引っ越し完了―凶運―
腹パンで蹲っているところに親父が帰ってきた。
「すまん。遅くなった。母さん達は?」
「……それが、まだなんだよ」
「それでお前はどうしたんだ?」
「いや、これはちょっと」
すると、
「あんたはんに関係ないなんし」
「はぁ? おばさんが粋がんなっていってんの」
先輩と白無垢の喧嘩が聞こえてくる。
「母さん達帰ってきてないんだろ?」
「あ~。何といえばいいか。俺ってこっちに幼馴染とかいる?」
「幼馴染……んんっ! いるなぁ。義父さんに引っ越しの連絡したから、話が親戚に回ったりしてるかもな」
「そっか、その幼馴染だと思しき女の子が手伝いに来てくれたんだよ」
「なるほどな。で、もう一人は?」
「……」
「なんだよ?」
「もう一人も、幼馴染……っていっていいのかなぁ。向こうは俺を知っているぽいんだけど……」
「お前は覚えてない訳か。俺の方も他に心辺りはないな。てか、お前は手伝わなくていいのか?」
「二人とも、別に掃除とかしてるわけじゃないと思うよ。馬が合わなくて喧嘩してる」
すると、
「白主殿ッ。うちも家上がっていいやろか?」
「僕もいいでっしゃろ?」
「……うん」
了承をえると、キャッキャ、と入っていった。
「……今のは?」
「もう一人の幼馴染の、連れてきた子供」
「はぁ!? 連れ子なのかッ!? 」
「どうなんだろう。俺からすると初対面なのに聞けないよ。そんなこと……」
「だな……」
なんだか、こう話してると複雑な事を話している気がする。
ダティーな大人な話。
喧騒が止むと、玄関の格子戸が開け放たられる。
「おじさんッ!」
「おぉ、○○さんとこのッ!?」
「はい! おひさしぶりですッ」
と、ヤンキーが少女のように振る舞う。
○○さんとこのッ!? パターンか。
名前を聞きそびれて、先輩呼びで押し通していたので、
ここで聞けるかと思ったのに……。
「それでぇ、そちらさんは?」
「へぇ、白無垢とよびなんし」
「……筋金入りだな」
なんにもしらない親父からすれば、そう思うだろ。
「あ、と。私は真昼 ひろゆきと申します。以後、お見知りおきを」
と、なんともすんなりと頭を下げる親父。
小声で「はぁ……まぁ、想定内か」と、つぶやいたの聞き逃さなかった。
どういうことだろうか?
「へぇ」
と、白無垢も親父に対してそれ以上関心を示さなかった。
なんとも言えない気まずさを覚えながら家に入ると塵一つない、
埃もまったくなくなっていた。
おそらく白無垢の力なんだろうけど、こんなこともできるらしい。
若干、親父に睨まれたが。本当に喧嘩してたんだってッ!?
さぼってないから……。
だから、入ってすぐに出てきたわけか。
先輩は軍手をつけたままだし。
内心驚いているかもしれない。
白無垢、先輩、親父に俺。がきんちょは戦力外。
軽々と重い物を運ぶ白無垢に面喰う親父を横目に、
張り合った先輩は下手ってしまった。
がきんちょが家中を走り回り、捕まえるのに苦労するという、ひと悶着をする始末。
俺の部屋候補だった大広間は当然、却下され。
駄々御こねると、大広間の傍の部屋をあてがわれることになった。
あんなに、下見したのに。俺が一人で済むのに却下された。
「やっぱり、まだガキね……」
と、先輩に言われる。
なんだかんだで荷運びが終わり休憩をしていると、母さん達が帰ってきた。
もう日が傾き始めた頃だった。
「白主殿の御母上。白無垢と申しやす」
白無垢が母さんに丁寧に挨拶をしたのが印象的だった。
「あらあら、白無垢ちゃんっていうの? うちの子と仲良くしてやってねッ」
と、低身長の母さんは白無垢見上げながら自然と受け入れていた。
白無垢を来て、京都弁で喋る女性に「仲良くしてやってね」と、
言われると、どこ見てそう思うのか気になるところ。
姉は祖父母の付き添いで、途中別れたらしく、後日迎えにいくのだといってたな。
孫娘大好きジジイは張り切り過ぎたそうだ。
あとは、自分の妹を、自分が姉であるこが嬉しいのか。
母さんについて回る自分の妹を優し気に見つめる妹。
ふと、妹の名前も忘れていることに気づく。
たぶん、白無垢が名のらないなら、わたしもぉ~、的なノリだろう。
張り合うようなこと言ってたし。
そして、もう一人の妹。真昼 あゆむ。
あゆむが時折、妹を見ていることに気が付く。
あゆむは妹を認めると、ひどく怯え母さんにしがみついていたのも、発見だった。
俺と目が合うと、珍しく足に抱き着いてきたのでびっくりだったな。
なんせ、嫌われていると思っていたし……。
そして、あゆむは妹が見えるけど理解できないらしい。
これは悲しいことだと思う。
兄として心のメモ帳に書き留めておこう。
いま、無力化もしれないけどね。
それと、異世界から帰還すると、異世界へ転移してからの時間経過が、
こちらでは進んでいなかったことには驚いたな。
転移したあの日、あの場所、あの時間に帰ってこられたのだ。
と、たった2日間の出来事を振り返ってみる。
やっぱ。仙桃。
白無垢がお土産に持ってきた、ファンタジー物質が第一容疑者だ。
次に、カップ麺が第二容疑者。
そして、第三容疑者は俺、ってところだろうか。
白無垢も異世界への転移はお手上げだと、言っていたけど。
俺は転移に対して無自覚なんだよなぁ……。
あとは食べる事。だろうか?
