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プロローグ

収納空間とモンスターに魅せられた男の物語です。

テンポ良いストーリーを目指します!

 人は生まれながらにルーンを持っている。

 【猛牛ウルズ】や【向上テイワーズ】のような戦闘向きのルーンや、【ギルフェ】や【保護エオロー】のような後方支援向きのルーン。


 さて、インベント・リアルトが授かったルーンは【ペオース】。

 収納空間を持つことができるルーンである。

 収納空間とは容量制限があるものの、様々なモノを出し入れすることができる空間。


 収納空間に入れてしまえば、重さを感じることなくモノを運ぶことができるし、モノは劣化しない。

 盗まれる心配も無いため貴重品の輸送にも適している。

 使い勝手の良いルーンである。


 【ペオース】のルーンはレアかどうかで言えば、多少レアといったところだ。

 100人いれば一人は持っているルーンであり、インベントの父であるロイド・リアルトも【ペオース】のルーンを持っている。


 ただ、父であるロイド・リアルトは息子のインベントが【ペオース】のルーンを授かったと判った時、非常に喜んだ。

 何故ならロイドは運び屋を営んでいる。

 運び屋にとって【ペオース】のルーンほど適性が高いルーンは無い。


 一人息子が【ペオース】のルーンを授かったことで後継ぎは安泰だと思っていたのだ。




 ――つい最近までは。



**


(この子はおかしい)


 馬車で隣町に物資の輸送をする際、ロイドは隣に座るインベントを見てそう思った。

 いや、ずっと違和感は覚えていたのだが、思春期特有のナニカだと思っていた。そう思いたかった。


(口数は少ないと思っていたが、最近はずっと収納空間を弄っている。

 最近……なのか?? 物心ついた時から収納空間を常に弄っていた気がする)


 インベントは周辺の警戒をしつつも、右手は常に収納空間の中だ。

 心ここにあらず。


(いや……仕事の手伝いはしっかりやってくれている。

 それに几帳面だし、真面目だし、何より収納空間の扱いが巧い。

 ――いや巧すぎる)


 インベントは暇さえあれば収納空間を弄っている。

 ロイドも収納空間を持っているが、一日に数回使えば多いほうだ。

 何故インベントがそれほど収納空間に固執するのかわからないのだ。


 他に覚えることだってあるはずだし、女の子に興味を持ったっていい。

 だがインベントは収納空間以外に興味を持っていない。

 ロイドはそう感じていた。


 ロイドは我が子を一つ試すことにした。

 ロイドは一つ咳ばらいをして――


「少し……喉が渇いたな」


 間髪容れずインベントは収納空間からよく冷えた水の入った水筒を出した。

 間髪……というよりもまるで始めから手に持っていたかのように。


 ロイドは眉をピクリとさせながら受け取り――


「おお、ありがとう。

 …………あ~汗をかいたな」


 次の瞬間には清潔なタオルがインベントの手に握られていた。


「おお……すまんな。

 …………あ~……マレド商会の依頼料は……」

「7000ゴールドだよ。父さん」


 マレド商会からの注文書が左手に握られている。

 ロイドは何故か冷や汗をかいていた。


(……まるで準備していたかのような早業。

 ありえない……これほど収納空間から素早く物を出せるものなのか??)


 収納空間は便利な能力である。

 それはロイドも【ペオース】のルーンを持っているので知っている。


 だがインベントのように反射的に対象物を出せるかと言えば無理である。

 何故なら、収納空間から対象物を出す場合、記憶を頼りにある程度の場所に手を入れ、手で探り、見つけ次第取り出す。


(全ての格納場所を記憶しているのか? そんな馬鹿な。

 よ~~し……これならどうだ?)


「インベント」

「何?」

「あ~……護身用の――」


 「護身用のナイフ」と言おうとした時――


「ん?」


 もう右手にはナイフが握られていた。


「ナイフがどうしたの?」

「い、いや。だ、大事にしろよ。

 そろそろお前も……15歳だしな」

「……そう……だね」


 15歳。

 15歳は大人として扱う年齢である。

 ロイドは、インベントに運び屋の仕事を継いでほしいと思っている。

 馬車の扱いに関しても、15歳になったら教えようと思っているのだ。


 だが――


(15歳になったら本格的に仕事を教えようと思っているのはインベントもわかっているだろう……。

 しかし……インベントの顔を見ると……この子は何か他にやりたいことがあるんじゃないのだろうか?)



 馬車は揺れる。


 インベント・リアルトの心も揺れていた。



****



 インベントは夢を見る。

 何度も何度も同じ世界の夢を見る。

 その夢はファンタジックな夢である。


 夢の内容はこんな感じだ。


 幻想的な世界には、たくさんのモンスターが存在している。

 人間たちは豪華絢爛な衣装を纏い、モンスターたちを倒している。

 いや、倒すのが目的ではない。狩ることが目的なのだ。


 モンスターを狩り、モンスターたちの牙や角を収集し、武器や防具をグレードアップしていく。


 そう――大人気ゲームであるモンスターブレイカー、通称『モンブレ』。

 RPGである『モンブレ』の世界の映像を見ているのだ。


 だがインベントはモンブレの世界がゲームだと思っていない。

 幻想的で魅力的な夢の世界だと思っているのだ。


**


 インベントは明日15歳になる。

 と言っても誕生日ではなく、数え年で年齢が決まるので同じ年に生まれた子たちは揃って明日15歳になる。


「うう~~ん」


 インベントは目覚めた。


(今日も……良い夢だった)


