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カワミドリ  作者: 向井
第一章 都市伝説
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第一章都市伝説 その少年

十円玉。


表に平等院鳳凰堂が刻まれ、銅から作られた日本のコインである。側面がギザギザだった場合、何故かテンションが上がるものである。それが十円玉だ。


自分が知る限りの十円玉情報を出し、この状況の打開を試みるが・・・それが今の自分の全財産で事実は何一つ揺るがないのである。


高校生ほどのこの少年、百合虎(ゆりどら)人吉ひとよしはベンチに座りながら全財産を空に掲げながら、先ほどの自分の行為を後悔していた。


この人吉はある事を除いては、至って普通の環境で育った。平凡な家庭で少し無愛想な父と優しい母に育てられ、特に事件も起こる事のない日常の中でスクスク成長した。運良く周りに恵まれ、捻くれることなく名前の通りにお人好しになった。


ふとしたきっかけだった。その人の良さが災いし、先輩に誘われ、断ることも出来ずに彼は・・・裏社会に足を踏み入れてしまったのである。


そこでも人の良さから、裏社会に身を置きつつも下っ端でパシリのような事ばかりをし、血生臭い事と関わることはなかったのだが、つい数日前にその血生臭い事件を直接目の当たりにし・・・裏社会の恐怖を知った。


そして、人吉は次の命令が降る前に裏社会から足を洗った・・・というよりも組織から丸裸で逃げ出したのである。


このまま家に戻るのも良かったが、自分の事で苦労をかけた両親にこれ以上迷惑をかけたくなかった。


だから、そのまま各地を放浪している状況だ。


所持金も少なかったため、昨日と今日、まだ何かを口にしてない。


そんな中で辿りついた遊園地が隣接するこの大きな公園、身体を休めるためにそこにあったベンチに腰掛けた。


そして、そのベンチの向かい側に自販機があった。二日ほど何も口にしていない人吉にはそれはとんでもない誘惑だった。なんとか、稼げれる仕事にありつけるまで我慢する予定だったが・・・。


ぐぅぅーーーー。


お腹の方は我慢が限界だったようだ。


飲み物数本買うお金は残ってるはずだ。ポケットにあった小銭を出し、出来るだけ固形物のあるもの・・・つまりスープ系の物を選び買った。


だが、買ってから気づいた。


「え・・・?嘘?」


所持金を確認しようとポケットに手を入れたが、何もなかった。


チャリーンと自分のズボンの中から何かが落ちた。確認したら・・・それは十円玉だった。


すぐにこの事態を理解した。


これが今の自分の全財産で、ズボンに穴が開いているという事を。


だが・・・まぁまぁまぁまぁまぁ・・・落ち着けよ・・・俺・・・。


買ったスープの缶を握りしめながら、分かりやすく自分に問いかける人吉。


座っていたベンチに戻り、買った物を飲むことにしよう。腹の虫がいくらか落ち着けば、あとでいくらでも今後どうするか考えれるだろう。


そう自分を納得させ、缶を傾け口に流し込む。



「お母さん、なんか綺麗な折り紙が落ちてるよ。」


「こら、人が座ってるところに潜り込まないの!!すみません!!」



子供とは予測不可能の天才だ。


母と子の楽しそうな散歩から、果たして突如子供がこちらに向かうと思いきや自分の座っているところの下に潜り込むと誰が予測出来るのだろうか。



「だ、大丈夫です・・・。」



そう・・・この子に悪気はない。


それを責める事は自分には出来なかった。


何より・・・



「の、飲み物こぼしてますよ!」


「え、あ、はい・・・って、あっつ!!」



子供にかからなかっただけ良かった。いや、"かからないようにした上でバレなくて良かった"。



「じゃあねーお兄ちゃん!」



その子供は暢気に手を振りながら、もう片方の手にはベンチの下に潜り込んでまで取りたかったものなのか、赤い紙を持っていた。その後ろで母親が申し訳なさそうに頭を下げる。


そして、俺の元に残ったのはこぼれて空となった缶と十円のみとなった。


不運は重なる。



次の瞬間まで俺はその事実からも目を背けていた。








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