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白無垢心中

「お前様ッ!?」


 はぅ…ぬかったどす。


 大したことない。そう思いおしたら龍が跳ね飛ばされ、

 お慕いする白主殿が、遠ざかっていかはる。


 羽虫をいなしている間にも、みるみると。


 えろぅ、さみしぃおす……。

 やっと、面と向こうて、お会いしやしたのに。


 一間もあけられへんと、恋しゅうなってしまう。


 あん包みをお持ちなはるなら、まんがいちもあらへんやろし、

 うちがおらんでも白主殿なら、あんじょうしはりやすやろ。 


 けど、あんまり、あん包みの中はおみやさんとほしいどす……。


 それより、こん龍は、ほんにどんなさかいっ。

 うちは、はじめからなんやえずくろしいのおす!?


 しょーもない児戯もよけはらんと、白主殿までつきはなししくさるし!


 それに、雌の顔しよる! 白主殿はうちのもんどす!


 いちびり! どあほ! あかんたれ!  


 …でも、白主殿がうちとふたりの事と心の片隅にでも気にかけておくりやすのは、

 こん龍のおかげでもあるんどす。


 すっかりうちんこと忘ていはるけど、うれしかったんどす。


 ほんに、ややこしい龍どすなぁ……。ついイラチになってしまう。


 目の前の、無理な昇天で神格を得たまがい物を見やる。


「それも。これも。ぜぇんぶ、あんたはんにほたえささんしてよろしありんすな?」


 ゆらゆらと、ほの黒い炎を纏った、鬼子の娘。

 覇気なく、能面のような貌ははんなりと整っている。


「……」

「…すけんどな(わっぱ)どす」


 神格を纏衣顕現させ、細腕を白鱗が覆い、赤い爪が伸びる。これで夜目も通る。


 先ほどから、周囲を飛び回り白鹿の特攻や、騎乗するもの達の遠距離攻撃が絶え間ない。


 何一つ、とどいておらへんのどすけど……。


「ちっ、化け物に構うなっ!」

「荒神!?…援護に角隊をまわす!先に無角隊で龍を堕とせ!」

「分隊の合流は!? 伝令の者も戻ってこないぞ!」


 …なんや、さえずってけつかる。

 てんごがすぎる、やすけないもん達は鉄の砂塵でいなしといて。


 そん間に、気をはらさせてもらうどす。

 今は六岐しかあらへんけど、あん龍とちごうて遅れをとることはあらへんしッ。


 それでは……、と言うとき。

 鬼子を紫電が駆け抜けた。なんや、うっざたい明かりに目を細める。


 ほれ、みとおみ。全然、きいてあらへんどすやろ?

 そんな、険しいお顔しくさっても、なんも変わりありまへんえ?


 と、つきはなすんは簡単なんどすけど……。

 白主殿との約束がある御身さかいに、目をかけないわけにはいかへんし……。

 手負いの獣を、かにここでも気にかけるなんて、めんどいのなんの。

 へんねしてみても、やくたいなことにはかわりまへんしなぁ。

 

「お前さんは、羽虫を相手しやっしゃ。うちはこん鬼子をとおくほかしおすさかいに」

「しかし、白無垢殿……」

「手負いに無理されたら、御方との約束はたせまへんどすやろ?」

「……承知」


 紫電を纏い羽虫に向き直る龍。


 さきっから、鉄の砂塵の守護や、あしらいにてこずっとる鬼子を見やる。

 黒髪を翻しながら、機を伺いながら黙々と鉄の砂塵を殴り、掻い潜ろうとしている。


 とどかん拳を何度もふりあげ、耳障りおすなぁ。


「ほんなら、いくでありんすぇ」


 自然と笑みが零れる。


 波紋を踏み迫り、てまどっている鬼子の頬を殴りつける。


 黒い炎を腕に色濃く纏い、うちの膂力をしのぐ。

 でも、大きくすり減らしたようす。腕でいなせなかった力で上半身が流れる。


 何度かの攻防。その度びに黒い炎を滾らせ向かってくる鬼子。


 小出しの連撃じゃ突破できない。


 両手に渾身の炎を留め、球状まで御す。


 「…黒亥焔(こくがいえん)


 その圧だけで雲海を押しのけ、遠くまで波打つ。

 うちを、見据えると中空を足蹴に、その暴威を拳に纏い急襲する。


 ガイィィィィイン!!!


