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不穏の幕開け

 原因不明の大爆発から、遠くで轟音が鳴り響く森。

 少女の口ぶりから人狼とうワードに足がすくんだ俺は、

 今日捕虜になりました。


「……以上。帝政ハーマルグント皇国の現行法律、規則、命令に服従すべきものとする。逃げたら戦時法規に則り殺します」


 だってさ。

 端的に捕虜の扱いについて説明され、眩暈を覚えながら頷く。

 それしかできないんだけど。

 ただ、分かったこともあった。

 『ハーマルグント皇国』を頂点に四つくらいの国に帝国制を施いている。

 他にオーガ4氏族からなる部族連合のハクスミとライカンスロープの獣王国クルーガーセレンティがある。

 今回それぞれの国により同盟軍を組織し『霊峰』の麓まできているとのこと。

 

 なぜか? までは話してくれなった。


 うーん、有無を言わせない感じだ。

 俺としては匿う人たちと合流して実家に帰りたいんだけなんだけど。

 大変、大ごとに巻き込まれたようだ。


「…いや、逃げませんけど……。それで、どうするんですか?」

 

 眼光鋭いので、言い訳をしておく。どうせあの鹿で追いかけてくるんでしょ?

 逃げませんよ。逃げられませんよ。


「神盟軍に合流する」

「この、事態にちゃんといるといいですね」


 いまだに轟音がするし、石も飛んでくるのか枝葉を揺らす。

 人狼もライカンスロープの同盟軍なんだろうし、待ってればいいとおもうけどな。


 しかし、少女は思うところがあるようだ。


「合同作戦に予定にない。待機のはずだろ…ッ」

「荒神の単独投入と関連…?」

「軍本部に何かあったとしたか…だから、足の速い人狼を斥候に…」


 と、険しい顔で思案している。

 何があろうと俺は捕虜なので少女に従うしかないのだが……。

 

 すると、丸いものを投げらる。シュインッと手首と、腕ごと胴に押さえつけらた。

 軽く魔法道具っぽいもので拘束されたようだ。

 光の帯になにやら文字がテロップの様に流れ、綺麗な枷だった。


 パチュンッ!


 と、帯がはじけて落ちる魔法道具の枷。


「あれ?」

「殺します」

「まて!まて!壊れてる!コワレてるんだよ!?」


 キリングマシーンにすぐなりたがる。

 軍規絶対まもるーマンだな。


 訝し気に目を細めながら魔法道具を拾い上げる。


 「はぁ……」


 と、悩まし気にため息をつくと、魔法道具をしまい、木にまとわりつく蔦を剣で採集する。

 俺の背後に回り、今度は後ろ手に手首を縛られる。勿論、胴体に腕ごと縛られた。

 美少女になら、なにされてもご褒美だ。と、言いたいところだがなんか痒いぞ、これ?


 俺とそう変わらない身長の少女に担ぎ上げれ、鹿の後部にベルトで固定され乗せられる。


背負っていた鞄が頭に当たっていたんですけど。など言い出せそうにない。

何やら軍備品の詰まったバッグが鹿の両脇に釣られており、捕虜と積荷に違いわないようだ。

 これ大丈夫かな? 落ちない? 落ちたら逃走とみなし殺ます。とか言いません?

 心配だぁ。 


「……とりあえずここを離れます。落とされないように、しっかり掴まってなさい」

「おかしくない? 無理でしょ? しっかり捕まってますよ!?」


 少女も鹿に乗り、こちらを見ずにそう告げる。

 意外と乗ると高い鹿。今更だがけっこうでかい。

 疾走に備え身構えるッ……!


 ……。


「…場所。わからないわ」

「……」


 少女もてんぱってるらしい。

 言われたことは完璧にこなすけど、不測の事態に弱い的な感じがする。

 てか、ここまで来たんじゃいの?


「…川があるそうですよ。」

「川?」

「はい。霊峰から流れてるって聞いてます」

「アハリシア大河…ね。見つけられれば下流域にいけるかもしれないわね……」


 一人思案に耽っていく少女。

 顔を上げると鹿から降り、近くの針葉樹林のそばに立つ。

 なにする気だ?


 陣を額に展開し、うす暗い森を一瞬照らす。


 ドン!


 と地面を蹴ると、高く跳躍し、人が載っても大丈夫な枝ぶりを飛び回っていく。

 やがて、隠れて見なくなり、枝が揺れる音と落ち葉があるだけ。


 すげぇ。魔法、すげぇ。

 ゲーム的に言うと身体強化?かな?


 そう間もなく、ストン…と上から降ってくる。

 落下速度を極力抑えた綺麗な着地。

 後から落ち葉が大分降ってきたな。

 何枚か少女に降り積もる。


 フルフルと白金の長髪をふり落ち葉を払うが、一枚残っている。

 まぁ、似合ってるんじゃないでしょうか?


