a1-03 = 空気は冷える
「中佐、作戦区域上空です。」
操縦士が伝える。
なんとこのヘリ、中佐と操縦士しか乗っていない。
乗せようと思えば、小隊くらい乗せられそうなヘリに…だ。
嫌な予感がして、窓の外を見る。
先程まで護衛をしていた、二機のヘリが消えている。
つまりこの作戦区域内は、護衛任務外なのだ。
「おいイェッケルン、今回の“異能”はデータ少ないのか?」
「私が現場に来ているのよ?」
「俺達は降りないのか?」
んー?とイェッケルンは、分からない顔をして答える。
「降りるわよ?」
イェッケルンにパラシュートを手渡される。
ちょっと待てここ何フィートだ?
「約750フィートほどです。」
操縦士が答える。
「………は?」
「あなた上でなんて呼ばれてるのか知ってる?」
「…おい高度を上げろ、幾ら何でも低す」
「…不死身よ。」
とんと身体を押され、足元の感覚が消えた。
ジジジと音がしたあと耳元のイヤホンから声が聴こえる。
「すぐ開いちゃダメよ?ターゲットだけど、目は良いみたいだから、すぐ開くとバレちゃうわ」
「殺す気か!」
「…なんで低空飛行にしたのか考える頭はないのかしら?」
「クソが!」
夜闇の空中で空気という壁を、見えない大きな抵抗を、全身で受け止める。
もっと高所なら気持ち良いのかもしれないが、気分は最悪だった。
どんどんと近づいてくる地表、もう開かないと不味いと感じ精一杯叫ぶ。
「おいッ!!イェッケルンッ!!」
「うるさいわね聞こえるわよ!…今よ!開きなさい!……っていうか貴方、もう少し静かに喋れないの!?」
パラシュートが開き、ぐうんと後ろへ引き寄せられる。
地上からの高さは150フィートにも満たない。
予想通り勢いを殺しきれずに、樹海の中の一際高い木々に盛大にぶつかっていく。
接触する直前に、木の表面を蹴り力を逸らすが…そうそう上手くいくはずもなく。
バキバキバキバキ
このまま死ねれば運が良いのだが、悪運だけは強いこの肉体は、全身殴打という痛みによって意識を取り戻す
「…ってぇ。」
木々に上手く絡まったようで、所々打ち付けたが動くことは出来るらしい。
そのまま地面に立つ。
「…無事着いたみたいね。気分はどうかしら?」
「…後で絶対に殺してやるからな。」
「目標はその場所より、南東1キロ地点に潜んでいる確率が高い。大尉、健闘を祈る。」
「…無視かよ。」
痛む全身に鞭を打って、俺はその地点へと走り出した。