a1-01 = 暗い朝のはじまり
2時くらいだっただろうか。
辺りに音がないもんだから、カチカチとなる置き時計がやけに気になった。
ざっざっざっざっと砂利を踏みしめる音が聞こえてきた。
三人といったところか。
警戒してない足取りだ。
俺はランタンの光を強くして立ち上がった。
ドアへと向かうためだ。
時代は電気が主流だってのに、なんでわざわざガスなんかってのが配属されてから続く文句だ。
ギィ…
余り丈夫とは言えない木の扉だ。
大の男が入るには少し狭い。
薄いから風が強い日はガタガタと音も出る。
ドアの外で待っていたのは、いつもの三人。わざわざ光を掲げなくてもわかる。
「入れ。」
俺は三人を招く。
三人は無言で頷き家の中へと招く。
「で、何かあったか?。」
そこまで大きくない木製の丸机に皆が腰掛けるのを見届けると、俺は聞いた。
「はっ“脱走者”が発生したとのことです。」
俺らで一番若くて階級が低い奴が答える。
軍服も真新しく、まだまだ初々しさが抜けない。
「“脱走者”か…。」
ふむ。
「…“組織”の方はどうなってる?」
「はっ。今回は一切の不関与とのことです。」
「そういう事じゃない。」
見た事がないやつはいつだって、そう考えるよなあ。
タバコが吸いたくなる。
隣のやつにライターを貰う。
「して、どういう事でありますか?」
未だに分かっていなさそうな顔をする若人。
「“組織”は人を出すのか。出さないのかって聞いてんだ。」
「はっ“組織”は“現場に任せる”との事です。」
「はぁ…やっぱそうだよなあ。」
思わずため息が出る。
その様子が不思議だったのか新兵が尋ねてきた。
「お言葉ですが大尉、“脱走者”はEランクでそれも一人との事です。我らには第1種火器装備の使用が許可されていますし、作戦には12から14区画までの中隊全てで臨む模様です。そこまで気負うほどの事でしょうか?」
チッ
「おい今。12から14までって言ったか?」
「はっ…そのように発言しておりました。」
俺の様子にようやく感づいたのか、少し勢いがなくなる若人。
「お前、死にたくなければこの話は聞かなかった事にしろ。この天気だ、最悪命令の通達に不備があってもなんとかなる。」
「え?…何故でありますか?」
「これは作戦でもなんでもないからだ。」
今まで黙っていた隣の奴が喋り出す。
「“脱走者”の状態は問わないという主旨ならば、まず間違いなく我々は捨て駒だ。」
「これは誰の立案だ?イェッケルンか?」
俺も口を挟む
「はっ……イェッケルン中佐が指揮を執る事です。」
上官を呼び捨てだなんて運が悪ければ軍法会議にでもかけられるところだが、場所が場所なだけにそれは起こらない。
「ダメだダメだ。これは降りろ。お前ら行方をくらますぞ。」
ざあっと立ち上がる俺たち。
青ざめた新兵だけが座っている。
「何故でありますか?バレれば厳罰どころの騒ぎじゃなくなりますよ?」
「死ぬにしてもな。もっとちゃんと死にたいんだよ。」
俺はランタンの火を消す。
だけどあんまし都合よく、世界は回ってくれねえんだよな。
「うーん。やっぱり作戦には出てもらわないと困るかなー。」
ドアが急に開け放たれ。
若い女の声が響く。
月光なんて無いのにその後光があるって事は。
「…イェッケルン中佐。」
そう。本人が現れてしまった。
ゲームオーバー。
既に家の周りは包囲されていた。