アキヒト
森を掛けるもの達。それは、狩るものと、狩られるものに分かれていた
「なぜあたらない!」
逃げる俺たちを追随してきたハーピィのお姉さんが睨んでくる。
鹿の後部にベルトで固定され、荷物と化した俺と目が合うからか、自然とそうなる。
「あのッ! 追ってこないでくれませんかね!?」
「……」
聞こえてるのいないのか。返事はない。
森の上を鳥人に押えられ、上空に逃げられそうにない。
巨木の屹立する森を鹿が網をかい潜るように疾走する。
絶体絶命。
突如舞い降りた美女に心が浮つきもしたけど。
今は違う意味で胸がたかなる。
「なんで、追われるわけッ……」
ハーピィの放つ音波に顔を歪める。
軍人さんもわけが分からないらしい。
キィィイン!
(くる!?)
音波が鹿の前でクッションに包まれたかのように消音になると、
自分たちをさけるよう通過した音波は巨木の表皮を爆砕する。
先ほどから、この繰り返し。
最初は殺傷目的ではないのか、指向性の高い収束音だったのだが、
これが続くと投網をなげるような強引な攻撃に代わっていったのだ。
その度に「ちッ」と苦々しくにらんでくる。
だから、俺を睨まないでくれ!?
人っぽい種族に命を狙われて、心底ヒエヒエなのだ。
クラッとなる軍人さん。
ハーピィの音波の副次効果なのかな?
たぶん、平衡感覚とか狂わされている。
鹿も支持と勘違いして直進からそれ枝葉に突っ込んだりするため、
速度が出てもハーピィ達に追い着かれてしまうのだ。
「ニール! 突っ切るぞッ!」
そう、ニールに命令をする。
ニール? 鹿のことかな?
すると、白光するニール。
全身を光が包み、角が大きく伸びると5つの枝が生える。
光の剣みたいだ。
あれ?
どっかでみたような鹿だなぁ……ぁああああああ!?
「お、お前!?俺達を襲ったやつだろ!?」
「うるさいッ!今、話しかけないで!!」
「……」
一蹴されてしまった。
まぁ、捕虜になった時点で、わめいてもなんの意味もない。
ニールを見つけた時黒い鱗だったし、角もユニコーンみたいに生えてるだけで、
今みたいに攻撃的な威容をしていなかッたし……。
逃げるのに空を駆け出した時点で気づけたような気もしないでもないけど、
慌ててたし、逃げれればなんでもよかった感があったし……。
ぼやいていると、巨木に突っ込んでいニール!
「わ!? アブッ……!」
スドォォォォォン!!!
「……あれ?」
疾走を続けるニール。
軍人さんも俺も衝突したにも関わらず、降る落とされていない。
バキバキバキ!
バァっと振り向く。
直系10メートルはあろかという巨木が幹の真ん中からへし折れていく。
「ちッ、散開しろ!!」
倒壊する巨木を回避し、俺たちとの距離が開く!
よし! 振り切れる!
その間も真直ぐに直進し、巨木を貫いていくニール。
……龍は手負いで同時に4体の猛攻を防いでいたのか。
改めて感謝。不本意だがその鹿に助けれている。
捕虜になっていてよかったぁ……のか? 瞬間。
ドンッ――――!?
可聴粋を振り切った音の重圧。
頭から抑えつけられうよな荷重。振動。
それでも、その攻撃の中心点は俺たちではなく前方に放たれたようだ。
木々が枝を払われるように上部から粉砕され粉塵が膨張する……!
上空にいる奴らの攻撃か!?
「――…ッ…―……」
軍人さんが何か言ッてるが聞こえない!
不意打ち、無音、焦り。
音の荷重による鈍る動き。
眼前に迫る何本もの巨木が迫って来るのに気づくのが遅れる。
軍人さんは上空に逃げる気の様だ。
グンッと重力に引かれる感覚―――。遮る枝葉を強引に抜け空に飛び出る!