それだとカップ麺なんて、いくらでも食べてきたしなぁ。
となると、仙桃が有力になってくる。
しかし、あの時食べてしまってなくなってしまった。
先輩も食べていたけど、転移はしなかったよな?
俺が、仙桃を食べると転移する。
これが一番、転移できそうな組み合わせだ。
俺と仙桃。
と、なるとだ。
カップ麺が説明つかないよなぁ……。
どうどう巡りに頭を悩ませる。
「あきひと君。ありがとう。ごちそうになったわ」
と、思案からから現実に引き戻される。
軍人さん、もといユリリアートさんが食器を台所に持ってきてくれた。
「いえ、お礼はスイさんへお願いします。俺も御馳走になってるみですし」
「それもそうね。ってそれはいいんだけど彼女は料理をしたら、散らかしっぱなしなのね……」
「場所は教えてるんで、覚えてるはずなんですけどねぇ」
その後始末をしてるところ。というわけだ。
「あ、置いといてください」
「えぇ、わたしも手伝うはッ」
「ありがとうございます」
俺が食器類を洗い、ユリリアートさんが食器を拭き、流し台の食器置き場に並べていく。
まぁ、一人分の分量+αだ。勝手が分からなくても手間取るようなことはない。
それに、ユリリアートさんは一与えられれば一を返してくれる義理堅い人でもあるようだ。
まだ、外から喧騒が聞こえる。
うんざりしつつも食器類をかたずけ終わる。
魔王と神様は趣向品としての意味しか食に意味がないらしく、
ムリョウさんは我が家では食事をしない。
白無垢は食べるけども……。
「じゃぁ、先輩さんのところに戻るわね。働かざる者っ食うべからず。らしいからッ」
耳が痛いな……。
「そうですか、ではお気をつけて」
「うん。あ、そうだ。謝らないとなぁ、と思ってたんだけど……捕虜なんて扱いをしてごめんなさい」
と、頭を下げてくれた。
「いえ、あの状況じゃしょうがないですよ。はは」
まぁ、シャレにならん思いをしたけど、
後の出来事で霞んでしまってるのが根に持っていない要因かもしれない。
「……ありがとう。じゃあねッ」
と、微笑むと、正門の方へ歩いていった。
はぁ、転移……か。
やっぱ、返してあげたいよなぁ。
出会いは最悪だった。突き飛ばされたし、お荷物扱いされたし。
面と向かって話してみると、というやつかな。
引っ越しが完了して2日くらいは、我が家の開いてる部屋を貸していたんだけど、
先輩に見つかると、女性達は先輩が面倒を見ることになったのだ。
白無垢とムリョウさんが難色を示したが、
お願いしなんとか無理難題? を飲んでもらっている形だ。
そういえば、ムリョウさんがなぜ俺を知っているのか聞きそびれてしまったままだな。
あのチャラ男と妹は俺の家に居座っている。
妹曰く、いつもそうしていたようだし。
妹の存在を見たり感じたりする事ができなかった俺だけが違和感を感じているようだ。
異世界への転移以降、見えないものが見えるようになったりと、俺は変化してしまった。
これに関しては妹と話せるのでいいんだけど、妹だけだよね?
あぁ、あと。ニールと仲間の鹿が二頭。
無駄に広い敷地で自由にしてもらっている。
ユリリアートさんやタバサさんの言うことを聞き、
こちらでの常識をちゃんと守ってくれている。
大変賢い。
さて、今日も部屋の整理かな。
そのために入学式までの猶予を引っ越しとこちらでの生活に慣れるためにきたのだ。
自室にあったものは全部持ってきたからな、俺の15年分のアレコレが新たな自室を占領している。
大きく重い物から入れていかなければならないのだから、その選別もしなくちゃならない。
自室に着くと衣服が入ったダンボールが置いてある。
お前の部屋の事はお前がやれ。と言う事らしい。
なぜか、姉ちゃんの下着類が入ったダンボールも運びこまれていた。
どうすんだ、これ。
一瞬、奥にしまってしまおうと思ったが。
逆に隠してるみたいで変態っぽいし、カビ臭くなったら怒られそうだ……。
なんで、ここにあるんだ?
