インベントとクラマ⑤
インベントを鍛えることに並々ならぬ自信を覗かせるクラマ。
ロメロは気圧された。
(ジジイがここまで言うってことは、なにかしら確信があるってことか)
お手並み拝見とばかりにロメロは腕を組み、一歩引いた。
クラマは座っているインベントの前に立ち、目線を合わせた。
「のうインベントよ」
「なんですか?」
「お前さんをワシが鍛えてやろう。
ワシならもっとお前さんの力を引き出せると思うぞ」
「あ、別にいいです」
さらりと、そよ風のように。
明確な拒否。
「え?」
後ろで大笑いするロメロを無視してクラマは平静を保つ。
「ん~……お前さん、強くなりたいんじゃないのか?」
「別に」
おかしい。
当てが外れまくっているクラマ。
『星天狗』が直々に鍛える。
これほどの素晴らしい提案を拒否するなんてありえない。
(そういえばこの小僧……ワシのこと知らんかったしなあ。
じゃが強くなりたくないの? 意味が分からん……じゃあなんでロメロなんかと一緒にいるんじゃ?)
笑い転げそうになっているロメロに苛立ってくるクラマ。
インベントの行動原理が全く分からないのだ。
強くなりたくないのに、異常な動きでロメロを楽しませるレベルの動きをするインベント。
(ロメロに認められたくて、限界以上のスピードを求めとったんじゃないのか??
あれ? おかしいのう……どういうことじゃ?)
インベントに対してのアプローチの方法がわからず困るクラマ。
「あの~」
困るクラマに助け船を出したのはアイナだ。
「このオバカさんは、ロメロの旦那みたいに戦闘狂いじゃないですよ」
「そうみたいじゃのう」
「インベントは単にモンスターを狩りたいだけなんです。
モンスター狂いってことですね」
「ん? ん?」
「異常にモンスター狩りに執着があるんですよ。
アイレド……あ~、私もインベントもアイレド森林警備隊だったんですけど。
コイツ、毎日毎日モンスター狩りにでかけてましたから」
「ほう……」
「ロメロチャレンジを頑張った理由にしても……、え~っとなんだっけインベント?」
「モンスターをいつでも狩れる権利!」
「あ~それそれ。そんな意味わからない権利をロメロの旦那がくれるって理由で頑張ったんですよ」
クラマは顔を顰めた。
「つまりなにか? モンスター狩りが生きがいなのか? インベントは」
「まあ平たく言えばそうですね」
「なるほどのう……ちょっと納得できたわい」
クラマはインベントの前に座り胡坐をかいた。
「インベントよ」
「はい」
「モンスターが好きなのか? いやモンスター狩りが好きなのか?」
「どっちも好きです!」
「ほっほ、そうかそうか」
クラマはやっと会話が成立しそうで安心する。
「今は現役ではないんじゃがのう、ワシもモンスターはたくさん狩ったもんじゃ。
カイルーンの町でも数回大物狩りをしたもんじゃよ」
「へえ! どんなモンスターだったんですか!?」
食いつくインベント。モンスターの話は大好物。
「カイルーンだと、『泥闇猪』っちゅう大型のボアタイプを倒したことがある」
アイナは「おお」と声を上げた。
『泥闇猪』を『星天狗』が討伐したのはカイルーンでは誰もが知っている話である。
童話にもなっている。
インベントは嬉しそうだ。
モンスター大好き。大型モンスターはもっと好き。
そして二つ名がついてるモンスターは大好物。
クラマは昔話を子供に聞かせるかのように、インベントに『泥闇猪』を討伐した時の話を聞かせた。
あまりに食いつきがよいので、クラマも興が乗り二時間近く話した。
****
ロメロは暇すぎてフラウと模擬戦を始めた。
フラウもロメロに遊んでもらえて嬉しそうだ。
「――ま、『泥闇猪』に関してはこんなところかのう」
「うお~! すげ~!」
「はっはっは、こんな話だったらいくらでもできるわい。
おっとインベント。そういえば……と言っても二時間も前にした質問を再度させてもらおうかのう」
インベントは首を傾げた。
「お前さんは強くなることに興味は無い。
じゃが強いモンスターを狩るための力は欲しいか?」
「欲しい!」
微妙なニュアンスの違いだが、インベントにとっては大きな違いだ。
強さはモンスターを狩るために必要なのだ。
「よしよし。じゃがお前さんの戦い方……といってもモンスターをどう狩っておるのか知らん。
じゃがのう、あの超高速移動を使い続ければ確実に身体がおかしくなる。
毎度毎度【癒】を使ってもらうわけにもいかんじゃろうし、そもそも【癒】だって万能じゃないしのう」
わかりやすくシュンとするインベント。
「モンスター狩りをこの先ずっとしていきたいじゃろう?」
「もちろん!」
「ワシだったら、お前さんの力を理解した上で鍛えてやることができる。
スピード偏重の戦い方をせんくとも強くなれるはずじゃ。
お前さんを強くするのにワシ以上の適任者はおらん。
どうじゃ? ワシに時間をくれんかのう?」
「お願いします!」
こうしてインベントはクラマに鍛えてもらうことになったのだ。
のだが――
「あの~ちょっといいっすか」
インベントの保護者。アイナが手を挙げた。
「なんじゃ?」
「クラマさんを疑っているわけじゃないんすけど、どうして適任者だと言い切れるんですか?
正直……ロメロの旦那よりはクラマさんのほうが安心……っていうかロメロの旦那は結構無茶苦茶だし。
インベントは確かに強くなったけど……どんどん無茶が酷くなってるよう見えるし」
「ふむ」
「それにインベントの戦い方って独特って言うか……【器】で戦う人ってアタシ、他に知らないんです」
「ワシも知らん」
「え? やっぱりそうなんですか?」
「【器】なんて便利な道具袋ぐらいの認識じゃったからのう。
戦闘利用する奴はワシも長いこと生きとるが知らんよ」
「だったら……なんでそんなに自信があるんですか?
アタシもインベントの戦い方は結構見てきたと思いますけど……。
口出ししにくいっていうか……よくわからなすぎて……」
「はっはっは、なるほどのう。優しいなアイナは」
アイナは「そんなんじゃないですよ」と困った顔をした。
「ふむ……アイナよ」
「は、はい」
「ワシは強い」
「そりゃあそうですね。あの模擬戦を見れば伝説が本当だったってわかりますよ」
「はっはっは、伝説か。ではなぜワシは強いんじゃ?」
「なぜ? なぜって聞かれると……う~ん」
クラマは微笑んだ。
「ワシの強さの秘密。その秘密にこそインベントを鍛える秘訣が詰まっとる。
…………ハズじゃ」
自信があるのか無いのかわからないクラマ。
アイナは一層困った顔になった。
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