仙桃
てか、客間ってどこなんだろう?
こういう家では床の間とかいうのかな?
ああ、いや。屋内は埃かぶって通せる状態じゃないな。
「すみません。まだ、部屋きたないんで、縁側でもいいですか?」
「へぇ、かまへんどす」
ゆったりとした抑揚で答える。
垣根に備え付けれた簡素な屋根のついた扉をあけ、
手で先ほどいた縁側を指さしてやる。
白無垢の背中を見送り、荷物の山に向かった。
やっぱ、縁側の床に直に座らすのは失礼だろう。
レイヤーとはいえ招く以上、客人だ。
ただでさえちゃと迎える準備ができてないし、なんなら引っ越し当日なのだ。
まぁ、それに関しちゃ白無垢も悪いけど。
うしろから「しょにゃにゃ、ってなぁに?」と、がきんちょの詰問の応酬が聞こえる。
しょにゃにゃ? 確かに。何だろうな? まぁ、対した意味はないなさそうだ。
荷物の山から圧縮袋を取り出すと封を切る。
ぽふぁ、と息を吹き替えしたクッションを持ち出し、縁側に待つ白無垢の元へ向かった。
飛び石に誘導され、終着地点の踏み石に着くと、
こじんまりとした二束の草履と、白無垢の礼装用の草履が綺麗にそれって並べられ、微笑ましい。
自分も靴を脱ぎ、縁側に上がる
「お待たせしました。これ使ってください」
「おおきにどす」
立ったまま俺を待っていた白無垢はお辞儀で迎えてくえれた。
渡してやったクッションを丁寧に胸に抱え込む。
俺が一応の家主なのに白無垢の方が似合う。不思議。
両脇のがきんちょにも、色や形の違うクッションを渡してやる。
ぺこっとお辞儀をすると受け取った。
俺が先に、座らないと座りませんよ、っていう設定かな?
座ろうとしないので、俺から腰を降ろそうとすると、
がきんちょの一人が歩み出てきて、ちょこんと正座になる。
「神饌なの。大御神に奉納つかまつるの」
と、ぷるぷると差し出さされる、赤い風呂敷包み。
やたらと緊張してるみたいだ。
結び目をひょいと持ち上げると、ふぅ、とため息を吐き白無垢の横に並んだ。
なんだろう。お土産かな?
もう一方のがきんちょも藤色の風呂敷包みをもっている。
まさかの揃いの紋付き袴がはいってるんじゃないだろうな?
……ないよね?
いや、勘ぐり過ぎだな。コスプレの趣味もないし。
「ああ、どうも。」
「我らの産土よりもって参りました。仙桃どす」
「せんとう?」
「へぇ、桃どす」
ももねぇ。せんとう、っていう品種か。来たことないな。
脳内設定の架空の品種の可能性が微レ存。
その設定に付き合うと決めてるのでつきあうとしよう。
「せっかくなので、お茶請けにしてしましょう」
「へぇ、それがいいどすなぁ」
台所は…使えないよなぁ。
換気はしているが、やっぱ埃っぽいし。
白無垢たちに座るようすすめ、ことわりをいれると荷物から皿やらの食器類、包丁、
フォークを取りそろえていく。
手を拭くのもいるな。
あと、飲み物だけど客人をおもてなしするためのものなんてない。
ああ、そうだ。
ここくる、道中で勝ったコーラがあったな。
もはや、ぬるくなっているだろうが。すかっり忘れてた。
ないよりいいだろう。コップを四つも追加だ。
ビニール袋に細々としたものを丁寧いれ、かちゃかちゃなる手荷物と
1.5㍑コーラボトルを片手に白無垢たちの下へ向かう。
んん?草履が二束なくなっている。
「あれ?あの子たちは?」
「ほんに、堪忍しておくれやす。じっ、としてるのが辛抱たまらんいうて、
お庭へ駆け出していってしまいはって……」
「あ~、いえ、子供ですからね。構いませんよ。」
そういいながら、庭園に目を向けると二人並んで岩を眺めていた。
岩に何かあるんだろうか? その、好奇心の向け方が子供らしい。
和装のせいで時代劇の一幕をみているようだ。
なんか、このメンバーの中で俺の方が浮いてるきがする。
俺、ジャージだしね。
縁側に上がり白無垢の前に座る。ちなみに俺のクッションはない。
赤い風呂敷包みを解いていくと、木箱が入っていた。
