カップ麺―キッカケ―
辺りを見回した際に、親父の在庫のカップ麺が無事だったことを思いだし、
散乱したカップ麺を拾い上げていく。
ガスバーナーも奇跡的に無事だったので、これまた散乱し凹んだ鍋を拾い池の水を汲んだ。
まぁ、煮沸消毒すれば大丈夫でしょ。
ガスバーナーに鍋を置き、火をかけながらカップ麺のカヤクを容器に開けるとまちぼうけになる。
なんだろ。
カップ麺の調理とも呼べない調理をしているだけで落ち着く。
ガスバーナーの火の揺らぎのせいもあるかもしれない。
ぼぉっと、鍋を見つめていると、ふつふつと気泡がなべ底に立ち始める
「少年。湯を沸かしてなにしてるの?」
そういえば、ずっと見れてた気がする。
カップ麺に気を取れ過ぎて、カバンを漁ったあたりから一心不乱だった。
これは失敬。
「えぇ、食事にしようかと……。あ、どうですか?」
「え? えぇ、いただこう……かしら」
ガスバーナーに興味津々だった、軍人さんが咄嗟に返事をする。
一人でも食べても味気ないしな。ここはすすめておこう。
「え~、塩に醤油に味噌、どれがいいですか?」
「あ、え、し、塩? かしら」
ふむふむ。
塩ね。
「クs、少年ッ! わたしもわたしも!」
と、軍人さんの後ろで見ていたタバサさんも要求してきた。
「タバサさんは味噌ね」
「なんでぇえ!?」
心の声がちょいちょい漏れてんの聞こえてんだぞッ?
選択の余地なし。である。
あ、そうだ。
オーガの人達も食べるかな?
と、言うものの第一村人を助けた際のいざこざが頭をよぎる。
話かけてもいいんだろうか?
やっぱ、仲間外れはやばいよなぁ。
チャラ男には助けられてるし……。
一応、聞いておこう。
鍋の頃合いを確認し、オーガ達の下へ歩み寄ると。
「ムリョウッ!?」
近づいた俺を見開いた目で一直線にとらえると、
地面が砕けるほどの反動で接近してくる。
道中の地面に付き立った寸寸梵論に手かけるニセ第一村人!
やばッ!
敵に情けをかけるとは、こういうことなのかッ。
助けたところで感謝などされないのだ―――!
しかし、俺が想像した未来は来ることは無かった。
深々と突き刺さっているわけでもない寸寸梵論が抜けずに、
ニセ第一村人の推進力を寸寸梵論が引き留めてしまったのだ。
そのまま、大きく腕が引き延ばされ、一瞬空で静止すると背中から地面に落ちる。
バフッ。
と、音がし長い髪が尾引いた。
ニセ第一村人、想定外らしくキョトンとしたまま目を見開いている。
いや、この結果は大変ありがたいことなのだが、すっげぇ軽い寸寸梵論でああなるかな?
ついぞ、小首を傾げる。
いつの間にか妹のじゃれ合いから抜け出した白無垢が、
ニセ第一村人を跨ぐように仁王立ちになると、
襟首をつかみ軽々と持ち上げる。
「おろかでありんすッ」
すっと掲げ上げれたもう片方の手。ニセ第一村人の額に指が炸裂する。
デコピンが頭部を大きく弾き、白無垢の手から離れると垣を突き破り吹き飛ぶニセ第一村人。
白無垢に、追いすがらんとする少女をチャラ男が必死に抑える。
「スイ様ッ! よすじゃんッ! 」
「でも、ムリョウがッ!?」
「今回、俺たちは遣り過ぎたッ。故意じゃなくとも荒神という災禍を振りまいてしまったじゃん! 助命されてなをアレじゃ……いいのがれできないじゃんよ……」
「……ッ」
え?
「……白無垢。ヤッちゃったのか?」
「あの程度でヤツは死んだりしないどす。いまいましいどすけど……お前様が助命しさえしなければ、うちが助ける理由はないどす」
と、俺に配慮しての行動だったようだ。
白無垢なりに線引きがあるのか、デコピンで済んだらしい。
白無垢の言葉を聞くと、慌ててムリョウ?
という名前らしいニセ第一村人の元へ慌ただしく駆けだしていくスイという少女。
チャラ男は俺に頭を下げると後を追った。
カップ麺をススメようとするだけで来んことになるのか……。
恐ろしいな。異世界は。
「あの~、少年。お湯沸いてるわよ?」
と、気まずくなりながらも沸騰しぐつぐつと喚く鍋の様子を教えてくれた。
ユルルアートさんは思いのほか、お腹がすいているのかもしれない。
「あ、すみません。すぐ準備するんで」
と、へこへこ頭を下げる。
空気を換えたい一心での気安い謝罪だ。
「お前様」
「はい?」
「うちもたべたいどす」
(わたしは味噌を所望するッ!)
「ワラハモジャァ~!?」
と、集まりだし、一人遠くで苦し気に叫んでくる。
えっと、何個だ。
俺に軍人さん……オーガに龍達も含めれば12人か?
