田舎―引っ越し―
真昼 あきひと。15歳。
今俺は実家に引っ越しのため帰省中だ。10年振りの里帰りになる。
と言っても。
芝刈りに行くおじいさんも、川に洗濯にいくおばあさんもいない。
暖かく迎えてくれるはずの祖父母は同市内マンションに越してしまっている。
なので、今日まで無人だったわけだが……。
ほとんど初対面の実家は成り上がりの豪農じゃ無理じゃね?
レベルのやたらと広い武家屋敷だった。
面喰いながらも俺は換気の為、部屋数のおおい家屋を駆け回り。
雨戸や格子戸。立て付けの悪さと格闘しながら開け放っていく。
荷物の搬入のため清掃するので、帰宅部スタメンの体力に鞭を打っているところなのだ。
しかも、一人で。現在、俺しか家にいない。
親父のタバコ休憩に付き合いたく無い。
と言う女性陣主導の平等な採決のもと組み分けられ、
祖父母のマンションを拠点に、女性陣は生活用品などを買いに車で。
俺と親父は旧実家への引っ越し荷物の準備作業等、役割を分担することになり電車で移動することになった。
しかし、親父は財布を無くしたとかで手間取り、無人駅で別れ。
現在、母さん、姉、妹の他、祖父母の5人は買い物のため車で移動中。
共働きの両親が休みを合わせてくれているので今日で終わらせなければいけないとはいえ、
俺一人分の荷物だけなので一家総出なら十分まにあう予定なのだが……。
はぁ……。
いないものを嘆いてもしょうがない。
なぜ一人でやらなければいけないのか?
グチグチいいながらも雨戸や襖をあけ放なているわけだ。
ちなみに、サイフは親父が爆睡している時にチノパンから抜いてあるので探しても見つからないんじゃ無いかな?
親父はどうでもいいが、駅員さんに無駄骨を折らせてしまうだろう事に、申し訳なく思う。
それもこれも親父が悪い。
俺の理不尽な怒りを棚に上げたうえで言わせてもらう……、
うっせんだよ!! イビキがッ!?
車内で無防備に惰眠にふける親父には、いい薬なるだろう。
親孝行な息子だと思う。
そして、そう育ててくれた事に感謝が尽きない。
ありがとう、母さん。
今まで、靴下丸めたまま洗濯籠に入れてたけど、伸ばしてからいれるよ。
まぁ、明日から自分で洗うんだけどね。
かくいう、俺も女性陣に頭があがらなかったりするので、
姉の強権からのがれるのに、電車での移動は英断ではあったので悩ましい限りだ。
おかげで、引っ越しが滞ってしまっている。
正義の執行には代償が必要なようだ。
そんな親父はほおっておくとして、女性陣は何してるんだろうか?
う~ん、そうだな。姉辺りに電話してみるか―――。
『……何?』
「いや、何ッて。俺いまだに一人なんだけど」
『だからて、姉を恋愛対象にしないでくれる?』
「そんな話してないだろ。俺一人じゃ引っ越し終わらないっていってんの!?」
『……声がでかい』
「あぁ、ごめん。それで、どれくらいかかるの? てか、お姉ちゃんどこにいるんだよ?」
『……もう一回言ってくれる?』
「だから、どこいるの?」
『そのまえ』
「どれくらいかかかるの?」
『その間』
「お姉ちゃん」
『……キモ』
「何させたいんだよ!?」
『……声がでかい』
『あぁ、ごめん。って何回このくだりするんだよ。買い込んでも駅から徒歩で40分かかるど田舎だからな。考えて買い物してくれよ?」
『あ、そうなんだ。じゃぁ、一回マンション寄ってから行くわね』
「……」
『ん?…ナァニ?…オニイチャン?…アァ、ドウテイノコトネ……変わるわよ?』
「聞こえてんだよ」
『…お兄ちゃん?』
「あ、あぁ、何? 俺にようじでもあるの?」
『ドウテイってなぁに?』
ドウテイが気になって用事が二の次になてるじゃねぇかよ!?
「それは、また今度ね。用事あったんじゃないの?」
『うん。あのね、元気だしてッ』
「……うん。ありがとう」
『えへへッ』
「じゃあ、おねちゃんにかわ……プツン、―――」
「……」
笑顔で姉にスマホを返す妹が見える。
いや。いいんだ。
妹には無垢なまま育ってもらおう。
普段、なついてくれない妹は電話ごしなら話してくれる。
貴重な家族の時間だったのだから。
そして、姉に電話して分かったことは、すでに買い込んでおり、
マンション経由して実家に来るということ。
妹に甘々なじいちゃんが意気揚々と女性陣についていったけど大丈夫かな?
