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転生

「アキヒト!ゴサイィィィィィ!!!!」


 黒い仮面と、悪魔のような黒い角が赤く脈打つ。

 掲げ据えらえる手には、あらゆるものを拒絶する憤怒の黒球が俺を捉えていた。

 雲海の上で襲ったのは、他の誰かではなく俺だったのだ。


 フッ……、と。その衝撃で脆くなった木々たちが灰塵に帰し、

 第一村人の無意識の拒絶が遮るもののない景色に変えていく。

 

 俺が落ちていく地獄ってコンナなのかな?

 なんの罪で落ちてくんだろう?

 生きてるだけでこんなめにあうのか?

 ここまで憤怒に変えるほどのことをしたのだろうか?。

 それは俺を裁こうとしている目の前の第一村人だけが知ってる。


 そのことに気づいてたところで頼れるものはいない。

 殺されるのってこんなに怖いのかよ……。


 黒い布が球状に俺たちを覆い隠す。

 感覚が端から奪われて行くような、自身の存在すら知覚できなくなっていく……。


 刹那の間隙を一閃。―――フォンッ!


 と、凄まじい風切り音。

 赤々とした大災害の中煌く。

 黒布を寸断すると、黒仮面の第一村人の胸部を何かが穿ち、目の前から一瞬で消える。

 直後、灰塵にされ更地になった大地に隕石が衝突したよな粉塵の柱と地震、

 遅れてきた衝撃波が腹の底をグッ押し上げる。


 すると、黒布に拘束され締めあげられた体が、浮遊感にさらされたていく。


 嘘だろ!?


 何かにふきとばされた第一村人の手から離れた黒球が地表に衝突すると、

 半球状に地表を覆い迫ってくる!?


 必死にもがくが黒布に未だ拘束され身動きが取れないうえに、耳が戦禍の音を拾う。

 次々と何かの大軍が死霊を蹂躙し合う姿が目に飛び込んで来た。

 切り飛ばし、叩き潰し、食らいつく。


 地獄に落ちるとはこう言うことかぁ!?


 死霊の軍勢が地獄の化け物に蹂躙される大地への衝突か。

 黒球の猛威とに板挟みにさらされる―――!?。

 

「あぶねぇッ!!」


 黒布の上から背中を掴まれ釣らる。


「なななな!?」

「暴れるんじゃねぇじゃん!?」


 と、チャラ男にどやされる。

 犬歯をむき出しに迫力満点だった。

 怖い……。

 全身をオーラ的なものが包み、尋常ならざる機動力で、哀れな死霊が踏み台にされる。


 すると、


「 ムリョウ!?」


 スイさんが死霊の中へ追いすがろうともがいている。

 タバサさんがそれを何とか抑えているが、

 両腕が消失しよともオーガの膂力を人間の少女じゃ抑えきれない!


 よかった。タバサとスイさんは無事らしい。

 ふと、軍人さんのことがよぎり、いやな考えに頭を振る。


「スイさん! お願い! 言うことを聞いて!?」


 スイさんは錯乱し状況を飲み込めてないらしい。

 跋扈する死霊が地獄の化物へ標的を定めている中、

 タバサさんの結界が死霊をわずかながら遠ざけてくれている。


「スイさんッ!!」


 スイさんがタバサさんを振り払い死霊の大河の中に瞬く間に掻い潜っていってしまった。

 

「ちッ!」


 そういうと、なりふりかまわず死霊を蹴り伏せて、チャラ男が死霊の波に突っ込んでいく。 


 まて、まて、まて!