蓋を開けると藁が敷き詰められており、和紙で半分包まれた桃が4つ入っている。
群青色の桃。うっすらと本来の白桃色を残し、日の出の空のような色合い。
それが白い和紙に包まれていた。
「へぇ、珍しい桃ですね。」
素直に感想を述べる。別段、コスプレの小道具として、塗料などでの加工も見られない。
「気にいって頂けまっしゃろか?」
ニコニコ、と俺に尋ねる。
先ほどの悲壮感はもはやなく、白無垢を着る女性らしい笑顔だ。
あくまで、コスプレだから。コスプレ……。
「えぇ、初めてみましたよ」
すると、ちょっとだけ、シュンっとなったような気がした。
「綺麗おすやろ?」
と、またニコニコとほほ笑む。
「確かに、綺麗ですね。刃を入れるのがもったいないくらいに」
しげしげと、仙桃を眺めながらいう。
本当に、綺麗だと思う。これが手に収まる感じがまたいい。
大皿に取り皿4枚をそれぞれなれべてやり、俺は桃をさばいていく。
水洗いとかしたいけど、これだけ梱包されてれば大丈夫だろう。
気持ち、乾いたタオルで手を拭っておいた。
驚いたことに、果肉まで青かった。包丁に青い果汁が伝い。
桃の香りがふわっと鼻孔をくすぐる。
春先の何とも言えない、暖かな空気のなかみずみずしい清涼感が広がった。
大皿に全ての仙桃を盛り付け。
がきんちょの分を取り皿に取っていると、いつのまにか縁側の縁から覗くようにこちらを見上げていた。
一瞬ビクっとしたが、フォークを皿に添えて二人の前に並べると、
大皿を指さし、「そっちがいい」とおねだりされた。
いやぁ、結構もってるし二人でたべるのかい?
俺としては全然、問題なかった。もともと、白無垢たちが持参したもので。
がきんちょの粗相など今に始まったことではない。
でも、俺の手前でも遠慮せずに二人の粗相を注意してもいいんですよ?
特に、お咎めもなく。
がきんちょに大皿が手渡されることになった。
というか、一拍の間に二人仲良く一枚の大皿を運び出しにかかったのだ。
俺の前で皿を運ぼうと屈んだ、がきんちょ。すると、一方のがきんちょがフォークで桃を刺し、
「あ~ん」と桃を差しだして来るのでご相伴にあずかる。
うん、甘い。果糖の押し付けもなく、果肉のほどよい返りを楽しむ。
溢れる果汁の清涼なのど越し。水を頬張ったような桃だった。
「おいしい? 」
「うん、うまい」
すると、よこから「あぁぁ!?うちも、うちもっ」とつつましく身を乗り出して騒ぐ白無垢。
「あ~ん」とがきんちょに桃をさしだされる白無垢。
なぜか、こちらをちらちら見てくる。
「あ、はぅ。そうじゃなくて……」
「むぅ」っとダメ押しで突き出される桃が白無垢の紅の乗った唇を押しのける。
はむっ!っと、声と共に桃を飲み込む。
にへら~、と笑い満足したのか。どこに行こうというのかね?
がきんちょは一枚の大皿を仲良く持ち、庭園の方へ去っていった。
この短時間にお気に召した場所でもみつけたのだろうか?
俺より庭園のことに関して詳しいかもしれない。
がきんちょの後姿を見送り、白無垢に向き直る。
そこには、ひな鳥のように口を開け、瞳を閉じて餌を待つ白無垢がいた。
猫のように手を揃え、身を乗り出し来る。若干、打掛がはだけている。
面帽子も傾き、この人に似あっていた。
楚々とした女性といった印象だけど、こういう一面もあるんだな。
というより、がきんちょたちとあんまり精神面は変わらないよな気がする。
「どうぞ」
がきんちょのために用意していた取り皿をフォークと一緒に、前に出してやる。
佇まいを正すと、打掛と面帽子を直す。
「お前様はいけずなお人おすなぁ」
と、はんなりと取り繕うが、恥ずかしかったのだろう。
ほのりと桃のように頬が染まっていた。
ぷしゅっ、息を噴き上げるボトルを傾け、コップに注いでやる。
自分のコップにもコーラを注ぎ、一息ついた。
まだ、引っ越し作業は始められそうにないようだ。
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