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霊峰へ―お家へ帰ろう―

 グンッとさらに速度を上げる。

 ニールの白光が明滅し始めた。

 しかし、奴はもう真後ろに迫っている!?


「あっつッ……」


 まだ、届いていないというのに、熱波が押し寄せ肌が焼けるように痛い。

 龍の加護も意味をなさないらしい。黒い炎が俺たちに手をかけようと……!


「お前様ッ!!」

「白無垢!?」


 奴と俺たちの間に割り込む―――。


 白無垢の手に真っ白な剣が手元より伸び、握られる。

 白無垢の背丈より長い刀身をもち宝剣のような儚さを持つ。


 「―――八重垣(やえがき)(つる)


 すっと、地面へ突き立てるように、刀身に手を添えながら構える。


 付き立つヤツの拳。


「アキヒトォォォォォォォォ!!!!!!」


 絶大な衝撃が波紋に変換されたように空気を揺蕩う。

 しかし、波紋を境に奴の側はすさまじい破壊が起こっているにもかかわらず、

 その暴威を余すことなく防ぎきる。

 白無垢は完璧に空中に静止したままだ。


 波紋が止み、ふわっと白無垢の着物の裾が捲りあがると。

 白無垢の可愛いお尻がみえた。


 白い刀身を(もた)げ構えると、鱗状の刃文が息づく。

 その所作だけで重質な存在感に空間が軋み、歪む。

 刀身の軌跡が波紋のように駆け抜けヤツを両断しようと上段から肉薄するが、

 黒い焔を物質化させ刀身の侵入を阻もうとする。


 ―――衝突。


 空間の歪みで物資化し盾と化した黒い焔は一点を目指し拉げ(拉げ)消失。

 その衝撃で刀身が掠めるも弾かれるように飛んでいき、

 遠くで噴煙の柱が幾つも立ち轟く。

 白い刀身も自身の重質な空間の歪みにのまれ、

 白無垢の手の中で吸い込まれるように消えてしまった。


 そして、フワっとなっておしりがみえる。


 なんで?


 あれがなければ最高にかっこよかったのに……。

 やっぱり、白無垢は白無垢だった。


「フゥ……お前様ッ♪」


 と、小さくため息を吐くと満面の笑みで振り向く白無垢は全面がはだけており、素肌をさらしていた。


「白無垢さん…前……」


 俺に言われ、みるみる赤くなっていく白無垢。


「お見やさへんとおくれやすッ!?」


 必死にはだけた着物を欠き抱き、しゃがみ込んでしまった。

 妹のいやいや状態を思い起こさせる。


「あ…あの……」

「ここではいやどす……」

「いや、なんの話か知りませんが目立ってます!これ!これつかってください!!」


 と、軍人さん越しになんとか身をひねり、カバンに手を突っ込むと白衣を取りだす。

 ニールも気を使ってか白無垢に向きやすいよう移動してくれた。


「はぅ……堪忍にしておくれやす。もう、大丈夫なさかいに」


 差し出してみたものの、瞬きの間隙で元の白無垢の装い直っており、

 被っていなかった面帽子も、帯もちゃんと締めてある。


 ……まぁ、白無垢だからね。説明を求める理由もないし。


「う…ニー…ル……?」


 と、はじけ飛んだ第一村の事を尋ねよとしたと時だった。

 軍人さんが起きた目を覚ましたようだ。

 

「軍人さん? 大丈夫ですか?」


 背中に預けていた頭を上げ、俺を見る。

 まだ、ぼんやりとしているようで焦点が定まっていないみたいだ。


「……きこ…えない…わ」 


 そう告げると、また力なくしな垂れ掛かって来る。

 手当てする手段がない以上、軍人さんはこのままだろう。

 ニールも心配そうだ。白無垢を除いて。


「なんでありんす? その女」


 うわぁ、倒置法だ。

 素直に俺を捕虜にした人です。

 ていっても話がややこしくなりそうな気がする。


「えぇ~、と。まぁ、この人は俺を保護してくれたんです。成り行きでこんな状況です」

「へぇ……」


 と、この大災害の炎のなか冷たい視線を向けてくる。

 捕虜も似たようなもんでしょ?