 鉄の砂塵で円盾を成す。神格を天賦した白鱗の守護を3つ砕かれた。


 一枚目は完全に爆縮され消滅。二枚にいそぎ神格を天賦した。


 それでも、とどきまへんのどすけど……。


 瞬時に生成する円盾。


 貌をしかめる鬼子。


「やっと、童らしゅう貌になったでありんすなぁ」


 神格同士の対消滅。今の攻撃で再び炎を纏うのに手間取る。


 鬼子の周りに浮いたままの砕けた円盾を鉄の砂塵に生成しなおし、拘束する。


「なっ!?」

「…いくぇ?」


 神格を纏衣した腕を、横に薙ぐ。

 一瞬で雲海上を水平に吹き飛ぶ。

 やがて雲海のうえに点々と花が咲いていき、霧雪の向こうへ消えていった。


 羽虫が騒ぎ追いかけだしよった。

 ほら、お前さんのお仕事どすよ? はよ、しなはいな。


 そんで、幾人かが鬼子に飛ばされた者を追うのか、ここから離れていきよる。


 白主殿がいる方向どすなぁ。つい、目で追ってしまう……。


「…ほな、お前さん、きばりよしや」


 聞こえない、羽虫を追撃する龍をしぶしぶ労い、鬼子追う。


 随分跳ねとんだようどすな。光輪を一輪。背に顕現させる。


 はよしめてしまいましょっ。

 くふッ♪ 白主殿まってておくれやすッ!


 羽虫を振り切り、雲海を突き抜ける。


 ふッ、と境界を超える感覚。


 ……なるほど。雲海を境に上が神域のようどすな。


 上を見上げても雲一つない快晴。太陽が中点に差し掛かっている。


 下をみれば針葉樹の広大な森や、小山が見る影もなくえぐれ飛んでいる。


 これは、まぁ。ごっつう、地面が抉りとりやすなぁ……。

 そない、力込めたつもりは、あらへんのどすけど。


 神域とちごうて、ただ(ことわり)で回っとるだけの世さかいに、

 ざんぐりしよるのはしょうのない事どすけど。


 そんなら、あまり力をふるえまへんなぁ。


 白主殿に、うちと鬼子。

 神格が三柱もいて、世界が受容できんようになるさかいに。


 もろもろ含めはっても、はよしたほうよろしおすな。


 黒い炎を一気に滾らせる鬼子。足場にした地面が後方に吹き飛ぶ。


 見下ろしていたうちを、引きずり降ろそうと肉薄する。


 鉄の砂塵で円盾を成す。轟音を打ち鳴らし、一瞬無音が訪れた。

 衝突点が赤熱発光し融解するとすぐさま修復する。


 砕くんはまずいと考え張った様子。

 さかしい童どす。


 丸盾ごと、打ち据えるきどすな。


 辺りに、火花と融解した金属の飛沫が飛び交う。


 轟音。轟音。轟音。轟音。轟音―――。


 なんども打ち据えられ、なんどでも塵で盾を成す。


 ……えらい、えずくろしい掌打。


 芸のない猛攻。いなし、かわし、虚実を織り交ぜる。それだけ。


 無理やり鬼子の拳を鷲掴みにし、ひき寄せる。

 防御に構えれた腕ごと懐に拳をねじ込む。


「かッ…」


 呼気を吐き出す鬼子。はじけ飛ぶ炎。神格の顕現が弱まる。


 腕を砕き胴を穿つ。意識を刈り取った。


 ここどすな。

 

 黒い髪を鷲掴みにし幼い容姿をのけ、喉を衣類より露呈させる。


 「その権能(しんかく)。わっちがいたただくでありんす」


 おもむろに紅の載った口を開きその舌が唇を這う。

 そっと顔を首元へ寄せ、上顎に生える牙を突き立てた。


 流れ込む神気。幾千、幾代の荒魂の怨嗟の情念……。


 うちを、おいだそうと滂沱のごとく膨れ上がったッ!


 カッ、と見開く鬼子。先ほどより一気に黒い炎を噴き上げ、神格をより濃く顕現させていく。


 その業力(・・)をもって顔面に、意識を奪わんとする撃打をもらう。


 …今度はうちが、もろうてもうた。いかん。いかん。

 気を抜きすぎおした。


 跳躍で距離をとる鬼子。滔々と炎が、その熱を垂れ流す。

 その熱量に地面が融解し、徐々にその範囲を広げていく。


 その容姿も変貌していき、黒い角をもつ鬼へと形を成す。

 より女性らしく成長し、金色の瞳孔を爛々と滾らせる。

 

 傷も…平気な様子。


 「きにしぃでありんすな……」


 鬼子の髪をつかんでいた白鱗で纏う腕が二の腕の中半からはじけ飛んでいた。

 傷口が炭化し、赤熱している。


 すっと、欠損した腕を顔の前にあげ、手の平を屈伸させる。

 白無垢ごと失った腕は、すでに元通りになっている。


 いとうおすなぁ……。


 久方の痛みに、胸が熱くなろうおす。とても。とても。


 鬼子を見やる。


「……ほんに、おいしそうおす」

「……」

「一族の過去も未来も、そのぜぇんぶを食ろうて得た力やっしゃろ?

 一族を絶やしてやっとの力を一人で背負う……」

「……」

「あんたはん、えろう、かっこええありんすなぁ」


 切れたのか。鬼子の血か。


 口の端の血をなめとり、艶然とつい微笑んでしまう。


 …打掛に手をかけ、はだけおとす。

 掛け下と長襦袢を解き帯が落ちると、はらりと素肌をさらす。


「こっから先は御方におみやしとうないさかいに……はよしよ?」


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