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私と物語。  作者: もげ汰
1/1

私の話。


――私は三重県のある小さな街に生まれた。

三重県なんて知名度も低くいし、伊勢神宮とか鈴鹿サーキットとか?

あんまりピンとくるような場所ではないかな。

私の住む街は山に川、田んぼに畑。

ウグイスにコオロギ。夏には蛍も見れる。

そんな田舎町のある夫婦の間に生まれた。


お父さんは高卒の柔道バカ。保険会社の仕事に就いて、持ち前の八方美人で頑張っていた。

お母さんは理学療法士。賢いけど頭は固い。

父方の爺ちゃんと婆ちゃんは商店街の真ん中で肉屋をやっていて、

母方の爺ちゃん婆ちゃんはパートで働いてた。


そんな中での第1子。初子供、初孫だのと愛でられ育てられた。


一見幸せそうな家族風景が見える。


――どうして私は壊れちゃったの?






いつからだったかな。私がお医者さんになりたいって言ったのは。

きっと、3歳くらい。

お母さんの上司のお医者さんに抱っこしてもらった後からかな。

やっぱり、お医者さんってお金も稼げるし、将来安定ってイメージしかない。

3歳の言うことをそのまま鵜呑みにするのもどうかとは思うけど、

お医者さんになりなさいって3歳から言われ続けることになった。


長女である私は、親にも祖母にもビックになるよう期待されていた。

やりたいと言ったことはさせてもらえたし、

やったほうがいいと親が思ったものはやった。

ピアノに習字、空手に塾、詩吟にお茶やお花。

小学生の頃から友達と遊ぶ暇なんてほとんどなかった。


いつからか、その習い事も、お医者さんになってほしいって言われるその期待も嫌になっていた。

勉強しなさい。成績はどうだったの。

遊んでばっかりでお前はアホや。

毎日毎日同じことを言われる。

でも、お父さんとお母さんに期待されていることが分かっている分、

嫌だからやめる。なんてことも言えなくて。


そしてさ、やめるって言えなかった理由がもう一つあって。


お父さんがDV男だったってこと。


怒らせたらとんでもなく怖い。

ビンタで済めばラッキー。

お風呂に投げ込まれたり、山に捨てられたり、灰皿が飛んできたり、髪の毛つかまれて引きずられたり…


思い出せば恐怖の表情。

血走ってひん剥かれた目が脳裏をよぎる。

いい子でいなくちゃ。いい子でいなくちゃ。


そしてさらに、仕事に行かなくなったお父さんは家で寝てばっかり。

トイレに行く時か、遊びに行く時しかベッドを離れず、

おい。なんか持ってこい。と指図される毎日。

タバコ臭い寝室。そこにお父さんと2人でいる時なんか、いつ何をされるのか、

ハラハラドキドキした時間を過ごしていた。


そんなことを考えて過ごしてきた私は自分のことを出せない人間に育ってしまった。


いつしか私が小学6年生になる頃には5人兄弟になっていた。

弟が3人、妹が1人。

全く、親も頑張ったもんだ。


お姉ちゃんだからって我慢すること沢山あった。

お姉ちゃんだからって何でも擦り付けられた。

兄弟が可愛くないわけじゃないけど、何で私ばっかりって思うことも多かった。


そして、私は小学生から中学生へと成長。

勉強は中の上。

やる気のない人間が伸びるはずもなく中学受験失敗。

お察しの通り、怒られ、蔑まれ、ボコボコにされた。


しかし、懲りない両親。

中学受験がダメなら高校受験だと、またまた期待を膨らませる。

小学校同様、高いお金を払って進学塾へと通う。

部活は剣道部に入っていた。理由は特にないけど、強くなれるかなって思った。


1年生からレギュラーへ。

初心者の割に市の大会などで賞をもらえるほどになり、熱中した。

私の中では勉強なんてどうでもよかった。

しかし、その本音は親に届くことはなく、ただただ自分自身の中に押し殺していた。


部活ではキャプテンになった。後輩はたくさん入ってくれたけど、

言うことを聞いてくれない反抗的な子達が多かった。

