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あ、名前ですか?

 白髪に二本の白い角を持つ少年。

 オーガ…?ではないみたい。

 あれほど体躯の小さなもの達ではない。

 人間なら年相応の少年にしては小さい方…かな?


 見たままが事実なら未知の亜人種。オーガの特殊個体あたり。

 荒神の予定外の単独戦闘行動のせいで、

 オーガに関連付けて考えてしまうのはしょうがないのでしょうけど、

 早計かもね。


 少年と荒神じゃ、天と地くらい存在に差を感じるもの。

 得体のしれない警戒対象ではあるけど、それは私たちが無知なだけ。

 

 あ、カバンを見つけたみたいね。

 周囲に散らばった物を詰め込んでいく。

 やっぱり、落ちてた食器は少年のモノらしい。


 未知の亜人なら製鉄に優れた技術をもつ種族とい事になるけど、

 少年からは…特に知性を感じない。

 

 でもちょっと、スプーンおおくないかしら……。

 旅装ならもっと必要なモノがあるでしょうに。


 目を見開き、安堵すると何かを拾い上げる少年。


「うわ…白無垢のじゃん…コンニチハしてるし」

 

 なぜか、薄紫色の布包みを嫌そうに掲げると、じぶしぶといった様子でしまい込んだ。


「あんまみないでおこ」


 しろむく? 聞きなれない言葉。包まれていたのは真っ白な衣類のようだった。

 預かりものを堕としてしまったらしい。

 どうして、あれら生活感ある道具類を散乱させてるのか謎だわ……。


「あ、カップ麺もある。食料だ食料。」


 と、なにか軽い容器に蓋をしたものを幾つか拾い上げ、満足げにしている。

 そうして辺りを探し回っているらしく、とうとうニールのそばまで移動していく少年。

 

 …大丈夫。隠蔽しているし、気の抜けたような少年に看破なんてできないはず。


「……」


 少年が目を細めている。


「何だあれ? 死骸が燃えてる…」


 うそ!? 隠蔽を施しているのに!?


攻撃術式を常時展開させ励起状態の陣を構える。

 帯剣に手をかけ、臨戦態勢をとる。

 どうする? まだ少年はニールに何かしたわけじゃない。

 でも、されてからでは遅い。

 だが、少年は見てるだけだ。


「…なんの生き物だろう。鹿かな?」


 鹿じゃないッ!!鹿ってなにッ!?

 麒麟で愛騎のニールを、気の抜ける名で呼ばないでッ。

 

 …敵意はないのかな? 警戒は続けよう……。


 おもむろにニールのそばによる少年。

 緊張が一気に張り詰める。抜刀。

 致命の一撃を速効で叩き込める間合いを取る。

 魔術も身体強化もある。


 ただの少年なら瞬く間に骸に変えられる―――。


「生きてるのか…な?」


 うーん、と腕を組み考え始める。


「また、感情に~…」「でも、二度とサインを…」


 独り言を喋り出す。


「よし。決めた。生きてるかわからないけど、火くらい消してやろう」


 荒神。神格による攻撃。未知の追撃効果のある付与能力。

 今、この状況でわたしができる魔術では対処のしようがない。

 少年が何をする気か知らないけど、基礎理論の違う未知の処置をさらに施されては、

 重症化する可能性がある。

 出る…?


 少年がカバンから布を取り出した。


 嘘でしょ? まさか……。


 バッサ、バッサと仰ぎはじめた。

 理のそとにある炎。

 空気を送り込んだところで炎上はしないでしょうけど……。


「あれ? 消えないな」


 そうでしょうね……。


 今度は布でニールを覆う。

 まだ理にかなっていそう。炎から空気を遠ざけている。


 まぁ、変化ないでしょうけど。

 そろそろ、出ていこうかしら?

 悪人ではないみたいだし。落下物に対して情報をもっているかも……、


「お、消えたッ」


 ファッ!?


 思案から一気に覚める。

 慌ててニールを見ると、たしかに荒神の炎が消えている!


 どうして!?


 軍には公費がつぎ込まれ関連秘術も大きく発展する。

 魔術はその最たるもので、戦術・戦略級魔法術式に次いで、

 治癒術式・再生術式魔法は重要視される。 

 最先端の魔法技術の粋の一つが、私の収めている上級治癒術式魔法だ。


 それを上回る? 覆いかぶせただけで?


 神格はまだまだ、未知の分野だ。可能性でいえば、おきえることなんでしょうけど……。


 まさか、霊装……?


「あ…やべ。…風呂敷じゃないや、これ。白無垢のかえの服かな?」


 おこられるよなぁ、とにがにがし顔をする少年。


 うん、お怒られると思うわよ?

 そんな、煤を払うように扱っていい代物ではないし。


 この少年に預けた人も、頭わるいんじゃないかな?


 グシャグシャと丸めてカバンにしまう少年。


「あとで、たたんどこ……」


 あぁ…あれは絶対やらない奴ね……。


 て、それより!ニールッ!

 慌てて見やると炎が消えて表情が幾分和らいでいる。結界内に留めた魔素を治癒に用い、

 持ち前の生命力で意識を繋ぎとめている。

 

 いまなら!


 バッ、と飛び出す。


「な!なな!?」


 驚く少年を突き飛ばし、ニールの前に陣取る。


 目を白黒される少年をしり目に、治癒術式の陣を展開。

 ニールの自己治癒力を高め、診断し、最適な治癒魔法を選択する。


 筋繊維や血管が早送りのように互いに結びつき、その機能を取り戻していく。


「……大丈夫…これで…大丈夫」


 腰が抜ける。

 神界から落ちて、ニールが負傷して、焦って緊張して、少年に毒気を抜かれて。


 精神の起伏が激しく、頭がぼぉっとする。


 荒神の乱入で部隊は瓦解しただろうし。どうしようか……。


 ニールがゆっくり立ち上がり、頭を顔に擦り付けてくる。

 私も顔を預けなで返してやっていると、


「…あの~、二人の世界に入っているとこすいません……」


 そうだった。忘れてた。

 ニールの事がひと段落ついて、すっかり抜け落ちていた。


 ずぶんと、腰が低い。


 立ちあ上がると、土を払い向き直る。


「…突然、突き飛ばしてごめんなさい。」

「あぁ、いえ」

「単刀直入に聞きます。あなたは何者なの?」

「なに者といわれても…人間ですけど 」

「人間……」

「ではあなたは? エルフ…ですか?」

「!?」

 

 咄嗟に身構えそうになる!


 …そうでした。この少年には隠蔽が効かないんでしたわね。

 すぅ、と背筋が冷たくなる。

 聖遺物(レリック)魔導道具(アーティファクト)による世界からの隠蔽も意味をなしませんか……。


 なら、少年。あなたは―――。


「あ、名前ですか? 俺は真昼 あきひとです。日本人です。」

 

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