 重要参考人なら有益な情報を持つ限り暗殺から保護される的な感じ。


 目を細めなにならや納得いていなよだが、それ以上の追及はなかったので良しとしよう。

 第一村人があの封印を振り切り牙をむいてくるとは想定外だった。こんぶんだとまた追ってくるきがする。


 俺は思わず第一村人の吹き飛んだ方向を見つめた。


 縛布霊装と同調した黒布が腕を蝕むのを感じると、即座に撤退を指示する。

 臨戦態勢をとっていたのが功をそうしました。

 身体強化の纏衣結界を常時発動した瞬発力で撤退の命令にほとんどの誤差なく皆行動に移れたようです。


 融解した大地の強襲からなんとか逃れられ、倒壊し入り組んだ巨木の影に身を潜めることで衝撃をやり過ごす。 

 粉塵が舞い静寂が訪れる。神格と荒神の交戦は止んだようです。

 

「兄上、フユノジ……」


 呪詛反転による両腕の消失。

 鈍痛と魔素の行使を阻害されてしまいます。


「大丈夫か? 暴威が止んだようだ。状況を確認しよう」

「見るまでもないと思うがな。次期長よ」


 兄上は肩をすぼめると、倒木に上がる。

 フユノジも後に続き、兄上に支えられながら私も付き従う。


 みなで倒木の上から見下ろす。

 ここまで巨木の森に阻まれ伺しれなかったが、

 辺りは地獄の海辺に立つがごとく惨状。

 霊峰の麓。我がハクスミの聖地。

 それが、自ら生み出した荒神によって、

 守るべき聖地を破壊せしめた。

 ハクスミの歴史上残大未聞の愚行として永劫語れるだろう所業が突きつけらる。


「これを荒神が……ムリョウが……」


 それを最も親しき者の手にさせてしまったことに心を締め付ける。

 遅れて、ロクロウタとノボタンも合流する。 


「あれが鳥人達が言っていた神格ってか…化け物じゃんよ……」

「そのようだな。次期長よ、どうする?」

「……」


 黙考。


「……撤退しよう。」

「兄上!?」

「…いったはずだスイ。荒神はムリョウではない。それに、呪詛反転で縛布霊装が返されたお前はいま半ば封印された状態だ。対策を施したうえでその代償は大きく返ってきたのだ。今のお前に何ができる?」

「ッ……」

「…他の氏族にも伝えよう。縛布霊装の要であるスイが力を失った以上、荒神をどうすることもできない。」

「了解じゃんよ」

「次期長に従おう」

「……」


 兄上の言う通り。

 私は…私たちは無力です。

 

 ふと、声をする方に目をやる。何を話してるかは聞き取れない。

 麒麟に跨る二対の角を持つ白髪白角の少年と、荒神を討滅した神格が目の先にいる。


 何者なのでしょうか?


「あのガキ…ハクスミのもんか?」


 ロクロウタもあのもの達に気づいたようです。


「どうなのでしょう…ハクスミのオーガはどんなものでも神格に対して畏怖を込め敬意をはらいますが……」

「麒麟に騎乗したままだな…化け物の方が腰が低くいみえるじゃんよ」


 ロクロウタ自身、知らぬ神格とはいえ化け物呼ばわりしいるのに気づいているのでしょうか? 


