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絶対絶命

 上空でリーンともう何度助けられたか分からない残響が届く。

 振り返ると障壁の残滓がキラキラと霧散していくのが見えた。

 第一村人が放つ黒球がやはり俺を狙い迫ってきていたのだ。


 それを紫電と共に現れた龍が障壁で今も受け流してくれている。

 着弾したその先は劫火にのまれることなくあっという間に灰に変わってしまった。

 ニールの走行に大きく揺さぶられ、あわてて軍人さんしがみつく。

 

 あぶねぇ……。

 障壁の破砕音が響くたびに樹海のどこかが灰になっている、ってことか。


 それより―――!


「どうゆうことだ!?」


 思わず声が出てしまう。

 上空で第一村人が攻撃をしてきているのに、

 なぜか、俺の後ろにも第一村人の黒髪の女性が追ってきているのだ!

 それも、死霊の大軍を引き連れ眼下を埋め尽くしている。

 ニールもやすみやすみ白光し速度をあげいるが、

 ここまでの疲労がたたり思うように速度がでていない。

 やがては、高度が落ち地面に降りることになる。

 その時を思い軍人さんの時折振り向く横顔は険しい……。


 ここで、ツミなんだろうか―――。


 その時。

 第一村人が手を前方にかかげると手の前に黒球が出現する!

 この第一村人も俺を絶対コロスマンらしい。


 やばい!


「軍人さん!?」

「分かってる!!」


 とっさに上空に飛び出す。

 前方位に着弾した黒球が大きなドーム状に拡張する。

 あのまま横にそれ、直撃を避けただけではあの効果範囲に突っ込んでいた。

 さすが軍人さんだ。とっさに最適解を選択するとは。

 でも、いつまでこの鬼ごっこが続くのか……。

 今度は着弾させないために高度を上げ、第一村人との位置を上下になるよう位置どる。

 白無垢との戦闘の影響か自在に空を飛びまわれないならしい。

 それだけが、わずかな優位性を維持できている。


「ニール……」


 わずかに痙攣するニールをそっと撫でてやる。

 迫りくる第一村人に改めて振り返ると、遠くに何かが見える。

 

 あれは―――。





(スターク様が悪いんですよ。ぜんぜん違うオーガ達に渡しちゃっていいっていうから……)

(最終的にその判断をしたのは君だろう、タバサ君……)

(だって、赤髪の人が預かるっていうから……)


「聞こえてるじゃよ」


 びく、っとなる。

 ユリリートに追いつこうと死霊の上を駆けていると、

 まったく死霊に襲われずに石灰化した木々の枝を、

 高速で移り渡っていくオーガの集団を見つけたのが運の付き。


「……タバサ君。あの大男に抱えらているのがスイとかいう霊装を扱える少女じゃないのかね?」

「……かも、しれません」

 

 なんて、バツを悪そうに言いあう。

 すると。

 突如、麒麟の体制がぐらついたと思ったら、

 私が駆る麒麟の腹部に童女が張り付いていたのだ。

 思わず減速すると、


「ボタン姉。よくやったじゃんよ!」

「……疲弊した麒麟なら、容易い」


 背後から声がすると、下から童女が顔出し自信満々に答える。


 ―――そして、今に至る訳だけど……。


「……まぁ、いいじゃんよ。スイ様達も乗っけてもらって足に使わせてもらったうえに、クニアツに死霊が跋扈するなか大層なモンとどけてくれたらしいじゃん」

「……少年。感謝」


 後ろに乗る軽薄なオーガそう言うと、私の前に座る童女がそう首肯する。


「あぁ、早く追いつかねばな」

「スターク様。どうかご容赦を……」

「はぁ……大男。それもオーガを騎乗させることになろうとはわね。かまわん。己の役割をきっちりと果たしてくれ。わたし達の存命に関わることだ、多少の不備には目を瞑る」


 隣を並走するスターク様の後ろには、

 両腕がないスイとい青緑髪に綺麗な角を持つ少女を灰色髪の大きなオーガが抱えながら騎乗している。

 スターク様の方が窮屈そうだ。

 

 すると、前方に黒い半球が出現する。

 直後に白光するものが次々と上空に飛び出してきた。

 