みんなで部活を頑張っていきたいと思う私VS趣味感覚に部活を楽しみたい後輩

どちらが正しいわけでもないが、私は自分の意見が譲れず、生意気な後輩たちだとばかり考えていた。


クラスメイトからのイジメもあった。

それは、私が太っているから。

ブス。デブ。キモい。


更には担任の先生から無視をくらうこともあって、

私は、学校からいらない存在なんだなって思った時もあった。


確かに恋愛は楽しんだ。

他校の剣道部の子と何人か付き合った。

友達がいない割に、男とは付き合うため、ヤリマンと呼ばれるようになった。


中学3年生。進路を考えていかなくてはならない。部活も引退。


まあ、だからといって勉強したわけではない。

勉強していると見せかけ、やっとできた不登校のヤンキー的な友達仲良くなって、

その子の家に遊びに行っていた。


その子にはピアスを教えてもらった。リストカットもそこで覚えた。

自分の傷口からにじみ出てくるその赤が、とても綺麗に思えて、

傷口に走るジリジリとした痛みが心地よく感じて。

あぁ、自分って生きているんだなと感じるようになった。


さあさあ、高校受験。

公立高校に合格してほしいと願う親と、そんなことどうでもいい私。

結局レベルの高い公立高校は受かるはずもなく、滑り止めの私立高校へ。


それも、進学コースのちょっと頭のいいクラス。

部活はやっぱり剣道部にはいった。

顧問の先生が全国レベルの先生だったために、毎週末遠征に行くなどハードだった。

勉強より部活。成績は下がる一方。

クラス内順位下層であることが続き、補修になったり、親からの雷を受けたり。


部活でも、後輩が入ってくるけど、全国レベルの先生のもとにやってくるのは

小さなころから道場に通って、今までに名前を残してきている子達ばかり。

自分の実力じゃ到底追いつけない。

勉強も、剣道も中途半端。

全部中途半端。


何にもできない自分に腹が立つ。


高校は部活も遅くまでやってるし、私立ということもあって金銭的に塾はやめ。

帰ってご飯食べて、お風呂入って寝る。その繰り返し。

進学コースならではの大学受験に向かう本気な空気。


大学受験なんぞ私にはどうでもいい。そう思ってはいるが口には出せない。

親は、まだ私が医者になりたいと思っているのかと私は呆れ気味。


思い切って、「医者とか無理、なりたいと思っていない。」と反抗してみる。

お母さんは、今までのお金は、私の頑張りは何だったの。と喚き散らす。

お父さんは、自分は仕事にも行ってないクセして、アホか。と怒鳴り散らす。


結局ごめんなさい。ごめんなさいと私が平謝り。


将来の夢とか、なりたいものとか。

憧れているものはあっても、鼻で笑われるだけ。金銭的に私立大学には行けないだろうと何も踏み出すことなく諦めた。


そこでお母さんから一つ提案。

「看護師なんてどう?」


看護師なら、結婚して子供ができても再就職がいくらでもある。

給料もその辺でOLとかするよりは全然いいし。

しかも、奨学金が借りれるから学校も安くいけるし、3年間奨学金をかりた病院で働けばお金を返さなくてもいい。と。


正味高卒でもなんとかなるか。と思っていた私にはどうでもいいことであったが、

偏差値とやらを見れば、このまま勉強せずに私でも行けそうな学校がいくつかある。

じゃあ調べてみます。ということで、母方の婆ちゃんが住む家のすぐ近くの学校を受験することに。


通っている3年間は婆ちゃんの家に居候だってできるし。と私にとっての甘い誘惑。

そうしたら、親の元から離れて生活できる。それが私にとっての一番の決め手だった。


受験はスムーズに進んだ。

特に勉強するわけでもなく、願書なんかも適当に小さな頃の病院での思い出話を書いて綴った。

筆記試験も面接も、特に頑張ることなく過ぎた。


合格発表は18歳の誕生日だった。

合格通知が届き、当時付き合っていた彼氏と高校生らしくお祝いした。

嬉しいかどうかと聞かれると、何とも言えない。

しかし、合格して悪い気のする人はいないだろう。


