第一章都市伝説 避難
こちらに流れてくる人ごみに逆流しながら、黒助の姿は見えなくなった。
「俺にどうしろと・・・。」
黒助の手にあった赤紙を奪い取ったのは怖かったからだ。
目の前で知っている顔が赤く染まって倒れる姿が。
人吉は黒助に頼まれた人々の避難と爆弾処理に取り掛かろうとしたが、
「人の流れ・・・これ、避難誘導とか無理だろ・・・。」
多くの人が一目散にこちら側に避難していた。皆が同じ方向に逃げているところを見るに、他の誰かが既に避難の誘導をしているのではないかと思われる。
人ごみに流されながら、目についた赤紙を浮かし、こっそりと人のいないところに飛ばしていく事が出来た。
なら、自分もこの流れで避難するか。
だが、知り合ったばかりとはいえ能力も持たない一般人が単身で爆発の中心に向かうのを止めるべきだったではないのか。人吉はどうも避難する気にはなれなかった。
「あぁぁ・・・くそっ!!」
人吉は意に決した。
「あーあー、すみません!!通らせてください!通らせてください!!すみません!!」
人ごみに逆流し、爆発の中心に向かう。
「お前、バカか!!邪魔だ!」
「退け!」
周りに異様な目で見られたり、ひどいように言われるが、所詮赤の他人で己の身が可愛い。
すぐに目もくれずに避難を続ける。
その逆流でなかなかに歩が進まない・・・。
「すみません!!通らせてください!すみません!!」
爆発の中心地でさらに大きな爆発が起きた。
この調子だと・・・間に合わない・・・。
「何してるの。」
「え?うわっ!!」
横から誰かに腕を引っ張られ、人ごみから木々の茂みの方に引きずり込まれた。
そこにいたのは・・・
「ザン!!?お前、大丈夫だったのか?」
「クロは?」
「・・・そうだよね、お前はそうだよね。」
黒助の指示を受け、人が多いところを中心に爆弾処理を任された斬だった。
ザンに特に変わった様子はなく、恐らく滞りなく処理出来たのだろう。
人吉と違い、爆弾を人がいないところに移動する処理法ではなく、物理的に消す能力を持ち合わせていたのだから当然といえば当然なのだろう。
「クロの言うとおりに人が多いところは全部、爆弾消した。人が逃げられるように逃げ道付近のものも消した。それでね、クロに褒めて貰うの。で、クロは?」
キラキラした目で斬は人吉に黒助の所在を尋ねた。
「あ・・・クロは俺に避難の誘導とかを頼んで・・・そのあっちの方に向かった・・・。」
人吉は恐る恐る黒助の向かった爆発の中心のほうに指さした。
すると、斬の表情は先ほどと打って変わった。
「なんで・・・なんで・・・。」
「わ、悪い!!暁霞さん、止めれば良かった!だから、今からでも・・・」
だが、違った。
「なんで、逃げなかったの!!なんで避難しなかったの!」
「・・・!!」
「クロ、避難の誘導を頼むは逃げて欲しいって意味・・・人吉に危ないところに行って欲しくないからそう言った!!」
それが黒助が人吉に頼んだ事。
「クロはいつもそう。自分がボロボロになっても、いつもいつも誰かの事を想って動く。誰も傷つかないように、誰も死なないように。だから、強いザンだけが・・・ザンだけがクロを護れれば良い。」
斬の目には涙が浮かんでいた。
そして、人吉に目もくれずに黒助の元に向かった。
つまり・・・
「中途半端な力だと・・・むしろ、その人を悲しませる結果になるってか。」
そうかもしれない。
だから、俺はあの時、あいつを護れなかったのか・・・。
「ようやく見つけた・・・。」
人吉の後ろに二つの影が立っていた。
「え?」
「手こずらせてくれる・・・。」
そこにいたのは、藍色の髪のポニーテールのスーツ姿の男とその部下がいた。