「ぇ、ええ。それに麒麟は人族の、しかも一部のものしか操れません。それをオーガの少年が駆るなど……」


 兄上たちも気づき見上げだします。


「…あのもの達か。得たいがしれないな。霊峰といえど無主地だ。他の神々がここの神界に関心を示したのか…」

「次期長よ。今更すぎではないか?」

「そうじゃんよ。神話のころからここは空っぽじゃん」

「不変不滅のやつらが今、この時に何を望むのか……」


 話についていけないノボタンが思案気になる兄上の袖をクイクイと引っ張る。


「……話難しい。其れより、みんないっちゃうよ?」


 ノボタンの言葉に、視線を巡らす。


「……あれは、灰氏の!? 次期長ッ」

「灰氏の独断専行だ! おい! 灰氏の! もどれ!?」


 戦闘を走る黒髪のオーガと同じく黒髪の女性。

 灰の氏族の長、カゲヨシ様とその妻ツキヨイ様。

 ムリョウの両親……。


 ツキヨイ様は私を見つけると黙礼してきました。

 全て承知の上で行く。と、覚悟をしているようです……。


 灰ノ氏族の年若い者を残したうえで、ムリョウを追うのでしょう。


 突然の事態にちりじりとなったオーガ達に動揺が走ります。

 そんな中、兄上に詰め寄るもの。


角氏(かくうじ)の! どうなっている!?」


 骨ノ氏族の長であり巫女、ウメナリ。黒鉄色の一本の玉角に甘草色の足首まであるはねっ毛を翻しながら兄上に掴みかかる。


「知らんッ! 灰氏に聞けッ!」


 キッと兄を睨みつける。


「……ちッ」


 と、乱暴に兄上を突き放す。


「そうかい。血氏(あかうじ)の筆頭と数名が引き留めると後を追ったよ」


 兄上が眉をしかめる。


「わかった。骨氏は追うな。灰氏、血氏の残り物を俺たちの班に組み込み我々は撤退する。」

「……見捨てるのかい?」

「ここで全滅させるわけにはいかない」

「あぁ、そうだろうさ」


 ウメナリはよく、総長としての器を計るよな聞き方をします。

 神罰の矛が我らに向かうか否か。その最中で結束を失うことを避けたかったわたし達は、

 総長の死を機にその長子。兄上を頭に据え安定した統治を求めた。

 兄上の判断はきっとオーガ全体の事を考えれば間違いではないのでしょう。

 同時に大きな禍根を残す決断でもあるのは明白です……。

 

 ウメナリ様が黙考する。

 

「はぁ……我らも角氏に従おう」

「かたじけない」

「気にするな。総長の為じゃない。オーガ存命のためだよ」


 結束を失いつつある四氏族。

 (まつりごと)上、形式的な行軍。というのが同盟軍の共通認識です。

 対外的な武威を示すための見栄えのいいもの達を伴ったとはいえ総戦力ではありません。

 それがここに来てばらばらになっていく……

 その一角である灰の氏族を皮切りに血氏、両者の首脳部が離脱。

 やむにやまれぬ事情があろうとも兄上に責がもとめらる。

 これからどうすのだ? と。


「……今、下流へは退避できない。霊峰へ向かう」

「あの者達も向うようだぞ? 荒神を屠るようなものが向かう先へいく気かい?」


 じっと、そちらを見ながら言うウメナリ様。


「あぁ、そうだ。言い換えれば荒神に対抗できうるもの達だ。敵対しているのは明らかだからな」

「アタイらとも敵対する可能性も捨てきれないよ?」

「理由があればな。無境なもの達なら襲ってきたはずだ。荒神のようにな」

「……分かった。もう異論はない」


 ウメナリ様は目だけで兄上を見定めると納得してくださいました。

 兄上は総長となって日が浅い。でも、誰も甘えさせてあげることができない。

 ウメナリ様の態度は、そう分かっているからこそ厳しくも正しい。と私は思います。


 ――まだ、あのもの達を見上げているウナメリ様。

 特に白髪白角の少年を見てのでしょうか? 上気しているようです。

 まさか……ですよね?


 話は終わったのに動きだそうとしません。

 兄上も戸惑っています。すると、


「わしらのアネキがすんません!」

「わしからもどうか、ご容赦を……」


 そういって頭を下げる、ウメナリ様の弟達、サコンとウコン。

 ウメナリ様の後ろに控えていたのが、歩み出てて来て頭を下げる


「……いや、ウメナリ殿も一族を束ねる側の人だ。どうか、支えてやってくれ」


 ウコンとサコンが頭を下げ、まだ遠くを見つめるウメナリ様を引きづっていく。


「いくぞ、アネキ! いつまでそうしてるんだ!」

「ん? あぁ、すまないね。一人で歩ける……」

「あるけてねぇから言ってるんだろうがい…」


 またアネキの悪癖だぁ、とぼやきながら骨氏の皆の下へウメナリ様を引きずりながら戻っていき、気を取りなおしたウメナリ様が同族のモノ達へ今のやり取りの経緯を話している。