「…嘘だ……ろ!?」

「うっせぇ!?」


 苦痛を堪えてでも抗議したくてでた単語が一蹴された。

 会話など成り立つはずもなく、その間にも死霊と地獄の化け物の隙間を駆け抜ける。

 一部、上空を目指していく死霊が目に入り、大変うらやましい。

 チャラ男の移動速度もあるかもしれないけど、今の所無傷で済んでいるのが不幸中の幸いだろうか。

 

「女! スイ様を追えッ!!」

「一個かしですよ! それと、女って呼ぶな!?」


 鹿にすぐさま騎乗するとふらつきながらも結界を飛び出し、スイさんを追いかけだす。

 

「ガキッ! ちびんじゃねぇぞ!?」

「ッ!?」


 さらに加速すると負荷がかかる。

 体の節々が痛い……。

 しかし、口に出すと怒られるので我慢するしかない。

 

 背後の戦禍の喧騒が止む―――振り向くと、黒球がすぐそこまで迫っていた!?


 すると、粉塵が立ち込める一帯に突っ込む。

 視界が悪く、チャラ男が死霊と何度かぶつかりながら、全力で駆けているのがわかる。


「あれは……!?」


 チャラ男が何かを見つけたらしい。


「ガキ!? 飛び込むぞッ!!」 


 了承なんてもちろん求められていない。

 浮遊感を感じると高低差のある着地の衝撃が体をつんざく!


「ッ!?」


 灰塵が立ち込める中、チャラ男が姿勢を低くし備える。

 俺はその辺に転がされた。


 直後。―――上を黒球が過ぎ去る。






 ―――誰かの声で覚醒する。

 衝撃が可聴粋を振り切り、頭を揺さぶれ感覚で気を失っていたみたいだ。

 

「ムリョウッ!」


 スイさん? の声だろうか。誰かの名前を呼んでいるのか、遠くに聞こえる。

 チャラ男はいつの間にか、傍からいなくなっており、

 第一村人の黒布の残滓が捨て置かれている。

 転がったまま首を廻らすと、どうやら俺は巨大な窪地に飛び込んだらしい。

 黒球で灰塵が吹き飛び、大災害のせいなのかぼんやりと明らむ曇天が丸く淵どられて見える。

 

 生きてる……のか。


 この窪地のお蔭で助かったみたいだ。

 ナイス、チャラ男。


 反対に声がした方に顔をむける。

 なだらかな坂がずっと続き、窪地の底。影になっている場所で煌くものが目に入る。

 そこには何かに縫い留めらる様によっこたわる人物。あの黒髪黒仮面。第一村人だ。

 すぐ傍にスイさんがおり、チャラ男がすぐ後ろに控えるように佇んでいる。

 それを見守る様にタバサさんと鹿が距離を取っている。


「ムリョウ……ッ」


 第一村人に、そう呼びかける。

 第一村人はスイさんの知り合いの様だ。

 それがあのような化けものなってしまったらしい。


 痛みにこらえながら、黒布に拘束されたまま芋虫のように傍に寄ってくと……。


 第一村人の胸部を何かが刺し貫き、地面に留めているものがはっきりと見えてくる。

 あれ? どっかでみたような―――。


「……ス…い?」

「ムリョウ!?」


 すがる少女。

 面越しに覗き込む。


「いまお面を……」

「い…い。みn…いで……」


ぐっと唇を噛む少女。


「みな……は」

「……みんな?」


 スイさんは涙を流している。

 面越しでは、きっと分からない。


「……みんな生きてるわ。負傷してるものもいるけど」

「……」

「ムリョウ、あのね……」

「う……そ……」

「!?」

「お、れ……わた…し、食べちゃ……た。ははうえ…オ…チち、う……を」

「……」


 そういって、乾き老いた皺くちゃの手をを握ろうと欠損した両腕がさ迷う。

 ポタポタ、と零れる涙が乾いた手に落ちる。


「……ご…nね」

「……」


 もう声にならない嗚咽を漏らす。

 見ているのが辛くなる。

 かける言葉もない。

 

 少女の下へ歩み寄るチャラ男。


「……ムリョウ」


 もはや、言葉を返さない黒髪の女性。

 

「み…んな…いき…て……」


 そう世界に願いをこぼす。


(助けたいの?)


