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全能神が報告します!  作者: 合田うり
ープロローグー
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7 偽神の成れの果て

 トイプーサイズのネコが三頭・・・いや、龍が三頭、芽依の両肩と頭の上で満足そうにゴロゴロ言っている。一見可愛く見えるが、耳元で鳴る喉の音は低く轟く龍のそれだった。


 可愛い・・・かな?うん、可愛いことにしよう。爬虫類は嫌いじゃないし


 三頭を自分の膝元に下ろし落ち着くまで地べたに座りながら撫でてやり、アウルムと他愛無い会話をする。その間、他の親龍たちは大人しく一人と一頭の会話を聞いていた。口を挟む者はいない。


 芽依は、全知神であるアルヴィスの『知識』に欠陥・・・もとい、抜けがあると確信していた。

 初めから細かいことまでは把握していないと言ってはいたが、アルヴィスが全知神として知っていそうな内容までも抜け落ちている事実に、流石におかしいと思う。

 芽依を神と認識出来て、かつ会話が成り立ち長い歴史の記憶を有する古龍の巣に降りたことは、もしかしたらシャフェイの計らいだったのかもしれない。

 ならば、この機に色々と聞いておこうと、小さな疑問から知識にあることまでその内容の答え合わせをするように、アウルムに質問を投げかけていた。


「無詠唱はダメって分かったけど、さすがに短縮詠唱は出来る人いるよね?」


 まずはこれから魔法を駆使して行くに当たって、精神を削ぎ落されないための確認である。出来れば厨二病的な文言は唱えたくない。


「ふむ、ハイエルフや魔王たちは短縮詠唱が使える者がおるな。人間でも賢者や勇者と呼ばれる者の中に、短縮詠唱が可能な者が時折現れると聞いたことがある。我ら古龍も魔法を行使する場合は短縮詠唱だ。ブレスは古龍特有のスキルだから詠唱も何も無いが・・・そんなに詠唱が嫌か?」

「私には精神を削ぎ落す行為なの・・・長い詠唱を絶対にしなきゃいけないとかだったら、多分私は人前で魔法を使うことを諦めてたわね」


 恥ずかしくて悶え死ぬわ・・・


「そ、それほどか。まぁ、人間でも短縮詠唱が使える者がいるのだから、そう気負うこともなかろう」


 アウルムの言葉に芽依はホッと胸を撫で下ろし、三頭の子龍の顎を順番にコチョコチョしてやる。


 鼻から炎が出てる・・・顎をくすぐるのは危ないから今後控えよう


「あと、テイマーって複数の魔獣や魔物を従えてるものなの?龍を従えてるテイマーもいる?」


 三頭を連れ歩く上でテイマーとして冒険者になることは決定事項だったが、複数と同時契約は可能なのだろうか?世のテイマーたちがみな龍を連れているとは思わないが、芽依が連れていても違和感がないのかということが、魔法詠唱問題の次に気になることだった。


「我もそれほど人間や亜人たちのことを知っているわけではないが、テイマーとして数匹従えている者も確かにいたな。虫のようなものであれば、数百匹従えることもあると聞いたことがある。龍に関しては、小竜やワイバーン辺りを使役する者はおる。我ら古龍をテイムしようとした愚か者も過去にはおったが、まず契約交渉の場すら持つことは叶わん。意思があり会話が出来る生き物ほど拒否されるこが多いため、テイムすることは難しいのだ。ワイバーンは・・・あれは同じ飛竜という括りで見て欲しくないほど、頭が悪い。力さえあれば強制的にテイム出来るぞ」


 なるほど、古龍は古龍でも小さくなった三頭は小竜と言っておき、卵から孵したということで刷り込みでマスターになったことにしておけば、幾分誤魔化しが効きそうだ・・・と、芽依は見たことも行ったこともないギルドの受付でのやり取りをシミュレーションし、ウンウンと頷く。


 なんとなく、どうにかなりそうだなと、芽依は根拠のない自信を胸に刻んだのだった。


「取り敢えず、三頭を連れ歩くことはどうにかなりそうだね。まだ目覚めたばかりで荷が重いけど、三頭を預からせてもらうね。大事に育てるよ」


 芽依の言葉に、ゴロゴロ言っていた三頭の眼がキラキラと輝いた。「嬉しい」と言っているのがその眼で分かる。


「ああ、三頭をよろしく頼む。神の傍で様々なことを経験すれば、いずれ次の龍王を守る立派な護衛龍になるだろう」

「後継が・・・生まれるの?」


 アウルムの言葉に、龍王の後継が生まれるのかと思ったが、現龍王のアウルムの表情は暗いものだった。


「いや、分からぬ。龍王は金龍しか成れぬのだが、金龍が産まれることは稀だ。産まれれば次の龍王として育てていくが、もう三千年は産まれておらん。産まれるのは銀龍のみ・・・今身籠っている子供が金龍でなければ、この先龍王不在の歴史もあるかもしれんな」


