それぞれ
「エンジュゥ!? はやく終わらせて帰ろう!!」
お前様……!?
雑神によって消え去ったと思っていた、御方のお声が耳に届く。それに―――。
「くふぅぅッ!!!!」
御方がうちの名前をよんでくれはったどす!
咄嗟に涙を拭う。
御方の存在を、確かに感知すると、
なぜかその場に雑神の器だった角持ちの娘が地の底に横たわっている。
どういうことやっしゃろか?
御方を庇っていたケモノも調律の摂理で堕天しよった様子。
今は、ケモノの一族のもんが庇うようにいちどっていた。
そして、黒い巨人の女。
もたもたしている暇なさそうどす。
白鱗ノ盾での拘束を、御方の死を誤解しておろそかになると灰に変え脱出した雑神。
錯乱しまともに武位顕現出来ないままに暴れまわって、調律にさらされ過ぎてしまったどす。
今だ御方を執拗にねらい続ける雑神。
頭の無い見た目通り、ヤツは他に考えがないようどすな。
黒球を現出させては地上にいはる御方目掛けて放っている。
どれも悉く、白鱗ノ盾て防ぎきる。
もう、そらさせないどす。
「顕現」
するどく雑神を睨みつけ、神格を解き放つ。
黒い陣で構成された亜空間。
漆黒の深淵から這いずりだす巨大な白蛇。
みな異形を携えた貌を晒すと壮麗な白鱗が白銀に煌き、
金色の双眸が雑神を射抜き捉える。
それが五体。
空中を悠々と這いずり四体の白蛇が雑神を取り囲むと、その10個の金色の魔眼で睨みつける。
瞬く間に、纏っていた黒い焔が物資化し襤褸襤褸と崩れさって、砂塵に帰っていく。
必死でもがいているが、雑神も物質かしていき身動きが出来ず空間に固定拘束される。
「あらてため、ていくでありんす」
うちの後方に控えさせたジムグリが咢を大きく広げる。
「……手ご心は一切ささんとすんなんし」
そう、肩越しに睨みつけるとビクッとなるジムグリ。
はぁ……。清い心根ゆえか、相変わらず気がちいさいどす。
御方に降りかかる火の粉を払うというのに、困った子どす。
でも、容赦はせん。
「武位顕現―――《八重垣の穂》」
ジムグリの咢に銀色の光球が現れると、うちの手に収束する。
調律により霧散する速度より膨大な神気を物質化させていく。
《不変の法理》でなんとか矛の形に安定させた。
穂先を雑神に向け、投擲の構えをとる。
「おわりでありんす」
世界と同等の質量をもつ矛。
うちの手から離れると、瞬く間に彼方へ飛び去る。
世界が軋み調律の現象化に晒されると、やがて消失していった。
雑神は抗うことも出来ずに射抜かれ、やはり調律により神気まで還元され霧散する。
その神気がチリジリになる前に手に収束させると、物資化し小石ほどの宝玉になる。
それを指でつまみ上から開けた口に咥えるようにすると、
そっと人差し指で押し込み飲み込んだ。
最初から食ろうてやるつもりだったさかいに。これで一件落着どす。
「ふぅ」
一息つくと笑みが零れる。
「エンジュ……くふぅ♪」
召喚した白蛇達は役目を終え、黒い砂塵になりながら霧散する。
帰還したようどすな。
もう、ようはすみはった。
お前様、今お傍にッ♪
「まるで神話を目の前で見てるみたい……」
上空の彼方で繰り広げられているであろう、神様同士の戦い。
人類はただ見てることしかできない。
それどころか諦観者として観測できててる事が奇跡にちかいんじゃないかな?
わたしなんかが史書の続きを気にしてもしょうがないんだけど。
そういう高位文官のあれこれはスターク様に丸投げしよう。
今回の事態にあれこれ聞かれるんだろうし、隊長なのだ。
責務を果たすべきでしょ。生きてればだけど……。
陰鬱な気持ちにユリリアートの事を思い出しながら、先ほどの少年の事を考える。
少年はあろうことか荒神に未知の魔法術式を用い、助命していた。
あれを魔法と言っていいのか専門家ではない私では分からないけど、
人智の及ばぬ御業だというこは何となくわかる。
とびかかった軽薄な男をこれまた見たこともない魔法で拘束すると、
オーガの可愛子ちゃんが「霊装」だと焦燥しながら呟くのを耳が拾ってしまった。
いままでなぜ使わなかったのか? そう疑問が過る。
先ほどから独り言がやたら多くなり、荒神助命の際には白髪白角の神々しい存在感を纏っていた。
変な肉片をつかまされた上に、それを死霊の群れに襲われるオーガに届けることになった疫病神。
少年もただならぬ存在だったらしい。
ということは、龍の肉って本物なのかな?