 突然、声をかけられ、ばっと横を向く。

 そこには幾つもの目が俺を見つめていた。

 しかし、その身は一つ。

 膝を抱え屈み、こちらを覗き込んでくるその女性の体躯は巨人と言っていい。

 女性は衣服を纏っておらず、地面に扇状に広がる長い髪が揺蕩い裸体を覆い隠している。

 その髪全てにも目が見開いており、ぼっちにはきつい大衆の目だ。一気に身が凍る。

 

 だが俺の頭の中を一つの閃きがあ駆け抜ける。


 それは、コイツが全身が真っ黒なこと。

 全裸ということは裸足ということだ。がきんりょ捜索のおり、見かけたあの黒い素足。

 そして、黒仮面の女性を縫い留め、投擲されてであろう見覚えのある刀。

 あれは、寸寸梵論(ズタボロ)だ。

 おそらく、目の前の巨人が握りつぶした包丁。


 そう、こいつが第一村人だ。

 

 幾度となく物を放り投げてきた習性を考えれば、

 今回の寸寸梵論を投擲する所業は第一村人をほうふつさせるものだ。


 そうなってくると、なんでムリョウとい女性は俺の名をしているのかという疑問が……。


 情報が錯綜し茫然としていると、ぐいっとその巨大な顔を向けらる。

 座高だけで3mはありそうだ。


(たすけたくないの?)


 そう聞いてくる。全身にある目も俺に問いかけるように見てくる。


「……助けたい、けど……」


 無理だ。

 俺に何ができるっていうんだよ。

 ニセ第一村人の、みんな生きて。という言葉。

 この災禍を振りまいたのは彼女だ。

 でも、こんな結果を普通に生きてて望むわけはない。

 生きてほしいもの達のための力だったんじゃないだろうか?

 そして、あの場にいる生きてほしいもの達にそう頼むだけじゃなく。

 何かに願ったんじゃないだろうか。

 他人事で、この場にいる人間だから、そう感じただけかもしれないけど……。

 どうあろうと、身勝手な妄想で終わる話し。


(いいよ。お、お姉さんに任せておきなさい!)


 お姉さんぶるのに慣れてないのに、なぜかお姉さんキャラを演じてくる第一村人。

 見開いていた眼球がジト目になっている。一つ一つの目が意志を持っているような……。


(といっても。記憶を一部返すだけだけどね)

「……記憶を返す?」

(そう。おに…弟である君との約束だから言えないけど。それに、あの子だけ出しゃばってるのに出ないわけにはいかないわ!)


 見た目に反して、気のいい奴なのかもしれない。

 わりとフレンドリーに話しかけてくる。


「……さっきから誰と話してる」


 身構えるチャラ男。

 ここまで俺をもってきたくせに鋭い視線で睨んでくる。


「……誰、とって」

(説明しても無駄だと思うよ? そこの巫女コスの子なら理解はしてくれそうだけど)


 そういわれ少女を見る。

 さっきより攻撃的な体制になり、戦闘に入る気満々だ。


(はぁ、おに…弟を殺るってなら殺っちゃうよ)


 横で危ないことを言い出す。全身目も「あ? やんのか?コラ」と目を上下させチャラ男を睨む。


 慌てて訳を話そうとするも、激痛で声にならず……ッ!


 キャラを忘れて殺気というものを放つチャラ男。

 底冷えする心臓に冷や汗をかく。


 張り詰める空気―――。


「ロクロウタ!」


 涙を振り払いチャラ男を止める。

 その声に殺気を放つをやめるも、警戒は強めたまま。


「貴方は控えてなさい」


 そう重く言葉を発する。

 泣き腫らした目で、凛々しく俺を見つめる。

 俺と第一村人の前まで進み出ると、正座に直り平伏する。

 俺はというと、まだイモムシだ。


「御前の手前、大変なご無礼を」

(べつにいいよぉ。分かってくれれば。)


 軽ッ。

 そういうもののスイさんは震えたまま。

 沈黙が生まれる―――


(あ、私の声聞こえてないから、おにちゃん通訳してね)


 と、目で微笑みかけてくる。一応、頭部の普通の目二つで。

 もう、お姉さんキャラはいいのかな。

 突然、妹キャラに転身している。


「いえ、警戒を……解いてくれるなら」


 苦笑いで堪える。


「恐悦至極」


 そういって顔を上げるが焦燥している。

 大丈夫だろうか?