 モンブレの世界の夢を見て目覚めたインベントはご機嫌だった。


(ダークティラノは強かったなあ~……。

 でも連携が素晴らしかった。

 避けタンクは踊るように攻撃を避けていたし。

 いや~でも今回のMVPはアサシンですわ~)


 ダークティラノと呼ばれる、巨大な漆黒の恐竜を五人パーティーで撃破する様子をずっと見ていたインベント。

 『MVP』なんて言葉は知らないのだが、何度も使われている言葉は覚えてしまっていた。


(俺も……モンブレの世界に行きたいなあ……)


 夢の世界に行きたい。

 インベントの頭の中は、モンブレの世界でいっぱいなのだ。


(明日で……15歳か)


 インベントは少し憂鬱になった。


 彼は父の思いを理解している。

 だが、インベントの求める仕事は運び屋ではなかった。


(言わなきゃ……な)



 少し憂鬱な気分を感じつつ、インベントは無意識のうちに収納空間の整理をして心を落ち着かせていた。


**


 インベントとロイドは運び屋の仕事で隣町まで向かっていた。

 だが、崖崩れがあり道を迂回する必要があった。

 そのため隣町に到着したのは夕刻であり、インベントが住むアイレドの町に戻ることはできなかった。


「14歳最後の日が家で過ごせないのは残念だったな」

「母さんには悪いことしたね」


 インベントとロイドは宿を借り、多少奮発した料理を食した。

 食事中、インベントはずっと将来の話をしようとしていたが踏ん切りがつかないでいた。


「インベントは明日で15歳だな」

「え、ああ……そうだね」


(しまったな……、切り出し損ねた)


「インベント……お前――」

(い、言わなきゃ! 運び屋の仕事を継がないって言わないと!)


 ロイドは焦っているインベントを見て、少し笑った。

 そして――


「何かやりたいことでもあるのか?」

「え?」


「いや。運び屋の仕事以外にやりたい仕事でもあるのかと思ってな」

「あ、ああ。うん。そうだね」

「そうかそうか」


 ロイドは大人な対応をしているが、ロイドは内心冷や冷やしていた。

 実は一番恐れていたのは、運び屋の仕事はするが都会に出たい場合だった。


(都会に行くとか言われちゃうと、お金がかかるからなあ……。

 お父さん少し安心)


 ロイドはニッコリと笑う。


「なんの仕事がしたいんだ?」

「ええ~っとねえ……そのお……」


 照れるインベント。

 不思議そうに見ているロイド。


(この子が考えていることは正直よくわからん。

 どんな仕事をしたいんだろうか?)


 インベントは恥ずかしそうに切り出した。



「俺――――森林警備隊になりたいんだ」




****


「それじゃあ行ってくる」


 インベントは森林警備隊の入隊試験に出掛けた。


 ロイドはにこやかに「行ってらっしゃい」と言い、母のペトナは渋々「頑張ってきなさい」と言った。

 そして――


「アンタァ! なんで止めなかったのよ!!」


 ペトナはブチギレた。


「はっはっは、まあまあ落ち着けペトナ」


 コーヒーを飲みながら余裕たっぷりのロイド。

 ペトナは激怒した。


「インベントが仕事を継がないなんて聞いてないわよ!?

 あんたも継がせるつもりだったんでしょ!!?」

「ふふふ、まあ聞け。ペトナ」


 何故か余裕たっぷりのロイドに、ペトナは怪訝な顔をした。


「何よ?」

「森林警備隊の仕事を知っているか?」

「そりゃあ知ってるわよ。町の周辺のモンスターを狩る仕事でしょう?」

「その通り! 俺も仕事柄よく知っている。

 モンスターが発生すると隣町に行けなくなったりするからな」


 ペトナは首を傾げた。


「だからなんなのよ?」

「森林警備隊ってのは重要な仕事だ。お給金も良い。

 そして…………入隊試験はかなりの倍率になる」

「倍率……」


 ロイドはにんまりと笑う。

 そして両手を拡げ、舞台役者のように声高らかに喋りだした。


「ふっふっふ~! 森林警備隊は腕自慢の猛者がたくさん集まるんだよ。

 さて問題だ! インベントは果たして強そうかな?」


 ペトナは納得した。そして「ああ~」と嬉しそうに頷いた。


「わかったみたいだね。

 そう、インベントは言っちゃ悪いが普通の身体だ。

 ケンカもしたことが無いし、腕っぷしって意味ではからっきしだ!」

「うんうん!」


 ロイドは更に饒舌になる。


「おっと~! 勿論インベントは素晴らし~い息子だ。

 だが……森林警備隊に向いているとは到底思えない。

 だからひじょ~~~に残念だが、今日の試験は落ちるだろう」

「そうねそうね! 残念ね!」


 ロイドは指をパチンと鳴らす。


「落ちてからわかるだろう。

 『ああ、パパ! 僕は運び屋が天職だったんだね!』ってね!」

「すごい! さすがだわ!」



 リアルト夫婦は今日も幸せである。

区切り良い50話ぐらいまでは駆け抜けていきますので、応援よろしくお願いします。

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応援していただけると幸いです。



★追記★

日刊ランキング入りいたしました!

ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しそうで草
[良い点] 転生とはまた違った記憶で面白い
[良い点] すっごく面白いお話をありがとうございます!! 見やすく整った画面に、テンポの良い文章! あっという間にお話の世界へ引き込まれました! インベントくんの今後が気になります! そしてリアル…
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