 まるで自分が悪いと言わんばかりに肩を落とし暗い顔をするアウルムに、芽依は聞いちゃいけなかったかな・・・と微妙な気持ちになる。

 だが、聞いてしまったものはもう遅い。

 古龍の全頭数はかなり少ないと芽依の知識にはある。その理由は、古龍が身籠りにくいことにある。

 数千年も生き、最強種である古龍がポンポン卵を産んで増えていたら、弱肉強食のバランスが崩れこの世界は古龍の支配する世界になってしまうだろう。

 創造神であるシャフェイは、一応その辺を考えているのだろうなと、芽依は勝手に納得していた。


「そっか、次の子は金龍が産まれると良いね・・・よし!全能神メイクラマが祈りましょう!」


 唐突に芽依は両手を胸元で組み、目を閉じて祈った。

 気持ちとしては「明日天気にな~れ」程度のものだったが、芽依が「次の子供は金龍が生まれますよ~に!」と軽くおまじない感覚で唱えると、アウルムの一番近くに居たお腹の大きい銀龍がピカッと一瞬金色に光った。


 皆、目が点である。龍が豆鉄砲食らった顔である。

 もちろん、唱えた芽依自身も目が点になっていた。


 あれ、私何かしちゃったかな?お、お腹の子供・・・無事だよね!?


 思いがけず起こった現象に焦った芽依の顔は、血の気が引いて青くなっている。

 だが、そんな焦りもアウルムとその番であろう銀龍の歓声ですぐに消え去った。


「か、神の祝福!?なんと・・・そんな・・・しかも神の中でも最強と伝えられている全能神の祝福とは!」

「アウルム様・・・次の子は必ず金龍が産まれますわ。ああ・・・メイクラマ様、ありがとうございます、ありがとうございます!」


 妊婦である銀龍の眼から、ポロポロと大粒の涙が降ってくる。周りの古龍たちもアウルムと銀龍の言葉に歓喜の咆哮を上げた。

 その咆哮の衝撃波で洞窟内の壁がビリビリと震え少し崩れたことに、芽依は内心先ほどの焦りよりも焦っていた。


「よ、よかった・・・元気な子を産んでくださいね」


 それよりも、神の中で最強って・・・どういうこと?それ、誰情報?


 またも芽依の知識にない情報に、問い質したい気持ちは満々だったが、涙を流して喜んでいる古龍たちを前に問うに問えない雰囲気だと諦めた。


「メイクラマ神、なんと礼を言えば良いのか・・・神に恩を返すなど恐れ多いが、この恩は必ず返す。我ら古龍は全能神メイクラマを崇拝することをここに誓おう。そなたの呼び掛けに応え、そなたの手足となって戦うことをここに誓う!」

「え、あ、ありがとう。でも、古龍に戦ってもらうような物騒なことは無いと思うから・・・しっかり子育てしてください」


 熱く誓われたアウルムの言葉に、芽依は頬を引き攣らせ胸の中で叫んだ。


 古龍が出てこなきゃいけない戦闘なんて、絶対ごめんだわ!


「うむ、子育てと後継者教育は、しっかりやっていく。産まれた時は子供の顔を見に来てくれると嬉しいのだが・・・」

「もちろん!三頭の里帰りも含めて、必ずお子さんの顔を見に来るよ!」


 芽依の返答に、アウルムは満足したように頷いた。


「だが、やはり何か礼はしたい・・・そうだ!先ほどメイクラマ神は無一文と言っておったな?それならば、地上の硬貨を貯めておるので好きなだけ持って行くと良い」

「は?お金?」


 古龍に限らず、竜種は皆光モノが好きだというのは知っているが、まさか硬貨を貯めているとは思わなかった。


「えっと・・・その硬貨ってどこから手に入れたものなの?」


 前世の性分からか、お金の出どころが気になる芽依である。

 犯罪の匂いがするお金はあまり使いたくなかったが、この世界ではそんなこと言ってられないだろう。

 なんせ、前世とは違い毎日が命のやり取りなのである。身近に危険が常にある・・・そんな世界を廻るのだから、犯罪がどうとか言っていられないだろう。

 今後、冒険者として動くのなら芽依だって生き物を殺すことだってあるだろうし、場合によっては人間も消さなければいけないかもしれない。

 神としての役割と権限を与えられている芽依には、不安分子を取り除くこともしなくてはいけないのだから。


 だから、出どころが気になる硬貨だって有難く受け取るつもりである。

 最初からお金があるのと無いのとでは、今後の旅の快適度が大きく変わってくるのだから、仕方ない。

 でも、その出どころは気になるのだ。いや、入手方法が気になる。


 巨大な古龍がどうやって小さい硬貨を集められたのか・・・・・・


「なに、気にすることはない。神だと自称する人間や亜人を捕らえ、本当に神かどうかを確かめさせてもらったのだ。まぁ、全て神を語る不届きものだったため、息の根を止めて身ぐるみを剥いでやったのだがな」


 ち、血濡れの硬貨ですか~・・・・・・


「殺したものとその所持品や硬貨は隣の間に積んである。好きなだけ見繕ってくれ!」


 得意そうに胸を張りドヤ顔を見せるアウルムは、初めに感じた王としての威厳が消え無邪気な少年の様だった。


「あ、ありがとぉ・・・助かるよ」


 ハハハと乾いた笑い声と共に芽依の膝元に侍る小さな三頭の古龍を見て、この血を引いているのか・・・と古龍を連れて旅をするのに言い知れぬ不安を抱く芽依だった。




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