数日して奨学金の面接に行った。

お母さんの勤めている病院の系列で、半分コネのような感じで合格した。


こうして私の6年後までの人生が決まった。

3年間の看護学生生活と、3年間の病院でのお勤め。


晴れて合格した私は、勉強なんかおさらばと言わんばかりに遊んだ。

こんなに毎日遊んだのは初めてかもしれない。

バイトも学校に内緒で始めた。

自分が一度に手にしたことのない給料にびっくりしたり、バイト先の先輩とも仲良くなった。

楽しかった。


高校の卒業式。

みんなは泣いているかもしれないけれど、私はそうでもなかった。

だって、これから親とおさらば、新しい生活が始まるとワクワクしていたから。


高校卒業と同時に引っ越すからという理由でバイトもやめた。

母方の婆ちゃんは、爺ちゃんが先に逝ってしまったため広い家に一人暮らし。

空き部屋もいくつかあり、一番広い部屋を自分の部屋にした。


兄弟が多く、自分の家では一人部屋が持てなかった分、嬉しくて仕方なくて

女の子感満載の可愛い部屋へと作り替えた。


専門学校へと入学しても、まだ彼氏とは続いていた。

彼氏は整体の専門学校。私は看護の専門学校。

お互い新しいバイトも初めてお金もあり、休みの日にはご飯に行ったりして遊んでいた。


看護学生の授業はクソつまらなかった。

文化人類学?それ、いるんですか。

とりあえず、怖くない先生の時は寝ちぎった。

起立、礼、おやすみなさい。的な感じで。

テストも再試験まみれだった。


私は時給がいいからとパチンコ屋でバイトをしていた。

カチカチうるさいパチンコ玉の音も、

何を話しているかわからないインカムのみんなの声も次第に慣れた。


とやかく文句をつけてくる客も、モクモクとしたタバコの煙も平気。

忙しくて走り回って、汗をかいた後、360mlのカルピスソーダを一気飲みするのが私の楽しみだった。

働いた分給料が増え、私の口座には高校生の頃なんて比ではない位の大金が振り込まれる。


そして、周りのスタッフにも影響され、パチンコとタバコを覚えた。


しばらくして、車の免許を取ろうと思い、専門1年生の時に合宿免許へと行った。

安いところがいいと思い、三重から遥々山形まで一人で行った。


ちょうど同じ日から入った女の子が3人いて、泊まるホテルも一緒だったため仲良くなった。

門限がないホテルだったため、バイクの免許を取りに来ていた男の子たちも誘って、

夜中にタバコやらお酒やら花火やらを調達し、ホテル横の川で遊んだ。


ワンピースのまま川に飛び込んだり、お酒の一気飲み。

悪いことを覚えてしまったなと内心思いながらも、なんて楽しいんだろうとその場を楽しんだ。


車校の授業がない時間は、備え付けの卓球をして遊んだ。

卓球初心者の私も、卓球部の子に教わりながら、それなりに試合ができるまでに上達した。

夜は男の子を部屋に呼んでお楽しみをしたこともあった。


そんなこんなしながらも、無事仮免許は取れた。

2週間でこんなに楽しんでとれるなら、申し分ない。

ついでに、山形弁も覚えたりして、んだ。んだ。とか言ってみたりしていた。


三重県に戻り、残りの夏休みをバイトで潰す。

遅番でバイトをしていたため、帰りは遅い。

しかも、バイト先のある場所は少し栄えており、少し道を中に入ればネオン街がある。


ある日の帰り道、道端にスーツのお兄さん。

「こんばんは。どこいくの?」と。

こいつはもしかするとやばい世界の人間ではないかと無視して歩く。

お兄さんは諦めず付いてくる。


もう何ですかと私が振り向くと、にっこりと微笑む。

「バイトしない?」と一言。

きっと夜のお仕事だと察する私。

少しだけ興味があった。


お店について少し話を聞いた。

でも私が思っていたのはキャバ嬢。風俗ではない。

しかし、お兄さん曰くキャンパブと呼ばれるお店があると。


なんだかよわからないけど、夜の仕事に興味があった私は、

殺されなかったらOKだろうという大雑把な考えでついていく。


