”悪役令嬢の物語”
あるところにそれはそれは美しい公爵令嬢がいた。
優しく穏やかで、教養のある娘だった。王国の第一王子と婚約し、順風満帆な生活だった。
けれどその生活は彼女にとっては息苦しく、変装をしては図書館へ通い、物語に没頭していた。煩わしい現実など置いて、最低限の義務だけこなして。
好きなものはどこまでも広がりゆく物語。そしてとても大事な友人だった。
大切なものは二つだけでいい。
けれどささやかな願いも、平穏な日常も崩れるのは一瞬だった。
公爵令嬢は”悪役令嬢”の汚名を着せられ王子からは婚約破棄を告げられる。
彼女を陥れたのは唯一の友人の男爵令嬢だった。
男爵令嬢は王子と婚約し、公爵令嬢改め”悪役令嬢”は国外追放される。
行先は怪物の住まう国と名高い国。
その国の端の森の中、檻に入れられ人食いの怪物に捧げられた。
暗く静かな夜、 ”悪役令嬢”は誰かが助けてくれる一縷の望みに縋っていた。
”悪役令嬢”の物語は、ある凡庸な男爵令嬢の策略から始まった。
そして隣国、ダーゲンヘルム王国は、否が応にも物語に巻き込まれることになる。
本が好きな”悪役令嬢”
物語を愛する”ダーゲンヘルムの怪物”
凡庸で異常な”ヒロイン”
怪物は三人。
悪役令嬢は二人。
物語は二つ。
けれど物語は選ばれたものにしか紡がれない。
選ばれない凡庸な者はただただ他者の物語に巻き込まれるばかりだ。
怪物になれない平凡な女騎士は。ただただ”悪役令嬢の物語”を眺めていた。