白鹿
雪霧の中をグングン、進んでいく。風の影響を全く受けない。
さすが、ファンタジー!いい加減こういう言葉を使っていこうと思う。
「すげぇ、快適に飛ぶんだな……」
龍の体表を構造色の様な色彩がランダムな波長で煌いている。
たぶん、龍の能力。ボロボロじゃなきゃ、さぞ綺麗な生き物なんだろう。
「気になるか? すまんな。我らは飛ぶ際に体表が波のように発光する。息をするようなものだ。」
「あぁ、いえ。雲海の上ですから。それに綺麗なもんですし」
目をこちらに向け謝意を示す。
おかげで、ランタンを使わなくても手元を見るのに助かるくらいだ。
そして、なぜか白無垢にさらに腰を、ギュッとされた。
ジェットコースターのベルトより安全かもし……ッ、
「……白無垢ざん、ち、ちょっと緩めてもらっていいですか…」
「……」
ほんとにちょっとだけ緩めてくれた。落ちないに越したことは無いとはいえ。
チラっと白無垢をみて見たが、ツンとした鼻先が面帽子越しに見える。
触らぬ神にたたりなし。自称神様なのだ。あの膂力をフルパワーされたらとか考えたくない。
何となく龍が悪戯っ子みたいに目でかすかに笑ったようなきがした。まぁ、気持ちは分かる。
切り身に思う事があるだろうしね。あれ? ということは俺も笑われてる?
…気まずさを覚え視線を眼下に向ける。
雲海が広がっているので、その先の地面が見えない。
今どのくらいの高度を飛んでいるのだろうか?
気圧変化による高山病みたいな体調の変化もない。
無風の能力の恩恵かな?普通に息ができる。
ここまで変わらない雲海が続き、どれくらいの速度で、
どれくらい飛んだのか、もはやわからない。
振り返っても、俺の実家が建つ頂も夜じゃ確認できないし。
「匿うのはいいとして、随分と離れたなぁ……」
「…問題ない。会えばわかる」
会った当初から、口数が少ない。俺もコミュ障だ。気持ちは分かるかけど、
事務的なやり取りは、ちゃんとしませんか?
ちょっと、待ってみたがそれ以上返ってこなかった。
単に、話かけてほしくなかったのかな? 運転中の姉みたいだ。
白無垢は無愛想な龍に、ベェっ、と小さな舌を俺の肩越しにしていた。
なんかやっぱ、馬があわないのかもしれない。
俺と目がうと、「はぅ…」と肩に顔を埋めてしまった。
はぁ……。
それから幾分進み、左手前方にずっとあった岳がやっとこさ鮮明さを帯びてきた頃だった。
突如、下方に向け環になる龍。
「アブなッ!」
より一層、白無垢にギュッとされる。
「ふふふ」
と、どこか楽しそうにしているッ。状況考えてくれませんかねッ!?
龍が描いた環と同等くらいの光の円盾、が三層重なる。
瞬間。
ズドドドンッ!!
と、耳鳴りがするほどの轟音。空気が揺れる。
三層のうち、二層の光盾が、リーンと澄んだ音立てながら破砕する。
なんとか角につかまり姿勢を保つ。
最後の一枚に押しとどめらたもの。それは、数頭の大白鹿。
壮麗な巨大な白角がキィィィィインと、超振動している。
最後の光盾にヒビが入っていく。
「霊獣を駆るか……」
霊獣が何なのかはともかく。
「追手かッ!?」
「…おそらく、そうだ」
龍も想定外。雲海に潜み、急襲されたみたいだ。白無垢もわからなかったのかな?
気づいていても、眼中に無いだけかもしれない。
龍が咄嗟に反応してくれなかったらどうなっていたことか……。
元をただせば、感情に流されるままに取引をしてしまった俺が悪い。
二度とよくわからないものにサインはしない!もう決めた!
「…走らせるなッ!囲え」
角と光盾のつばぜり合いで、キィィィィィイと白い火花が散り、つんざくような音の中、
女性の怒声が聞こえる。
雲海の中から、さらに数頭の白鹿が飛び出してくる。こちらは角がなく機敏な動きをみせる。
てか、人が騎乗しているのか!?
いや、俺たちも龍に乗っているけどさッ。
円環を解き、蛇行しながら中空を這う龍。
リーンと澄んだ破砕音を背に暗夜を駆ける。
先ほどの快適な航行ではく、静動の緩急激しい動き。
「くふふッ」
と、もはや抱き着いてくる白無垢。
顔埋めてないで、警戒してくれ!今こそ「いきったらあかんへ」の時の暴力が必要だッ!。
「くふッ♪」
「……」
ダメだ。怖い。白無垢が怖い。
「…先の岳におろす。下れ」
端的に告げらる。
チリリッ、と龍の体表に紫電が走る。
並走する白鹿に騎乗してる奴がなにやら動きだした。
龍がさらに加速しよとした時だった。
再び、雲海から大きな白鹿が龍めがけて進撃してくるッ。
てまどり、先ほどの光の円盾が間に合わないッ!
蛇行、旋回、小規模の円盾でいなす。
5本の刀剣のよな枝が生えていいる角が、回避に専念した最小限の動きでは避けきれなかったッ。
「グッ……」
と、呻く龍。色彩鮮やかにきらめく鱗が、抉れ飛ぶ。
僅かに勢いを殺され、角のない白鹿に先回りされてしまった。
後方からも、第一波の角持ちの白鹿が突撃の姿勢に入り、角を白光させている。
敵の奇襲が陣形を成した。堕とされる……ッ!?
突如、円環になり、そのまま旋回。どんどん速度を上げるッ。
「放り投げるぞッ!」
ファッ!?
しかし、抗議をする余裕がないっ。
「ぐぬぬ……」
「くふぅぅッ♪」
白無垢のテンションが爆上げだッ!?
ふいの無音。
「!?」
「お前様ッ!?」
…いつの間にか、中空を飛んでいく俺。もう、龍の背に乗っていなかった。
慌てて進行方向と逆に目をやる。白光する白鹿の群れが、チリジリになっているのが見える。
何かが、あの場に乱入している!白鹿も蹴散らされたようだ。
結果的に投げ出されたわけだが、龍の補助によるものではないらしいっ……。
てか、白無垢を押しとどめているアイツ!第一村人か!?
俺の中で白無垢の膂力を押しとどめらるやつを他にしらないんだがッ!?。
その猛攻を中空で、波紋を踏むと足場にし、防いでいる白無垢。
こちらを気にしているようだが、これそうにないみたいだ。
龍の方は蜷局を巻き、そいつへ目掛けてバネの様に伸長すると紫電に変じ、
紫色の残光を曳きながらソイツを射抜いていた。遅れて雷鳴が轟く。
もう、誰もこの場を収めれるものがいない状態だ。
てか、俺はこのまま雲海にやさしく包まれて助かる。とかそんなメルヘンなことに期待していい?
いいよね!?
振り落とされた際に掴んでいたカバンを抱きしめながら、暗夜の奈落へ突き進む。
享年15歳 真昼 あきひと。 凶運ここに極まれり。
もし、生まれ変われるなら女の子がはく靴下になりたいですッ!
神様に願ってみるが、白無垢の顔を思い浮かべる。
あぁ、期待できそうにないな。
バカなお願いで、あの世から突き返されないかぁ、
という、雲をつかむような奇跡も、蜘蛛の糸も、一縷の望みもなくなってしまった。
はじめからないんだけどね……。
……そして、俺は白無垢たちを見送り、雲海に包まれた。
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