死霊―地獄からの氾濫―
全身から黒い焔を滾らせ、踏破せしめた場所を灰に変えていく。
ただそこにあったといだけで動植物が死に絶え、その魔の手が迫る。
「なんでもいい!纏衣結界で身を固めろ!直接触れられれば即死だぞ!?」
兄上が大声で指示を出します。
しかし、無防備に組み合ったもの達から武器も鎧も、角も牙も灰に帰っていく。
荒神の前に私たちは戦うことも許されなった。
冥界から死の氾濫。
赤々とした世界を跋扈する者。その全てがオーガの死霊達。
彼らから意志を継いできたというのに……。
「いそぎ撤退をッ!霊峰へ!霊峰を目指してください!!」
荒神の権能を付与され、世界を蝕まんと広がりを見せる。
どれほどの数の死霊達がこの森を埋め尽くしているのでしょうか。
それがわかるころにはこの森が灰の砂漠に代わっているかも知れません……。
「ぐわッ!」
また同氏の者が地に伏せり、私にすがろうとします―――。
「今、私がッ…」
ぐっと肩を掴まれ引き戻される。
思わず振り返り、兄上を睨みます。
「もう遅いッ!」
バァッと振り向くとそこには誰もいなかった。
灰なり、死者が踏み越え、その氾濫に呑まれる。
「いくぞ!!」
無理やり襟を首を掴まれ、走らされます。
「呪詛反転では結界は無理かッ……」
兄上が苦しそうに声を漏らします。
ウメナリ様が殿を務め、炎熱術式による爆撃で死者を吹き飛ばし、
逃げ遅れたものを助け起こして行きます。
「スイ様! お早く!」
ウメナリにも先へいくよう促されます。
その表情は険しく、鬼気迫るものです。
「呪令《停止》!」「呪令《停止》!」「呪令《停止》!」
巫女達を率いてきたのでしょう。荒神に隷属の意思を刻んでいきます。
次々と巫女が呪令を下し、死者の動きを阻害し、
一瞬とはいえ動きが鈍り時間を稼ぐことができました。
それでも数瞬、死が先に延びたにすぎません
皆の悲鳴。
絶望と怨嗟の地獄。
灰に帰ったもの達が巻き上げれられ、辺りに粉塵が立ち込める。
逃げるもの達に纏わりつき、死者が払いのけていく。
後方が一際明るくなり、振り返る。
粉塵揺蕩う不明瞭な視界の先に陣の展開する光が見えます!
「兄上!」
「ちッ、身業だけでなく魔術まで使えるのかッ!?」
振り向いた兄上が苦々しく顔をゆがめます。
ふいに、粉塵を払い飛び出した死者。
大軍から一人突出し兄上に肉薄したもの。
それは―――
「カゲヨシ様!?」
「何? 灰氏の!?」
「……ちッ!?」
交戦軌道上に私を兄上が蹴り飛ばします。
胴を蹴り上げられ、呼気を吐き出す。
「フユノジ! スイをッ!!!」
苦悶に声が殺され兄上を呼び止められません。
「ウメナリと交戦しながら撤退する!フユノジッ……」
オーガの膂力に身業で強化纏衣を付加する。
荒神の黒い焔を纏った大ナタが、
その剛腕をもって兄上の大ナタに叩きつけられます。
「くッ……行け!!」
死してなお氏族の長の一撃。
冠する格は同じでも技巧、力、経験において兄上は劣る。
そのうえ、荒神の焔が纏衣結界として機能し、
魔術を付与した攻撃でないと防ぐことも、攻撃も通らない。
そして、死者はカゲヨシ様だけはない。
祖霊達の大軍が幾千、幾万と迫っているのです。
歴代の猛者や長もいる中、少数しかいない我らに生き残る術はないに等しい。
巨木が抉られ倒壊し、魔術が役割を終え奔る魔素の残光。
大軍に呑まれんと奮闘する兄上とウメナリ様。
援護に回る巫女たちが見なくなるまでフユノジに抱えられながら見つめていると、
サコンとウコンが私達の両脇を駆け抜けウメナリ様に合流していきます。
「だから、振り返るなって!? くッ……殿をちゃんと務めてくれ!」
「そうだぜ…アネキよ……」
「心配はいらないよッ!少年を抱っこするまでは死ねないさねっ!」
なんというか、この状況でも自分を見失わずに立つウメナリ様はお強いと思います。
「フユノジ……」
「次期長は親の跡目に座ったと軽んじられるが、それだけで総長に祭り上げれたりしない」
寡黙なフユノジはそれだけを言うと、強化纏衣の身業を自身に施し、速度をあげると、
「遅くなったッ。道を切り開く。突っ込むじゃんよッ!」
「……まかせて」
数瞬遅れて、ロクロウタとノボタンが合流し阻む死霊を殲滅していくと、
死霊の大軍から抜け出すことができました。
兄上、ウメナリ様に巫女達。みんな。
無事でいてください……。
祖霊達の死霊を幾分引き離し疾走していく。
大河の河原沿いを上流へ向いながら身業で眼識知覚能力をあげ望遠・暗視・魔素視認で警戒しているところだった。
遠くに、化け物と一緒だった白髪のガキが見える。
「ボタン姉。見えるか?」
「……誰か弔っているみたい」
死霊の災禍に気づいていないのか河原の砂利の上に死体を寝かせ白い布を掛けてやっている。
おそらく、ガキが背負っていた麒麟遊撃隊の誰かだろうな。
ガキがここにいる理由までは分からないが、麒麟遊撃隊と接点があったんだろうよ。
麒麟なんて代物をガキが所有できるいわれはなぇからな。
すると、がばっと起き上がる赤毛の人間。
「なんだッ?死んでたんじゃねぇのかよ!」
「……うん、索敵術式でも眼識でも魔素感知に反応は、ない。もしくは魔素を感じれないほど衰弱していた……かも。あとは……」
「……あれが霊装ってか?」
コクン、とうなずくボタン姉。
「……おそらくは」
フユノジに抱えれたスイ様が首肯する。
角氏の巫女がそういうのならそうなんだろう。
回復した軍人に手綱を任せ、おなじく上流へ向くようだ。
麒麟を駆るが、その動きは鈍い。
「……あの霊装があれば、スイ様治る?」
後ろに付きしたがっていたフユノジに首だけで向き直り、スイ様に問いかけるボタン姉。
「わかりません。魔素を感知できませんでした……」
「……そう」
「ただ、荒神と同様の神気を感知できましたが……神代の遺物でしか、そのようなもの……」
「可能性がある。で十分じゃんよ。スイ様の封印が解ければ縛布霊装がつかえる。引き返して加勢するにはそれしかないじゃよ。ダメなら。なんて後だ。あとッ!ボタン姉―――」
「……言い出しっぺが行って」
「……はいよ。ちょっくら言って奪ってk」
「あの神格と共にいた少年です。不興を買うようなものいいには気御付けてください」
と、スイ様に話を遮られ釘を刺される。
ガキの頃から変わらないやり取りだ。
「……はぁ…やっぱり、私も行くから」
ボタン姉と白髪のガキを追いかける。
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