インベントとクラマ④
「タ、タタカエナク……ナル?」
クラマから「戦えなくなる」と言われ、言葉を反芻するインベント。
「タタカエナイ。モンスター……狩れない?
タタカエナイ。モンスター……狩れる?」
放心状態のインベント。
「お、おい、インベント。しっかりしろよ~?」
アイナがインベントを揺する。
フラウも心配そうにインベントを見守る。
「そんなにひどいのか? ジジイ」
ロメロが腕を組みつつクラマに話しかける。
「すぐにどうこうってわけじゃないがのう……。
しかしまあ、あれだけの高速移動を繰り返せばガタはくるじゃろうて。
しかしのう……小僧はスピード狂だったりするのか?」
「どういうことだ?」
「いや、ワシのスピードについてこようとするのはわかるんじゃが、どうにか死角に入りこもうとするからのう。
色々手札がありそうなもんなのに、どうもスピードに頼ろうとする傾向がある。
スピードに何かこだわりでもあるんじゃないかと思うてのう」
ロメロは「スピードにこだわり……ねえ」と言う。
インベントはスピードにこだわりなど無い。
彼にあるのはモンスターを狩りたいという一点のみ。
ロメロには思い当たるフシは無かった。
だが、フラウとアイナは渋い顔をしている。
「どうしたんじゃ? フラウちゃん。それにアイナ」
フラウとアイナは顔を見合わせた。
「だってなあ。フラウ」
「そうっすね……原因は……」
「なんじゃ。なにか理由でもあるのか?」
アイナは指差す。
フラウも続けて指差した。
指されたのは――ロメロだ。
「ん? なんだ?」
「インベントがスピードガンガン上げるようになったのは、ロメロチャレンジのせいだろ」
「そうっすね。特に最近はビュンビュン飛び跳ねてる気がするっす」
「え?」
ロメロには自覚が無い。
だがインベントが高速戦闘をするようになったのは、確実にロメロチャレンジが原因である。
一度目にクリアしたフルプレートメイルを使ったスタイルも体への負担は大きかった。
だが二度目以降――『おかわりロメロチャレンジ』からはとにかくスピードにこだわっていた。
ロメロの幽結界と超絶剣技をかいくぐり一撃を食らわせるために開発したのが、忍者スタイルであり疾風迅雷の術である。
「なんじゃ……お前が原因じゃったのか。ロメロ」
「い、いや。そんなこと言われてもだな」
「しっかしお前……小僧とあのロメロチャレンジやったんじゃのう。
おい、小僧は成功したのか?」
「しましたよ。それも二回も」
アイナが答える。
「それもその後もず~っとロメロチャレンジやってるっす」
フラウが少し膨れて言う。
インベントにロメロをとられたような感覚は未だに残っているのだ。
「な~んじゃ。全部お前のせいじゃのう」
「い、いやいや。俺はインベントを…………そう! 鍛えようと思ってだなあ」
「な~にが鍛えようじゃ。どうせ楽しくなってインベントに無理させたんじゃろうて」
「確かに最近は、嫌がるインベントに無理強いしてたなあ~」
「そうっすね。私とはあんまり稽古つけてくれないのに、インベントとはよく遊んでたっす」
多勢に無勢のロメロ。
頭を掻きながら「まいったな」と苦笑い。
「ま、原因はロメロっちゅうことがわかった。
それならロメロと戦わせなければ当面は大丈夫じゃろうて」
「な、なんだと!?」
「なんじゃ?」
「それは……だめだろ! 戦いってのは……そう継続してやらないと上達しない!
休んだらダメだ! 継続が重要だ!」
焦るロメロ。
このままではインベントという遊び相手をとられてしまうからだ。
「フン。もっともらしいこと言おうとせんでええぞ」
クラマは冷めた目でロメロを見つめる。
クラマはロメロの人柄をよく知っている。
ロメロの行動原理は、誰かのためではなく、自分のため、自分ファーストなのだ。
「お前は自分が楽しむために小僧を使っておるだけじゃろ。
鍛える気なんてありゃせんのじゃないか?」
「ば、馬鹿を言うな。あえて『宵蛇』から離れているのもインベントを鍛えるためだ」
「ふ~~~ん。まあええわ」
インベントを鍛えるため。
ロメロは嘘は言っていない。
『宵蛇』を離れ、インベントと行動を共にするようになった当初は、インベントを鍛えるつもりもあった。
だが最近はそんなことをすっかり忘れて、楽しんでいたのだ。
「とは言えロメロ。お前のいう事も一理ある」
「あ?」
「継続は重要じゃ。完全に休ませるのはもったいない。若いしの」
「そ、そうだろう!」
「そうじゃな。だから……ワシが鍛えてやろう」
「……は?」
クラマは笑う。
「いや~あの戦闘馬鹿で自分の事しか考えていないロメロが、後輩育成を頑張っておったとはのう~。
インベントに関してはワシが引き継いで鍛えてやるわい。安心せい」
「ば、馬鹿を言うな! ジジイは忙しいだろ!」
「まあそうじゃけど、『宵蛇』の現役、それも『陽剣』様に比べれば時間ぐらいあるわい」
「だ、だが…………そ、そう! 俺の方が適任だ!」
「ほ~~う? なぜじゃ?」
ロメロはビシっと指差した。
「なぜなら、俺のほうがジジイよりも強いからだ!!」
アイナとフラウは考える。
はたして『陽剣』と『星天狗』はどちらが強いのか。
ロメロ自身は、クラマより強いと言っているがどちらも恐ろしく強いのは確かだ。
クラマは口を曲げて「ハア~」と溜息を吐いた。
「ま……そりゃそうじゃろうな。お前のほうがワシより強いじゃろうて」
「そ、そうだろう! だったら俺が鍛えるのが適任だ!」
「その最強が鍛えた結果、身体にガタがきておるけどな」
「むぐう!?」
「そもそも、お前さん誰かを鍛えたことあるのか~?
人に教えるってのは、自分が強くなることとは色々違うからのう」
ロメロ。
天才故に思いついたことは即座にできる男。
だが、わかりやすく言語化し教えることは苦手。
そして誰かの成長を導く術など知らない。強くなる奴は勝手に強くなると思っている。
「ま、剣術を教えるだけならお前さんのほうが適任の可能性もちび~~~っとだけある。
だがのう。インベントに関して言えばワシ以上の適任者はおらんよ」
クラマは自信満々に言い放った。
「勝手に話が進んでるけどインベントの意思とか無視だな……。
なんでこう自分勝手な人ばかり集まるかねえ……」
アイナは嘆いた。