くそ!まだ、音が聞こえないッ……。
―――横から衝撃に吹き飛ぶ。
脳が揺れ、吐き気が襲ってきた。
待ち伏せしていた鳥人に音波を近距離で叩き込まれたようだ。
「ぐぅ……!」
うめき声が漏れる。
軍人さんが吹き飛び巨木の枝をへし折りながら森の中に消える。
俺もニール事吹き飛ばされるがベルトに固定されていたおかげで投げ出されず、
その推進力のままニールが空を蹴り駆け出す。
木々の枝葉をクッションに体制をなんとか立て直した。
しかし、物理的な衝撃だけではない。
ニールも平衡感覚を失い蛇行してしまうッ!
「麒麟を拿捕する! 1班・2班浸透音波を収束させろ!」
ダホ!? キリン!?
耳鳴りがするなか不穏な単語をひろう。
え? 俺も一緒に捕まる?
いやいや、絶対俺だけぽいされるよ!ぽい!
陣が展開する光が幾つも見える。一つ一つが俺たちを追随している。
「放て!」
なんて!?
何言ってかわかんないけどよくない事だというのは分かる!
ニール気づいてないんじゃないかな? よけられそうにないぞ!?
大きく発光する陣。
ベルトと蔓で固定されたまま身がまえ、目を瞑るッ―――。
お母さんッ!……ん?
こない?
回復する聴覚が音を拾い始める。
それは雑音からやがて……
―――ごぉぉぉぉ!!!!!
大地の慟哭。
大気を引き裂くような鳴動。
空気を焼き切らんとする、轟音が立て続けに轟く。
直後。流星雨のような火山弾が降り注ぎ、
巨木が打ち上げられ、ポップコーンのように巨石が跳ね上がる。
「な!?」
それは、大噴火。
大地を引きはがし、天空に島を浮かべよとするがごとく。
天高くめくれ上がっていく。
暗夜を真っ赤に染め上げ、はるか遠くから立ち昇る噴煙がを覆い世界を見下ろす。
「退避だぁ!!退避しろ!!!」
ハーピィのお姉さんが絶叫する。
その命令をするまでもなく、獲物を追い詰めていたにもかかわらず逃走に入る部下の鳥人達。
不発に終わった陣の制御を誤り、衝撃波を誤爆しチリジリになっているもの達もいる。
この状況下で命令を下せるだけ役割と立場をわきまえられる理性的な人物の様だ。
さすが軍人。
あのままなら捕まっていたかもしれない。というか……、
そんな悠長なこといってる場合じゃないッ!
鳥人達の追撃から、休む暇もないな!
ニールも当然、駆けだ……あれ?
「ニール!?」
慌てて呼び止めるがニールは止まらない。
Uータンし、森に突っ込んでいく。
どうしたんだッ? ……あれは…軍人さんか!?
ニールの目掛ける先に気を失い項垂れる軍人さんが、
溶岩の赤熱に照らされぼんやりとみえる。
枝葉に打ち付けらたのだろう。
森へ進入した際に巨木の枝をへし折り、地面に衝突したようだ。
巨木の根元に糸の切れた人形のように横たわっている。
まだ蛇行し枝葉にぶつかりながらも軍人さの下にたどり着く。
俺も当然巻き込まれるが、ガマンだ!我慢ッ。
ニールが傍までより、鼻で軍人さんを摩るが反応がない。
縋る様に俺をみてくる。
どうにかしろって?
早くこの場を離れたいのだが……。
ニールは軍人さんの傍を離れそうにない。
「……わかったッ。ベルト噛みちぎれるか? あとで、軍人さんへの言い訳一緒に考えてくれよ?」
文句をいいつニールへお願いする。
首をひねり、ベルトをやすやすと噛みちぎってくれた。
ベルトに固定されていた体が支えを失い、ニールから滑り落ちる。
「あいたすッ!!!」
結構な高さから尻餅をつく。
悶絶してる間にも、俺を縛っていた弦を噛みちぎってくれた。
賢い。かしこいぞニール!
お尻を労わりながら、軍人さんの下へ駆け寄る。
「軍人さん! 軍人さんおきてくれッ。軍人さんが起きないとニールが動いそうにないんだ!?」
体を揺するが力なく首が項垂れる。
すると、軍人さんの耳から血が頬を伝う。
尖った耳の耳孔から流れているようだ。
鳥人達の音波攻撃のせいか……。
落下の衝撃で腕や足も骨折している。
一緒に落ちたカバンから藤色の風呂敷を取り出す。
「ニール屈んでくれるか?」
ゆっくりと屈むニール。
不必要な帯剣や鎧などの装飾品を、
ニールに手伝ってもらいながら取っ払う。
軍人さんの背に風呂敷を回しおんぶすると袈裟懸けに縛り、
ニール跨ったすると、
パキ、パキ。ドゴォォオン!!