一応、人数分調理しておこう。
食料問題を解決するために家を飛び出したのに、
人数が増え食い扶持がふえるとは思わなかったな。
一個、一個カップ麺の準備を俺一人で行っていく。
そう、俺一人で12個もカップ麺を造らなければいけないことにうんざりする。
調理法は簡単だし、教えらえそうだけど、されに12人に教えるという仕事が増えるだけだ。
仕方ない。いいだしっぺの法則だ。
みな、興味津々といった様子でカップ麺を見つめてくる。
ちなみに俺は醤油だ。日〇、カップ〇ター、エー〇コックなどなど取りそろえられている。
お湯をカップに注ぐと、小さな手が伸びてくるので叩き落とす。
「イタイのじゃッ!」
「まだ、調理おわってないから。お湯を入れてちょっと待つんだよ」
そういうと。幾人かの手が引っ込んだ。
「どれくらいまつのじゃ?」
「う~ん、3分か、5分かなぁ……」
「フン? 何なのじゃ?」
(おに、アキヒトぉ。地球での時間の単位いってもしょうがないよ)
あ、そうだった。
「白無垢さん、あれ返してもらえませんか?」
「?」
コテンと小首を傾げられる。
「あれです。うすい板のやつです」
「あれどすか?」
と、懐に手を入れると、固まりだす白無垢。
「お、おお前様……」
「どうしました?」
「うちを嫌いにならないでほしいどすぅ!?」
と地面に丸くなり、突っ伏してしまった。
あぁ、無くしたんですね?
あれだけ暴れれば灰の砂漠の中のどこかだろう。
何千年後かにはオーパーツになってるかもしれないロマンはあるけど、
今必要なんだよな……。
地味に凹む。
「あ、うん」
バッ、と顔を上げ俺を涙目で一瞬見ると、
「わぁ~んッ!」
と、再び突っ伏し泣き出してしまった。
周りのみんなもドン引きである。
天地を揺るがす覇者である白無垢の情緒が不安定なのだ。
俺も怖い。みんなも怖い。
どうしよう……。
やめろ。
俺を見るな。
「大御神……」
そんな、純粋な目を向けないでくれ!
安くないんだぞ!
これじゃ卑しい奴の言い訳みたいじゃないか……。
「白無垢さん、落としてしまったのはしょうがないことですから。嫌いにはならいですよ」
「ほんに? じゃあ、うちのこと好きどすか?」
「……」
と、突っ伏したまま顔を半分ほど覗かせて来る。
「えっと、普通です」
途端に瞳が涙でジュンっとなる。
「……今はそれでいいどす」
と、背中を丸めたまま体を起こす。
今度はシュンっとなってしまった。
(アキヒト。そろそろじゃない?)
お、そんな感じがする。
「あ、じゃあ、これ使ってください」
ちょっと襤褸ったカバンからフォークを渡してやる。
「おお、鉄器のフォークかぁ。よくできておるのぉ」
と龍が驚嘆する。
ほおほお、こっちは鉄製のフォークが珍しいらしい。
ガスバーナーも不思議そうに軍人さん見ていたし、
地球ほど科学技術は発達してないのかもしれない。
それぞれ、蓋をあけ、フォークで麺を掬うとおそる、おそる食べ始める。
「アツいのじゃッ!」
「お前様……しょっぱいどす」
「ユリア、おいしいね!」
「えぇ、初めて食べるわね。そっちもくれない?」
(フォーク小っさ……。しょうがないか)
と、おのおの感想を漏らす。
龍が大人しめの女性に口元拭われながら、ニコニコ食べている。
軍人さんはタバサさんのカップ麺と食べ比べしている様だ。
タバサさんの顔がたるみ切っており、ちょっとやばい。
異世界人の反応を伺っているとオーガ達が戻ってきた。
元第一村人、ムリョウさんがスイさんとチャラ男と一緒に平然と戻ってくるなり、
「大御神。突然のご無礼をお許しいただきたく……」
と、平伏してくる。
大御神なぁ。大御神じゃなんだけど……。
「いえ、もうしないでくれれば」
ゆっくりと顔を上げるとムリョウさん。
「それは、ちょっと……」
と、目をそらされてしまった。
「ちょ、ムリョウッ!? そんなこといったらだめでしょッ」
と、一緒に頭を下げるスイさんに咎められる。
「……では」
なんだ?
「大御神。殺させていただきたもうございます」
と、真顔で真剣に言われてしまった。
「……ダメです。それよりお腹すきませんか? 皆さんの分もあるんで」
「ぜ、是非! 」
と、3つの容器とフォークを指しだしてやるも、
まだ、俺から視線をそらさないムリョウさんはスイさんに引きずられていった。
「悪いな」
と、俺に首肯し容器フォークを持ち、あとに続くチャラ男。
ふぅ、なんなんだ。
ことわりを入れればヤッていいわけじゃないだろうに。
そう思うも、ムリョウさん。
白無垢曰く。魔王の目は真剣だった……。
一息を付き、ラーメンをすする―――キイィィィィイインッ!!
と、あの感覚が襲ってくる!
あれ? これってまさか!?
突然の浮遊感と振動が波紋のように体を駆け抜けた。
得体のしれない感覚。眩暈と頭痛に目柱を抑える。
思わず麺を吹き出してしまった。
「転移か!?」
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