1 転生は突然に
一瞬だった。
誰かに背中を押されたと思った瞬間、全身に凄まじい衝撃が走り視界は真っ暗になった。
あぁ・・・死んだのかな
漠然とそう思ったが、何故だか目が開く。開いた視界は真っ白で、まるで閃光弾を浴びたような眩しさがあった。
閃光弾なんて浴びたこと無いけど・・・・・・
不思議に思いながら手を動かすと、すんなりと自分の顔を触ることが出来た。足も動く。ゆっくりと身体を起こして周りを見渡してみるが、やはり視界は真っ白なままだ。
それよりも、手が、足が、身体があると触って認識しているはずなのに、自分の視界にそれが映らない。
えぇ~・・・身体があるのは分かるのに、見えないってどういう状況?やっぱり・・・これは死んでしまっていると考えるべきだよね・・・そして私は今まさに、『あの世』にいるということ・・・
摩訶不思議な状況にあるにも関わらず、芽依はどこか納得したように心を落ち着けた。元々、神様を信じ毎日教会で祈りを捧げ、洗礼も受けていた芽依にとっては、死後の世界を恐ろしいと思う考え自体が存在していなかった。
死ぬことは、神の御許へ行くことを許されること。そう信じていた芽依にとっては、自分が信じて祈りを捧げた神に会えるのだという期待だけがあった。
「これはこれは・・・突然の事にも関わらず、これほど落ち着いた魂は初めてじゃな」
「ほんとだねぇ。これは頼み込んだ甲斐があったねぇ」
「良い魂を送ってくださったみたいですね。彼の神には感謝せねば」
何も見えない真っ白な空間から、複数の声が聞こえる。老人の声から、子どものような声に若い女性の声・・・気配から今の声の持ち主以外にも、何人か居るような感じがする。
おかしい・・・私の望む神はただ一人・・・・・・あ、天使!天使たちの声!そうでしょ!!神の御許にはたくさんの天使がいるはず!
「いや、我らは皆神と呼ばれる存在じゃよ」
自分の頭の中の考えに応えるように、老人の声が前の方から聞こえた。
え・・・私は・・・#$%様の御許に召されたのでは・・・?
自分の敬愛する神の名を口にしたはず、いや正確には頭に思い浮かべたはずなのに、バグったように理解出来ない言語に置き換わる・・・そして悟った。
私の神はここには居ない・・・・・・
「そうじゃ。そなたには本当に申し訳ないと思っておる。じゃが、そなたの敬愛する彼の神こそが、そなたの魂を我らに送ってくださったのじゃ」
「君の考えている通り、君は18歳で死んだんだよぉ」
「信仰深い貴女が短い人生で幕を下ろしてしまったことに、彼の神は大変嘆いていました」
では、私がここにいるのは#$%様のお導きなのですね・・・
三人の神が話してくれる内容に失望もあったが、芽依はやっと合点がいったと一人納得した。
私は、生まれ変わるのでしょうか?
「そうだねぇ、そのつもりだよぉ。君が納得してくれればの話だけどねぇ」
「我々は、彼の神の世界から魂をひとつ譲ってくれるよう、ずっと頼み込んでいたのじゃ」
「彼の神はずっと悩んでおりましたが、やっと貴女の魂を我らの世界に送ることを了承してくださいました」
「そなたは彼の神の愛し子・・・手放さず自分の世界に輪廻転生させていたが、彼の神の世界ではどうあってもそなたの命は18歳までしか生きられなかったのじゃ」
「だからねぇ、僕たちの世界で沢山の出会いと経験をして欲しいってずっと言ってたよぉ」
「私たちの世界では、貴女に寿命はありません。そして貴女を弱き者にはいたしませんわ。なんの心配もなく、自由に私たちの世界を翔けることができます」
最後の女神の言葉に、芽依の思考がピタリと停止した。そしてジワジワと脳に浸透すかのように、言葉の意味を理解し始める。
なんだかすごい言葉を聞いた気がする・・・寿命が無いとかなんとか・・・いやまさか、新しい世界に転生するにしても、流石に不死身とかは無いでしょう。不死身って・・・普通の人間じゃないし!
「あ~・・・それなんじゃがな、そなたは人間に転生するのではないのじゃ」
・・・・・・え?
「君には『全能神』として転生してもらうよぉ」
・・・・・・は?
「神として私たちの世界の見回りをしていただきたいのです」
・・・・・・んん??
「あ、肉体はちゃんと人間族で作ってあるから心配しないでねぇ。骨格から作った僕の傑作だよぉ。ちょっとやそっとじゃ傷つかないし、壊れないし、何かあっても君の回復魔法で治っちゃうから大丈夫ぅ。もし心配ならメンテナンスもしてあげるよぉ」
「全能神じゃからな!我ら神々全ての力をそなたに授けてあるぞ」
「何の心配もなく、楽しい人生を送れると思いますよ」
聞き逃してはいけない単語がいくつかあったな・・・と芽依は思った。まず、『人間族』とは・・・『人間』ではなく『人間族』というからには、他の種族がいるということであろう。これに関しては他の動物、例えば哺乳類や爬虫類、昆虫といったものとの区別であろうと芽依も理解できると思ったが、問題はその後の言葉だった。
・・・・・・回復魔法?