 真っ先に突っ走ってきましたからね。きっとウメナリ様も動転されていたのでしょう。


「灰氏の長は血氏の長に任せよう。我らは霊峰を目指す!」


 取り巻きに集まった、角と骨、残された灰と血の皆に号令を発する兄上。

 ウメナリ様と兄上で音頭をとり霊峰へ駆け出した。


 ……荒神となり災禍をまき散らしたムリョウ。


 あの神格の攻撃では、もう……それでも生きていてほしい。

 

 胸を引き裂かれそうになりがら、振り向くのをこらえる。


 ノボタンに蹴られたロクロウタの悲痛な声を耳にし、気を取り直す。


 何も終わってはいないのだから―――。

 



 なにやら話が纏ったようでこの場を離れていくようだ。

 他の3つの和装集団と合流すると、今度は二つの集団に分かれ別行動にするらしい。


 倒壊した巨木の後ろに隠れてやり過ごしたみたいだな。

 ニールの機転と速度があって退避できたけど和装集団も侮れない奴ららしい。


 そして、第一村人が吹き飛んだ方へ一方が駆け出していく。

 魔法でも使ったのか、オーラを纏い尋常ならざる速度で遠ざかっていった。


 白無垢の言葉を信じるなら、第一村人は現世(うつしよ)から来たことになる。

 和装集団はなぜ、第一村人を捕縛しようとしたんだろう?

 異世界という隔たりがあって、第一村人の何を知っているのか。

 理由はどうあれオススメしないなぁ……。


 あと、すっごい見られていたような気がする。あれは癖の視線。

 何かにまみれたものに違いない。


 また、背中に怖気が走る。


 それに、いつの間にか鳥人や人狼を見かけないし。

 あいつらも不安の種だな。

 

 さっさと第一村人からできるだけ離れてしまおう。


「いそいで、実家に向かいましょう。このへんの川に沿って登っていけばつけそうですよ」


 龍に乗っての移動は思いのほか距離を飛んでいたようで、

 これだけ明るくても先に霊峰をうかがい知れない。

 それに第一村人のおかげで下流方面は火の海。

 大噴火による火山弾がそこら中の木々を焼いていて立ち昇る煙で視界も不明瞭。

 そんなかニールを激走させても疲弊のはてに無茶して火の海にダイブするのは目に見てるので有無を言わさず、実家を目指す!


 それに、川沿いに上流を目指していれば匿うもの達にも会えるかもしないしね。 

 一応、白無垢にお願いしておくとしよう。ここまで来れば一蓮托生なんだし。


「あ~、白無垢さん、えっと、お願いがあるんですけど……」

「なんでやっしゃろか?」


 わくわくといった様子で胸の前に手を組んで、詰め寄ってくる。


「えぇ、道中匿うもの達を見つけれたら、その保護するのを手伝ってもらえませんか?」

「まかせておくれやす! 元よりお手伝いするつもりさかい、うちに出来ることはなんでも言いはっておくれやす!」


 一言一言、詰め寄てくるのでニールから落ちそうになる。


「は、はは、ではお願いします」

「はいッ♪」


 なぜかルンルンである。


 そして、和装集団も必然、上流方向に向かうようだ。

 分かれた方は第一村人を追う以上火の海のほうへ向かって行ったけど……。


「じゃぁ、行きましょう」

「へぇ」


 と、微笑んでくれる。

 が、結局目が泳いぎだす。

 面と向かってはまだまだ慣れてくれなさそうだ。


「ニールいこう」


 首を摩り、ニールにお願いする。

 白無垢も軍人さんを挟んで後ろに腰を駆ける。

 軽くいななくと、上流方面に駆け出した。


 龍の時と違っておとなしい白無垢。軍人さん越しだからかな?

 振り返り白無垢をみると、ヤツが飛んで行った方を冷たく見つめている。


 突如。―――黒い極光が立ち上る。


 災禍が今、産声を上げる。



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