燃える木々のはじける音。
それらが倒壊する破砕音や衝撃音が聞こえる。
「ニール、いこうッ」
手綱を強く握り、ニールが立ち上がると空へ駆け出す。
瞬間。―――ドォォォォォォン!!!!
超重質量のものが地面を穿ち、一瞬にして地面を溶解させマグマに変える。
瞬く間に、上空へ巨人の掌のように広がったマグマが津波になり巨木の森を飲み込んでいく。
巨木が落とした鉛筆のように、地面を跳ねんわり脇を飛んでいった。
ものずごい風切り音に思わず振り返る。
ニールは直観のまま、自身を白光させ速度を上げる。
灰が顔を打ち付けてむせそうになったが、
龍の加護は健在のようだ。
赤熱する灰を浴びても、熱くもなんともない。
そして、目の前には、マジでヤバイ光景が広がっていた。
灼熱の溶岩と劫火の海。
火の七日間では収まりつかんぞこれは!?
ぐんぐんと、その波に森が飲み込まれ、マグマの波がその裾野を広げていく。
ゴパァ!!!
灼熱の柱が乱立する。
こんどはなんだ!?
赤々とした世界に黒いシルエットが二つ。
あの灼熱の海の上で誰かが戦っているようだ。
波紋のような障壁が一方の黒い炎の攻撃をことごとく防ぎきる。
方向性を失った攻撃の余波が反転し、障壁を境に暴威が吹き荒れ、
たった一度の攻防の交差で地形が変わる。
まさに怪獣大決戦さながらの破壊が繰り広げらえていた。
瞬き一つの間に下流域方面の森は火の海に呑まれてしまう。
赤熱した岩石が飛び散り、方々で火災が発生していく。
必死でニールが激走してくれているが、離れている気が全然しないぞッ。
戦闘領域が地・空とわず繰り広げられ、あまりにも広い。
あっと言う間に、戦闘領域が森へ移り、
波紋のような障壁を連続展開するとニールを一瞬で置き去りにする。
巨木が遅れてはじけ飛び、障壁でそれた黒球が俺たちにせまる!!!
「はわわわわっ……!!!?」
リーンと鈴のよな音ともに障壁が目の間に展開すると瞬く間に亀裂がはいる。
巨木ごと消失させる黒球の軌道をそらし、後方で小山が消し飛ぶ。
障壁も軌道をそらすことで役目を終え、澄んだ音を響かせ粉みじんになった。
怖ぇぇぇぇ……!
今のは奇跡ですか? 奇跡なんですよね!?
ていうか聞き覚えのある綺麗な音がしたような……龍か?
辺りを見回すが龍が見えない……。
助けてくれたことに変わりないので心の中で感謝しておこう。
その間も、波紋が広がり、黒球が地面を消失させていたが均衡が崩れる。
波紋を使う方が長いもので一方を貫く!
ここからじゃ分からないが、何かしら力を奪っている様に見える。
纏った黒い炎がみるみる小さくなていった。
やっと、この怪獣大決戦が終わることに安堵しそうになる。
ニールも全力疾走で疲弊してしまったようで白光が明滅してしまっていた。
足をとめ、事の成りいきを見守っているようだ。
浮力を失ったようにゆっくりと垂直に降下し、
森のすぐ真上に力なく静止する黒いヤツ。
胴を完全に刃物で射抜かれており、胸部から血が滴っている。
一対の黒い角を額からはやした鬼。
体系的に女性だろうか?
どことなく白無垢に似た黒い着物を着ている鬼女。
もう一人の元凶は空で静止し鬼を見下ろしていた。警戒している?
なら、鬼はみため致命の一撃でも反撃に転じる力を残しているのか?
直後。
「スイ様ッ!先走りすぎじゃん!?」
下のほうからチャラい怒声が聞こえる。
スイという人物を呼び止めているようだ。
思わず声の方へ顔を向ける。
「…好機です!例の神格の介入に乗じましょう!」
「ちッ……」
なぜか童女も同行しておりチャラ男に蹴りを入れていた。
大人が海老反るほどの威力らしい。
綺麗な青緑色髪に巫女服の少女が先行し、童女、チャラ男、ほかに二人の人影が付き従う。
ほかにも似たような和装っぽい集団が集結し始めた。
なんだ、何が起きよとしているんだ!?
