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エンジュ

 突如、世界全体から鐘の音が轟く。何千、何万もの輪唱を一度に凝縮したような不快さがある。


「うっせぇな……」


 思わず両手で耳を抑えると、

 ()()()()()()()()

 いてぇ……。


 完全に不注意だな。

 こんな捲り上がった大地で咄嗟に動けば、なにかしら負傷するよ。


(相変わらずどんくさいね。おに……あきひとは)

「いや、妹よ。俺がお兄ちゃんだから!」


 と、前のめりに抗議すると同じ足を再びくじく。


「いッ!」


 思わずうずくまる……。


(まぁ、しょうがないよ、お兄ちゃんの体質みたいなものだから)

「はいッ! 俺をお兄ちゃんって言ったぁ。俺が兄で確定ですぅ」


 と、指さしながら勝ち誇る。

 すると、妹の全身の目に「大人気なッ」というジト目を向けられた。


(なッ! ずるい! 今のは親切心からつい、でちゃったのッ! だからノーカン!ノーカン!)


 と、拳を上下させ文句をいってくる。


「お前、意外と現世のネタ、というか。詳しいな?」

(う~、そらされた……。ん? それは当たり前だのクラッカー!)


 古いな……。分かる俺もそうだけどさ。


(ずっと、一緒にいたからね。おに…あきひとに助られてから。ずっと)

「……そっか」

(うん。あきひとがボッチだっていうことも知ってるし、私が本当にお姉ちゃんになった事も知ってる。もちろん、あきひとのアンナことや、ソンナことも……)

「そこは、いわなくてもいい……!」


 と、ひさびさに妹と話していると声を掛けらえる。


「大御神。どうか奏上を聞き届けていただきとうございます」


 と、身を震わせながら平伏しながら懇願してくる。

 どうやら、ずっと話しかけ来ていたらしい。

 いやぁ、久しぶりだから、つい話し込んでしまった。


「あぁ、いえ。こちらこそ無視してしまってすみませんッ。それで何か」

「……はい。ロクロウタの縛布霊装を解いていただきとうございます」


 平伏したまま言われる。


 あ、すっかり忘れてた。

 久しぶりだったからね、ツイね。

 てへへ、的な頭をかくポーズで誤魔化す。

 と、いってもこちらの人にはつらわないかも知れない。

 てか、平伏したままだった。


 よし。其れでは早速。


「えぇっと、どうだったかな?」


 記憶を探る―――お、こんな感じか。ふむふむ。 

 縛布霊装、解除!


 すると、俺の腕に黒い布が巻き付いてきて封じられた……。

 結果的にチャラ男を解法で来たのこれで良しとする。


「大御神。感謝いたします」


 ここまで畏まらなくても……。

 と、思うが言っても無駄なんだろうな。


 というか、転生させて。霊装を二回も使ったうえに封じられて、

 一度大怪我もして、フラフラなんだが……。


 転生した本人は、解脱したため全く別の種になってしまっている。

 肉体の再構成で疲弊し眠ったままだ。


「ロクロウタ。大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。問題ないじゃんよ……」


 その返答に、ホッと安堵の溜息を吐く。


 言葉通り。大丈夫なようだ。

 誤作動といか、ミスって自分を封じちゃったので魔法とか魔術がつかえない。

 元に戻す気力もないのでよかった。よかった。すると、


 「……ぅ―――うわあぁぁぁああああ!!!」


 と、上空から叫び声が降ってくる。

 見上げると小さな点がみるみる大きく―――俺の真上!?


 わたわたと、落下地点から逃げようとするも、くじいた足では遠くへいけない。

 引きずりながらも移動するが、落下するヤツが微妙に俺をクッションにしようと空を掻いてるのが確認できる!?


「バカ野……ろうんんんッ!?」


 と、勢いよく落下してきたものをキャッチしてしまった。

 踏ん張る負傷する足に激痛が奔る。

 抱えていたものを手から転がしてしまう。


「ふぎゃッ!」


 女の子声だ。

 いったいなぜ空から?

 再び蹲り、足首を労わりながら女の子の悲痛な声のする方を見やる。


「いたたたた……」


 と、ピンクゴールドの髪をした少女が転がっている。

 後頭部を抱え、痛みに悶えてるようだ。すると、


「大御神!? 」


 後頭部を摩りながら、こちらに居直る。


「膝はないであろう!?」


 と、初対面の女の子に怒られた。


「え、いや。すみません……」


 どうやら転がしたときに俺の膝で頭を打ったらしい。

 そのことに思い至ると、確かに。膝がジンジンする……。


(だぁれ? この子?)


 と、妹が片手で子猫をあやす様にくすぐり始めた。

 縮尺的に丁度そんな感じ見える。


「やッ…やめろぉ~!?」


 と、小さな手足で抵抗している。

 誰だろ?