「追いついたじゃん! さすが麒麟だッ!」

「……それより、荒神がいるみたい」


 げぇ……まじかよ。

 あれから逃げてると言ってもいのに前にいるなんて……。


「おら、はやく通信魔道具でアイツらに連絡しろ」


 うんざりしてると、こちらの気も知らずに催促される。


「わかりましたよ……。ちょっとまってください。―――こちら角班。状況を……」

『タバサ副部隊長!? 荒神がッ!』

「わかってます。落ち着いて。ユリリアートが少年を連れてるでしょ?こちらに合流できないかしら……」

『わたし達無角班だけなら可能ですが……ユリリアート、いえ、執拗に少年が狙われていて近づきようがありません!』

「……わかりました。あなた達だけでも戻ってきなさい」

『了解です!』


 陣の起動式に触れ通信魔導具を切る。

 その間にも黒球が何度となく放たれており、

 時折、リーンと上空で障壁が黒球を遠くへそらしては灰塵の柱が立っている。


「ちッ。あのままじゃガキごと麒麟が落ちるじゃんよ! 女、ひとッ走りいけねぇか!?」

「……女。頼む」

「ちょ、お腹突かないで下さい! 」


 童女に突かれながら懇願される。

 蜘蛛の糸を掴むような案だけど、スイとうい少女の霊装が使えれば。

 それに―――。


「……ん~、ん! 死ぬなら親友の傍です! いでしょう! いきましょうッ!」

「さすがハーマルグント軍人!。肝がすわってるじゃんよ」

「ぐぬ……そういこt」

「タバサさん。私もついていきます! 少年に会い次第すぐに呪詛反転を解いてもらいたいのです!」

「だが、スイ様……」

「ロクロウタ。問答ですら時間が惜しいのです」

「……」

「はぁ……、わたしは問題ありません。急ぐのならスイさんお一人の方がいいのですがその腕では難しいでしょうし」

「問題ありません。ロクロウタに支えてもらいます」

「いッ!?」

「……ロクロウタ。うぶい」

「うっせぇ!?」


 段取りが決まり、童女がスターク様の騎乗する麒麟に移り。

 スイさんが後部に支えられながら乗り込む。


「では、いきますよ!」

「骨は拾ってやる。灰になっていなければな」

「うぅ…ひどいですよ。スターク様……」

「タバサさん。お願いします」

「ほら、早くするじゃんよ!」

「みなさん、冷たすぎます……。では、気を取りなおしていきますよ!」


 麒麟が白光し速度を上げる。

 玉角がなくても麒麟の走力。


 みるみる、前方の一騎の麒麟へと迫っていく―――。




「ニール! お願い! 頑張って!!」


 ニールが減速し始める。

 軍人さんが鼓舞するが、もう、限界が近いみたいだ。

 白光も微弱になってしまい、空にいることさえ辛そうにみえる。

 

 しかし、第一村人は手を緩めない。

 まだ、高低差の優位性があるので着弾させずに済んでいるだけ。


 表情が険しくなる―――。


 すると、眼下で明滅する光。

 射程にはりるやいなや、魔術による迎撃を開始する死霊達。

 せまる発光体の面制圧!


 ニールを掠め、一瞬減速すると―――直撃!


 爆炎がニールを吹き飛ばす!

 地面へ衝突する寸前で、一度空を蹴ると緩やかな角度で地面の上をすべるようにニールが転がる。


 衝突の瞬間、投げ出された俺はニールより先へ吹き飛ぶ。


 肺からすべての空気を吐き出し、無音と世界が回る光景に一瞬、気を失う。

 軍人さがどうなったかは分からない。


 酸素を求めて、一気に呼吸が開始されると、全身に激痛が奔る。

 

 いってぇ……。声もでない。

 無酸素状態が続いたせいか目がちかちかし、ぼやけている。

 

 やばい。

 このままじゃ殺さる。


 なんとか、這いずってでも……無理か。

 朦朧とする思考が希望ごと意識を手放そうとした。その時。


 ふわっと、浮遊感を感じる。

 全身の痛みに、意識が再び覚醒すると、


「お……ガ……ろ! ガキッ!起きろ!」


 うわぁ、デジャブ。

 相手する気がおきない……。

 それでも、薄目を開ける。


「ガキ! 起きたか!」


 無造作にビニール袋を提げ持つ様にダラーンとなった状態で覚醒する。


「は……い」

「ちッ、しかりするじゃんよ。それでもオーガのガキかよッ」


 俺はオーガじゃね!