姉はあのまま祖父母の家に泊まり帰ってしまうえ、スマホもない。
どうしたかったのか分からないまま。
ついでに、サイフも返しそびれた。
ちゃんと返さないとな。
取り合えず、保留と言事で。
異世界で襤褸襤褸になった通学カバン。
中学3年間と異世界でも活躍してくれた。
なんとなく、捨てずらくなってしまった。
使わないのにね。
ダンボールの上に乗せ、押し入れの下の段。
ダンボールを奥に押し込んでいく。
結奥行きがあるな。これだけ広いなら余裕で入りそうだ。
さらに詰めようと体を潜り込ませると、奥の方に白い亀裂見える。
なんだ……あぁ、穴が開いてしまってるな。雨漏りか、ネズミか。
老朽化も相まって開いてしまったものだろう。
今はどうしようもないので、とりあえずこれも保留、と。
ぐいっと、勢いよくダンボールを押しこむと、
ダンボールが壁を突き破り向こう側に飛び出してしまった。
「いってぇ……」
軽く胸を床に打ち付けてしまった。
急に光に照らされ、眩しいし目がちかちかする。
とりあえず飛び出した半身を、ダンボールを押しやって向こう側に這い出る。
すると、カビ臭いが鼻孔を付く。
んん?
手を付いた感触に違和感。
押し入れの奥とは言え、ひどく冷えこみだした。
じめっとした涼しさだ……。
目が慣れてくると―――。
はぁ……なるほどね。
「こういうパターンもあるのね……」
振り向くと押し入れから入ってきた穴が消えてなくなっていしまっていた。
前みたいな、予兆もなく。ごく自然に……。
「今度は一人かよ……」
凶運はまだまだ、俺の足を引っ張りたいらしい。
等間隔に壁に備えられた燭台にともる明かりは風で揺れることもない。。
それは、薄暗い石壁の通路の左右奥まで続いている。
「魔法の光源かぁ……」
目の前には階段があり、喧騒、いや、歓声かな? 階段の先の方から聞こえる。
光に誘われるように先を目指して歩みを進める。
勿論、ぽっかりと暗い口を開けた廊下の先ではなく、
人がいるっぽい方へ行くべき。なぜか異世界でも言葉は通じるのだ。
よって階段を選ぶっと、その前にダンボールからカバンに適当に見繕い持っていく。
こんなもんかぁ、な。ないよりマシだし。
カバンの持ち手を肩にけると、階段を上がっていく。
光を閉ざし、魔法の光源だけだった階段に光が差しはじめる。
外は昼の様だ。夜じゃないってことが大事。だって暗いと怖いし、早く出たかった理由だし……。
最上段に足をかけ、薄暗い階段を抜けると―――。
そこは、雪国だった。
なんってことはなく、芸がない。
ただ、趣向は十分にとんでいた。
皮鎧で身を固めた兵士。だけではないな。
みな、それぞれ個性的でいて、不ぞろい鎧で身を包み、巨大な獣と戦っている。
共通して言えるのは、みな軽装でみすぼらしい。
あの獣に対峙するには心もとない。
正直、鉄製の剣も、槍も長さのちがう、ひのきのぼうだ。
そして、獣。
もはや、何の生き物なのか分からなくなるほど、陸海空の動物が混ざり合っている。
かといって、肉塊ってわけじゃなく。
それぞれの器官が、ちゃんと機能している。
頭部を幾つか備えており、魔法的なものを担当しているようだ。
必死に軽装を纏った人たちが、歓声の中戦っている。
地面が吹き飛ばされ、巨体に押しつぶされ負傷し、絶命と奮闘が闘士達を滾らせている。
文字通り必死といっていい。女性もいるようだ。
……。
茫然とその殺し合いを見つめる。
俺は今。闘技場の入口に最も軽装備で立っているという、事実。
一応レベルでカバンに私物を詰め込みましたけども?
役立たないの自明の理だ。
落ち着け。引き返せばいいんだ。
まだ、通路の先という運命の分岐が残ってるじゃないか。
まだ、慌てる時ではない。
振り向くと入口が壁になっており、痕跡が無くなっていた。
ジャージ×1
運動靴 ×1
カバン ×1
┗ゴミ(私物)
ひのきのぼう、でもいいからほしい。すると。
「おい! 逃げずに戦えっ! そこにいる意味を忘れるなッ!」
と、手にしてる槍の石突きを壁の上から突き出される。
「いって……」
思わず、尻餅をつく。
「いけ」
と、感情の感じられない目を向けられてしまった。
まじかよ……。
生き残るには彼らと協力しなきゃいけないのか。
五体満足で闘技場からでらるのだろうか?
すでに、絶命した闘士から、半ばからへし折れた剣と鍋のフタみたいな盾を拝借。
鎧はサイズが違い過ぎて、切れそうにない。
カバンを置き、戦場を見やる。
あの経験があるからか。
思ったよりビビらずに済んでいる。
二度と経験したくないけど、なんでも役に立つもんだな。
剣の柄を握りしめると、とりあえず戦場に歩みを進める。
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