 あの女性と仲良さそうだったしなぁ。

 助けれない……そうだ、助ける助けないの話はどうなったんだっけ?


(ん? もう記憶の一部は返したから権能を顕現できるよ? あ、もしかして失敗したかな?)


 正座に直り、う~んと悩みだす黒巨人の女性。

 目もなんとなく「すんません」てきな挙動で瞬きをする。


 記憶を探る。

 確かに。 

 なるほど。そう言事か。

 だから俺は記憶を……。


「じゃぁ、またお前に、記憶を返す事になるのか?」

(うん! 約束だからね!)


 と、無邪気に頷く。

 目も「俺らに任せてください!」と頼もしく瞬きする。

 とても感情豊かな目達だな。


「妹を頼むな」

(なッ!!私がお・ね・え・さ・ん・なんですぅ!?)

「記憶ないのをいいことにすり込もうとしただけだろ!?」


 「キョウダイ喧嘩が始まったよ……」とあきれた目をする目達。


(いいから早く助けてあげなよ!? 本当に《調律の摂理》で死んじゃうよ!?)


 と、ばたばたと手を振りながら慌てだす妹。

 そう言われても動けないんですど……。


(どんくさいなぁ。どれどれ……)


 そういうと、黒布を解いてくれた。


(はい! おしまい。あとはこれを拝借して、と)


 俺がずっと固く握っていたらしい白無垢の着物を取り上げらると、

 そっと着物を掛けられる。


 おっ? 痛みも引いて、感覚が戻ってきた。

 こんな感じで治るんだな。

 と、ひとしきり感心する。


「やべ!? そうだった!! スイさん事後承諾になるけど、ごめんね!」


 まだ、白無垢がどっかでニセ第一村人二号と戦ってるのだ。

 グズグズしていられない!

 そう断りを入れムリョウとい女性へと歩みを進める。


 すると間髪入れずにチャラ男がオーラを纏い急襲してきた。

 無表情でマジなのが伝わってくる。

 怖い……。


「ロクロウタ!!!ダメッ!!!!」


 いや、そこまで声張り上げなくても殺したりしないです……。

 妹はどうだかわからないのでここは俺が何とかしよう。


 え、えぇ、と記憶を探っていくと―――ちょうどいいのがないんであれで行こう。

 一回見てるし、くらってるし。効果も体感してるので丁度い。


 急襲してくるチャラ男に手を翳す。

 チャラ男が踏み込んだ瞬間に陣を展開。


「なッ!?」


 チャラ男を黒布で封印する。


「そんな……縛布霊装を詠唱破棄で展開するなんて……」


 そう言うとへたり込む。

 白い着物を拾い上げると、

 茫然自失となってしまた少女に白無垢の着物をかけてやり、

 さっさと腕を治してやる。


 もとより、そ言う約束だったし、これで良し。


 これで、このニセ第一村人を救うのに手間取ることもない。

 

 白無垢が割と本気で力を使っているので、調律が起きてしまった。

 俺が引き受けなきゃこの世界が改変されるか、世界に不必要なものが排斥されてしまう。

 それじゃぁ、この女性を助ける意味がない。

 器として変質したせいで肉体を修復したところで調律の摂理に淘汰されるだけ。


 これは集中力がいるぞ……。


 ニセ第一村人の女性から寸寸梵論(ズタボロ)を引き抜く。


「……ぅッ」


 と、小さく呻く。

 よし、ちゃんと生きてる。


 寸寸梵論は近くに適当に刺し直して、と。

 

 俺の力はなるべく使用せずにいこう。

 術式ヲ展開―原初の無垢な言葉を並べていく。

 

 球体の陣が展開。

 幾何学模様が絶えず変化する環状の陣が幾つ重なり、

 球体を中心にそれぞれ旋回する。


  「《輪廻解脱術式起動》―――転生」


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