細い道を抜けると、小さな頃いとこ達と連れてきてもらった公園。

そこは、夜になるとネオン街になっているということに初めて気づかされた。

公園の噴水は、ネオンの光を反射してとても幻想的であった。


子供の時に見た世界と、大人になってから見る世界。

私は、自分が大人になったのだと感じ喜びと興奮を覚えた。


公園の真ん前にその店はあった。

公園の端には昔から交番がある。何かあればすぐそこだ。逃げればいい。

お兄さんに連れられ、店の中に。


独特な臭いのする店内は、薄暗く、天井には天の川を連想させる照明の施しがあった。

奥の部屋へと案内され、扉を開けると、タバコとイソジンの臭いが混じった空気が鼻を駆け巡る。

そこには、タイトスカートのお姉さん?おばさん?という感じの女の人たちが数人。

確かに私と同じくらいの子も、セーラー服などを着て座っていた。


どうも~と愛想笑いをされ、釣られて返す。

女たちの溜まり場なだけあって、ギクシャクした妙な空気が流れているように感じる。


お兄さんは、私を今日から入る新人さんと紹介する。

見上げた私の?マークのついた顔をみて、またニヤっとした。


グッと息の詰まる感じがする。

唾液が喉の奥に溜まって、絡んで、声も出ない。


挨拶だけ終えると、社長さんの座るような立派な椅子の置いてある部屋へ案内される。

そそくさと私の前に準備される契約書とペン。

もうどうにでもなれと、腹をくくった私はペンを滑らせる。


契約完了。


私は夜の人間としてデビューした。


さあ、仕事というわけにはいかないようで、

初めに研修があった。

客を相手にする手順など、事細かく説明され、スタッフに対して言われたように実践する。


自分の身体なんて別に売っても問題ない。

若いし大丈夫。

人気が出たら稼げるし。


なんて考えながら、研修も終え、仕事開始となる。


新人の子は、稼げるということを覚えさせるために、

指名を持っていない客は優先的に相手させる。

45分のお仕事に対しての給料は3600円。

時給で考えたら高いとしか、私には考えられなかった。


パチンコ屋のバイトをして、夜のお店でも働いて。

私の毎日はとても忙しく、なぜか充実していた。


きっとそれは、誰かに必要としてもらっていたから。

私の居場所があることがうれしかった。


そんなことをしていると、彼氏に構う時間はどんどん減っていった。

彼氏に対しての感情も薄れ、連絡もほとんどとらなくなった。


私は、それなりに夜の店では売れた。

指名の客もどんどん付き、延長なども取れるようになった。

男はお金としか見れていない。そんな状態だった。


さらに、お店の女の子と仲良くなると、

このビルの3階はホストだということを教えられる。

最初は3000円の飲み放題だし、奢ってあげるから。

お酒の好きな私には、ただで飲み放題という素敵な話だった。


先輩からということもあり、2つ返事でOKした。

ホストなんて色恋なんだし、絶対はまらない。そんな自信があった。


うちのお店が閉店する時間、上の階への階段がネオンの輝きに染まる。

夜はこれからと言わんばかりの深夜2時。


先輩の女の子に連れられ、キラキラの扉をくぐると

にぎやかなお出迎えのコール。

先輩の後ろに隠れて、店内を見渡す。

金髪、赤髪、緑髪、青髪…

なんだかカラフルなモリモリ頭のお兄さんたりが盛り上がっている。


鏡で包まれた店内に、美しいシャンデリア。

お洒落な音楽が爆音で流れている。


すでに席に座っている女の子たちも、きっと夜の仕事をしているであろう派手さ。

茶髪のボブでただただスキニーを履いている私は場違いなのではないかと

一瞬恐縮になる。


案内された席はど真ん中。

既にお気に入りのいる先輩は、昨日ぶりといった感じに

とんとん拍子に注文する。

どうやら、新規の女の子を連れてくると自分も3000円で飲み放題になるシステムのようだ。


私はいわゆる、一般的にかっこいい男の子があまり好きではない。