「いくわよ」

「……」


 特に、どこに。 といった報告もなく。

 事務的に物事が進む。


 ガクンと体がくの字におれると、鹿が走り出した。


 早い!?早い!? グングン進み木々が直ぐそばをよぎる!

 

「車幅ッ!車幅考えてくれ!枝が襲ってくる!!」

「……」


 そう、少女に告げるが無視された。


 時を折り、ドォン!と、轟音と揺れを感じると、枝をへし折る噴石が飛んでくる。

 あぶねぇな……。

 あっちに何があるんだ? 遠ざかっているので安心だけど。


 ただ、少女はどこへ向かうんだろうか?と言う不安もでてくるわけだけど、捕虜が口にだしても、従うことには変わらないのでやっぱり聞くだけ無駄だろ。


 

 必然、長い長い沈黙のなか駆けていくことになり、美少女との和気藹々とした関係も気づける訳もなく。


次第に森も陰りを見せはじめる。

明るうちは、まだ良かったのだが、

 枝を避けるのが難しくなってきた。


 そして、ザシュッと。


 「いつッ!?」


 頬を枝がひっかく。

 あぁ、結構いったかな?

 思たほど、痛みはないのでいいけど。


 鹿の速度も落とされ、

さっきより余裕になってきたのはいいのだが、気持ち早くそうして欲しかった。


 それからしばらく。


 木々が疎らになり、ススキか葦か。水辺の植物が目立つ。

 鹿の足音が石礫を蹴る音に代わり、やがて広大に開ける。夜に溶けこむ茜空が森の輪郭に切り取られていた。


 そして轟轟と川の音。

急流の側なのだろう。

 結局、少女は川に向っていたようだ。


 そして、ふと思い出す。


匿うもの立ちの事だ。


 会えたところで、相手は俺をしらないし。俺も相手をしらない。

 龍から頼まれました。で、ついてきてくれるとも思えないし。


 今の俺を見て頼ろうとも思わないだろう。


計らずも龍の言う川に着いたはいいが、

約束を果たせそうにない。


 しだいに減速し川辺までくると、

鹿に声で合図を出し止まる。


 「…いいこッ」


 と、鹿をねぎらう少女。


 この暗さだ。表情をうかがい知れないが、

 きっと、微笑んでいるにちがいない。


 もちろん。捕虜は労われることはなかった。 


異世界という極限状態で、捕虜という仕打ちに打ちひしがれていると———。


 ウォォォォォン……


 と、人狼の遠吠えがする。


 いやぁ、雰囲気に呑まれて怖さしかないんですけど……。

 まだ一度も見てないけど、ただの狼じゃないってところが特に。


「上流を目指してる……? じゃぁ、霊峰…神界?」


 神界という、どっかで聞いたような聞かないような言葉。

予定にない人狼の投入に警戒しているようだ。すると、また———。


 ウォォォォン……


 と、返事のような遠吠えがまた聞こえてくる。


 さっきより近い。


「……」


 少女は黙ったまま遠吠えのほうを見る。


 すると……、鳥の群れがこちらへ目掛けて飛んでくるのがうかがえる。



「鳥人種…ハーピィ?でしょうね……。空と森に斥候を放つ…何か探してる?」 


 ハーピィという種族らしい。

 鳥に見えるくらい上空を飛んでいるようだ。

 黄昏時にぼんやり見えるせいもあるかもしれない。


 飛行するだけあって目視してから間もなく、一人のハーピィが降り立つ。

 あとにも、兵装をした鳥人族の兵士が5名降りてきた。

 翼の可動を邪魔しない鉄鎧の胸部に国章が装飾されている。


 重そうなのによく飛べるな。


 地上の六名以外の残りは、空で待機している。


「獣王国クルーガーセレンティ国所属。ガルーダ軍斥候偵察第1中隊隊長ロメリア。端的に告げます。同行を願いたい。」


 腕が翼の妖艶な美女が鷹のような視線を少女に向ける。


「……帝政ハーマルグント皇国所属。麒麟遊撃小隊伍長ユユリアート・フォン・カレンベルク。その前に問いたい。今、誰が同盟軍指揮をしている?」

「…貴国のハーマルングント二世王子殿下が総指揮を執っている。」

「では、同行要請する理由をお聞かせ願おう。」

「麒麟による神界への繋留点を開けていただきたい」

「なんのために?」

「特秘事項だ。あなたは繋留点をあけてくれればいい。」

「では、断らせていただく。私はあなたの指揮下にない」

「だが、貴国の総指揮のもと下された特務だ」

「なら、直接私が赴き殿下にお伺いをたてよう」


 後ろからじゃ伺い知れないが、軍人さんがピリピリしている。

 第一村人がいるかもしれない場所に理由もなくいけといわれれば警戒するよね。


 すっ、とその鷹の目を細めるロメリア。


「……おいたてろ」


「え?」


 思わず零れる声。


 鳥人達による狩りが始まる。

 


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