静止し動きを止めた鬼女の周りに陣が展開する。
鬼女を巫女っぽい集団がいつの間にか取り囲んでいた。
「隷属呪印による呪令準備! 縛布霊装・解!」
青緑髪の巫女少女が叫ぶ。
周囲の陣から真っ黒な布が飛び出し、鬼女を束縛していく。
「呪令 《停止》ッ!」「呪令 《停止》ッ!」「呪令 《停止》ッ!」「呪令 《停止》ッ!」
次々と巫女から発せられる「停止」の言葉。
意味は分かるけど、なんだか気持ちの悪いもののように感じる。
次々と鬼女目掛け射出され黒い布に覆われていく――― ん? いま、目があったような……。
今度は赤髪の青年がビルみたいな倒木の上に進み出てくる。
「霊装 《 荊縛ノ黒弩》―――」
手を前方に上げると、空間から真っ黒な弓と鏃のない黒矢が現れる。
それを番え、キィィ……と弦が引かれていくと矢の先端に音叉のような茨が鏃となり、
後方に伸びた茨が青年に纏わりつく。顔をしかめているようだ。
音もなく弦に押し出され、黒い布に包まれた第一村人を射抜き貫通はしたがその体にとどまったようだ。
茨が纏わりつき棘を何本も鋭く伸ばし刺し貫く。
まさに針の筵のような牢獄に鬼女が包まれる。
うげぇ……封印? なのかな? 容赦のない封印だ。
でも、溶岩浴びて平気な鬼女には必要かもしれない。
一見落着か?
でも、周りの和装集団は険しい。
パラパラと灰が降り、真っ赤な夜のなか静寂が訪れる。
ニールも場に呑まれて動きを止めてしまっていた。
俺もあっけにとられる。
手を掲げ陣を展開していた青緑髪の少女の手腕も黒い布が巻き付いており、
すでに茨の牢獄の奥にいる鬼女に手を翳し警戒を忘れていないようだ。
「……やった…のか?」
つい、その言葉を漏らしてしまう。
「キャ!!!!」
少女の苦痛の叫び声。
そちらを見ると、青緑髪の少女の黒い布が巻きついた腕が消失し、
両腕が二の腕の先からなくなってしまっている。
黒布の帯に経のような文字が走り、直後、つらそうな表情に変わる。
なぜか、ニールにジト目を向けらえる。
いや、俺せいじゃないでしょ!?
なにか自分で回復的な事をしている様だが効果は芳しくない。
出血…は抑えれてるみたいだ。
「呪詛反転ッ……みな、臨戦体制を維持!!巫女は隷属呪印を発動要件を満たし待機!!!」
苦痛に歪めた青緑髪の少女が令を下す。
和装集団の気配の密度があがり、鬼気迫るかんじだ。
魔法的な補助をみな自身に施したみたいだ。
そして、固唾をのみ待機しているが、命を掴まれて逃げ出すことができないような空気が支配する。
「アキ…ッ…ト」
ニールが有無を言わさず駆け出した。
全身が白光し速度が現界まで達する。
「ニール!?」
急激な移動にガクンとなり、焦る。
ゴパァ!!!!!!!!!!!!!!
と、いう轟音に振り替える。
奴を中心にあらゆるものが融解しはじけ飛ぶ。
石礫や巨木が噴煙を巻き上げながら、木々をなぎ倒す音が遠ざかっていく。
凄まじい衝撃を背後から受け、吹き飛ばされながらも駆けるニール。
和装集団もおそらく無時ではないだろう。
「アキヒトォォォォォォォオオオオ!!!!!!」
女性とも男性とも分からない憤怒を滾らせた絶叫が俺の名前を呼ぶ!
なんぜ!? なんぜここで俺が呼ばれるの!?
まさか、ここにきて第一村人か!?
鬼女ではなく!?
晴天の霹靂。
噴煙立ち込める空に俺の名前が木霊した。
ブクマ・評価おねがいします!
作者のやる気スイッチをONできます!