確かに、かっこいいとは思うが、やはり釣り合わないと思う気持ちが強く出るからだろう。


目の前に座るのは、ホストというイメージをそのまま3次元に持ってきたようなホストたち。

じゃんけんやゲームなどと称して女の子にお酒を飲ませる。


私は、案外お酒は強いほうで、酔っぱらったことはない。

記憶がなくなったことも、潰れて寝てしまったこともない。

だからの自信もあり、ホストと正面から張り合う。


あれ、楽しい。


これぞ、罠にかかった瞬間。


普段飲み会なんてまずしないし、未成年ということもあり外では公に飲めなかった。

家飲みしたところで、私より強い子なんていなかった。

そのため、こうして真っ向勝負のできる相手が沢山いることに魅力を感じた。


そして、ふとしたある時。

隣の先輩がトイレでいない時に、初めてホストが私の隣に座った。


デカい。横に。

ホストなんだけど、ホストじゃないみたいな。

なんだろう。飛べない豚的な感じ。


すっと私の横に座ったホストは、手品してあげると、

私の中指から安物の指輪を抜き去る。

指輪が消えてなくなって、また出てくるといった、ありきたりな手品。

私の目を見てクシャっと笑ったその顔が印象的だった。


また、誘われたら次はこの人を指名してみよう。

いつの間にか、次があることを考えてしまっていた。


その子のトークは面白かった。

タバコが一緒っていう話から始まって…なんだったかな。

私お酒全然飲めるのに、初めて来た子に無茶ぶりするなとか言って

自分が代わりに飲んでべろべろになったり。


朝まで飲んだ。

もう外は明るくなる時間だった。

帰るとき、お気に入りのホストが外までお見送りをしてくれるようで、

恋しちゃった乙女みたいに、恥ずかしがりながら彼を指名した。


初めて来て、お見送り頼まれたのは初めて!と嬉しそうに話してくる。

この見た目なら、他にかっこいい人が多すぎて本当のことなのかもしれないけれど

所詮はホスト。きっと嘘だろうとか考えてしまう自分もいた。


しかし、帰りにキスをするという謎の儀式があるようで、

お酒の入った勢いと、周りからのはやし立てもあり、

まぶしい朝日の反射する早朝の公園前で大胆にもキスをした。


心臓が躍った。

ただの小鳥キッス。

でも、その一瞬がとても長くディープな時間に感じた。


ちゃっかりLINEも交換し、

また来てねと振られる手に、もっと大きく手を振る。


彼の連絡はマメだった。

しかし、お店に来てほしいとは言わない。

「会いたい。」と言うだけ。


こいつ上手いな~とか思いながらも、

返信している私の顔は緩みまくっている。


ふと気づいた。私、彼氏はどうしたのだと。

LINEも電話も無視し、向こうからは連絡が来なくなっていた。

溜まっているLINEを既読する。

「どうして返さんの?」

「俺ら別れるの?」

そんな文が約300件。

電話もトータルすれば200件くらいあったかもしれない。


「別れよう」


淡々とした一文。

既読は秒でついた。

電話が鳴る。

出たくないけど、出ないと終わらない。


震えた声で「もしもし」と聞こえる。

追い打ちをかけるように、もう一度「別れよう」と言い放つ。

涙ぐむ声。

涙もろい私はなぜか移ってしまいそう。


「最後にもう一回会わせて。」


ふり絞った声は、聞こえるか聞こえないかのボリューム。

高2からの付き合いだ。

思い出だってある。


別に私だって、嫌いになったわけじゃない。

何とも思わなくなっただけ。


彼氏と最後の会う約束をした。


出会いがあったら、別れもあるし。

永遠なんて正味ないと思ってる。

いつだって、結婚するつもりで付き合って、愛するけれど

絶対にそれが上手くいくばっかりでもない。

だから、きっとこの選択も間違いではないし、

私も彼氏も今は、あーだこーだ言うけれど、

知らないうちに時間に解決されて、また新しい人生を見つけるに決まってる。


そんな悟りを心の中で開き、

この恋はもう終わりと、自分の中で終止符を打った。