確かめようにも、少年は気絶してしまったし……。
そらから降ってきた女の子はじたばたと騒がしい。
世界が悲鳴を上げる鐘の様な音に、
身を竦ませながら大地を屠る神々の戦いを見つめる。
すると。
通信魔道具が魔法の波長を拾い、
それを知らせる小さな魔法陣が胸の前に浮かんでいることに気づく。
あわてて、陣の起動式に触れ通信を受信する。
『タバ――える? ユリ――ト。応答……』
「ユリリアート!? 聞こえるよッ! 大丈夫!?」
『よか―。やっと―な―ッた』
「どこにいるのッ? 迎えに行こうか?」
『今、ニール――うしてる』
「わかった。なにか狼煙をあげるわ。真新しい窪地を探してッ」
『―解』
通信が切れる。
少年によって拘束された軽薄なオーガはいつのまにか解放されていた。
可愛子ちゃんは疲弊しへたり込んでいる様だ。
いつの間にか姿が見えない少年に訝しみつつも窪地の淵へ移動していく。
「!?……はぁ、みえてくれるといいんだけど、ね」
あれだけ跳梁跋扈していた死霊が姿を消していることに驚きはしたものの、
上空へ火炎術式の火球を数発打ち上げた。
「わたしはここだよ」
満足げに装いをなおすと、御方の下へ急ぎ向う。
人の娘に角持ちが二匹……器も含めれば三。だいぶ様変わりしよったようどす。
こちらに向かった来る半端もんの娘も生きておったようどすな。
そして、気絶する御方を抱っこしている黒い巨人の女が目に飛び込んでくる。
そのまま目の前に降り立つ。
「……わっちが預かるなんす」
(だめです。調子乗ってヒャッハーしちゃう人に弟は預けれませんッ!)
「!?」
全身の目もなにやら訴えてくるどす……。
御方の存命についぞ、はしゃぎすぎてしまったどす。
けど、なんぞこのでかぶつに気をまわさないかんのか。
そんなことより、聞き捨てならない事をいいよったどすッ!
「弟? そう申しんしたかぇ?」
(私の弟ですが何か?)
ぐぬぬ……。
眼もどこか勝ち誇っているように見えるどす。
(ほっぺた膨らませて怒っても弟をあずけられません。この子をお願いします)
そういわれて何かを手渡される。
うちの着物に包まれたややこ。あのケモノが調律で退化しよった姿。
すぐに着物をはぎ取ると投げ出す。
「ふぎゃッ」
地面に転がったケモノ。
いつの間にか来ていたケモノの一族のもんが人化して歩み寄ってくると介抱し始めた。
興味もないので着物を綺麗に畳み直すと巨人の女に歩み寄り、白主殿を無理やりに抱えようとする。
(ダメです!)
「なんであかんぇ!?」
ひょいっと体の影に隠されてしまう。
「白主殿の周りを、ずぅ~と付いて回とったあんたはんのほうがよっぽど変質者でありんす!」
(ス、スス、ストーカーちゃうわ!?)
「ユリリアート!? ここだよぉ~!!」
麒麟が走行する姿を地平線に捉える。
相当疲弊しているのか、空を駆けるのは難しいようだ。
両手を大きく広げ、肩から腕を振る。向こうも振り返してきた。
灰の砂漠に足を取られながらも、こちらに駆け寄ってくる。
「タバサ!! 」
大きく抉られ小山になった窪地の縁の上から、その姿を確かに認める。
「ユリリアートッ!」
小山を転げ落ちるように下り、ユリリアートに追いすがる。
ニールから降りて、わたしに歩み寄ろうとしたユリリアートの胸に飛にこんだ。
「ユリア!ユリア!」
「ちょ、だ、大丈夫っ?」
「ゆりあ~……、よかったよぉ。周りに化け物が沢山いるのぉ」
ぐずぐず、に泣きながら胸に顔を埋めると、ヨシヨシしてくれた。
ぐへへ。このままユリアの感触を……。
すっと、肩を押され距離を放される。
「あぁ……」
「タバサ……」
じ~とねめつけられる。
つい、声を漏らしてしまった。
はぁ、とため息をつくユリリアート。
「……それで、化け物って?」
「うん、後ろの窪地の底に荒神も白衣を来た綺麗な神格もいるんだよ!あと、オーガの人たちもッ」
「そう。少年は? それにスターク様やみんなは?」
「わからない。少年もさっきまでいたんだけど、消えちゃったんだ……」
肩から手を降ろす。
「ニールッ」
小山の麓に待機していたニールを呼び寄せる。
「とりあえず、様子を見てみましょう。高位の神格を相手にどこにいても一緒でしょうから」
さすがユリアたん。肝が据わっている。
ユリアに手を繋がれるとニールを伴い、小山のてっぺんに移動する。
と、思ったけど。
ユリアアートのその手は震えていた。
