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白無垢心中―其の弐―

 上空から黒い者が黒球を灰に変貌しつつある樹海へ放つ。

 それに割り込むおように白い者が白鱗の盾を生成し防ぐ。


 その刹那の交差のたびに樹海に灰塵の柱が立ち、灰の砂漠が津波を起こす。


 幾度も繰り返され、膠着状態が続いてるが白無垢は焦りを表情に滲ませる。 


 ますます、やりずらいおす。

 世界が軋みはって《調律ノ摂理》が起きれば、邪魔なものは排斥されるか、

 世界に還元されてしまうどす。


 うちがそれを知っていて手をこまねいとるのを勘づきよったのか。

 

 こちらが力を上げれば向こうも力を上げてきよる。

 結局、力押しが出来ずに手負いで逃してしまった……。


 まさか、角持ちが追いかけて行きよるとは思わへんかったどす。

 

 《調律ノ摂理》で還元され『種』まで堕落し雑神は、おそらく角持ちの祖神。

 角持ちが特異なんはそのせいやろし、祟り纏った祖霊をまき散らして、

 いうなれば我が子である子孫を狩って力を取り戻しけつかるッ……!

 今も眼下の血脈のもん、取り込んで力を取り戻しとる。

 不幸な事に御方も角持ちと共にいはるよってに、必死なんやろ。


 そないに御方が憎いようどすな。

 世界ごと己を滅ぼしてもかまわない。そうほたえとる。


 キッとヤツを睨みつける。


 うちの攻撃で使いもんにならくなった器を捨て去り、正体をさらす雑神。

 黒い白無垢を纏った、頭のない人身の神。

 相変わらず黒い焔を滾らせとる。

 うざったい法理どすな。


「うちまねても、強おうなるわけじゃありんせんのに」


 雑神が空中に黒球を複数作り出すと、自分に周回させ肉薄してくる。 

 黒球の数だけ白鱗ノ盾を生成し、掃射に備え身構える!


 拳に黒球を纏い、先の攻撃のように白鱗の盾を殴りつけてくると、盾が消失し黒球が迫る。

 神格を顕現させた腕で手首を払い、胴を穿つ拳撃を叩きこむ。

 力を取り戻しつつあるうえ、器を捨てさった効用か。

 黒球で自身の肉体を欠損することは、のうなったようどす。


「……!? 黒球が旋回しておらんどす!?」


 感知する先に、御方と角持ちの集団がいはる!

 負傷したのか深緑髪の角持ちに担がれ、麒麟で逃亡している。

 捨られたはずの器が追随し、黒球を御方に向け放っている!  

 

「白主殿を!?」


 えずくろしい!

 光輪を背に顕現。

 御方に向かう黒球を白鱗の盾で対消滅させ、

 捨て身で直接弾いていく。

 《不変の法理》で吹き飛ぶ腕を()()()()()()に治しながら対消滅、時にはそらし樹海を灰に変えていく。


 即座に攻勢転にじようとすれば、御方に黒球が放たれる!


「ウザったい、どす!」


 白鱗ノ盾を生成できるだけ展開し、御方を影に隠す。


 そうすると、白鱗ノ盾を遮蔽物にしながら移動し黒球を旋回させながら迫ってくる。

 黒球を弾き、腕を吹き飛ばしながら雑神を殴りつけていく。


 神格を武位顕現させようにも僅かにしかもたない。

 すぐに、調律の影響で消滅する。

 神位をあげれば世界(かくりよ)と同等の存在を、この世界(かくりよ)は受容できへん。

 この世界がどうなろうと関係などすけど、御方がその歪を引き受けしまう。

 ただでさえ、現世(うつしよ)に流れ込む神々のせいでどれだけの不運にみまわれているか……。


 黒球を防ごうと白鱗ノ盾を割り込ませる。

 すると、展開させていた白鱗ノ盾の影に潜ませていたのだろう。

 白鱗ノ盾の影から黒球が現れわれる!

 遮るもののなくなった黒球が御方へ、弾かれるように放たれる!?


「お前様ッ!?」


 慌てて転移をしよとするも、当然のように肉薄してきた雑神に光輪を破壊され、

 肩ごと先を消滅させられる!


 白主殿!? 追いすがろうと翻る―――直後。


 リーンと積層した障壁が黒球をそらすと、遠くに着弾し灰塵の柱が立つ。

 その一度の役目で障壁はコナゴナに砕け散ってしまった。


「けもの……」


 紫電が樹海の上で泳いでいる。 

 

 即座に居直り、雑神を振り向きざまに復元した腕で殴り飛ばし、

 白鱗ノ盾に打ち付けると、白鱗を添付した砂塵のまま蛇のように変成し拘束する。


 一気に黒い焔を滾らせ白鱗ノ盾を灰に変えていく――、しかし。


 拘束が解ける寸前に展開させていた白鱗ノ盾を変成し、灰になる傍から拘束していく。

 振りほどくのが無理だと判断すると、黒球をより小さく大量に生成すると、

 御方目掛けて雨のように降り注がせる!

 けもの一族も合流した様どすな。

 幾つか障壁が展開し簡単に砕ける障壁でも、御方へは届いていない。


 白鱗ノ盾も防御に回し、拘束する時間が減る。

 

「ちッ……」


 それは《調律の摂理》が神格の排斥として現象化させずに、

 神格を武位顕現させる時間が減った事を意味する。


 あと、少し―――。


 それでも、世界の法に触れる行為。

 時間だけが問題ではない。

 空間が軋み、神格を顕現した端からその自身の重質量に瓦解していこうとする……。


 手の中にある物質化した神格が武器の形をとっていく。


「武位顕現―――《八重垣の穂》」


 僅かにしか顕現を維持できそうになさそうどす。

 《調律の摂理》がなくても、力を抑制したままでは自壊してくのは自明の理。


 投擲の構え。

 それだけで世界が軋み、空間に波動が走る。


 矛の穂先を雑神に捉える―――。


「……いくでありんす―――!?」


 直後。

 穂先から自壊する。

 まるで創造主の意識が砕かれてしまったように……。


「……そんな―――」


 感じない!?


 白主殿の……お前様の存在が世界からなくなってしまった。

 思わず、存在があった場所に振り向いてしまう。


 そこには、死霊に紛れて絶命まじかの器が御方を拘束し、黒球を放っていた。


 一帯が黒い半球に覆われ、音もなく崩れ去るとただの灰の砂漠に変わってしまっている。

 あとには、祟りを付加された祖先どもが跋扈すだけ……。


 ……。


 もういいどす。こんな世界。

 排斥されるだけならまだいい、まだ会える。

 でも……。


「天上顕現―――亜神(あじん)(よそい)


 二度と会えないのないなら。


 白無垢がはだけると亜神が顕現し、世界の拒絶が始まる。 


 《調律の摂理》が世界から弐柱の神を排斥しようとその法則に捉える。


 雑神も法則に抗おうと、祟禍(そうか)でばら撒いた死霊を神気に還元していく……。


 世界が終末を知らせる、鐘の音が世界に轟く。「世界改変」の予兆。


 赤々と滾る大地の上空で神々の戦いがはじまろうとしていた。

  

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