1度は劇的な売れっ子の私も、そう毎日毎日と客を呼ぶことはできない。

指名のない客が来るのも1日数名。

来た時から知ってた。

この店は別に人気とかそんなんじゃないって。


だからといって、特に落ち込むことはない。

パチンコ屋もまだ続けているし、貯金だってある。

30万くらいだけど。


久しぶりに先輩にホストへと誘われる。

もちろん2つ返事で返す。

ニヤニヤの止まらない顔で「今日行くね!」とLINEする。


とっても喜んでいますと言わんばかりの、大げさなリアクションスタンプが3連発。

思わずプっと笑ってしまった。


お店の閉店が待ち遠しかった。

私が来るのが分かっていた彼は、お店に入った真ん前にてスタンバイ。


「ご指名は?」と本人に聞かれ赤面。

小さな声でボソボソと彼を指名する。

私の声の100倍の音量で、周りのホストが彼の名前を叫ぶ。


先輩も続けてご指名。

高らかに名前が叫ばれ私たちは席に着く。

前回とは違う門の席。

座るとはわかっていても隣に座られるとどうしても緊張してしまう乙女心。


他のホストは、どうやら私が彼をだいぶ気に入っていることがわかっているようで、

小学生のように冷やかしてくる。

でも、こうやって冷やかされたりもすることなく大人びてしまった私には

ちょっぴり新鮮な気もした。


お触りは店長に怒られるからということで、

こっそりテーブル下で手をつないだり、

店長の目を盗んでお腹の肉の摘み合いなどをして遊んだ。


「好きやで。」と言ってくるその言葉が、本当でも嘘でも

私には恋愛ごっこをしているみたいで楽しかった。


その日の営業が終わり、またまた朝日が昇っている。

帰り際に、ミーティングが終わったら会おうと小声で言われ、

テンションはMAXとなる。


5時に営業が終わり、まだかまだかとネットカフェにて待ち続けた11時頃。

「遅くなったごめん!今どこ?」と連絡が来た。

待ってましたと速やかに精算し店を出る。


私のバイト先のパチンコ屋前。

彼の乗っているスカイブルーの車がお出迎え。

あれ、飲んでたよな?と言いかけた私に6時間経ったからOKとドヤ顔。

私は、法律がどんなんだか知りません。


向かった先は、まあ期待を裏切らないラブホテル。

広いベッドでもデブが2人乗ればそれなりに普通のベッド。

大丈夫といった割に、吐息はアルコールの香り。


酔ってんだか酔ってないんだか。

交じり合ってしまえば、もうそんなことはどうでもいいわけで。

ホストと風俗嬢のニセコイが始まったわけです。


事が済めば、爆睡タイム。

我が父のようなボリューミーなイビキが繰り広げられる。

なんだかんだ、父親に似たような豪快な男が好みなのだろうか。と若干反省する。


ひと眠り、ふた眠りとして、お時間は夕方の17時。

お急ぎでシャワーを浴び、軽自動車をかっ飛ばしてお互いの仕事へと向かった。


またまた、数日が経った日曜日。

今日はこの前約束した彼氏との約束の日。

待ち合わせは駅の前。


夏の終わりにしては暑すぎる灼熱の太陽の下

日焼けも気にせず私は到着の列車を待っていた。


この列車だ。

ガタンゴトン、キィィィィィっと耳の痛くなる音を立てて停車する。

見覚えのある、ちょっと懐かしい立ち姿が目に映る。


久しぶりの会釈をお互いに交わす。

なぜか不慣れな挨拶を終え、本題へと移る。

変わらない肌の黒さに、長いまつげがしっとり揺れる。


「言わんといて。わかっとるから。」

そう言ってこらえた涙があふれて崩れた彼氏。

ごめんねって言おうとしたけど、それは違う気がして黙ってた。


風俗のことも全部話した。

それでも私が好きとか、ただただ青いな。


こんな涙も、しょっぱい味も

1度は忘れて、また懐かしいくらいの頃に新鮮に思い出すんだろうな。




夏休みも明け、専門学生ライフが再開。

いわゆる2学期とやらは初めての実習が控えている。



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