そうだよね。やっぱ、怖いよね。
わたしもその手を握り返し後に続いた。
「あれだよ」
縁から底を見下ろし、荒神を指さす。
「オーガの巫女とその従者かしら? 傍で倒れている黒髪の女性が?」
「うん、今は寝てるけど回復してる。少年が未知の魔法術式で治してしまったんだ。治すためだけに必要な魔素量を遥か超えて使用していたから、ただの回復術式ではないよ。結界で隔絶しなきゃ危ないくらいの濃度だった」
「それであっちで2人でわめいているのが例の白衣の神格、ね?」
「2人?」
「いえ、なんでもないわ。それで?」
「うん。それでね、あの神格が上空にいた何かと争っていたんだ。」
「白衣の神格がここにいる、といことは勝者は彼女といことかしら」
「たぶんね。少年は白衣の神格をエンジュって呼んでいたよ。」
「エンジュ……」
「うん。そう呼ぶと気絶して、いつの間にかいなくなっていたんだ。その前からオーガのかわ、女の子も様子がおかしかったんだけど……。それより、ユリア。怪我大丈夫?」
「えぇ、平気よ。あ、回復術式は大丈夫。危急の事態に備えて魔素は温存しといたほうがいい」
そういわれてしまった。
未曽有裕の神話級の戦い。
世界が鳴動するような未知の現象の只中にいるのだ。
ユリアの言う通り。でも。
「じゃぁ、これだけ。顔の傷は女の子に似合わないよっ」
「ありがとう」
極限状態でこわばていたユリアの表情が緩む。
うむ、精神面にもバッチしの様子。
「それで、あの神格は何をわめいているの? 何かに罵倒してるようだけど」
「よく聞く前に移動しちゃったからよくは分からないんだ。失敗、失敗」
「そう。知覚強化で聞いてみた方がいいわね」
「うん。神格の気分次第でまた暴れるかもしれないし。何がしたいのか。ちゃんと知っときたいね」
ユリリアートに同意する。
陣を額に展開し知覚強化術式を自身に付与する。
視覚も強化し遠見の機能も付加する。
はぁ、あいかわらず美人さんですね……。
嫉妬の燻ぶらせつつ声を拾う。
『わっちが、白主殿をご実家に送り届けるなんし!』
と、可愛く両の手を胸の揃え振っている。
ぐへへ……。だめだめ、今は集中しないと。
『いちびり! どあほ! あかんたれ!』
すると。
「はぁ、そういことね……」
「ん? なにが?」
「いえ、なんでもないわ」
と、苦笑いで答えくる。
ユリアには何かわかったんだろうか?
『わかったでありんすッ! 最初からこうささんすればよかったなんす!』
突然、白衣の神格の背に二層の光輪が出現する。
「!? タバサ! 離れるわy……」
「え?」
ザス、ザス。と、重い足取りで灰の砂漠を踏む。
目の前にせりあがった小山を登るもの達。
「総長。誰も確認できませんでした」
「なんだ? 火球が上がったと思い来てみれば……」
返ってきた斥候の報告を聞き、ついため息が漏れる。
「誰もいない、か。じゃぁ、誰が火球を放ったのだろうね」
と、ウメナリ殿がサコンにおんぶされながら零す。
小山から見下ろせば大きな穴が広がっている。
地表が抉れ、とても強い衝撃が大地を穿ったようだ。
この辺りからのはずなのだが……。
「なぁ、アネキ。降りてほしいんだがよ」
「うるさいぞ。サコン。氏族の長が状況を検分し、いち早く情報をえるべきだろう」
「長の気概があるなら、一族のもんを前におんぶされる姿をさらすんじゃねぇよい」
そういと、サコンがウメナリ殿に殴れられる。
「まぁ、ウメナリ殿も死霊化した長達を押しとどめてくれだ、すまんが労わってやってくれ」
「ほれみろ。クニアツ殿の総長の気概を見習え。馬鹿者ッ」
「いって! なぐるなよッ! 総長じきじきとあっちゃあしゃなぁねな……。とわいえ。ウコン、変わるきねぇかよ?」
「……あいにく俺も負傷中だ。すぐ直るだろうが」
「はぁ、そうだった」
添え木をされた腕を軽くふるウコン。
「とりあえず、生きた森を目指す! そこで供促をとる! もう少しの辛抱だ! みな、頑張ってくれ!」
麓に控えた氏族のもの達に号令を発する。
「スイ、みんな。無事でいてくれ」
荒神や神格により崩壊した聖地の成れの果てを見渡しながら一人呟くと、
角が無くなった額。呪印になり替わった場所を撫でる。
「クノアツ殿。貴様はちゃんとオーガだよ」
「あぁ」
ウメナリ殿の言葉に喜を取り直す。
「ではいくぞッ!」
ブクマ・評価おねがいします!
作者のやる気スイッチをONできます!