 大御神って呼ぶ人なんてそういないぞ?

 目の前のスイさんくらいしか……。

 あ。

 もう一人というか、一匹というか、いましたな。


「えぇっと……龍? ですか?」

「最初から、そうであろうが……はぁ、はぁ」


 と、妹のあやしから解放されて息が上がっている。

 後ろに向きなおると、長い髪で隠れたお尻の辺りから、

 先っちょがちぎれた小さな尻尾をピコピコと動かして見せてくれた。

 とりあえず、なぜか裸なので白い着物を貸して遣る。

 ミs……事故で封印されているので霊装としての権能は発動することなく、

 龍はキョトとするとくるまり、満足そうだ。

 長けが合わず一枚しかない十二単みたいに裾を袖を引きずっている。

 いろいろ、とツッコミどころがあるんだが……。


「子供だったんですね」

「ちがう! 調律の摂理で還元されて退化してまったのじゃッ!」

(あきひとが調律を引き受けなかったら、いなくなっていたということねぇ)


 としみじみと補足してくれた。

 子供になった大分、口調や性格が変わっている気がする。

 

 すると、残響が轟いてくる。


(あの子が見境なしなしに神格を顕現させたせいでしょうね。あきひとやワタシ、この子に、あきひとのストーカーが一度に現世にいるだけでも世界にとってはわずらわしのに……)


 すると、


「いいから、はやくここをはなれるのじゃ! 退化して力が上手く扱えない!まだ一族ノ者たちが凌げているうちにいくのじゃッ!」


 そういうと、あわただしく走り出そうとする龍。

 着物の裾を人差し指で抑えられ、前のめりに転ぶと襟首を摘ままれ妹に捕まってしまう。


「やッ…やめろぉ~!?」

(めんこいのぉ。わしゃわしゃわしゃッ~!)


 と、じゃれ合い始めた。


 そうか。

 時折、襲ってくる黒球を凌いでくれていたのは龍だったっけ。

 手立てがないと慌てているのだろうが、猪突猛進すぎる。

 そして一族ノ者達。

 おそらく、匿ってほしいもしいもの達のことだろう。

 彼らも助力してくれていたらしい。

 そう考えると、気持ちも分かるか……。


 微笑ましい光景に反して、妹と龍の両者には、かなりの温度差がある様子。


 そんなやり取りの間にも、辺りで黒球が突き立ち、灰塵を巻き上げ樹海を灰の砂漠に変えていく。


(あ。祟禍の死霊を回収完了!)


 と、解放された龍はぐったりしていた。

 赤ちゃんみたいに着物を巻かれて妹に抱かれており、

 今もほっぺを突かれている。


 そういえば、戦禍の雑踏が先ほどからぜんぜん聞こえなくなった。

 妹が何かをしていたらしい。


(これでストーカーの力はこれ以上大きくならないけど、あの子はせめきれないでいるみたいねぇ……) 


 白無垢のようにここにいない者達を感知できるらしい。


 そんなことを思っていると、近くに黒球が着弾する。

 一族ノ者達でも限界なのかもしれない。

 龍も巻かれた着物なかで、もぞもぞと動き駆けつけたそうに上空をみている。

 その視線の先へつられるように見上げると巻きあがる灰塵の中、白無垢の姿を見つけた。


 しかし、それは人の姿をしていなかった。

 半人半蛇の異形が、歪な槍を携え戦っている。

 周囲には紫電が見える。一族ノも達だろう。近づけにいるようだ。

 俺たちに気づき、ヤツとの間に入る様に移動してきた。

 目に見えて疲労困憊しているのがわかる。彼らの身を思えば、確かに。

 はやくここを離れた方がいいかもしれないが……。


 そして、ニセ第一村人が姿を現す。

 白無垢と似た、漆黒の装い。頭の無い人型の異形。

 黒い焔を滾らせ、白無垢であろう異形と対峙している。

 

(う~む。我を忘れちゃてるのかなぁ? 泣k、じゃない。上手く戦えてないみたい。応援してあげれば?)

「応援たって……」

(いいから。いいから。)


 そう、妹に促される。しかたない。

 俺たちのために戦ってくれてもいつのだ応援でどうにかなるなら、

 背中をおしてやろうじゃないか!

 

エンジュゥ(・・・・・・)!(エンジュ!?) はやく終わらせて帰ろう!!」


 知らないはずの名前が俺の口から飛び出す。


(ふふふ。サービス。サービスぅ!)


 すると、さすがにここまでに堪えのかふらつくと、前のめりに灰の砂漠に倒れる。


 急に眩暈が襲てきた。

 慌てた妹に抱き起されながら、沈みゆく意識で上空を見上げる。


 ―――六頭の巨大な白蛇を見たような気がした。


「あの、私、空気なんですけど……」


 と、タバサさん声を最後に俺は気を失ったのだった。


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