回復魔法は文字通り、回復するための魔法であることは分かる。そのような代物がある世界とは、魔法のある異世界ということなのかと、生前にプレイしたゲームの数々を思い出していた。
ということは・・・『人間族』以外の人種もいるっていうこと?獣人とか、魔族とか・・・
「おぉ!さすが理解が早いのぉ。そうじゃ、そなたが考えている『異世界』と思って貰って間違いない」
「説明が楽で良いねぇ」
いやいや?獣人や魔族がいるってことは、魔物とかもいたりして、あまつさえ盗賊とかもいて襲われたり戦ったりするんじゃない・・・の?異世界って、良く戦争もしてるよね!?私・・・戦争の無い国にいたから、戦ったりできない・・・・・・
「言ったでしょう?貴女は不死身で、かつ全ての神の力を宿していると。経験がなくとも、スキルで身体はちゃんと動きます。貴女を傷つけることなど、並大抵のことでは出来ません。貴女は全能神なのですから、心配なんて何もありませんよ」
そ、そうデスカ・・・・・・
あまりのチート能力に、芽依の言葉がカタコトになる。それを知ってか知らぬか、神々たちは気にせず言葉を続けた。
「まぁ、僕たちとはちょこちょこ念話が出来るだろうから、心配しなくても良いよぉ。分からないことは聞いてくれれば良いし・・・って言っても、全知神の力も宿すから分からないことなんてそうそうないと思うけどねぇ」
「ふむ、そうじゃな」
「さあさあ、どうですか?全能神として、私たちとこの世界を見守ってみませんか?」
正直、芽依は異世界話しが大好きであった。ゲームでも小説でも、魔法の世界に憧れて良く読んだものである。それが今、現実に自分が体験できる。しかもケガや死の心配をせず、『強くてニューゲーム』が可能だなんて美味しい話しに、乗らないはずがない。
自分の愛する神様はここには居ないが、その神様が自分のためを思って導いてくれたこの世界・・・芽依は感謝してその幸運を受け取ろうと決めていた。
強くてニューゲーム、お願いします!!!
「良かったよぉ。ここまで来て嫌って言われたら、全力へこんでたよぉ。じゃあ、僕の最高傑作に魂を移すよぉ。あ、髪と目の色は選べるようにしてあるけど、何色が良い?」
突然のアバター設定に迷いはしたが、異世界でも自分の生前の特徴を残しておきたいと思った芽依は、黒髪と黒い目を希望した。
「あ~了解。黒髪黒目って、僕たちの世界じゃかなり珍しいけどねぇ・・・」
え、じゃあ目立つの嫌なんで違う色に・・・
「もう設定したから無理だねぇ」
は、早っ・・・・・・目立ちませんか?
「目立つとは思うけど、髪や瞳の色よりも、きっと貴女の旅が伝説になっちゃうでしょうから気にする必要は無いんじゃないかしら?」
で、伝説!?なにそれ!!目立たず、静かに生きていきたいんですが!
「神が世界を見回るのじゃ、事あるごとに伝説になるに決まっておる」
え、え・・・まって、まって私本当に目立ちたくな・・・
「はい、移魂術完了~」
とんでもない神々の発言に芽依が狼狽えていると、突然目の前の景色が変わった。
視界に入る景色は、緑と色とりどりの花が地を覆いつくし、その花びらが雪の様に絶えずひらひらと舞っている。
「・・・・・・凄い・・・綺麗」
自分の口から出た声にハッとした。鈴を鳴らす声とはこういうものかと思うような、耳に心地よい声色。それが自分の口から放たれているのに、違和感が全くない。
「あーあー」と声の出を確認していると、目の前に長い髭を蓄えた、背の高い「ザ・神」みたいな老人と、10歳程度に見える可愛い男の子、そして眩しいほどに美しい女性が立っていた。
「やぁ、肉体の方はどうかなぁ?何か違和感はある?」
男の子が自分に話しかけてくる。小首を傾げた動作がなんとも可愛らしく、自分の弟に欲しいと思うほどだ。
「違和感は無い・・・かな。まだ実感もあんまりないけど」
「ふむ、良いようじゃな」
「ええ、とても美しいわ。ようこそ、私たち神の庭に」
「まずは、他の神々とも会っておこうねぇ」
そう言って男の子が指さした先には、先ほどまでは無かった長テーブルと10脚の椅子が花畑にポツンと置かれていた。
週一くらいの更新になると思います。