないでよ~アイナ」
「無理無理ー! ギャアアー! 揺れるー! 揺らすなー!」
「そ、そんなに揺れてないよ~」
蛇行運転を続けるインベントと乗客のアイナ。
そんな二人を見ながら、もしもの時のために後ろから追いかけるクラマ。
「――青春じゃのう」
**
インベントの実家でフルプレートメイルを手に入れた後、アイレドの町外れまでやってきた三人。
「フルプレートなんて懐かしいのう~。よく手入れされとる」
ロメロチャレンジで傷は増えたものの、ロイドはしっかりと手入れしていた。
状態は非常に良い。
「さっそくその……なんとかスタイルやってもらってええか?」
「は~い。アイナ手伝って~」
インベントはフルプレートに身を包んでいく。
重厚な鎧は身に着けるのでさえ大変だ。
「痛い痛い! 肉挟んだ!」
「ど、どこだ?」
「肘肘ー!」
インベントとアイナの共同作業を眺めつつほっこりするクラマ。
10分ほどでフルアーマーXXスタイルに変身するインベント。
「う~ん! やっぱりかっこいいよね! でも重いし暑い……」
ガシャガシャと金属が擦れる音を鳴らしながらクラマの前に立つインベント。
「できましたよ!」
「おお~中々よいのう。そいじゃあまあ、かかっといで」
「戦うんですか?」
「ま、軽くな。あ、武器を飛ばすのは禁止な。あと……武器の変更も無し。
武器使うなら一つだけで頼むわい」
「わかりました~」
インベントは木剣を取り出し、構えた。
「いつでもええぞ。かかっといで」
「はーい」
フルアーマーXXスタイルでインベントができることは少ない。
フルプレートメイルを装備しているので視界は悪いし、各関節の可動域がかなり制限されるため細かい動きができないのだ。
数少ないできること――
(フルアーマーXX版! 縮地!!)
フルプレートメイルの重さは50キロ弱。
フルプレートメイルの重さを考慮した縮地を使うインベント。
着地時の足への負担が大きいので多用できないが、スピードはいつもの縮地とほぼ変わらない。
何度も練習したので体が覚えている。
クラマは息を飲んだ。
(こいつは……凄いわい)
無機質なフルプレートメイルが急速に接近してくる。
フルプレートメイルは全身防御を主眼に置いた防御重視の鎧である。
ロメロチャレンジでは、ロメロが【太陽】のルーンは使用せず、木剣しか使わないルールを逆手にとり防御を固めることで勝利した。
RPGのタンク役は、基本的に動きは緩慢と相場が決まっている。
回避重視のタンクもいるが一般的にはスピードを殺して防御を高めている。
だがフルアーマーXXスタイルでもインベントのスピードはそこまで変わらない。
もちろん忍者スタイルと比べれば疾風迅雷の術が使えないので最高速度は下がっている。
インベントのスピードに慣れているクラマは、驚きつつも余裕をもって回避する。
だがインベントは縮地を使い再度追いすがる。
クラマは楽しさ交じりに驚いた。
(ほっほう! なるほどのう!)
合計五日間にもわたるヒアリングをしたクラマ。
気になることはたくさんあったが、一番興味を惹いたのがフルアーマーXXスタイルである。
(超高速戦闘でロメロチャレンジをクリアしたのは納得じゃった。
ロメロの死角に移動し、死角からの高速攻撃。ロメロ相手でも相打ちぐらいは可能かもしれんと思った。
じゃが一回目のクリアと二回目のクリアの内容が全く違うと聞いて耳を疑ったが、これは納得じゃわい!)
インベントとしてはフルアーマーXXスタイルでのロメロチャレンジクリアは不服だった。
フルアーマーXXを極めたとしても、人型モンスターであるロメロ・バトオは狩ることはできないからだ。
防御不可攻撃を持つロメロ相手では防御は意味を成さないためだ。
結果、インベントは簡単にフルアーマーXXスタイルを捨てた。
そしてスピード偏重の忍者スタイルをメインに使うようになっていく。
というよりもロメロチャレンジを二度クリアしたのに、『おしつけロメロチャレンジ』が始まってしまったので、スピード偏重を継続することになってしまった。
つまり――
(結局……ロメロのアホのせいで砥いだナイフみたいな戦い方に縛られとったようじゃのう。
相変わらず……自分勝手に周りを振り回す奴じゃのう~)
小さなことからコツコツと主人公を強くしていきましょう。
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