裏切者だしほおっておこう。
はやくも前途多難。
引っ越すというだけで、ど田舎生活も始まってないし、
高校にもまだ入学していない。
それもこれも先天的に生まれもった素質。
凶運。
これのせいにちがいない。
俺の人生はこれに振り回されてきたといっていい。
しょっちゅうケガしてるし、お前んち大丈夫? 感が情報社会ではあっというまにTPA案件にまで発展する始末。
なにより両親へのフォローが大変だった。
虐待なんかもちろんないから、せいっぱい暖かい家庭アピールしていると、
「わかったからッ!わかったから、もういいのよッ!」
って、両親の前で感情的な女教師に抱きしめられたのは修羅場だったな……。
せめて…せめて30代…! 30代の時にお願いしたかった……ッ!
あんときは、いたたまれなかったなぁ。両親が。
と、まぁ、こんな感じで小中と悪目立ちしてきた。
イジメにはなんなかったけど、ボッチまっしぐらだった。
自然とボッチでも出来る趣味が増え、唯一釣りがアウトドアな趣味なのだが。
凶運で生傷の絶えない俺が単独行動する事に母さんは納得できないらしく。
だからと言って、行くなら「友達と行きなさい」は直球過ぎませんかね?
地元での進学は二の舞どころか、三の舞になるのは目に見えてるがゆえの疎開。
今回の引越しの最大要因だったりする。
新天地と、これからの高校生活を思いながら、春先の庭園を眺められる大広間。
縁側から足を投げ出しくつろぐ。
結局一人で水回りの窓も全開にし換気に必要な開閉可能なものは全部開けてきた。
幾分、澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。
はぁ~……のどかなだねぇ。
環境音が自然由来のものしかない。実にロハス。
スマホを見ると15時を指している。家を出て5時間くらい。
親父はいつまでサイフを探しているのか?
姉の運転する車は本当にここを目指しているのか?
前提を疑わざる得ない。
あ、いや。
サイフはここあるので、
間違った前提のもと行動している親父はしょうがないとしてだッ。
そして、手伝いにいくからッ!
と、合格者発表の掲示板前で、そう一方的に宣言していった先輩も来る気配がない。
こちらに知り合いがいないと思っていた俺がどんだけきょどったか。
ボッチの気持ちを考えて頂きたいッ。
ぶつくさ、思いながら庭園を見ていると声が聞こえて来た。
お、噂をすればなんとやら。
やっと、だれかついたかな?
大広間から、中庭のある回廊造りの家屋、外縁を縁側づたいに玄関へ向かう。
子供の声だ。妹かな?
でも、数が多いような……。
カラカラと格子戸を開け、玄関の先をみる。
そこには、白い和装を来た童子が二人。
玄関前の広間にある引っ越し荷物を興味深そうに眺めては触れてみたり、
なにやら確かめ合うように話し合っている姿がみえる。
む、人様の荷物にかってに触るとは。
子供に目くじらを立てるわけではないが、こちとら妹がいるのだ。
年長者のとしての心構えくらいもっている。注意せねば。
と、がきんちょに歩み寄ろうとする。
すると、奥から進み出てくる人影。
ん? いたかな? 視界のはしから現れる。
白無垢を来た女性だ。礼装に隠れて顔などうかがい知れない。
正門の方から玄関前の広場に歩み出てきた。
それに気づいたがきんちょが、興味を白無垢に移し話かける。
保護者なら注意するべき場面なのではないのか?
と、少なからず憤慨するが、相手の関係性がわからないので決めつけはよくない。
こんな場所に用事がある人なんて親族の誰かだろうし、話しかけて上がってもらおう。
……。
ちょっと、まった。
白無垢でいきなり訪れる人物。
まともな思考の持ち主として扱っていいものか?
しかも、ここまで白無垢で来たことになる。
あの、だった広い耕作地を突っ切って? どこから?
俺が探検中に白無垢に着替えたのか?
わざわざ、白無垢を持参し、屋外できがえるわけない。
じゃあ、タクシーで?
駅から乗れるなら俺がのってるしな。サイフもあるし。
なら、もっと外から? 無人の家屋に白無垢で?
ますます、わからん。
なぜ、白無垢なんだ。
ここまで、何回、白無垢といった?
異質な存在に、さぁ、と血の気が引いていく。
竹林の枝が風でこすれ合う音が止んだ気がする。
静寂が満たしていく中、心はざわついていた。
場違いな白無垢。
いや、武家屋敷というか日本っぽいこの家は、
シチュエーション的にぴったりだけど……。
得体のしれないものが、我が家を訪れた。
今日この日、俺の世界は一変する。
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