「すき…勝って、いって……じゃ、ねぇ……」

「はッ、威勢がはれる元気はあるんじゃねぇか」


 とニヒルな笑みを浮かべるチャラ男。


 その間にグン、と体が上方に引っ張られる。

 軋む体が悲鳴をあげ、激痛が駆け抜ける。


「いっ……てぇ……」


 つい、嗚咽が漏れる。


「とりあえずここを離れる!女!」

「言われ、なくてもッ!」


 鹿が白光し速度を上げる。

 

「あの……少年。お話しがあります」


 後方に流れていくオーガの群れを見下ろし戦々恐々していると、

 両腕のない少女に話しかけられる。

 まだ、激痛で朦朧とするなか目を騎乗する少女に向ける。


「少年の霊装をお預かりしてます」


 霊装? するとチャラ男が袈裟懸けに胴に縛り着けていた白布を少女が解き見せてくれた。

 チャラ男がむず痒そうにする。


「これです。この霊装は私たちでは扱えませんでした……。少年ならと無理を承知でここまで来たしだいです。どうか、わたしの両腕を治していただきたいのです」


 あぁ、だから死霊に対してここまで無力のまんまなんだな……。

 そう言われてもぼろ頭巾の様に項垂れている俺では座るのも難しいんだけど……。


「!? 回避します!」


 タバサと呼ばれていた騎手が声を発すると同時に駆け出す。

 第一村人が最初から前方に着弾させ効果範囲に捉える攻撃に変えてきたのだ!

 

 後方で他の鹿に騎乗している人達が死霊や第一村人に魔法で攻撃しているが、

 死霊が盾となり第一村人へその攻撃は届いていない。


 ガクンと、黒球のドームが消失すると、そのあった場所に引き寄せられる!

 石灰化した巨木の枝にぶつかり枝が折れ、そのまま石灰の森の中に突っ込んでいく。


 白光し、なんとか角を拡張させ二度目の直撃を避ける。

 なだれ込む死霊が減速に乗じて距離を詰めてくた!


「ちッ! 時間を作る時間もねぇ!ガキ! 」

「!?」


 激痛に顔をゆがめながらも狭い鹿の背に無理やり載せられ、

 白い布を押し付けらえる。


 いや、腕上がんないんですけど……。


「今やんなきゃ、死ぬしかねぇじゃんよッ……!」


 そう眉間にしわを寄せ、ガンをつけられてしまった。


 わかってるよそんなこと!

 おそるおそる体の調子を確かめていく……。

 左手は感覚はない。けどまだ動く!

 右手は痛いけど辛うじて……動く!

 なんとか痛みをこらえながら、布をスイという少女の肩に懸ける。


 直後。少女の無い腕の先から金色の光を放つ腕が伸び少女の細腕を形作る……。


 しかし、パァンッ!と、澄んだ音を響かせ霧散する。


「どうして!?」


 困惑を漏らす少女。

 取り囲む死霊の群れが陣を展開し四方八方を発光する陣が俺たちに向いている。


「アキヒトォォォォォォォ!!!!!」


 第一村人の絶叫が背後で木霊する。


「はわわわわ、来ちゃいましたよ!死霊に突っ込むしかなさそうですぅ!!」


 白光を維持したまま魔法の一斉照射をされるだろう未来へ前進する。


「!?……そんなッ」


 振り向いた少女が、困惑をか細く漏らす。


 あぁ、とうとうあの黒球が俺たちに向けらるのか……。

 死霊を壁に使い、巻き込んで放つ気なのだろうけどまだ死霊の網の穴は大きい。

 なんとか、いけるか……!? 


 振り向く。


 そこには、黒い布でグルグル巻きの腕がこちらに向いていた。

 白無垢に一閃され、致命の一撃を受けてなお迫りくる!


「縛布霊装の権限が……!?」


 すると、鹿を中心に幾つもの黒い陣が展開すると、

 あの時みたいに黒い布が射出され拘束される。


 なにがあっても逃がす気はないらしい。


 どうやら本当にここで詰んでしまったようだ……。


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