こんにちは、異世界
ザック、ザックと膝の中ほどま積もった雪のなかを突き進む。足先が冷たすぎる!
「おかえりやす」優雅な所作で出迎えてくれる白無垢。
ちょっと、ちょっとだけ、ホッとした。
「は、はは、ただいま……」
膝はガクガク。声は震えて、鼻はズビズビだ。
寒みぃ……!
白無垢と合流し安心し……。
いや、落ち着きを取り戻し霧の先へ関心が向く。
なんだか分からん場所にいると白無垢が言っていたな?
そして、濃霧と降雪が発生する以前とは、様子が違う周辺環境。
まったく見えないし、確かめようがないけど。
……ちょっとだけ正門の先へいってみようかな?
すぐ引き返せるし。
正門前から少し先へ踏み出していく。
しかし、あるはずの石畳を踏むことはなかった。
うん?感触が違うな。
足を上げて見ると、見慣れない動植物を雪の下で踏みしめていたようだ。
あれぇ?
幾らど田舎とはいえど。
ここまで自然が浸蝕するほど荒廃した道は村落中にはないと思うんだが。
少なくとも、うちの前の公道はそうだ。
ひび割れたアスファルトがあるだけ。
石畳も管理されていて、雑草などなかったように思う。
ライトを掲げ、石畳があっただろう場所を前進する。
竹林や山林に囲まれていたはずの家屋。
その周囲にそれらは見る影もなかった。
霧が揺蕩い、しんしんと雪がおりてきてるだけ……。
やはり、雪の下を植物が覆っている。先へ続いているようだ。
時折、途切れた霧の先には竹林……ではないな?なんだろう?
目を凝らす。
頭と感情が剥離し、かつてあったものの面影を探してしまう。
しかし、それらはなかった。
そこには開墾された平地ではなく、緩い勾配の雪原と雪に覆われた岩礁が点在していた。
さららにその先。岳が雲海を突き抜け、嶮山の影が霧雪の向こうに見える。
俺はそれらを見下ろせる頂に立っているようだった。
ようやく理解する。
俺は実家の武家屋敷ごと異世界に転移したのだ。
といっても、霧の隙間。
ライトのおかげで確保できた有視界内の景色。
晴れ間ゆえのひと時の光景。
しかし、それでも、この世界が俺のいた世界じゃない。
そう、認識するのに十分だった。
濡れた手袋もどきで、再び目をこすりそうになるのを堪える。
嘘じゃん……。
口を開け、ポカンとする。
その間にも霧が揺蕩い景色を覆い隠してしまった。
あとには、しんしんと雪が降るだけ。
まじかよ……
ええっと、神域?幽世?
俺は今、そこにいる!?
いやいや。
白無垢の言葉が現実味が増したとはいえ、到底、信じられないんですけど?
でも、暖かな春先も。
耕作地の新緑の絨毯も。
カラカラと揺れる竹林も。
夜なら村落の家々の明かり一つない。
ここら一帯からなくなってしまった。俺の実家の敷地を除いては。
茫然と混乱したまま正門前で立ち尽くすだけ。
てか、よく見回り出来たな……。
声を張り上げてたし、変な気配するなかで。
我がことながら正気の沙汰じゃない。
あの気配の先にいた黒い裸足の奴。しかも、裸足って。
奴は俺が霧の先、雪原の向こうからよんでしまったんじゃ……。
がきんちょを呼んでいたはずが、
あいつへ、ここにいますよっ。
て言ってるいるよなもだよな?
怖ッ!
背中に怖気が走る。
白無垢だって人間かどうかますます怪しいのに……。
異世界の第1村人はとってもシャイで、気配だけをお届けしてくる。
今もその辺にいるかもしれない。
不本意だが、白無垢に頼る他ない。
現状に対して、助言してくれそうな人が近くにいる幸運。
今の事態は確実に、凶運のせいなんだろうけど……。
幸いな事に、俺に対して好意的に接してくれている。
白無垢の感じからするに彼女にとっても不測の事態らしいし。
協力できるかもしれない。
それに、この状況下で人外ならただの人間の俺より頼りになるだろう。
てことで前向きに考えていこう、前向きに。
振り返ると、白無垢が佇んでいた。
一瞬、ビクっとなる。ああ、そう言えばいたんだった。
「先に家に…上がっていてもらっていても…良かったんですが……」
「ふふ、家人を差し置いて休んでるわけにも行きまへんやろ? うちの子を気にかけてくれはってるのなら、なおさらどす。」
そう言うと艶然と微笑む白無垢。顔を覆うこともなく、自然体で応対してくれる。
裾を慎ましくたくし上げ、草履でここまで来たようだ。
やはり、何ともならしい。俺はガクブルなのに。
「そうですか」
頭の後ろを掻く。
「へぇ、かまへんどす」
笑みを絶やさない白無垢に若干、戸惑う。
やはり、がきんちょは無事なのだろうか?
安否は分からないが。ここにはいないんだろう。
敷地外周や、ここまでの間に二人分の足跡以外ないんだから。
そう、二人分の足跡以外は……。
春先だったはずなのに未知の雪原。かもしれない。
そこに足を延ばすのは晴れていても躊躇ってしまう。
未知という空白に不安を覚え、後ろ髪を引かれながら、踵を返す。
「じゃ、行きましょうか」
こくん、と頷き俺の後ろに付き従った。
あれ? 慣れてくれたのは気のせいかな?
さっきまでの自然対はどこへ……?
振り返ってみると、草履で歩くのが目に見て大変そうだ。
可愛く「うぅ」と呻きながら目を細め「ま、まっておくれやすぅ……」と、
雪面とライトを交互に確かめながら、足跡を辿っている様子。
「なぜ、きたんですか……」
「しんぱいだったさかいに……」
と、やっとこさ傍までくると、コートの袖を摘まんでくる。
「これで、安心どすッ」
もう逃がすことはあるまい? 的な感じかな?
しかたない。このままいくか。
ゆっくり歩み出す。雪を蹴散らし、踏み固めながら歩く。
「くふふ」
と、後ろで笑っている。こえぇ……。
と、そうだ。
最低限必要なもの運んでしまった方がいいな。
問題が山積しているとはいえ。
がきんちょの憂いが晴れたかもしれないことに若干、気が軽くなった。
足跡を辿る様に、雪のなか正門に戻る。静寂の中、俺たちの雪を踏みしめる音だけが聞こえる。
そういえば、転んでいたところを見られてたいのだろうか?
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